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ルネサス呉新CEO、成長へ材料はあるが“意欲”足りない

EE Times Japan 7月8日(金)12時17分配信

カルソニックカンセイ、日本電産経て、6月28日就任

 2016年6月28日にルネサス エレクトロニクスの社長兼CEOに呉文精氏が就任した。日本興業銀行(現みずほ銀行)、GEキャピタル・ジャパンと金融業界出身でありながら、カルソニックカンセイCEO、日本電産副社長と製造業の経営も経験してきた呉氏に、経営危機から脱し、成長へのギアチェンジが迫られているルネサスのかじ取りが託された。

【「戦略セグメントへの集中・強化イメージ」などの画像へ】

 呉氏自身も、就任会見で「ワールドカップ優勝、世界市場で勝つ」とグローバルな半導体メーカーとしての成功を目標に掲げ、成長への意気込みを示した。どのように、世界を相手に、ルネサスは勝ち抜き、成長していくのか。呉氏に聞いた。

「私では、あの速さで実現できなかった」

――ルネサスは2013年10月以来、「変革プラン」に取り組んで来たわけだが、呉新CEOはこれまでの変革プランをどうのように捉えているのか。

呉CEO 一歩間違えれば、破綻するという状況で、変革プランは必要だった。固定費を下げる、非採算/非注力、競争力のない分野を足早に削減するということで正しかった。私が(当時、経営を)やっていたら、恐らく、あの速いペースでは(固定費削減/非注力製品撤退を)実現できていなかっただろう。あのペースで、品質問題も供給問題も起こさずに、新しいデザインイン、顧客との共同開発案件を獲得したことは、素晴らしいと思っている。

 ただ、ここから先は、成長に向かわなければならないので、これまでのように“絶対に負けない”という戦い方では、勝てない。そこを変えていく。

――今後、売り上げ拡大の方向に進む。

呉CEO 売上高を大きくすること自体が目標ではない。ある程度で売り上げを抑えるというわけでもないが。

 例えば、車載半導体の最先端領域では、かなりの開発費が必要になる。その開発費を捻出するには売り上げ規模も必要になる。そのため、どの分野に取り組むかによって、目指す売り上げ規模は異なってくる。

 営業利益率15%という数値は中期目標として持ち続ける。

 具体的な売り上げ目標は、注力分野/戦略セグメントを決めた上で、今秋に中期計画として公表したい。

ミドルマーケットを視野に入れた戦略策定

――注力分野、戦略的セグメントの選定状況は?

呉CEO 6~7割程度は決まっている。しかし問題は、各注力分野に、どれだけの力で注力するのかということになる。将来の売り上げ見込みも精査しなければならない。IoTやインダストリ4.0など全く新しい分野は、2年後にどの程度の市場規模になっているのか、非常に予測が難しい。

 一方で、チップの開発費は、「チップ1個当たり○○円」という単純なものではない。チップに搭載する機能に対し、○○円というコストが掛かる。

 どの程度の注力、開発費を掛けて、どれぐらい売上高、収益性が見込めるかを考えていかなければならない。ただ、開発費を掛けながら収益性を確保するとなると、限られた領域では、なかなか難しい。そこで、先進的な機能をコストを掛けて開発して、それを新興国のミドルマーケットのボリュームゾーンにどう持っていくという次の世代までを考慮して、開発費に見合う収益性を得られるか見極める必要もある。そうしたこともあり、今秋まで時間を掛けて、注力具合まで含め注力分野を選んでいく。

 正直なことを言うと、(これまでの会社と異なり)ルネサスでは「この先端技術を開発すると、成り行きでこういう製品ができ、これぐらい売れるんじゃないか」という答えが返ってきた。これでは、あまりにも、経営としてはコントロールできない。

 「こういうものを開発すれば、必ずこういう結果につなげる」「次世代のミドルマーケットで求められるスペックはこういうものだから、先端技術を作る時からそのスペックを念頭に作れば、○○年後にこれだけの収益が得られる」というような議論を重ねたい。その上で「これぐらいの開発費を掛けられる」「将来、大きな収益性は見込めるけど、相当な開発費が直近で必要になってしまうので、当社の今の体力では難しい」という判断をしていかなければならない。今はその議論の真っただ中で、中期的な売り上げ目標なども、そうした議論が終わってから公表できる。

撤退する製品はほとんどない

――戦略セグメントを決める上で、再び、撤退などの決定をする製品分野はあるのか。

呉CEO 撤退する製品は、ほとんどない。既に不採算の製品から撤退し、売り上げをさげてきた状況にある。現在、決めている戦略は、成長すると残した製品でも、思い通り伸びていない製品もあり、そうした製品をどうやって伸ばすかというもの。大きな固まりで、やめる必要のあるものはない。

 市場の成長性、差別化できるかと、競争力があるかどうかという点と、エンジニアにリソースを投入して勝てるかどうかで、戦略セグメントを決めていく。

1位2位戦略「最初の4~5年だけ」

――世界ナンバーワン、ナンバー2へのこだわりはどの程度なのか。

呉CEO セグメントの切りようにもよる。車載半導体と言えば大きすぎる。車載マイコンに絞っても大きく駆動系、シャシー系、情報系と3つ使い方があり、そこまで分けていくかということも考えている。

