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トヨタはニュルブルクリンクでクルマの何を鍛えた? 「速さ」ではない

MONOist 7月11日(月)6時25分配信

 “ニュルブルクリンクで鍛えた”といううたい文句のクルマは珍しくない。トヨタ自動車が2016年8月1日に一部改良して発売するライトウェイトスポーツ「86」の後期型や、年内に日欧で投入する「プリウス」ベースの新型クロスオーバーSUV「C-HR」もそうしたモデルの一部だ。

【ニュルンブルクリンクで鍛えた「86」後期型の外観などその他の画像】

 しかし、86やC-HRの購入者層の大半はニュルブルクリンクほどの過酷なコースは走らないし、世界で戦うプロドライバーのような運転技術は持っていないだろう。量販車種をなぜレースで鍛えるのか。その意義について、TOYOTA GAZOO Racingに携わるメンバーが語った。

 ニュルブルクリンク24時間耐久レースは、市販モデルをベースにした参戦車両が24時間で走行する距離を競う。コースは1周約20kmで、標高差は300mだ。170カ所を超えるさまざまなコーナーが配されており、路面も荒れている。参戦車両は、排気量やエンジンの改造の有無によってクラス分けされる。

 今回発売する86の後期型は、2014年のニュルブルクリンク24時間耐久レースに出場した際の「86号車」が手本となっているという。86号車は2013年の参戦車両からエンジンを改良するとともにボディーの剛性を高め、ブリヂストンが同レース専用で新規開発したタイヤを装着した。86号車は排気量1750~2000ccのSP3クラスで1位を飾った。レーシングカーとしての改造は施さず、ほぼ市販車に近い状態で出場した。

 プリウスベースで、「TNGA(Toyota New Global Architecture)」を取り入れたC-HRは、2016年のニュルブルクリンク24時間耐久レースに出場し、SP2Tクラスで3位に入賞。ガス欠以外に大きなトラブルもなく周回を重ねた。

●レースで勝てるクルマの条件は“速さ”じゃない

 レースで活躍した2車種が間もなく市販されるが、単にスポーティーなモデルというわけではないようだ。TOYOTA GAZOO Racing ドライバーの影山正彦氏は「レースに勝つクルマは乗り心地がよく、操縦安定性に優れている」と説明する。

 「たとえ速くても、乗り心地が悪く操縦安定性に欠けるクルマは、プロドライバーが運転していても疲れるし危険だ。(疲れにくく運転しやすいクルマであるという点では)レースでつくったクルマの延長線上に量産モデルがある」(影山氏)。

 繊細な運転操作が長時間にわたって要求されるニュルブルクリンク24時間耐久レースのような過酷な環境であっても運転しやすいクルマであるということは、街乗りやドライブなど一般ドライバーの乗り方であっても疲れにくく運転が楽なクルマとなるだろう。

 仮にプロドライバーがレースで運転しにくいクルマであっても、公道では感じ取れないかもしれない。そこで妥協せずにレースで勝てるクルマを目指すことが、市販モデルでの“もっといいクルマづくり”につながっていくのだろう。

●C-HRは8時間運転しても疲れない

 トヨタ自動車 専務役員でTOYOTA GAZOO Racing Factory本部長の嵯峨宏英氏は「TNGAで走行性能を向上したプリウスにレースの経験を反映させるとC-HRになる」と説明する。

 C-HRのドライバーだった影山氏は、ニュルブルクリンク24時間耐久レースで8時間運転したが「全然疲れない上に乗りやすい。まだまだ乗れる」(同氏)という。「最初は本当にクロスオーバーSUVでニュルに出るのか疑ったが、見た目以上に低いところで運転できるのが良かった。雨天でも速い」(同氏)と振り返る。

 現在発表しているC-HRの欧州仕様では、パワートレインにハイブリッドシステムと、ガソリンエンジン2種類を設定する。ハイブリッドシステムは排気量1.8l(リットル)の直列4気筒エンジンと、最大出力53kW/最大トルク163Nmのモーターを組み合わせたプリウスと同じシステムだ。

 ガソリンエンジンは、排気量1.2lの直列4気筒ターボと、排気量2.0lの直列4気筒の2種類を用意。排気量1.2lターボエンジン車は、四輪駆動(AWD)システムや6速MTを選択可能なスポーティーモデルだ。一方、ハイブリッド車と排気量2.0lエンジン車はFF車だけで、排気量2.0lエンジン車のトランスミッションはCVTのみとなっている。

●86号車は2パターンで市販化、違いはタイヤに

 86号車は2014年のニュルブルクリンク24時間耐久レースにおいて、「80%の力」(トヨタ自動車 スポーツ車両統括部 部長でチーフエンジニアの多田哲也氏)で余力を残しながらクラス優勝を勝ち取った。レース前に運転したトヨタ自動車 社長の豊田章男氏も「とても対話できる」と褒めたという。「86号車は完成度が高く、ドライバーの意のままに操れる理想のFRだ。市販化できればお客さまに驚き、喜んでいただけると確信し、86号車の市販化に取り組んだ」(多田氏)。

 86号車がレースで得た知見は、先述の通り2パターンで市販モデルに反映されている。1つは限定発売で車両価格が648万円の「86 “GRMN”」だ。タイヤは86号車と同じくブリヂストン製で、スポーツタイヤ「POTENZA RE-71R」が純正装着となった。操縦安定性やグリップ力を追求し、86 “GRMN”のために専用で開発されたという。

 もう1つが86の後期型。「一般道を走るレーシングカー」(トヨタ自動車 凄腕技能要請部の大阪晃弘氏)の86 “GRMN”に対し、86後期型は「専用開発のタイヤにこだわらずに、86号車の特徴を反映して乗り心地の質感を上げながら、気持ちよく走ることが両立できるかが課題になった」(多田氏)という。

 86の後期型は「ニュルブルクリンクで培ったことがさまざまなパーツに組み込まれている。GAZOO Racingの10年間の集大成だ。前期と後期は明確な差があるので、乗って楽しんでもらいたい」(影山氏)。

 86の後期型は、動力性能の中でもアクセルのオンオフに対するレスポンスに重点を置いた。吸排気系を改善するとともに、抵抗を低減することでドライバーの感じるレスポンスの良さを向上している。ボディはリアを中心に補強し、ロールゲージを組んだ車両の剛性に近づくよう構造を最適化している。

 サスペンションはさまざまな路面に対応するために生まれた荷重軸管理スプリングの採用でフリクションを低減している。アブソーバーの構造を見直してサスペンションをチューニングすることにより、操舵応答性やハンドリング性能の向上、乗り心地改善も実現したという。

 レースで勝つクルマは、荒れた路面を高い速度レンジで長時間にわたって走行しても、安全に安定して意のままに走ることができるとTOYOTA GAZOO Racingに携わる面々は説明する。

 そのように走ることを目標にクルマを鍛え上げれば、一般のドライバーが運転する分にはびくともしない乗り心地を実現することができる。高性能で速いハイエンドのスポーツカーでなくても、レースの成果は手の届く身近なところに落とし込まれている。

最終更新:7月11日(月)6時25分

MONOist

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