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ヴイエムウェアは、ハイパーコンバージドインフラで失敗しているのか

@IT 7月12日(火)6時10分配信

 本連載では、第2回、第3回で米ニュータニックスを取り上げた。同社はハイパーコンバージドインフラ専業ベンダーであり、全ての活動がハイパーコンバージドインフラを出発点としている。従って、この市場のプレイヤーとしてとらえると、分かりやすい。また、株式公開を目指す同社は、差別化を進めなくてはならない理由がある。だからそのユニークさがさらに際立つことになる。

 では、仮想化ソフトウェア市場を席巻し、2014年以降ハイパーコンバージドインフラへの取り組みを進めてきた米ヴイエムウェアは、劣勢に立たされているのだろうか。ここにも「あなたの知らない」世界がある。Software-Defined Data Center部門担当上席副社長兼ゼネラルマネージャ、Raghu Raghuram(ラグー・ラグラム)氏に直接質問した内容を含めて、これについて考察する。

 まず、大前提として、仮想化ソフトウェアの標準的存在であるヴイエムウェアの「VMware vSphere」は、ほとんどのハイパーコンバージドインフラ製品に搭載されている。ヴイエムウェアからの独立を目指すニュータニックスも、KVMベースのハイパーバイザ「Acropolis Hypervisor」は「Nutanixクラスターの15%で動いている」と言っている。2015年に提供開始したものの利用率が15%に達しているのであれば大きな変化だが、それでも残りの85%は、ほぼVMware ESXi/vSphereだということになる。

 これについてRaghuram氏に聞くと、同氏は「ニュータニックス製品のユーザーのほとんどが、既存のvSphereライセンスを適用している」と話し、vSphereの売り上げ増への貢献度は低いとする。それでも、ヴイエムウェアのシェア維持に寄与していることは確かだ。

 「ハイパーコンバージドインフラの仮想化ソフトウェアとしての標準的存在」だということ自体、ヴイエムウェアにとって非常に重要だ。なぜなら、「オンプレミスのITインフラは硬直的で、構築・運用コストがかさみやすく、スピーディなリソース提供ができない」といったマイナスイメージを持たれ続けると、これを理由にパブリッククラウドへの移行が加速しかねないからだ。

 vSphere自体が、ソフトウェアとして柔軟なインフラ運用を可能にする機能(「Auto Deploy」など)を充実させてきているにもかかわらず、ストレージ装置の調達・容量拡張、検証、初期設定、仮想化環境におけるストレージボリュームのプロビジョニングやデータサービス機能の利用などが原因で、コストや時間が掛かり、複雑性を排除できないと、足を引っ張られる結果になりかねない。

 これは、ユーザー組織にとって非常に重要なテーマを含んでいる。オンプレミスのITインフラでは、スピード、柔軟性、コスト効率、透明性がますます求められている。5年に一度などの頻度で、膨大なコストと時間をかけて検証やインテグレーションのプロセスを経てITインフラ製品を調達するやり方は、次第にマイナス面ばかりが目立つようになってきた。パブリッククラウドに積極的な意味を見い出すのではなく、上記のような既存の調達方法のマイナス面が大きすぎるため、既存のシステムを「仕方なく」パブリッククラウドへ移行する人々がいる。つまり、「オンプレミスのITにおける問題はvSphereでなく、ITインフラのこれまでの調達方法」だということがあり得る。ハイパーコンバージドインフラは、こういう人たちにとっての、オンプレミスITの選択肢を増やす役割を果たす。

 ちなみに、ハードウェアのストレージ装置をソフトウェアベースのストレージに入れ替えれば、自動的に上記のマイナス要因が払しょくできるわけではない。一部のソフトウェアストレージ製品に比べ、大幅に優れた運用性を発揮するハードウェアストレージ製品は、確実に存在する。ここに、「ハイパーコンバージドインフラがソフトウェアストレージを搭載した一体型の製品だというだけでは、ユーザーにとって十分な価値を発揮できるとは限らない」と筆者が考える理由がある。

 とはいえ、ソフトウェアストレージは、一般的にはスモールスタートができ、効率よく拡張しやすい特徴を持っている。その調達と運用が仮想化環境と一体化され、「目に見えない」ものになればなるほど、ユーザーにとって高い価値を発揮できる可能性がある。こうした製品が出てくる可能性の高い市場で、仮想化ソフトウェアのデファクトスタンダードになっていることは、ヴイエムウェアにとって重要な価値がある。

 後述するが、ヴイエムウェアにとってのハイパーコンバージドインフラには、2つの側面がある。


1. 今後のオンプレミスにおけるITインフラの調達方法の有力な選択肢に育つことが見込まれるハイパーコンバージドインフラ市場で、仮想化ソフトウェアとしてvSphereがシェアを維持し続けること
2. ハイパーコンバージドインフラ製品を出しながらも、ヴイエムウェア以外のストレージソフトウェアを採用するベンダーがある。こうした企業に、同社のストレージソフトウェアを採用した製品も提供してもらうこと

