ここから本文です

ミシェウ・テメル暫定政権はブラジルをどう変えるのか

MEGABRASIL 7月10日(日)12時33分配信

望まれる経済再生劇

2016年5月12日、上院本会議の票決によってジルマ(ジウマ)・ルセフ大統領(PT:労働者党)の弾劾法廷設置と最長180日の職務停止が決まり、3月にPTとの連立を解消したPMDB(民主運動党)のミシェル(ミシェウ)・テメル副大統領が代行に就任、暫定政権が発足した。

暫定政権は何を目指すのか、そしてそれは実現できるのか。

結論的に言えば、現時点では、目指す方向性は明確だが、それを遂行する政権の力量は未知数というところであろう。

~テメル政権の目指す方向

ブラジル経済はインフレが高止まりしたまま、実質GDPはこの第1四半期まで5四半期連続で前期比マイナス成長を記録した。財政赤字も記録的な水準に達する。

経済の再生が最大かつ喫緊の課題である。テメル暫定政権はどこに出口を求めるのか。

大きな柱は、次の三点に集約できる。それは保護主義に閉じこもり拡張的財政政策と経済への政府干渉を旨としたルセフ時代からの抜本的な路線転換を意味する。

(1) 経済への国家介入を減らし民間投資を再活性化すること

ペトロブラスも開発銀行(BNDES)も、ダウンサイジングと役割の再定義等、大きなリストラを断行する。

サンパウロのコンサルタント会社の試算によれば、2015年のGDP成長率▲3.8%のうち、2%ポイントはペトロブラスとそのサプライヤーのスキャンダル効果。ブラジル経済における同社のウェイトがいかに大きいかを示すもので、改革の規模・方向は民間参入の行方とマクロ経済に多大な影響を及ぼす。

大きな財政負担の一因となっているとともに民間金融をクラウドアウトしているBNDESも対象だ。

ただし、暫定政権の経済政策で重要な役割を期待される民間セクター側も、信用収縮が進むなかで債務負担から破産申請が急増、多くの企業が資産売却に奔走中という体力的な問題を抱えている点、留意を要する。

(2) 財政健全化・政府債務削減への道筋をつけること

伝統的に「大きな政府」のDNAを持つ国であるが、ルセフ政権5年間で拡張的政策は加速し、財政赤字はGDP比10%まで膨張した。ブラジルの政府支出の8-9割は義務的支出、裁量的支出は1-2割である。従来の財政調整は裁量的支出をどれだけ削るかに留まっていたが、新政権は義務的支出の改革に取り組もうとしている。

すなわち、歳出の伸びを前年インフレ率以下に抑え(実質伸び率をゼロ%以下にする)、社会保障制度、とくに年金を根本的に見直すことを最優先課題に挙げている(ラ米平均と比べても低い年金受給開始年齢の引き上げ、支給年金の最低賃金スライドの見直し等々)。これらの改革は上下両院で 3/5 の賛成を要する憲法改正を伴う。

88年憲法が国民の経済的諸権利を事細かく盛り込んだことが後々、財政の硬直化に繋がったことを踏まえ、パッチワークのような一回限りの支出削減ではなく、PT政権では望みえなかったこれら「聖域」に踏み込み、永続的に支出の仕組みを変更することを目指す。

(3) グローバルなサプライチェーンにブラジルを組み込んでいくこと

外国との通商戦略は開発商工省ではなく、外務省が担う。セーハ外相はイデオロギーに重きをおいた PT政権時代の第三世界外交から経済的国益・実利を軸とした外交への転換を宣言。非伝統的輸出拡大に向けた野心的な施策を練る。さらにメルコスル加盟国が個別に域外国と FTA 交渉を行えるようルールの弾力化を目指すとしている。

新しい経済の方向は実現可能だろうか。

実行に移すための最初のハードルは8月に予定されている弾劾裁判の結審で大統領を罷免に持ち込むこと。弾劾および暫定政権の正統性への攻撃に鎮静化の兆しが見えないなかで「痛みを伴う政策」を掲げながら国民からの認知を高めていけるかが暫定政権の成功のカギとなろう。

シナリオとしては、<1>弾劾裁判でルセフが逆転勝利、<2>世論調査が圧倒的に支持する年内の大統領再選挙、<3>ルセフの罷免で「暫定」が取れたテメル政権が2018年まで務める、などがありうるが、<1>と<2>は、可能性としては残るものの確率は低い。大方の見方は<3>である。<3>で結審すれば、PT側の抵抗は残存するものの、政治的な不透明感はかなり払拭されよう。

民政移管後の30年で、副大統領から大統領の任期途中で昇格した大統領はテメルで3人目である。1992 年、副大統領から昇格したイタマル・フランコは残存任期2年の間に F. H. カルドーゾを蔵相に据え、レアル計画によってハイパーインフレ終息に劇的な成果を挙げた。

テメル暫定大統領とメイレレス(メイレリス)蔵相は今、それと同じ境遇にあるとも考えられ、経済再生劇の再現が切に望まれる。

(文/岸本憲明、記事提供/ブラジル特報(日本ブラジル中央協会))

最終更新:7月10日(日)12時33分

MEGABRASIL

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

斬首動画が何百万回も再生されてしまう理由
昔は街の広場で、現代はYouTubeで。歴史を通じ、公開処刑には必ず人だかりがつきものでした。人が処刑というものを、恐ろしく不快に感じながらも、つい気になって見てしまうのはなぜか。フランシス・ラーソンが人間と公開処刑の歴史、中でも斬首刑に焦点を当てて解説したこのトークは、気分の良い内容ばかりではありませんが、同時に興味をそそること間違いないでしょう。