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カネカの「かつら」がアフリカでトップシェアを獲得している理由

ITmedia ビジネスオンライン 7月8日(金)8時6分配信

 世界の中で「かつら(ウィッグ)」や「つけ毛(エクステ)」といった頭髪装飾品が最も消費されている地域はどこかご存じだろうか?

【ウィッグを装着するアフリカの美容師】

 人口が多いアジアでも、ファッションの発信地であるヨーロッパでもない。正解はアフリカだ。カネカ推計では2014年度に全世界での消費の約50%に上るという。髪を長く伸ばすことが難しい毛質であるアフリカの女性の多くにとって、頭髪装飾品は身近なおしゃれの手段なのである。

 このアフリカで60%の市場シェアを、世界でも40%という高いシェアを持つリーディングカンパニーが、化学メーカーのカネカである。同社が生産する合成繊維「カネカロン」で作ったウィッグなどが多くの消費者から支持を得ていて、特にアフリカではカネカロンのブランド認知度が圧倒的に高いそうだ。

 なぜカネカが手掛ける頭髪装飾品は売れるのか。同社のこれまでの取り組みなどについて、一橋大学大学院 国際企業戦略研究科(一橋ICS)の大薗恵美教授が、頭髪装飾商品事業を統括するカネカの天知秀介取締役 常務執行役員に聞いた(以下、敬称略)。

●より人毛に近づけて差別化図る

大薗: カネカは古くから頭髪装飾用の繊維を提供しているわけですが、歴史を振り返ると、1970年代にファッションの世界でウィッグが流行し、国内外のさまざまなメーカーが素材を提供していました。しかしブームが去り、多くの会社が撤退を余儀なくされた中で、カネカが事業を継続できた理由は何でしょうか?

天知: 当時は確かに街のあちこちでウィッグが売られていました。露店のようなところでも販売されていて、品質の悪い製品が溢れていました。カネカはそれ以前から米国で白人女性用ウィッグ向け合成繊維を販売していて、アクリル系繊維の製品が人毛に近い品質だと評判でした。小さいながらも安定したマーケットだったので、ブームが去った後も事業を続けることができたのです。

大薗: 米国マーケットもファッション用途でしたか?

天知: はい。例えば、パーティーに行くときにおしゃれしたり、ちょっとイメージを変えたりする際に、白人女性はウィッグをかぶる習慣がありました。

大薗: 品質という点で、競合他社と比べたカネカの優位性は何でしょうか?

天知: より人毛に近づけることが差別化につながります。人毛というのはよくできていて、寝癖がついても少し水分を与えて熱を加えれば元に戻るし、からんでもクシでとかせばいいわけです。今の合成繊維だとそこまでできないのですが、カネカロンは人毛に近く、風合いや付け心地が良いということで支持されています。

 また、すべての頭髪装飾品が難燃性という点も強みでしょう。繊維を燃えにくくするのは技術的に難しく、コストも高くなるのですが、カネカロンの製品は安全性を最優先して非難燃性の素材は扱っていません。

●パートナーと現地化を推進

大薗: さて、そこから80年代に入り、アフリカに新たなマーケットを築いていくわけです。そもそもの発端は、米国の卸市場にウィッグを買い付けに来たアフリカの方をカネカの営業マンが見掛けて、その後を追いかけて話を聞いたところからだそうですね。このような行動を取ったというのは、その営業マンが特別だったのか、それとも企業風土なのでしょうか?

天知: 両方でしょうね。企業風土としては現場主義を大切にしていますし、何よりもアフリカで頭髪装飾品が売れているかもしれないという情報に対して食らい付いてやろうという意識はあったと思います。

大薗: それが見事に花開いて、今ではアフリカで大きなシェアを取っています。カネカがユニークなのは、あくまで企業として行っているのは繊維の提供ですが、その先のウィッグを仕立てるメーカー、現地のパートナー工場や流通企業、消費者の頭にセットする美容師などに働きかけて、この産業バリューチェーンが健全に発展するよう支援されていることです。

 一方でお伺いしたいのは、なぜアジアにあるウィッグメーカーの工場からアフリカに商品を輸出せず、現地に工場を建ててもらう手段を選んだのでしょうか。コスト的には高くつくのではないでしょうか?

天知: やはり消費者のいるマーケットで生産したいという「地産地消」の考え方があったからです。最初はいろいろな投資が必要で、コスト面での課題はありました。ただし、パートナーである韓国の頭髪装飾メーカーも海外に打って出ることにアグレッシブだったのと、現地の政府からも結果的にインセンティブを引き出せたことが大きいです。

●マーケットが約10倍も拡大

大薗: マーケットを発掘しただけでなく、育成もしていきました。どのくらいの成長があったのでしょうか?

天知: アフリカに進出して30年以上経ちますが、20年目あたりの2003年からマーケットが急激に大きくなりました。現在はそのころから比べて10倍ほどに拡大しました。

 背景にあるのは資源バブルです。資源バブルを追い風にお金が流れ込んで、経済全体が活性化しました。

 その過程において、2008年にリーマンショックがあったのですが、アフリカはあまり影響を受けなかったので、さらに攻勢を強めてブランドプロモーションに力を入れました。例えば、スタイリングコンテストを開催したり、テレビやラジオのCMを流したりして、カネカロンのブランド認知を高めていきました。

大薗: 2003年以前はどうだったのでしょうか?

天知: 実は伸び悩んでいたため、マーケットに対してほとんど手を打てない状況でした。社内ではアフリカから撤退したらどうだという意見もありました。それでも地道に商品開発を続けて、パートナーの工場に提案する活動を続けていました。それがアフリカの経済発展を追い風に結実したと言えます。

 それと将来を見据えたとき、アフリカが巨大なマーケットになることは明白でした。当時の人口は8億人で、2050年には15~17億人ほどになると言われていました。マーケットの成長に確信を持っていたのも大きかったです。

大薗: 最後に、素材メーカーとしてユニークであり続けるための要諦について教えてください。

天知: 我々は製品工場を自身で経営して、事業を拡大していくという道は選びませんでした。カネカの強みとして、素材提供にとどまらず、自社で繊維加工し、最終商品の開発まで提案できるという点を生かして、パートナーと協業する道を選びました。この強みをマーケットで継続して役立てることに尽きると思います。

大薗: 自動車部品メーカーのボッシュはクルマの組み立てまで可能だと言いますが、カネカも同じで、メーカーや美容師の仕事までも理解しているからこそ、最終商品の提案ができ、それが価値創造につながっているのですね。本日はありがとうございました。

(伏見学)

最終更新:7月8日(金)8時6分

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