●EVO:RAILは何に失敗したのか

 2014年以降のヴイエムウェアによるハイパーコンバージドインフラの取り組み、つまり「EVO:RAIL」および「EVO SDDC」は、サーバ仮想化、ストレージ、ネットワークを全て自社の製品としてソフトウェアで提供し、これらを統合的に運用できるようにすることで、「パブリッククラウドに負けない魅力的なオンプレミスのITインフラ」を構築できるという同社の考えからきている。

 ビジネス的に表現すれば、同社はサーバ仮想化から、ストレージソフトウェアおよびネットワーク仮想化を含めた統合ITインフラプラットフォームのベンダーになろうとしてきた。そこで、ハードウェアに足を引っ張られることなく、同社の統合プラットフォームを使ってもらいたい。これが、EVO:RAILおよびEVO SDDCの発端になっていると考えられる。

 EVO:RAILプログラムは2014年のVMworldで発表されたが、2016年になって「発展的に解消」された。米ヴイエムウェアのストレージ&アベイラビリティ部門担当上席副社長兼ゼネラルマネージャ、Yanbing Li(ヤンビン・リー)氏は、「ハードウェアベンダーが差別化しにくかった」と筆者に話している。

 EVO:RAILでは、OEMパートナーが、ヴイエムウェアによって厳格に定められたハードウェア仕様に基づき、製品を提供することになっていた。発表当時の記事を引用すると、次のようになる。

 「EVO:RAILは、サーバ・ハードウェアの仕様が具体的に定められている。2Uサイズのシャーシに、抜き差し可能な4つのコンピュートノード(サーバモジュール)を搭載できるラックマウント型のアプライアンスが基本。各コンピュートノードは独立したCPU、メモリ、SSD、HDD、NICを搭載する。これは一部のサーバベンダが『データセンター向けサーバ』として提供しているものと同様な設計だ。

 各ノードは2つのCPU、192GBのRAMを搭載する。また、各アプライアンスにはSSDとHDDを計16TB搭載することになっている。その内訳は、SSDが1.6TB、HDDが14.4TBだ。NICは10Gbpsポート×2、管理用に1Gbpsポート×1を搭載する」

 同記事では、次のようにも書いている。

「構成がここまで決められていると、EVO:RAIL製品をつくって販売するOEMパートナーはハードウェアでの差別化が難しい。ヴイエムウェアは、サポートサービスのパッケージングや、EVO:RAIL上で動かすソフトウェアなどで、十分に差別化できる余地があると説明する」

 当時のヴイエムウェアの主張とは異なり、十分な差別化はできなかったようだ。ハードウェアの構成が厳格に決められていたことは、ユーザーの間でも受けが悪かった。このことは、2U/4ノードの形状は保ちながらも、CPU/メモリ/記憶媒体の構成で多数の選択肢を提供し、売り上げを伸ばしているEMC/VCEの新ハイパーコンバージドインフラ製品「VCE VxRail」の担当者も証言している。

 前出のRaghuram氏は、「EVO:RAILはVxRailと『VSAN Ready Node』に形を変えた」と表現する。

 VxRailは、EVO:RAILのソフトウェアを引き継ぎ、前述のように柔軟なハードウェア構成を提供している製品。ヴイエムウェアにおけるEVO:RAIL開発担当者たちが、EMC/VCEと協力して作っている。

 一方、VSAN Ready Nodeは、ヴイエムウェアのソフトウェアストレージ製品である「VMware Virtual SAN(VSAN)」のハードウェア認定プログラム。2016年2月に強化され、パートナーはハードウェアを供給するだけでなく、VMware vSphereとVSANを事前インストールできることになった(もともとVSANはvSphere上で有効化するだけで使えるようになっている)。また、ハードウェアとソフトウェアの一括サポートも提供できるようになった。すなわち、ハードウェアベンダーは、自社の展開したいハードウェア構成で、事実上ハードウェアとソフトウェアを一体化した形で提供することを選択できる。

 前出のLi氏はグラフを示し、VSAN Ready Nodeの合計販売数が、現在に至るまで常にニュータニックス製品を上回っていると説明する。

 Raghuram氏は次のように話している。

 「VSAN Ready Nodeの大部分は、VSANインストール済みで販売されている。VSANインストール済みのVSAN Ready Nodeと、EVO:RAILの間に大した違いはないだろう。私たちが戦略を変更したという意味は、ここにある。当初、私たちはあまりにコントロールしようとしすぎた。EVO:RAILでは、アプライアンス、仕様、使い勝手を完全に制御しようとしていた。今回のVSAN Ready Nodeでは、ハードウェアベンダーがアプライアンスの全てをコントロールできる」

