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米国でカーネル・サンダースが「ちょいワルおやじ化」している理由

ZUU online 7/10(日) 11:40配信

米国では大手ファーストフードチェーンのケンタッキー・フライド・チキン(KFC)が、白いスーツ姿の「南部の保守的な熟年紳士」のイメージで店舗のシンボルとして使われてきた創業者カーネル・サンダースのキャラを大きく変更し、ネットを中心に話題となっている。

米国で放映中の新しいCMでは、カーネルおじさんが何と、浅黒く日焼けをし、蝶ネクタイは結ばずそのままクビにかけたプレーボーイ風の出で立ちで登場する。自ら考案したフライド・チキンのレシピにこだわり続けた実直な信頼のシンボルから、「ちょいワルおやじ」へと変身させられている。

さらに、昨年からKFCが出版しているカーネル・サンダースを主人公としたコミック本の2016年版では、カーネルおじさんが別の惑星からやって来たカーネルたちの力を借りて、悪者と戦うストーリーを展開。また、ニューヨーク・コミコンの会場では、人気コミックの『ザ・フラッシュ』とコラボした『二つの世界のカーネル』を発表。カーネス・サンダースが、黒い服装の「悪のカーネル・サンダース」に対し、正しいレシピを守るための戦いを挑む。

KFCでは以前から、白いスーツ姿の「南部の保守的な熟年紳士」を、赤いエプロン姿のロゴマークに置き換えてきたが、「ちょいワルおやじ」や「ヒーローのカーネス・サンダース」は、元来の創業者イメージを革命的に変えるもので、その意図に関する推測が多く米メディアで取り上げられている。

こうしたイメチェン戦略は明らかに若年層をターゲットにしており、「ケンタッキー・フライド・チキンは、クールでかっこいい」「しかもレシピは昔のままでおいしい」というイメージを植え付けようとしている。「脂っこく、不健康なファストフード」「ダサい」「おじさんやおばさんの食べるもの」という悪評を一掃するための、奇策であるようだ。この戦略が成功するか、注目される。

■勇気を奮い立たせる立志伝中の人物

しかし、カーネルおじさんの変身がネットや口コミで、これほどまでに話題になるのには理由がある。カーネル・サンダースは、米ポップカルチャーのアイコン的存在になっており、フライド・チキンという商品を離れた「成功物語」の主人公であるからこそ、愛され注目されるのだ。それは、米国でもう失われてしまった古き良き実直な商売へのノスタルジアでもある。

都市伝説として流布しているカーネル・サンダースの苦労の人生のストーリーは、およそ次のようなものだ。

「カーネル・サンダースことハーランド・デイビッド・サンダースは1890年に、インディアナ州ヘンリービルで出生した。彼は、6歳の時に父親を亡くしている。10歳の若さで農場に働きに出て、14歳で学校をやめて農場の手伝いや市電の車掌として働いたが、16歳で年齢を偽って米陸軍に入隊した」。

「サンダースは18歳で家庭を持ったが、20歳の時に妻が子供を連れて家出した。その後、彼は鉄道の機関車修理工、ボイラー係、機関助手、保線区員、保険外交員、タイヤのセールスなど40種に上る職を転々とした。最後に彼はとあるカフェの調理師となり、妻を呼び戻すことに成功した」。

「30代でケンタッキー州ニコラスビルにカフェを併設したガソリンスタンドを経営したが、折からの大恐慌のあおりを受けて倒産した。自殺も考えた。それでも立ち上がり、ガソリンスタンドの支配人と調理師とレジ係を兼ねて復活した。そのカフェの目玉料理が、圧力釜を用いた『オリジナル・フライド・チキン』だ。1939年の考案以来、『オリジナル・レシピ』として守り継がれている。1935年には『州の料理への貢献』が評価され、州知事から『ケンタッキー・カーネル』の名誉称号を与えられた」。

「カーネル・サンダースは1952年からフランチャイズ・ビジネスを始め、フライド・チキンをワゴン車に積んで各地を回った。人々は、『マネのできない味だ』と彼を称え、彼は億万長者になっていった」。

フェイスブックなどSNSで、こうした物語が拡散され、行き詰った米経済の下、落ち込む若者たちに感動と勇気を与えているのである。

■史実とは異なっても消えない憧れ

こうした都市伝説には誇張や、史実でない部分も含まれる。カーネル・サンダースは、自分のカフェで働いていた女性と不倫をし、離婚の末にその女性と2回目の結婚をしている。州知事から「ケンタッキー・カーネル」の名誉称号を受けた時期も諸説あり、定かでない。また、80歳の誕生日には捜査対象へのゆすりやたかりで悪名高きエドガー・フーバー米連邦捜査局(FBI)長官(当時)を、パーティーに招いたりしている。

だが、ヒーロー不在の米国でヒーローを求める若者の心を、「実直で誠実なカーネルおじさん」はくすぐり続ける。彼の都市伝説が真実であるか否かは、基本的に関係がない。古き良き米国のシンボルのひとつである彼への憧れは消えないのだ。

イメチェン作戦で拡散する「ちょいワルおやじ」や「ヒーローのカーネス・サンダース」のキャラは、古き良き商売と矛盾するどころか、そうした昔の価値観と、今の若者がクールだと感じるスタイルを巧みに融合させている。広告戦略としては、成功だといえるだろう。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)

最終更新:7/10(日) 11:40

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