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アベノミクス2.0を始動させる参議院選挙の結果を読む~後編~

ZUU online 7/11(月) 11:50配信

自民党政権公約では、まだ2020年度の基礎的財政収支の黒字化の財政再建目標が、堅持されている。しかし、2014年の公約の第一項目が「経済再生・財政再建」だったのに対し、今回は「経済再生」となり財政再建の文字が消えた。政府とともに「経済再生なくして財政再建なし」という財政再建より、経済再生を重視するスタンスに明確に転換されている。

■金融政策から財政政策へ その柱は地方創生と災害対策

景気対策としては金融政策から、財政政策へ大きく傾斜していくだろう。財政政策の柱となるのは、自民党政権公約で示された「地方創生の実現」と「災害に強い国づくり」。「地方にしごととひとを呼び込み、まちを活性化する総合的な政策を展開する。地方が自主的に取組みを進める政策を応援し、地方が主役の地方創生を実現する。」「大災害に向けた備えに取り組んでいく」と明言している。

地方分権の更なる促進、規制緩和が軸となろう。リニア中央新幹線の大阪への延伸前倒し、整備新幹線の建設推進も含まれるだろう。国土強靭化と社会資本整備の重要性が増し、1995年度の46.7兆円をピークに2015年度にはほぼ半減した公共投資も、底を打って増加を始めるとみられる。国が政府系金融機関を通じて、民間企業に資金を貸し出す財政投融資に関して、政府は政策金融の肥大化を止めるための縮小から、積極的活用への方針転換を既に決めている。

秋の臨時国会での景気対策に、3-5兆円程度の大幅な上積みとして、盛り込まれるだろう。財投の貸出金利も0.1%から0.01%程度に引き下げ、民間の投資を引き出そうとするとみられる。今回の選挙の結果で自民党政権公約の実現への推進力と可能性が増したと考える。

■政策対応を精査し、出すべきところに資金を出す

財政政策が緊縮から拡大に転じ、消滅していたアベノミクスの推進力であるネットの資金需要が復活し、それをマネタイズする金融政策の効果も強くなること。それに加え、グローバルな景気・マーケットが安定感を増していけば、アベノミクスのリフレ効果(アベノミクス2.0)が再び強くなるだろう。

政策対応が不十分であれば、マーケットの失望が企業の業況感の悪化を加速させ、アベノミクスのデフレ完全脱却の試みを、失敗に追い込むリスクがかなり高まってしまう。2014年の拙速な消費税率引き上げなどによる財政緊縮により、アベノミクスのモメンタムが失われてしまったことの政府・自民党の反省は強い。増税で社会保障への信頼感が増し、生活不安が解消し景気回復を促進するという「安心効果」が虚構であった、と総括されたとみられる。

一方、市場経済の失敗の是正、教育への投資、生産性の向上や少子化対策、長期的なインフラ整備、防災対策、地方創生、そして貧富の格差の是正と貧困の世代連鎖の防止。これらを目的とした財政支出の増加が必要があると判断されたとみられる。

■過度な悲観論ではなく、楽観論からの逆算で政策を

財政の大幅な拡大によりネットの資金需要を復活させることは急務である。明るい未来と夢を感じる財政プロジェクトのアイディアを競う現実主義に、政策の舵は切られたとみる。拙速な財政再建に固執すれば、限界ばかり意識される金融緩和の効果は小さく、アベノミクス1.0の終焉とともにデフレ・長期停滞に逆戻りするリスクが、大きくなってしまうだろう。

次のデフレ・長期停滞は、中間層が没落することによる上下階層の固定化を進める。日本でも深刻な社会不安とポピュリズム台頭に、つながってしまうリスクが大きくなる。景気低迷を放置した財政再建による支出削減は、これらの懸念を現実のものとするリスクを生む。社会保障の世代間負担を会計・制度上で是正したとしても、若年層が明るい未来を描けなくなれば、本末転倒だ。財政問題の議論には、マクロ経済学と社会学としての柔軟性が欠けていた。

今回の参議院選挙の結果は、国民が政策転換と対応を望んでいることを示したと考える。若年層ほど、アベノミクスを推進する連立与党への支持が、大きかったのは注目である。誇張された過度な悲観論から逆算した危機を回避する政策より、楽観論から逆算した明るい未来を作り出す好循環を目指す政策をより求めているのだろう。

■争点から消えた憲法改正の今後

安倍首相が悲願とする憲法改正の発議をするには、衆参両院で3分の2の議席が必要となる。発議後、国民投票で過半数の支持を得て、憲法は改正される。連立与党を含んだ改憲支持派が参議院の3分の2を上回った。しかし、連立与党内の公明党は早急な改憲に慎重であり、連立与党外の勢力との意見のすり合わせと協働には、他の不一致の政策がハードルとなり時間がかかるだろう。更に、各種世論調査によれば、国民が選挙後に期待する政策は、社会保障改革と景気対策であり、早急な憲法改正を求める声は小さい。

自民党が単独過半数の圧勝とならなかったのは、改憲阻止を主眼とした野党共闘の影響もある。自民党政権公約でも、「国民合意の上に憲法改正」と抑制気味であり、具体的な記述は参議院選挙制度改革のみだ。選挙後、憲法改正が国会の主要議論になることはないだろう。国民の間で改正の議論が盛り上がり、国会の憲法審査会で改憲の項目が絞り込まれていくことを、辛抱強く待つと考えられる。安倍首相は、強い経済が強い安全保障の源泉であると考えているので、デフレ完全脱却に向けた取り組みを加速させるだろう。名目GDPを600兆円まで引き上げる政府目標が、2021年度前後となっていることとも整合的だ。

■安倍首相のシナリオは2021年まで描かれている?

安倍首相の自民党総裁としての任期は2018年9月までだ。現行の自民党の党則では、再選はできない。2020年の東京オリンピックまで首相をつとめるとともに、経済再生後に憲法改正を実現するためには時間がない。

今回の参議院選挙で、自民党は大勝し、補選を除く国政選挙で四連勝となった。それを実現した安倍首相の求心力は、自民党の中で更に強固になった。総意による党則変更で、自民党総裁として再選ができる可能性を高める。そのためには経済政策の著しい成果を挙げ、次の衆議院選挙で大勝する必要がある。

衆議院の解散総選挙は目先は回避し、まずは2018年夏までの間にデフレ完全脱却を成し遂げる。国民の支持が強固になったところを見計らって、経済政策の成果と憲法改正を争点として解散総選挙(衆議院の任期は2018年12月まで)に踏み切るだろう。そこで自民党が大勝した場合、2019年夏の次回の参議院選挙と10月の消費税率再引き上げを安倍首相の下で乗り切る。その名目で、党則が変更され、2021年9月まで総裁の任期を延ばす可能性がある。2019年夏の参議院選挙で改憲勢力が二度目の3分の2を獲得すれば、残りの2年間で憲法改正に踏み切ろうとしようとすると考えれる。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト

最終更新:7/11(月) 11:50

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