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ビジネスパーソンの副業の落とし穴! 知らないと怖い「民泊ビジネスと法律」

ITmedia ビジネスオンライン 7月11日(月)8時10分配信

 インバウンド需要が盛り上がっている。2015年の訪日外国人数は1900万人を突破し過去最高となり、旅行消費額も、通年で3兆円を超えた。英国のEU離脱による円高などの懸案事項はあるものの、2020年の東京オリンピックに向けて成長が予想されるこの市場は、決して無視できない大きさだ。

【民泊ビジネスにはこんなトラブルが……】

 ビジネスパーソンの中には、本業のみならず副業でもインバウンド関連ビジネスに興味を持っている人も多いはず。特に最近は、もともと不動産投資に関心のある人々が「民泊ビジネス」に魅力を感じる――というパターンが増えてきた。

 ……とはいうものの、民泊ビジネスは現状、気軽に運営するには問題が多い状態にある。あるビジネスパーソンAさんのケースを紹介しよう。

 「民泊の副業がオススメですよ」と民泊コンサルタント業者に勧められたAさん。民泊用のワンルームマンションを借り、利用者が過ごしやすいように内装を整備した。家賃や家具の購入などを含め、かかった費用は80万円。

 Aさんの民泊ビジネスは万全の状態でスタートした。最初のころは客が途切れがちだったが、徐々に軌道に乗ってきた。このままなら初期投資も回収できるかも――というタイミングで、マンションの管理組合からストップがかかってしまった。

 「うちのマンションで民泊をやってもらっちゃ困るんです」

 Aさんは何度も管理組合と話し合いの場を設けたが、返事はにべもない。結局、Aさんは初期投資を回収できないまま、民泊の営業を停止せざるを得なくなってしまった。Aさんに残ったのは、50万円超の損失だけ……。

 このAさんのケースは、現状「民泊ビジネスに関わってみたい」と思っている全ての人にとってあり得る話だ。Aさんのようになりたくないけれど、民泊ビジネスの法律についてよく分からない……そんな人へ、今更聞けない「民泊ビジネスのどこが違法?」について、民泊セミナーなどを積極的に開催している行政書士の石井くるみさんに聞いてみた。

 なお、行政書士とは、官公署や行政機関への許可・認可に関する行政書類、権利義務、事実証明に関する書類の作成、代理提出を行う。民泊ビジネスとは主に、「営業の許可」をとる書類を作成する際に関わっている。

○民泊ビジネスのここが危ない――そもそも旅館業法違反

 石井さんによると、宿泊ビジネスを営む場合、基本的に「旅館業法」にのっとって旅館業の営業許可の申請をする必要があるのだという。旅館業法は4つのタイプがあるが、例えばホテル営業では「客室の数は10室以上」など施設面の条件のハードルが高く、副業や小さなビジネスでの申請は難しい状態にある。

 「知らない方も多いが、旅館業の申請をしないで民泊ビジネスをすることは“無許可営業”になる場合がある。旅館業法違反は、6カ月の懲役と3万円以下の罰金が科せられるリスクがある」(石井さん)

 3万円――と聞くと、「意外に安い」と思ってしまうかもしれない。この旅館業法、実は1948年(昭和23年)にできたまま、罰則が“値上がり”していない。インフレなどの影響があり、現状からみると若干低すぎる額面になっている。

 「ただし、最近は、旅館業法の規制緩和を進めようという話が出ている。それに伴い罰則の強化も視野に入っているので、今は低くても後々は高くなる可能性がある」

 お金や懲役以外のリスクもある。どんなに軽く見えても前科は前科。会社にバレて問題になったり、士業の場合は「前科がない」という前提で資格を得ているので、資格取り消しになったりすることもある。

 「“みんなやっているから大丈夫”というわけにはいかない」

○隣人とのトラブル発生!

 行政から取り締まりを受けなかったとしても、立ちふさがる大きな問題がある。それが民事。近隣住民や大家との関係が悪化し、営業ができなくなってしまうことは「民泊トラブルあるある」だ。最初に紹介したAさんも、まさに民事的な問題が発生し壁に衝突した例だ。

 近隣住民とのトラブルは、「騒音」と「ごみ出し」が頻繁に発生する。騒音は言うまでもないが、ごみ出しは旅行者を対象にした民泊ならではの問題が起こりやすい。

 訪日客の「爆買い」は既におなじみだが、多くの民泊利用者はたくさんたくさん買い物をしている。トランクにできるだけ物を詰め込むために、包装紙は全て捨てる――そのため、ごみが大量に出るのだ。

 民泊で出るごみは、家庭用ではなく事業系廃棄物となる。マンションのごみ捨て場に捨てるのはNGで、有料で処理する必要がある。しかし、民泊利用者が廊下に放置したり、分別をきちんとしていなかったり、民泊運営者が家庭用ごみとして捨ててしまったり……といったことから、トラブルに発展していく。悪質な清掃請負業者に依頼してしまい、そのせいで問題が起きるケースもある。

 民泊の運営者にとって、マンションのワンルームはビジネスの場。一方、近隣住民にとっては生活の場だ。「友達の家に泊めてもらってると言ってくれ」と利用者に頼んだりして隠しても、民泊として運用していることは遅かれ早かれバレてしまう。

○大家との衝突はなぜ起こる?