 ただ、ナンバーワン、ナンバー2以外の事業は切り捨てるとなれば、どんどん、どんどん、セグメントが小さくなっていくもの。GEのジャック・ウェルチも、ナンバーワン、ナンバー2以外の事業は切り捨てるという戦略をとり、建物を残し人のみを消し去る中性子爆弾になぞらえ“ニュートロン・ジャック”という言葉も残っているが、彼がナンバー1、ナンバー2を採ったのも、最初の4~5年だけだった。

 その後、彼は「目標を達成することよりも、高いアグレッシブな目標を立てたことを評価する」という方針に変えた。ルネサスも将来的にはそういうことも考えていかないといけない。

 ただ今は、セグメントで絶対にナンバーワンになるぞという気合、目線の上げ方が不足している。今日、ナンバーワンにはなれなくてもよいし、絶対にナンバーワンになれるわけでもない。でも、なるつもりでやる。そのために、社内で「“こういうパスをつなげば、優勝できるかもしれません”というところまでやってください」と言っている。しばらくやっていっていけば、だんだん、セグメントが小さくなっていって、「市場シェア7割あります」と社員が言い出したら、(ナンバーワン、ナンバー2戦略を)変えていく。

 ルネサスには成長する余地は十分ある。(事業母体の)3社合わせて、2兆円以上あった売り上げが、今は、削って7000億円を切るところまで来ているわけで。

 私は、「どんなマーケットシェアで、どうやったら勝てますか?」と質問している。

 社内で文句を言ったことがある。最近、「わが社が世界ナンバーワンの製品ができた」と報告があった。それも、これから立ち上がる市場に向けた製品だという。そこで、目標の世界シェアを聞いたら「2020年に、世界シェア40%」というのだ。どうして、わが社が世界ナンバーワンの技術を持っている上、市場はこれからゼロの状態から立ち上がるというのに、シェア目標がたった40%とは……。せめて70%ぐらいは目標にしたいと思う。ちなみに、「なぜ、40%しかできないのか」と質問すると「いやあこれぐらいかと……」という返事が来た。こういう考え方を変えていかなければならない。

提携、M&A候補と既に数回接触

――4000億円程度のキャッシュがある状況だが、それらの投資先はどこか?

呉CEO 成長のために、開発費は増やす。

 設備投資も、これまで徹底的に抑えてきたので、どこの分野でわれわれの競争力を発揮するかを決めてから、少しやろうと思う。

 あとは、提携、M&Aに使うことも当然、視野に入れている。われわれは、市場で売り出されている企業、事業を買う検討をしておらず、いろいろな見方から提携、M&Aの候補ではないかというところと、時々、「どうですか?」「How are you?」とコンタクトを取るなどしている。既に、私自身も数回、コンタクトを行っている。

半導体メーカーか、ソフトウェアベンダー

――提携、M&Aの候補はどのような企業なのか?

呉CEO われわれと組んで競争力がでるところ。技術、製品面でも、市場、顧客という面でも。基本的には半導体メーカーであり、ソフトウェアメーカーもあるかと思っている。主体的に、提携、M&Aを行うとルネサス経営陣は思っている。

――M&Aで売り上げ規模の拡大を実現する狙いは?

呉CEO ある程度、売り上げ規模は必要だと思っている。開発費は売り上げの何%と決まったわけではなく、ある分野で戦うには、一声、何百億円いるなど、絶対額が必要になるため、ある程度の規模は必要になる。

 ただ、国内半導体業界でも、電機メーカーから切り出して一緒にして、売り上げ規模を大きくだけでうまくいったかというとそうではない。ちゃんとした戦略を持って、やっていかないと。買収する時に大事なのは、こちらがどういう強みとか、戦略をハッキリ、明示すること。何となく似たような会社と、何となく一緒になるということは絶対にうまくいかない。

――開発費の投資先は、大部分はADAS(先進運転支援システム)など車載向けか?

呉CEO そのように、使途は限定はしていない。よく、「車載のルネサス」といわれるが、売り上げも利益も車載以外の方が大きい。大きなことを、ドカンとやろうと思っているわけではなく、ニッチマーケットでも、勝てるならば、大いにやろうと思っているわけで。別に、車載に限ったわけではない。

経営の自由度がないのは望ましくない

――ルネサス株式の約70%を持つ大株主である産業革新機構の株式売却禁止期間が解け、売却先が注目されている。

呉CEO 株主が誰であろうと、企業はその価値を上げることに尽きる。ただ、われわれに経営の自由度がないカタチになるのは、私も、経営陣も、社員も望ましくないと思っている。

――古巣の日本電産も買収に意欲を見せている。

呉CEO 日本電産も(ルネサスにとって)良いお客さんであり、既に8社のお客さんに出資いただいているように、お客さんにある程度の株を持ってもらうことは、非常にありがたいこと。けれども、グローバルな半導体業界の流れは、電機メーカーの1部門や子会社では、負けパターンになっている。

