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オープンな姿勢で「創造と進化」を推進する――NTTドコモ 吉澤和弘社長に聞く

ITmedia Mobile 7月11日(月)20時30分配信

 携帯電話事業では国内最大のシェアを誇り、コンテンツメディア事業や決済・ポイント事業から、IoTやスマートホーム、ヘルスケア事業まで――。NTTドコモは通信事業のみを提供する“土管屋”の枠組みを超えて、モバイルITを軸にしたコングロマリット(複合企業体)になっている。またモバイル通信技術を筆頭にした研究開発力の高さは世界的にも折り紙付きであり、分野によってはその実力は、AppleやGoogle、Qualcommをもしのぐといわれている。NTTドコモを日本のモバイルIT産業のリーディングカンパニーと評して、異論のある人は少ないだろう。

【吉澤社長が意識しているキャリアは……】

 そのドコモの社長に、吉澤和弘氏が就任した。吉澤氏は前社長の加藤薫氏の下で副社長を務め、ドコモ新体制における「V字回復」を実現した立役者の1人。また2013年にはドコモ・ベンチャーズの代表取締役社長を兼務で務めるなど、ITビジネスの新領域への造詣も深い。

 筆者は今回、吉澤新社長に単独インタビューをする機会を得た。“スマートフォン・バブル”が終わり、モバイルIT産業全体のビジネス構造が変わる中で、吉澤氏はどのように「次なるドコモ」を築くのか。その方針について聞いていく。

●順調に進む、ドコモの「体質変化」

――(聞き手、神尾寿) ドコモは2015年度に業績を「V字回復」して、それを引き継ぐ形で吉澤社長は経営を担う形になりました。まずは今のドコモの経営環境を、どのように評価されていますか。

吉澤氏 私自身、2015年度は副社長としてドコモの経営に携わっていたわけですが、音声定額を含む新料金プランの導入や新事業をはじめ、ドコモが新しく取り組んだ領域の訴求が奏功していると評価しています。特に料金プランは(カケホーダイ&パケあえるなど)大きな変革を行った直後に一時的に業績が落ち込みましたが、結果的には“家族全体で安くなる・お得になる”という部分が多くのお客さまに実感していただけて好評になった。

 dマーケットのデジタルコンテンツ事業や金融・決済事業も、しっかりと利益が出てくるようになった。これら1つ1つの積み上げにより、V字に近い回復をすることができました。これを私が引き継いだわけですから、今の成長基調は維持し、さらに加速させていきたいと考えています。

 また、このドコモが変革する過程で、(無理な値下げ競争やキャッシュバックなど過度な販促による)「契約獲得競争」から、サービスの品質やラインアップによる「付加価値競争」に転換できたのは大きい。さまざまなお客さまにとって付加価値の高いドコモになっていく。それは強く推し進めたいと考えています。

―― ここ3~4年のドコモの動きを振り返りますと、「携帯電話会社」から「総合サービス企業」への転換という大きな体質変化がありました。いうなれば、“土管屋からの脱却”が大きな目標だったわけですが、全社的なマインドチェンジは進んでいますか。

吉澤氏 そういう意味でいいますと、2~3年前は新事業領域が重要であるとし、その旗を(経営陣が)振っても、そこに利益が付いていなかった。しかし、2015年度には新事業領域での利益が約780億円と明確に出てきた。この“利益が見えてきた”ことで、全社的に転換点を向かえたことの実感が共有できたと考えています。今期はさらに新事業領域の売り上げ・利益ともに増やして約1200億円を目指しますので、(事業構造の)転換は力強く進んでいくでしょう。

―― 回線契約ベースでの事業マインドから、dアカウントベースの事業マインドへと、ドコモ全体の意識が変わってきている、と。

吉澤氏 まさにそれを推し進めています。dアカウントはdポイント事業と密接に連携しているわけですが、会員基盤を土台として作り、その上に回線契約も含むいろいろなサービスを乗せていく。(他キャリアの回線契約者も対象とした)会員基盤ベースのビジネスへの移行は順調に進んでいます。

