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参院選、隠されたテーマは自民と農協

ニュースソクラ 7月9日(土)12時0分配信

政治と縁を切れるのか、ターニングポイントの選挙

 蜜月(Honey Moon)と呼ぶには長過ぎるから、不朽の愛とでも表現すべきか。いや実態は「腐朽」の愛、つまり単なる腐れ縁だろう。自民党と農協(JA)とのきずなのことだ。農協組織は参院選に自民党の比例代表候補として、熊本県のJAかみましき組合長、藤木真也氏(49)を擁立した。2期目の山田俊男氏(元全国農業協同組合中央会専務理事)に次ぐ組織内候補である。当選すれば2人目のJA「直系」国会議員になる。

 「農協が擁立した」というと抗議を受けるかも知れないので、微修正しておく。厳密には「全国農業者農政運動組織連盟」(全国農政連)が推薦したということである。ただ、全国農政連が農協の政治連盟であることに異を唱える人はいないだろう。山田氏が初の参院選に挑んだ07年当時も、農協関係者は山田氏を「初の組織内候補」と呼んでいた。

 なぜ山田氏が「初」だったかというと、それ以前は農林水産省の幹部OBが農協組織の支援を受けて参院選に出ていたからだ。JAグループはこの時、農水省OBの現職候補(当時1期目の福島啓史郎氏)を見限って山田氏を担ぎだした。山田氏は比例代表で2位の45万票を集めて当選。最大の支持基盤である農協を失った福島氏が惨敗を喫したのは言うまでもない。農協、自民党農林族、農水省という「農政トライアングル」の一辺が壊れたわけだ。これを昨年決まった厳しい農協改革の遠因と考える人もいる。

 JAグループは自民党との関係さえ維持すれば、農水省は押さえ込めると考えたのだろう。しかし、それも第2次安倍政権の「官邸農政」で崩れた。小泉政権の郵政改革に異を唱えた自民党議員は、離党したり党議拘束に従わず除籍処分を受けたりしたが、農林族はそうしなかった。官邸発の急進的な改革案を現実的な線に着地させるのが精一杯だった。

 現政権の「官邸一強」体制を物語るが、それだけではない。三角形のもう一辺、つまり農協と自民党を結ぶ線も切れかかっているのだ。森山裕農相は就任前、ある講演会で「全中はもう農政運動をやめてはどうか」と発言した。森山氏は農協に近い旧来型の族議員とみられていただけに、会場にはどよめきが広がった。真意は不明だが「農協が政治的に動くほど官邸は闘志を燃やす。我々はかばいきれない」という意味と筆者は解釈した。

 農協の政治力の源泉は「コメ」だった。国がコメの流通を統制し、価格を決定する食糧管理制度が戦後50年間続き、実質的なコメの「供出機関」だった農協が政治力を保持し続けた。しかし、食管制度が廃止されて20年。米価決定は市場に委ねられ、かつて1000万トンを超えていたコメの消費量は800万トンを切っている。産出額(1・4兆円)も畜産物(2・9兆円)や野菜(2・2兆円)の後塵を拝する存在になった。

 そして、高齢化と後継者不足で農家数は急減している。販売農家(耕作面積30アール以上または販売額50万円以上の農家)は昨年で133万戸。15年間に100万戸以上減った。1戸に有権者が2人いるとすれば、200万票が消えた計算だ。農家数が減って農業経営の規模が大きくなれば、農協への依存度や忠誠心も下がる。組合員は1027万人と増え続けているが、うち577万人(56%)は非農家の准組合員。金融サービスなどを利用するだけの組合員で、農協への帰属意識は薄い。

 山田氏の得票数も2回目の選挙(13年)は34万票と、前回比10万票以上減った。全国団体出身でない藤木氏は知名度も低く、農協関係者の間でも苦戦を予想する声がある。

 選挙区はもっと厳しい。河北新報によると、東北6県の農政連のうち自民候補の推薦を決めたのは福島だけ。他は全農県本部OBが自民党から出た山形も含め、すべて自主投票だ。現場では環太平洋パートナーシップ協定(TPP)や農協改革に反発が強く「それでも自民党に投票しなければいけないのか」(山形の農協関係者)との声が渦巻く。

 協同組合の「憲法」とされるロッチデール原則(19世紀にできた英国の生協に由来)は「政治的・宗教的中立」をうたっている。森山農相が言うように、政治と縁を切ることで農協は真の協同組合に脱皮するのか。参院選はそのターニングポイントになりうる。

綿本 裕樹 (農業ジャーナリスト)

最終更新:7月9日(土)12時0分

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