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カンヌライオンズの『再生』をデジタルクラフト部門審査から考える:清水幹太インタビュー

SENSORS 7/12(火) 13:00配信

6月18日から23日まで開催された、第63回カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル。カンヌライオンズ2016のオフィシャルメディアサポーターであるSENSORSでは、開催後もカンヌライオンズのレポートをお届けする。

開催前にデジタル・クラフト部門の審査員、清水幹太氏に「カンヌライオンズのあるべき姿」についてインタビューした。 開催後に清水氏の中で今年のカンヌに気づいたこと、また開催前に比べて、心境の変化があったかどうか、事後インタビューを行った。
デジタル・クラフト部門ではデジタル文脈におけるテクノロジーの芸術性を評価する今年から新設された部門である。クリエイティブのアイディアよりはデジタルキャンペーンとしての実施及びにユーザーエクスペリエンスに評価軸を置いている。AR/VRコンテンツのUIデザインやタイポグラフィーデザインなどもこの新設部門になる。

説明できない迫力のあるデジタル広告クラフト

--審査員、お疲れ様でした!デジタル・クラフト部門の1148応募作品を審査した率直な感想はいかがでしたでしょうか?

清水:もちろんこれだけの数のエントリーをじっくり見るのは大きな労力ですが、こういうアワードの審査というものは基本的にとても楽しくて勉強になるものです。
何しろ自分では何もつくらずに人がつくったものについてどうこう言っていれば良いわけなので(笑)。
特に、この部門はずっと制作・開発の現場でやってきた自分にとっては故郷のような領域なので、あまり悩むこともなくひたすら楽しんで見て、触らせて頂きました。 普段、あまり人がつくったものをガッと見る時間も無いので、強制的にそれをやらなければいけないこういう機会は貴重です。

--デジタル・クラフト部門の受賞作品を審査員長Wesley Ter Haar氏が発表した際に応募広告作品を審査する上でとにかく触り、体験しながらいかに素晴らしいアウトプットをしているかどうかを重点におきました、と仰っていましたが実際に審査時に清水さんが気を付けていた事はありましたでしょうか?

清水:デジタルというものは、ユーザーのインタラクションがあることで、言葉では説明できない雰囲気とか触り心地とかを伝えることができる領域です。
広告クリエイティブの場合、往々にして強いアイディアは一言で説明できなければならない、みたいなことになりますが、実際に受け手が圧倒されるクラフトって全然そういうことではないと思っています。
本当は世の中には一言では説明できないことが99%で説明できることは1%くらいのものです。デジタルのクラフトの良し悪しというのは、そういう意味でいかに言外の何かが迫力を持って伝わってくるか、だと思っています。
グランプリ作品をはじめとする多くの受賞作品について、「何が良かったの?」と言われても、「何かいろいろ良かった」としか言えないものもありますから。
とにかく、単純に「よくできてる」だけではなくて、クラフトとそれによって伝えようとしている何かがシンクロしたときに感じる「説明できない迫力」をとても重視しました。
あとは当然クラフトですから実際に存在してユーザーに届いているものであることは審査の前提でした。他の部門でよくある、ケースビデオ/ボードまたはアイディアをプレゼンしているだけで、実際に制作物に触ることができないものは、なかなか評価しづらいところではありました。

--逆に審査を進める上で最も難しいと感じたことはありましたでしょうか?

清水:今お話した「実際に制作物に触ることができないものは評価しづらい」という点です。これは、アイディアだけでクラフトが無いものをフィルターする上では効果的なのですが、一方で例えばデジタルインスタレーションなど、大規模なもので実際に体験できないものは、「すごく良くできていそうなもの」でも本当の「触り心地」までは触ってみないとわからないので評価が落ちてしまうという残念なことも起こります。
とはいえ、「これはたぶんよくできているだろう」などと憶測で評価を上げることもできないので、なかなか難しいですね。

その他、結構プロトタイプ段階のプロダクトなどが応募されていて、評価に困ることがありました。たとえば、「Dot」という視覚障害者用に点字を盤面に表示するスマートウォッチが応募されていたのですが、確認すると製品版のプロダクトは完成しておらず、実際には動かない3Dプリントされた「デザインプロトタイプ」と点字の機構は動いているのだけど最終的なデザインとはほど遠い「機構プロトタイプ」みたいなものだけしか触ることができませんでした。プロダクトを操作するためのアプリなども触ることができませんでしたし、結局「アイディアはいいんだけどできてないじゃんこれ」ということになり、デジタル・クラフト部門ではショートリストから外れました。

このようなプロトタイプ段階のものを評価してしまうと、よくKickstarterなどでもよく問題になる「プロトタイプ詐欺」、つまり、クラウドファンディングでお金を集める際につくるプレゼンビデオやプロトタイプと最終的な商品が全然違う、みたいなものに対しても評価を与えてしまうことになります。私たちも自社製品の量産に非常に苦労していてご迷惑をお掛けしているのですが、プロトタイプというのはあくまでプレゼン・コンセプトの共有・体験のテスト用のもので、実際ユーザーに触れてもらう商品版とは趣旨が違うものです。特にこのプロダクトのような複雑な物理機構の小型化はコスト的にも技術的にもものすごく大変な仕事です。
それを実際に実現していればそれはすごいのですが、私たちが実際に審査で触れたものはそこまでできているとは言えないものでした。
じゃあプロトタイプだけで審査すればよいのかというと、実際にユーザーの手に届かないプロトタイプはデジタル・クラフト部門では評価するようなものではないと思うのです。

まだプロトタイプで本当に動いているものがないのに、こういうエントリーがプロダクトデザイン部門やイノベーション部門で高く評価されているのは、個人的には「そういう審査基準で良いのだろうか?」と思います。この段階のプロダクトに金賞なりを与えてしまったら、Kickstarterなどにあふれているアイディア先行のプロトタイププロダクトを応募すればどんどん賞を獲れてしまいます。
反面、地味だけどちゃんと世の中に広がっていて市場に受け入れられているようなものがきちんと評価されていない感じもします。
こういったものは、きちんと商品として完成してから評価されるべきもので、こういったものはちゃんとそのあたりの機微を理解している人が審査してくれると良いなあ、と思います。

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最終更新:7/12(火) 13:00

SENSORS