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<公約の死角(5)>安保法と自衛隊 知りたい課題、置き去り

佐賀新聞 7月8日(金)10時57分配信

 九州北部にある陸上自衛隊の射撃場。小銃を構えた男性の脳裏を、上官の言葉がよぎる。「躊躇(ちゅうちょ)していたら、隣りの仲間がやられるぞ-」。たとえ目の前の標的が人に変わったとしても、今は引き金を引く覚悟はできているという。

 男性は、佐賀県中部に住む40代の即応予備自衛官。有事の際、現職とともに第一線で活動するため、年間30日の厳しい訓練を受けている。ゲリラやテロを想定した射撃訓練にも参加し、この5年で内容がより実戦化したと感じている。

 創設から62年。「専守防衛」を旗印に、人に向けて一発の銃弾も撃ったことがない自衛隊が変わろうとしている。3月に施行された安全保障関連法は、集団的自衛権の行使に道を開いた。海外での「駆け付け警護」などで隊員が戦闘に巻き込まれる可能性もあり、その是非が改めて参院選でも問われている。

 くだんの男性は「法整備は必要だった」と考える。自衛隊は1990年代から海外派遣を始めたが、非戦闘地域向けの装備で、戦闘地域付近の危険な任務を課せられてきた。「自衛隊は法律で決められたことしかできない。部隊が安全に活動できる環境を一日も早く整えてほしかった」

 国会審議には不満で、安倍政権の強引さが目に余った。野党も追及不足で、議論が深まらないまま成立した印象がある。「自衛隊の活動範囲がどこまで広がり、リスクはどう高まるのか。現場が知りたいことは置き去りにされたままで、また、しわ寄せを受ける」

 関係者に限らず、市民にも戸惑いや不安は残る。ここ数年、自衛官の志願者は減少を続け、高校新卒者らを対象にした「一般曹候補生」の2015年度の県内応募者数は2年前と比べて4割近く減った。少子化や雇用情勢の改善を差し引いても、「安保法の影響はある」と自衛隊佐賀地方協力本部。勧誘のための訪問先で、保護者から心配する声を聞くようになった。

 「前線の者たちは9条によって守られてきた側面はあった。自衛隊が前面に出るようになれば、何をしても相手から軍事行為と見なされ、逆に緊張を生む」

 日本海や東シナ海で領海警備をしてきた元海上保安官の野中國秀さん(70)=佐賀市川副町=はこう指摘する。北朝鮮や中国の不審船と対峙(たいじ)し、一触即発の場面も経験してきた。そこで衝突に至らなかったのは、日本側があくまでも警察力で対応し、そばに控える自衛隊も「専守防衛」の旗を掲げていたからだと思う。

 野中さんはこの先も「自衛隊は無言の圧力の存在でいてほしい」と願う。「政治家の勇ましい言葉にあおられず、冷静に議論できるように政治を問い続ける必要がある」

最終更新:7月8日(金)10時57分

佐賀新聞