●キャリア同士の競争は「2台目市場」にシフトするべき

―― スマートフォン市場に目を向けますと、フィーチャーフォンからの移行特需がなくなり、2015年のタスクフォースでキャッシュバックのばらまきなど過度な販売施策に一定の歯止めがかかった影響で、総販売数の伸びは落ち着いています。他方で、MNPの流動性が下がったことは、世帯契約ベースでの長期契約化を重視するドコモの基本戦略とは合致する部分も多いと感じます。

吉澤氏  そうですね。2015年のタスクフォースやその後に出たガイドラインでは、MNPに伴う過剰な販売奨励金を抑制する方針を打ち出しています。これはわれわれドコモにとっては、(キャッシュバック目的で)不要なキャリアチェンジをする一部のお客さまのために営業コストがかさむという問題が回避されることを意味します。またMNP利用が非活性化されて流動性が下がることは、長期的視野でお客さまのベネフィットを考えた戦略が立てやすくなる。これらはメリットといえるでしょう。

―― 高額キャッシュバックを餌にしたMNP利用の推進は、長い目で見ればユーザーにも業界全体にも利益はありませんからね。その点でいえば、高額キャッシュバックという劇薬の使用を抑制してMNP利用率が適正化してきていることは、よい傾向といえます。

吉澤氏 まあガイドラインの順守という点でいえば、「実際のところどうなのかな?」という懸念はありますけどね(苦笑)。

 われわれドコモとしてはガイドラインを順守しているという自信がありますし、確信もあります。しかし他キャリアの状況を見ますと、キャンペーンという形でMNP利用者を過度に優遇するなど、(ガイドラインを鑑みて)すれすれのところもあるなぁと感じるところはあります。

―― 今後、auやソフトバンクモバイルなど他キャリアとの競争環境はどうなっていくと見ていますか。

吉澤氏 (大手キャリア同士が)既存顧客をMNPで刈り取り合うような獲得競争は、時代の流れの中でなくさなければなりません。一方で、タブレット端末など2台目需要は大きく伸びています。今後はこういった新規市場で各キャリアが切磋琢磨(せっさたくま)していく形がよいでしょう。

――  確かにiPadシリーズを筆頭に、ドコモのタブレット販売は伸びていますね。何か特別な施策など行ったのでしょうか。

吉澤氏  それは「dTV」や「dマガジン」など、タブレット向きのサービスとセットで訴求した成果ですね。これはタブレットに限らないのですが、2台目需要向けのサービスをしっかりと作り、店頭でそのメリットを丁寧に説明していく。愚直ですが、そういった取り組みをしっかりと行うことで、スマートフォンの次として、新しい分野の端末が売れていくのです。今後はこうした2台目需要をしっかりと掘り起こしていき、(MNPでの顧客獲得合戦ではない)新規市場での競争に移行していく必要がある。われわれとしてはタブレットなど2台目市場の取り組みは、2016年度後半にかけて積極的に行っていきます。

―― 新しい競争領域としては、ドコモ光もありますが、こちらの状況はいかがでしょうか。

吉澤氏 ドコモ光の契約者は、6月末時点で約200万契約の大台を突破しまして、計画以上のペースで進んでいます。年度を通しても計画を上回る契約の獲得ができると手応えを持っています。

●MVNOとは「共存共栄」路線を強化していく

―― ここ最近の新たな動きとして、MVNOや大手キャリアのサブブランドによる「格安スマホ」市場の活性化があります。現状で見ますと、大手キャリア同士の競争は沈静化してきていますが、他方で、MVNOや、Y!mobileのようなサブブランドキャリアがここにきて台頭してきています。この動きに対して、ドコモはどのように対応していくのでしょうか。

吉澤氏 まずMVNOについてですが、MVNOの多くはドコモにとって大切な(B2Bの)お客さまですし、協調関係だと考えています。ですから、ドコモの通信インフラを(MVNOに)使っていただくだけでなく、ドコモのサービスも積極的にお使いいただく方向で協力体制を強化していきたい。

―― 最近では一部のMVNOが、dマーケットのコンテンツサービスなどの販売も始めています。

吉澤氏 ええ。コンテンツサービスなどはMVNOの方々が自前で準備するには投資負担もありますから、キャリアフリーでご提供しているドコモのサービスをMVNOのお客さま(MVNOの契約ユーザー)向けに提供していただければ、ドコモとMVNOの双方にメリットがあります。また今後の展望としましては、dケータイ払いプラスのような決済サービス、(ユーザーサポートの)コールセンター業務の受託など、ドコモがMVNOの皆さまをお手伝いできる領域は多く存在します。

―― ドコモにとって「MVNOはパートナー」という観点に立脚すれば、MVNOがキャリア事業を展開する上で、不足しているサービスや苦手な領域をドコモが補うというビジネスは十分に考えられるわけですね。ちなみにその延長線上で、販売チャネルの共同化は考えられますか?