 現在、出資をしてもらっている8社のお客さんからは、「自分の傘下に入ってやってくれ」とは言われていない。(出資する8社の企業に対し)厳しい時期に助けてもらったことへ恩返しするならば、ルネサスがグローバルな半導体メーカーとして成功することだと思っている。そのためにも、どういう株主構成が良いかを考えれば、特定のメーカーの傘下、というのは望ましくないと思っている。これは、経営陣も同じであり、革新機構にも経営陣の考えとして伝えている。

 ただし、あくまでも、革新機構の持っている株式の話であり、われわれにどこに、いつ売るかなどの決定権はない。革新機構にはわれわれの成長戦略、経営陣の考えを伝えてあり、革新機構は「はい、そうですか」という状況で、それ以上でも、それ以下でもない。

 現時点では、革新機構に私を含めた経営陣にルネサスの経営を任されているので、われわれをサポートしてもらっていると思っている。(産業革新機構の判断によって)経営のやるべきことは変わらず、それで不安に思うことない。社員にも、ルネサスがグローバルに戦える半導体メーカーになるように、余計なことを考えず、一緒に戦ってほしいと話している。

海外役員も意思決定に加える

――経営のグローバル化を進める方針も打ち出している。具体的にどういったことを行うのか。

呉CEO 1つは、会議体の見直し。現在、米国と欧州にそれぞれシニアバイスプレジデント(SVP)が1人ずついるが、業績進捗報告会には参加しているものの、あまり経営の意思決定を行う会議に加わっていない。英語の資料を作って、会議をして、意思決定の会議に海外の2人のSVPを加えることも考えている。

 これまでは、いろいろなことが日本、本社で決まり、海外に指令として流してきた。しかし、マーケットは結構、海外が大きくなっている。(本社のある東京・)豊洲の部屋で、ドイツ、米国の顧客の考え、中国のスペック分からない。成長戦略を立てる上で、これまで通りに進めれば、海外の声が反映されないので、ぜひ、意思決定にSVPを加えていく。既に、欧米のトップとは月に1時間、1対1で議題を決めない会話をしている。通常の業務以外に、困ったこと、言いたいことを直接話せる場を作ることを約束している。

内製、外部委託の切り分けを見直し

――生産体制の見直しは今後行うのか。

呉CEO 今、内製、外部委託の切り分けを見直している。12インチウエハー対応製造ラインで生産する製品については、一部、ファウンドリーでも製造できる体制を整えているが、社内特有のプロセスについては、外に出せない、ないし、外に出すと高くつく。BiCDプロセスのように、圧倒的な競争力を持つプロセスであれば、自社で作れるし、外に出すべきではない。とはいえ、(独自技術を使った)マイコン用の28nm フラッシュ混載対応プロセスは既に、外部委託する準備を整えており、全てが全てを内製するわけではない。プロセス技術を理解した上で、外部委託も活用していく。

 (12インチ対応で主力製造拠点である)那珂工場(茨城県ひたちなか市)をはじめ、どう効率的に運用するかということが課題だ。とはいえ、これまでのルネサスの工場が抱えた課題は、固定費をどう抑えるかという課題だったが、今後は、どう那珂工場を戦略的な工場にしていくかということが課題になる。

 現状、工場は与えられたものに対応するマインドが強い。「この製品の需要はこれぐらいの見込みだから、収益性はこうなる」というような計画が出てくるが、本来はそうではない。わが社というよりも、生産本部が、那珂工場をどういうような工場にしたいか、そういう絵を描いて、それに向けて生産品目や、設備を変えていく計画を立てていきたい。だから、今後は工場に対する、設備投資もしていく。生産がわが社の競争力の源泉となるようにやっていく。

課題は「成長への意欲」

――これから成長を目指す上で、ルネサスの1番の課題は?

呉CEO 成長するためのピースはそろっている。その中で1番の課題は、成長に対する意欲が足りないことだ。

 過去3年間、踏み外せば破綻すると切り詰めてきた。切り詰めてきたことは正しいことだが、そのために、成長への意欲が失われてきた。だから、それをいくつかの分野で、“優勝するんだ”という風に、ちょっとリスクを背負って投資するということに慣れていない。

 投資は、ハイリスクハイリターンか、ローリスクローリターンかのどちらか。これまでのルネサスはハイリスクハイリターンの投資は一切できなかった。確実に需要があって、あまり設備投資せずに済んで、あまり大もうけできないけれど、大丈夫なところしか投資できなかった。

 私も一発で会社がつぶれる投資はやるつもりはないが、ある程度の大きさのリスクを、1つでは失敗するとまずいので、リスクの大きさに応じて、3つや4つのリスクを取れるようにして、3つ、4つのそれぞれで優勝するようにやっていく。

――成長への意欲を喚起する方法は?

 同じ高さで相手の目を見て真剣に話をするということをどれだけ広く、長くできるかかと思う。いくつか仕組みを設けて、やっていく。コミュニケーションは効率的にできないが、さまざまな場面を活用して、シンプルでクリアなメッセージを何度も言っていく。要は、シンプルに明快に同じことを言い続けるかだろう。

最終更新:7月8日(金)12時17分

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