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【現代人の「おもいあがり」(3)】 古代ギリシャよりすごいかもしれない、メソポタミア

ニュースソクラ 7/9(土) 14:00配信

「自由」という言葉は、いつの時代に誰が使いはじめたのか

「自由」という言葉はいつから誰が使いはじめたのか、と人に問うと、大概、フランス革命のころ、ジャン・ジャック・ルソーだろうとか、アメリカの南北戦争のころ、リンカーン大統領だろうといった答えが返ってくる。

 しかし、4000年以上も前に使われていたことを知るとみな驚きを隠さない。

 古代メソポタミアはシュメール時代の都市国家ラガシュに、在位、紀元前2358~2350年のウルカギナ(UruKAgina)という名の王様がいた。彼は平和を好む理想家肌の改革家で、事績として『社会改革論』が楔形文字で粘土板に書き記されている。その中で「自由」(AMA-AR-GI)のほかに「人間らしさ」(NAM-LU-LU)という言葉も使われている。

 このウルカギナ王は、隣国の野心的で好戦的なウンマ国の総督ルガルザッゲシ(Lugal-Zgesi)によってラガシュの聖所を破壊されてしまった。命は助かったウルカギナは、その後ラガシュの敗北について弁明の記録を残しており、それは自らの大義の正当性を深く確信し、神々の判定が彼に最終的な勝利をもたらすであろうという信念を披歴した感動的なものということである。

 一方、ルガルザッゲッシは最後に不名誉な終末を迎えることになる。ニップールという都市の中で首枷をはめて曝され、側を通るすべての人から唾を吐きかけられた。このルガルザッゲシを滅ぼしたのが、有名なバビロニアのアッカド王サルゴン(Sargon: 在位、紀元前2370?~2320年)であった。彼はその強大な軍事力をもってメソポタミアではじめて統一王朝を築き、ペルシャ湾から地中海まで征服し、自らシュメール・アッカドの王と称したことは教科書に載っている。

「自由」とか「人間らしさ」という言葉が、ウルカギナ王の『社会改革論』の中に刻まれたのは紀元前24世紀であり、税制改革を含む社会改革がなされ、それが、新しい運河の完成を記念して、王の事績として粘土板に記録された。人類最古の法典と教えられてきた、バビロニアのハムラビ法典がつくられた紀元前18世紀(1750年頃)に比べておよそ600年も前のことである。

 ラガシュの法を再興し、条例を定め、そして市民の自由を回復させたのである。改革の中でも、正義と自由を確立したことは際立っているが、史上初めての減税は興味深い。ウルナンシェ(Ur-Nanse)にはじまり、ウルカギナまでの諸王の170年にわたる統治時代に、つもりつもった極度の官僚主義的弊害、とくに多種多様かつ高率の租税と、自己の利益を図る大勢の寄生虫のような税務査察官、収税官の横暴は大変なものであったらしい。上はイシャクと呼ばれる支配者、神官から末端の査察官まで、国の端から端まで収税吏がいっぱいいたということである。

 このような社会的状況の中に、理想主義者ウルカギナ王が登場してラガシュの改革がはじまった。改革の結果、国の端から端までいた収税官がいなくなったと記録されている。大減税だけでなく、富裕な強者が貧しい弱者を苦しめることのないように取り締まった。そして、都市から高利貸、泥棒、殺人者を一掃した。このような改革は、残念ながら十分な結果をもたらすにいたらなかった。なぜなら、隣国ウンマのルガルザッゲシとの紛争に敗れてラガシュは征服され、ウルカギナ王の治世は8年間で終わってしまったからである。

 ウルカギナ王の社会改革の事績は、1878年にフランスの調査隊によってラガシュの遺跡から発掘された粘土板が解読された結果わかったことである。

 事績で、「自由」と訳された楔形文字の言葉、AMA-AR-GIは、直訳すると「母のもとに帰る」という意味になる。それは、北の山岳地帯から連れてきた若い奴隷を母親のもとに帰す、すなわち奴隷の開放からきたものと考えられる。

 さて、この「自由」の起源を“現代人のおもい上がり”の例として紹介したのは、とくに欧米人は、歴史上の重要で価値あることはすべてヨーロッパ起源と思い込んでいることと、われわれ日本人も思いこまされてきた節があるからである。

 人類のもっとも高度な文明は古代ギリシャに始まると思い違いをして、最高位に位置付け、それ以前の、人類文明発祥の地であるメソポタミアをはじめ、ヒッタイト、エジプト、インダス、ミノアといった諸文明を軽視する傾向にあると感じるのは筆者だけか。

 これら古代文明における神話や伝説、世界観、宇宙観はギリシャ神話の世界観、古代ギリシャの宗教観あるいは哲学者に大きな影響を与えたばかりでなく、ギリシャ芸術の背景ともなっている。したがって、ギリシャ史の最古の部分は書き改める必要があるほどで、そのルーツはメソポタミアにあるといえる。

■谷口 正次(資源・環境ジャーナリスト)
1938年生。太平洋セメント専務、国連大学ゼロエミッション・フォーラム産業界代表理事、京都大学大学院経済学研究科特任教授を経て、(株)サステナブル・インベスター顧問、NPOものつくり生命文明機構副理事長。ものつくり心塾副塾長。サステナブル日本フォーラム理事。地球システム倫理学会理事
主著は「メタル・ウオーズ」(東洋経済新報社2008年日経BP・BizTech図書賞受賞)、「オーシャン・メタル」(東洋経済新報社2013)、「自然資本経営のすすめ」(東洋経済新報社2014年)ほか多数。

最終更新:7/9(土) 14:00

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核融合こそ未来のエネルギー問題への答えであり、子どもにだって世界は変えられる、テイラー・ウィルソンはそう信じています。そして彼はそのどちらにも取り組んでいます。14歳の時に家のガレージで核融合炉を作り、17歳となった今、直前の依頼に応えてTEDのステージで自分の物語を(手短に)語っています。