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網膜を移植して視力を回復、仏メーカーが開発

EE Times Japan 7月12日(火)10時37分配信

■網膜の外に埋め込む

 2011年に創業したフランスのPixium Visionは、人工視力の研究開発を手掛ける企業だ。約50個の電極が接続された移植型(インプラント)の視力回復システム「IRIS I」の臨床試験を数回にわたって成功させ、2016年2月にはIRIS Iの改良版として、150個の電極が接続された世界初の網膜移植システム「IRIS II」の開発に成功した。

【写真:網膜移植システムの外観】

 IRISは、外科手術によって網膜の外側に張り付けるようにして埋め込まれる。フレキシブルな配線板の先端に接続された小型電極と赤外線(IR)センサーセル、小型のASICで構成されている。ASICは、光センサーで受信したIR信号を電極に多重送信したりマッピングしたりといった処理を担う。電気信号は神経節細胞を刺激し、脳に知覚信号を送信する。なお、神経節細胞の終端は、視神経線維を直接形成している。

 同システムでは、専用カメラと無線通信機能を搭載したゴーグルを装着する。カメラで捉えた映像をASICで処理し、符号化した情報をIRISに送信する。送られた情報を基に、脳にイメージを再現させようという仕組みだ。ASICは、2個の誘導コイルを介して無線で動作する。

 IRISは、網膜色素変性症の患者のために開発された。網膜色素変性症は、4000人に1人の割合で発症する遺伝的疾患で、多くの患者が40代で失明に至る。IRISの移植手術は2時間半~3時間を要する。患者は、施術箇所が回復した後数週間で、ぼんやりとした視力が感じられるようになるという。この時期から、新しく形成された視覚神経が機能するためのトレーニングを開始する。単純な白黒画像を見ることから始め、形を認識したり、スクリーン上で光るブロックを見つけたりするトレーニングへと進む。症状によっては、網膜の感度が低い部分を補完するために、信号を電極にマッピングし直すソフトウェアが必要になる場合もある。

 筆者は、Pixium Vision のCEO(最高経営責任者)を務めるKhalid Ishaque氏にインタビューし、「なぜ、たった150個の電極しか使っていないのか?」と率直な疑問をぶつけた。このインタビューは、眼疾患の研究センターInstitut de la Visionと国立眼科病院Hôpital Quinze-Vingtsに隣接する、パリ中心部のPixium Vision研究開発センター兼本部で行った。

 Ishaque氏は、「電極はIRISの制限因子でないが、このような小型のフレキシブル回路上ですべての信号をASICから電極に伝送するのは非常に複雑な技術だ。だが、手術がさらに困難になるため、フレキシブル配線板を大きくすることはできない。眼の切開部が大きくなれば、強膜を接合する際のリスクも高まる」と説明した。手術では、ASICと電力供給用のコイルは眼球の外側に移植されるという。

 同氏は、「われわれは既に、1000個以上の電極を制御できるASICの設計技術を持っていた。フレキシブルな基板上の配線をいかに細くするかの方が難しかった。今後2~3年の間に、1000個以上の電極をIRISに搭載する予定だ」と続けた。

 同社は今後数カ月以内に、欧州でCEマークを取得できると予測していて、商用化が間近だとしている。

【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】

最終更新:7月12日(火)10時37分

EE Times Japan