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いつの世も人は不倫にドハマリする 一途ストーカー女子が恋の泥沼に沈むSF「あげくの果てのカノン」

ねとらぼ 7月8日(金)19時4分配信

 いつの世も不倫の恋は盛り上がるもの。それは世界が危機的な状況になっていたとしても変わりません。月刊!スピリッツ(小学館)連載中の米代恭「あげくの果てのカノン」は、一途(にストーカーをする)女子がズブズブと恋の泥沼にハマっていくお話です。

【先輩の魅力を長々と語るかのん】

 主人公は23歳の女子・高月かのん。彼女が小学生だった時、世界にゼリー状のエイリアンが襲来。地上の都市機能は深刻なダメージを負い、危険な上に毎日のように雨が降る地上で暮らす「地上民」と、地下に生活の場を移した「地下民」とに分かれるようになりました。

 かのんは地上に住み、地上民向けの喫茶店でアルバイト中。そんな彼女には大大大好きな人がいます。それは、高校時代から数えて8年間ずっと片思いしていた境宗介先輩。

 かのんの高校時代は先輩一色。毎日先輩への想いを日記につづり、先輩の写真を隠し撮りしまくり、先輩が使った箸袋をこっそり回収し、先輩の彼女をまとめた「彼女アルバム」を作り……と、純情が行き過ぎて完全にストーカー状態。

 先輩の良さを語り出したら(漫画のコマで換算すると)丸々1ページ分にわたるほど。「腐女子に自分の好きなキャラについての萌えを語らせると長い」というのは世の中の真理ですが、かのんの場合は腐ってないけど腐っている。先輩がかのんにとっての推しジャンルなのです。

 しかしどんなにTO(トップオタ)的に好きだったとしても、恋が叶うわけではありません。高校を卒業する境先輩に勇気を振り絞って告白したかのんは、「付き合っている人がいる」とフラれてしまいました。

 境先輩は高校卒業後、世界を守る「異星生物対策委員会(SLC)」の養成機関に入学。トップの成績で卒業し、最前線でエイリアンと戦うヒーローに! 振られてもなお先輩が好きで好きでしょうがないかのんは、ファンとして先輩の活躍を見守り、雑誌や新聞の切り抜きを収集することしかできない日々でした。

 ところがある日、かのんのバイト先に先輩が偶然訪れ、2人は再会。しかも久しぶりに会った先輩はちょっぴり「軽い」人になっていて、かのんになぜかちょっかいを出してきます……。激しく恋心を刺激されて混乱するかのん。

「この人を好きでいたら不幸になる。わかっているのに、どうしようもなくずっと好き」

 その理由は1つ。境先輩は、既婚者だからです。

 お似合いの彼女と誰もがうらやむ結婚をして、仲睦まじく過ごしているはず。なのになぜ、自分なんかに構うのか……? 先輩に全速力で振り回されつつ、かのんは不倫へと一歩、また一歩と進んでいきます。

 ……と、ここまで書いていると、境先輩がクズなだけの恋愛漫画に見えるかもしれません。個人的にはそんな作品も好きですが、本作の場合はひと味違います。

 エイリアンと戦う隊員は、激しい戦いで損傷します。ひどいときには腕がもげたり身体が両断されたりしますが、それでも彼らは死にません。「修繕」を受けることで、傷はきれいさっぱり癒えます。

 でもその修繕には副作用が――好みのタイプや性格が変わってしまうのです。修繕を繰り返せば繰り返すほど、大きな欠損を癒せば癒すほど、修繕前の人格とは遠ざかっていきます。……じゃあ、現在の「境宗介」は、本当に「境宗介」なんでしょうか?

 恐らく、それを一番気にしているのは当人。先輩はかのんに尋ねます。

「僕を見て、昔と変わったなって…思うことある?」

 対するかのんはこう返します。

「…そ、そんなに…先輩は昔と同じで優しいし…どこに行ってもすごいままだし……たしかに全く同じってことはないけど、それは高校とは環境が違うんだから、ちょっとくらい違ってるのは、当たり前かなって…」

 なぜ先輩はかのんの想いを揺るがすようなことをするのか――その答えのヒントは、この会話に詰まっているのではないでしょうか。自分に自信がなくなったとき、ひたすらに想いを寄せてくれる女の子の存在が、どれだけの救いになるか!

 だけど不倫は不倫。「中身が変わってきているからバンバン不倫してOKっす!」とはならないところが、この物語の面白いところです。

 謎の要因によって世界が危機状態に陥り、主要な登場人物に世界の命運が託されている。そして「きみ(境先輩)」と「ぼく(かのん)」の物語である――というところから、「あげくの果てのカノン」は広義の「セカイ系」と称してもよいのではないでしょうか。

 そして「きみとぼく」感は、かのんの性格によるところに大きいです。先輩だけ見ていたい、先輩しか見たくない、先輩のことを考えているときだけが幸せ……。

 でも読者としては気になります。かのんが好きな「先輩」は、目の前にいる「先輩」と同じなんでしょうか?

 かのんが好きなのは、「昔と変わっていない境先輩」なのか、「昔と変わってしまった境先輩」なのか、それとも「かのんの頭の中にいる境先輩」なのか……。その答えは多分、かのん自身分かっていないはず。

 ドロドロの不倫の恋模様を描くと同時に、「恋をする」ことの身勝手さや、「あの人が好き」ってどういうことなのかを問う本作。少女漫画的な変則コマ割りやきらきらしたかのんの表情(と、気持ち悪さ!)にぐいっと引き込まれます。コミックス1巻は6月に発売したばかり。この恋の「果て」を追いかけていきましょう!

■イベント情報
米代恭×村田沙耶香「この世界を自由に生きることとは?」 『あげくの果てのカノン』刊行記念
出演:米代恭(漫画家)
   村田沙耶香(小説家)
日時:7月23日19時~21時 (18時30分開場)
場所:本屋B&B
   世田谷区北沢2-12-4 第2マツヤビル2F
料金:1500円 + 1 drink order


(C)米代恭/小学館 月刊!スピリッツ連載中

最終更新:7月8日(金)19時4分

ねとらぼ

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

斬首動画が何百万回も再生されてしまう理由
昔は街の広場で、現代はYouTubeで。歴史を通じ、公開処刑には必ず人だかりがつきものでした。人が処刑というものを、恐ろしく不快に感じながらも、つい気になって見てしまうのはなぜか。フランシス・ラーソンが人間と公開処刑の歴史、中でも斬首刑に焦点を当てて解説したこのトークは、気分の良い内容ばかりではありませんが、同時に興味をそそること間違いないでしょう。