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社説[2016参院選 改憲勢力3分の2]信任でないのは明らか

沖縄タイムス 7/12(火) 5:00配信

 10日投開票された参院選で安倍晋三首相(自民党総裁)が目指す憲法改正に賛同する改憲勢力が77議席を獲得し、非改選と合わせ国会発議に必要な全議席の3分の2(162議席)を超えた。
 衆院では自公両党ですでに3分の2を占めており、改憲を問う国民投票に向けた国会発議が現実味を帯びてきた。戦後政治の分岐点となるのは間違いない。
 改憲は有権者に支持されたといえるのだろうか。
 安倍首相は年頭の記者会見では「参院選でしっかり訴えていく。国民的な議論を深めていきたい」と意気込んだ。先の通常国会では「私の在任中に成し遂げたい」と踏み込んだ。にもかかわらず、安倍首相は参院選に入ると改憲論議を完全に封印し、野党との論戦を避けてきた。
 改憲は安倍首相の悲願である。本来なら、どの条項をどう変えるのか、その理由とともに有権者に提示するのが筋である。だが、安倍首相は参院選で問うことをしなかった。有権者の反発を見越した「争点隠し」なのだろう。
 安倍首相自身、「選挙戦の最大のテーマは経済政策だ」と強調。「アベノミクスは失敗していない。道半ば」と訴え、選挙の争点は経済政策と自ら言っていたのである。選挙に勝利したからといって、改憲も信任されたと捉えるのは誤りである。
 懸念されるのは、選挙後に改憲に突き進むのではないかということだ。
 思い起こすのは、消費税増税を先送りした2014年の総選挙後に、憲法解釈を変更し集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法を強行採決。アベノミクスを押し出した13年の参院選後は言論の自由を危うくする特定秘密保護法を成立させた。
 いずれも選挙では触れていなかったことである。
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 安倍首相は参院選の結果を受けた11日の記者会見で、「(自民党の)改正草案をベースにいかに3分の2を構築していくかが政治の技術だ」と衆参の憲法審査会で、改憲項目の絞り込みを始めていくことを表明した。なぜ改憲しなければならないのか、肝心の説明がないままである。
 参院選では改憲を争点化することを回避し、選挙の結果、改憲勢力が3分の2を超えたからといって、憲法審査会で改憲項目を話し合うという手順はあべこべであり、おかしい。
 自民党は野党時代の12年に憲法改正草案を公表している。改正草案に盛り込まれた緊急事態条項の新設を優先したいようだ。
 大規模災害や他国から武力攻撃を受けた際に内閣に権限を集中させ、基本的人権などを制限することができる問題の多い条項である。大規模災害を想定することで抵抗感を少なくする狙いがある。
 だが東日本大震災の被災地の首長の9割超が現行法で足りているとの認識を示しており、ギャップは大きい。
 改憲勢力といってもひとくくりにはできない。
 現行憲法に新しい価値を加える「加憲」の立場の公明党は、そもそも参院選公約に書き込まなかった。自民党の改正草案について「丸ごと入れ替えるということであり、合意形成の手掛かりもいまはない」(山口那津男代表)と急ぐべきでないとの考えだ。
 「統治機構改革」を改憲の柱に据えるおおさか維新の会の松井一郎代表も「自民党の改正草案のままでは反対」と明言し、「時期尚早だ」と指摘している。
 与党や改憲に理解を示す改憲勢力の間でも機は熟していないのである。
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 衆参で改憲の発議が可能となったということは、改憲を巡り国会が新たな段階に入ったことを意味する。
 野党もすべてが改憲に反対というわけではない。反対一辺倒ではなく、改憲勢力が3分の2を占めたのに伴い、野党も新たな対応が迫られるかもしれない。
 だが国論を二分するような改憲論議を最優先するときなのだろうか。有権者の関心の的は景気・雇用であり、社会保障である。安倍政権は改憲よりもやるべきことがある。

最終更新:7/12(火) 5:00

沖縄タイムス