吉澤氏 うーん、そこは難しいですね(苦笑)。どちらかというとバックヤード業務を受託で支援するという形が主になると考えています。いずれにせよ、MVNOとはさまざまな形で協力体制を構築していきたいと考えています。

―― 一方で、auやソフトバンクが展開する「サブブランド戦略」はいかがでしょうか。ドコモとして対抗しますか?

吉澤氏 Y!mobileさんとか、6月はものすごい宣伝攻勢をされていますね。店頭での販売攻勢も勢いがありますし、われわれとしても少し脅威に感じています。実際、MNPの動きを見ても、ドコモからY!mobileへの線が太くなっている(=流出が増えている)。特にドコモのフィーチャーホンユーザーが、Y!mobileの格安スマホにMNPするケースが目につきます。

―― フィーチャーホンからスマートフォンへの乗り換え組からすると、Y!mobileの価格体系が「これまでのケータイ料金に感覚的に近い」ことが評価されています。

吉澤氏 そこはわれわれも注視しています。ただ、この状況がY!mobileのキャンペーンによる一過性のものなのか、それとも市場トレンドになり得るのかはしっかり見極めなければなりません。

―― ドコモとして、格安スマホのサブブランド導入はありますか?

吉澤氏 ドコモではやりません。無論、他社の動きは注目していますし、分析はします。(サブブランド導入の)検討もしますけれども、今のところドコモとしてサブブランドを導入する考えはありません。

 しかし、これは他社のサブブランドの動きに対応しないということではなく、われわれとしては「ドコモのお客さまでい続けていただくことのメリット」を充実させることで対抗していきます。

●新事業領域ではコンテンツとIoTに注目

―― 2016年から2017年にかけて、新事業領域で特に重視している分野はどのようなものになるでしょうか。

吉澤氏 もちろんdマーケットは拡大していきたいですね。デジタルコンテンツから物販まで、既存のサービスに注力するのはもちろん、新たな分野にも挑戦したい。

―― dTVやdマガジンなど、デジタルコンテンツは好調です。それは理解できるのですが、物販はいかがでしょうか。ここではドコモのサービスが、Amazonや楽天に対抗できているとは評価できませんが。

吉澤氏 そうですね……。物販がAmazonや楽天と比較して不利な状況にあることは否定しません。物販事業を今後も拡大していくかどうかは少し考えなければなりません。われわれは「dショッピング」を展開していますが、物販事業は本当に難しい。自社サービスとして行うには在庫管理や倉庫の問題がありますし、モール形式がいいのかというのも議論が必要です。dマーケットの物販事業については、見直しが必要な時期だと認識しています。

 1点、補足させていただくと、dマーケットはdTVやdマガジン、dアニメなどデジタルコンテンツが中心で、それらはとても好調です。dショッピングなど物販は、今後の在り方も含めて展開を検討していくという状況ですね。

―― コンテンツ以外ですと、決済などトランザクション系サービスの業績もよいですね。

吉澤氏 ええ。dカードは順調に伸びていますし、最近ではdケータイ払いプラスなどキャリアビリングが好調です。ここはまだ市場の拡大ができる領域です。

 あと新たな取り組みとしては、2016年の第2四半期に保険販売を始めます。まずはドコモショップの数10店舗くらいからですが、ここは保険業界からも注目されていますので、しっかりと育てていきます。

―― 今後の新規事業領域に対する姿勢はどのようなものになるのでしょうか。

吉澤氏 1つの視点として「社会課題の解決」に貢献する事業を大切にしていきたい。これから取り組む農業やIoTを用いたさまざまな事業は、何らかの形で社会課題に解決に貢献できるものでありたいと考えています。ここでは早期の収益化が難しいものもあるかもしれませんが、長期的な姿勢で取り組んでいきます。