 民法では、賃貸物件を大家の許可なく第三者に「又貸し」することは「無断転貸」だと考えられ、契約違反になる。大家から見れば、旅行者を継続的に泊めることは、その無断転貸にあたる。

 最近はトラブルを避けるために「民泊禁止」と銘打たれた物件も増えてきたが、民泊が無断転貸だと見なされればそもそも契約違反。大家から中止の要請があれば、従わなくてはならなくなる。

 また、マンション標準管理規約によると、民泊が規約違反に該当するかどうかははっきりしていない。もしマンション管理組合からNGが出ても、民事裁判を起こして「民泊は規約違反にあたらない」と認められれば営業が可能になる。しかし、個人が行うビジネスでは、そのような時間やお金をかけていられないのが実情だ。

 加えて、近頃増えてきているのが外国人によるマンションの運用。「外国では原則転貸がOKなので、日本の法律を理解しないまま、外国基準でビジネスを始めようとする人がいる」と石井さんは語る。

石井さんは民泊に関する相談を受け付けているが、やって来る人たちの多くが近隣とトラブルになって保健所や警察からの指導が入り、「このままでは運営できなくなるので、旅館業法の許可を取りたい」というケースが多い。

 「ただ、そういった場合、9割が旅館業法や建築基準法上の基準に満たない。残る1割も特に施設面でコストをかけて整備する必要があり、それを告げると『じゃあ辞めます』という人も多い」

○期待されていた「特区民泊」

 現状では、個人による民泊や小規模の民泊ビジネスは合法で行うことが極めて難しい。違法状態である以上、いきなり運営ができなくなるリスクは付きまとう。「新規参入を考えている企業から相談を受けることも多いが、ちゃんとした企業であればあるほど現状を説明すると『それなら見送るか……』といった反応になる」と語る石井さん。

 では、日本で民泊ビジネスを行うのは不可能なのだろうか。2016年に「民泊ビジネス健全化のきっかけ」になると期待されていたのが、「国家戦略特別区域法」。経済の活性化を目指して制定された条例で、さまざまな分野に影響しているが、民泊ビジネスについても13条で触れられている。

 特区法13条には、このようなことが書いてある。国が「国家戦略特区」として区域を指定し、その指定された区域が区域計画を策定し、内閣総理大臣から認定を受けると、区域内で旅館業の許可を得なくとも、民泊条例の基準を満たせば「特定認定事業者」の認定を受け、民泊ビジネス(外国人滞在施設経営事業)を行うことができるのだ。

 この「特区」は、東京圏・関西圏・沖縄などが指定されており、東京都大田区や大阪府大阪市などは既に適用されている。

 旅館業法とは異なり、ワンルームマンションなどの設備でも気軽にできるという点が特徴。多くの民泊ビジネス関係者が、特区での民泊に期待を募らせた。しかし……。

 この法律には大きな問題があった。それは「民泊の客が一度に利用する日数が6泊7日以上(7~10日の範囲内で、各自治体の条例が定めた日数以上)の最低滞在日数制限がある」ということ。6泊7日以上同じ宿に泊まることは、短期旅行需要には向いていない。そのため、海外旅行客を想定していた関係者は大きく裏切られる形になった。

 大阪府の松井一郎知事は国に宿泊日数の短縮を要請しているが、短縮されるかどうか、されたとして何日になるかといっためどはたっていない。

 申請は行われてはいるが、全国で40件程度。海外在住の日本人が、一時帰国に用いたり、海外からの出張で長期滞在のときに利用するといった使われ方もされているようだが、これまでの旅行客向けの民泊は依然として無法状態にある。

○期待の砦「新法」

 業界関係者が心待ちにするのが「新法」だ。現行の旅館業法の規制を緩和した新法「規制改革実施計画」の話が持ち上がっている。

 5月19日に提出された答申では、「民泊全面解禁」がうたわれた一方、「年180日以内の営業日数を上限とする」という条件が盛り込まれていた。

 「新法のポイントは、旅館業法といかに区別するか。民泊を条件なしに解禁すると、旅館業法を守って施設面を整備して運営している業者に不公平感が出てしまう」――といった理由があり、「180日」という日数で区別した条件だ。

 海外でも同様の規制緩和計画が実施されており、英国では60日以下、オランダのアムステルダムでは90日。それに比べると日本の180日は長い。

 「ただし、英国もアムステルダムも、現実は営業日数がほぼ守られていない。180日の条件を守ってもらえるなら妥当だが、そうでなければ結局旅館業法の違反者が増えるだけ」と石井さんは危惧する。

 まだまだ議論や改正の余地がある新法。早ければ今秋の臨時国会にも法案が提出される見通しだ。

 最後に、石井さんに民泊ビジネス参入を考えるビジネスパーソンに向けてのメッセージをうかがった。

 「民泊関連業者の中には、リスクを説明せず、違法行為を助長するような人がいる。何かがあった場合、リスクを負うのは業者ではなくてホストの人たちだということを忘れないでほしい」

 甘い話にお気を付けて。

最終更新:7月11日(月)8時10分

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