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アベノミクス2.0を始動させる参議院選挙の結果を読む~前編~

ZUU online 7月11日(月)11時0分配信

参議院選挙が7月10日に投開票となり、自民・公明の連立与党が非改選議席の76と合わせ、議席が146(追加公認を含む)と過半数を維持した。政権にとって参議院の重要性は大きくなかった。

■強まる政権与党の推進力

世論の支持を背景として、秋の臨時国会でTPP関連、景気対策、労働基準法改正、そして消費税率引き上げ再延期などの重要法案を通す動きは、円滑になるとみられる。安倍首相は、消費税率引き上げの2017年4月から2019年10月への延期、選挙後の臨時国会で大規模な景気対策の実施、それによるアベノミクスの更なる推進の方針を明らかにした。その方針の国民の信任を確かなものとするため、安倍首相は改選議席の過半数の獲得を目標としてきた。

結果は、安倍首相の経済方針は国民に信任される形となった。8月頃の概算要求から始まる2017年度の予算編成では、アベノミクス色が強くなるなると考えられる。今回の選挙で、自民党の参議院単独過半数にはわずかに届かず、連立与党の大勝は公明党との強い選挙協力の結果である。連立与党内での公明党の一定の力は維持されるだろう。

■選挙戦を有利に導いた自民党、ぼやけた争点と国民の危機感

ほとんどの政党が消費税率引き上げ見送りの方針であったので、選挙の争点とならなかった。野党は憲法改正を争点としたいと考えていたようだが、自民党は早急な憲法改正を政策の前面に押し出さなかった。

結果として、争点はアベノミクスの政策手法の是非という包括的なものとなった。有効求人倍率の上昇と失業率の低下、そして税収の増加によって、民主党政権の時より経済状況が好転しているのは否定のしようがない。今回から投票できることになった18-19歳も、新卒採用状況の著しい改善を感じ、アベノミクスへの支持は大きかったとみられる。野党の批判はあるが、縮小を続けてきた総賃金はアベノミクスにより拡大し、2002年以来の水準まで回復したのは事実だ。野党は、アベノミクスに代わる経済再生の有効な手段を提示できなかった。具体的な政策の是非ではなく、アベノミクス全般の是非というぼやけた争点になったことは、連立与党には有利に働いた。

英国のEU離脱問題などによるグローバルな景気・マーケットの不安定感は、国民に経済対策の早急な具体化を争点として重要視させただろう。5月のG7で前のめりにグローバルな経済危機のリスクを強調し、景気回復の促進のため財政政策を機動的に使うという、合意を勝ち取った安倍首相の評価も上がった。円高のリスクもアベノミクスを再稼動させなければならないという、国民の危機意識につながったとみられる。

■アベノミクスの再稼働・加速へ?

自民党政権公約では、「一億総活躍社会を実現するために、回り始めた経済の好循環を更に加速させ、経済のパイを拡大することが不可欠である。あらゆる政策を総動員して、戦後最大のGDP600兆円(現在503兆円)を目指す。しっかりとした内需を支える大胆な経済対策を実施する。」と明言している。

アベノミクスを再稼動させるための大規模な景気対策は、10兆円程度の規模まで膨らむ可能性も出てきている。景気対策には、野党が批判している国民間と地域間の格差の是正策も含まれるだろう。連立与党はそれをアピールすることで、格差問題が国会で争点となることを防ぐだろう。自民党政権公約では、「経済のパイ拡大の成果を子育て・介護など社会保障分野に分配し、それをさらに成長につなげる成長と分配の好循環を構築する。誰もが、家庭で、地域で、職場で、それぞれの夢や希望をかなえられるよう、より多様性に富んだ豊かで活力ある社会を目指す。」とし、パイの分配にも目配りすることを明言している。公明党が公約に掲げている分配重視の政策も、政権の政策に盛り込まれていくことになろう。

■自民公明の政権公約と日銀の存在感

金融政策に過度に依存した結果として行き着いたマイナス金利政策。金融機関だけではなく、国民の間でも評判は芳しくない。今回の政権公約では、金融政策に対する注文、そして2%という具体的な物価目標も無くなっている。2016年のG20、そして日本でのG7では、金融政策への過度な依存への反動で、財政拡大を含めた政策を総動員することで合意した。このグローバルな政策の方向性の変化が、自民党政権公約にも表れている。

イギリスのEU離脱問題などで、グローバルな景気・マーケットの不安定感が続き、FEDの年内の再利上げ観測も遠のいた。ドル・円が100円を下回る円高となるリスクも高まり、企業の値下げのニュースも聞こえ始め、デフレ期待の再燃も危ぶまれている。1月の日銀の追加金融緩和は「リスクの顕現化を未然に防ぐ」ことが目的で、フォワードルッキングに行われたものであるとしている。

緩和当時に想定していた以上に、グローバルな景気・マーケットの不安定感は増している。更に「リスクの顕現化を未然に防ぐ」追加金融緩和が、7月の金融政策決定会合で必要になってきている。政府の景気対策との合わせ技で、アベノミクスを再稼動させる印象をマーケットに与えることも必要になってきている。ただ、日銀よる財政ファイナンス(ヘリコプターマネー)という言葉が一人歩きしているため、政府の景気対策より前に行動することを日銀は望むだろう。

■7月の追加緩和見通しは?

7月の金融政策決定会合で、日銀は「2018年度中」へ物価目標の達成時期を更に先送りし、追加金融緩和に踏み切る可能性があると考える。追加緩和の手段としては、マーケットの限界論を払拭するため「量」・「質」・「金利」のすべての手段を使う必要がある。マイナス金利の-0.1%から-0.2%への拡大、及びマネタリーベースの年間約80兆円の増加から約85兆円(ETFの2兆円程度の増額を含む)へ引き上げが考えられる。

貸出支援基金の金利を0%から-0.1%に引き下げることも議論されるだろう。もし今回使われなかった次元があるとすれば、その次元はもう限界に来ているとマーケットで認識されると考えられる。ただ、政府からの金融緩和への期待は縮小し、日銀の手段も限界に来ており、これが日銀ができる最後の追加金融緩和になる可能性が高い。<後編へ続く>

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト

最終更新:7月11日(月)11時0分

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