―― 収益化を急がず、腰を据えて新規事業に取り組めるのはドコモのとても強みであり、美点だと思います。しかし最終的には収益化をしていかなければならず、そのバランスをどう取るか、ということですね。

吉澤氏 ええ。その点に関して、われわれは実績がありまして、IoTのはしりであるM2Mビジネスにおいては、自動販売機や駐車場やエレベーター向けの事業に先行投資し、今ではプラットフォームを作ってしっかりと収益化を果たしています。

 今後の社会ソリューション事業においても、プラットフォームを作るというのが重要です。個々の社会問題を解決するにあたり、プラットフォームを作り、将来的にそのプラットフォームが収益を上げていくという構造にしなければなりません。

――  ここでいう「プラットフォーム」とは、通信基盤だけでなく、ソリューションサービスのプラットフォームということでしょうか。

吉澤氏 その通りです。IoT市場は特にそうなのですが、今後のドコモは“ソリューションのプラットフォーム”を構築し、事業化していくことが重要になっていきます。

●5G時代を視野に、人工知能とエッジコンピューティングに取り組む

―― 2020年代を見据えますと、ソリューションプラットフォームの次に「人工知能のプラットフォーム」があります。IBMのワトソン事業などはその好例ですが、ドコモとして人工知能分野のビジネスにはどう向き合いますか。

吉澤氏 現状でいいますと、ドコモの人工知能への取り組みは、コミュニケーション系や位置情報系など個別のソリューションの延長線上で開発しています。その先にワトソンのような(汎用《はんよう》的な)共通基盤としてのAIプラットフォームを作るかというと、それはまだ検討中であり、明確な方針はお話できません。しかし、AIが自動運転やパーソナルエージェントなど、今後出てくるであろう新事業の領域でとても重要なものであることは認識しており、重点的に取り組んでいきます。

―― 自動運転のようにクリティカルな領域では、AIに求められる精度や品質も高くなります。キャリアとしては、エッジコンピューティング(※ユーザーのそばに情報を処理するサーバを配置し、遅延の少ない処理を可能にする技術)という事業領域も見えてきますね。

吉澤氏 自動運転は即時性が求められますから、当然ながらエッジコンピューティングは視野に入っています。AIやエッジコンピューティングは5Gの事業とも密接に関わってきますので、2020年前後を1つのターゲットにしています。

 個別に見れば、先日発表した「タクシー向けリアルタイム移動需要予測」のような人工知能を活用したものが形になってきています。これらソリューションごとの人工知能活用のソリューションを積み上げながら、最終的にドコモの人工知能事業を全体的にどう形作っていくのかを考えます。

●「オープンで楽しく、強いドコモ」を目指す

―― 吉澤さんは新社長として、ドコモをどのような会社にしたいですか。

吉澤氏 今の経営環境や市場環境を俯瞰しますと、今後はドコモ単独で実現可能な領域は少なくなっていきます。そのような中で僕は、ドコモを「オープンで、受け入れる会社」にしたい。さまざまなパートナー企業と良好な関係を築き、アイデアやイノベーションをわれわれが広く受け入れていき、多くの人と一緒に次の未来を築くようなドコモを作りたいと考えています。これからの時代は、オープンイノベーションの考え方がとても大切です。

 またドコモ社内に向けては、やはり「ドコモは楽しい会社でなければならない」と言っています。ビジネスが楽しめる、新しい事業にワクワクできるような雰囲気を社内に作ることも大切です。

 そして、それらを支える屋台骨として、「ドコモは強い会社」にならなければならない。当たり前ですが、事業の持続性を担保するには、しっかりとした収益基盤が必要です。オープンにイノベーションを進める上でも、パートナー企業からの恩恵にお返しをする上でも、きちんと利益が上げられる健全健康な経営基盤を築いていきます。

―― われわれユーザーは、ドコモから新しくてワクワクするものが登場することに期待してもいいですか。

吉澤氏 それは当然です。次のドコモのテーマは「創造と進化」ですので、新しいサービスを積極的に打ち出していきます。期待していてください。

最終更新:7月11日(月)20時30分

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