 だが、EVO:RAILの構成要素としては、設定および運用を容易にする管理ソフトウェア/ポータルの「EVO:RAIL Manager」があった。これらを含めてハードウェアパートナーが提供できるようにはならないのか。Raghuram氏は、VSANおよびvCenterに搭載しようとしていると話す。

 「EVO:RAIL Managerの機能としては、ハードウェアの立ち上げとファームウェア更新を容易にし、ヴイエムウェアのソフトウェアのパッチやアップデート作業を簡素化し、ユーザーインターフェースを使いやすいものにしていた。これはvCenterの欠点を克服する側面があった。

 vCenterでは(2016年3月に)HTML5を全面採用した管理クライアントをリリースしたが、これはvCenterをより良いものにする取り組みだった。これと同様に、ファームウェアアップデートやハードウェアの立ち上げ作業のシンプル化といった機能を、VSANとvCenterに直接組み込んでいく。(EVO:RAILの)アイディアを、われわれの中核製品に持っていくということだ」

●EVO SDDCはどうなるのか

 Raghuram氏は、EVO SDDCについても、EVO:RAILと同様な展開を進めつつあると話す。

 「EVO SDDCで重要なのはEVO SDDC Managerだ。これはインストール、構成、パッチ、アップデートなどの管理機能を果たす存在だ。私たちは、これをスタンドアロンのソフトウェアとして、OEMパートナーに提供することを考えている。ハードウェアベンダーは、vSphere、VSAN、VMware NSX、EVO SDDC Managerをバンドルとして提供するとともに、自社ならではの差別化を加えることができる。(スマートフォンの世界でいえば)Androidのようなアプローチだ」

 EVO SDDC Managerは多様なサーバ・ハードウェアへの対応がしやすくなり、これによって2017年にかけ、EVO SDDCを提供するパートナーは増えるだろうとRaghuram氏は話す。

 「EVO SDDC Managerでは、これまでソフトウェア管理とハードウェア管理を一体として提供してきた。このため当社は、ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)のようにハードウェア管理ツールを持っているベンダーと衝突する部分があった。『私たちのハードウェア管理機能を代わりに使ってくれ』と言ってきたからだ。これは、HPEのハードウェア管理機能を活用している顧客にとっても混乱を招きやすかった。

 そこで、ハードウェア管理ソフトウェアについては、インテルとの協力により、オープンソース化を進めている。これにより、HPEのような企業は、(オープンソース化したハードウェア管理ツールと)同一のAPIを通じて、自社のハードウェア管理機能をEVO SDDCと連携させ、自社のソリューションを完全にカスタマイズできるようになる。こうしたアプローチは、パートナーにとっても顧客にとっても歓迎されると信じている」

 EVO SDDCのハードウェアプロビジョニング機能は、データセンタースイッチも対象に含んでいる。これについてもRaghuram氏は、あくまでも選択肢として提供するという。一方で、米Cumulus NetworksのネットワークOS、および米シスコシステムズのNexus 3000シリーズなどに対応、米アリスタネットワークスのスイッチのサポートも進めていると話す。EVO SDDCは、ネットワークについてはVMware NSXの利用が必須だ。これについては「シスコであっても、交渉の余地はない」と同氏は言い切っている。

●ヴイエムウェアにとってのハイパーコンバージドインフラとは

 ヴイエムウェアのハイパーコンバージドインフラへの取り組みは、うまくいっていないのか。EVO:RAILのような分かりやすい「形」がなくなったことは確かだ。だが、同社に言わせれば、できるだけ多くのハードウェアベンダーが、自社のハードウェアと運用を統合できるような形で、vSphere、VSAN、NSXが一体となったSoftware Defined Data Centerソフトウェアを市場に提供してくれればいい。目には見えにくくなってきても、クラウドのように運用できる統合環境製品が提供できれば、目的を達成することになる。

 ソフトウェアストレージを搭載したソフトウェア/ハードウェア一体型製品というだけでは、少なくともヴイエムウェアにとっては十分ではない。一般企業が、パブリッククラウドのように自社のITインフラを運用できるようにすることで、パブリッククラウドと比較したオンプレミスのITインフラの価値を高めること、そしてこれに基づき、パブリッククラウドとも柔軟に連携できるハイブリッドクラウドのための基盤をオンプレミスで提供できることが、同社にとって最も重要であり、これが同社にとってのハイパーコンバージドインフラだと表現できる。ニュータニックスの目指していることも、ヴイエムウェアが取り組んできたことと重なる部分が少なくない。

[三木 泉,@IT]

最終更新:7月12日(火)6時10分

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