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【ユーロ総括】ウェールズ代表ユーロ大躍進の理由…“ベイル世代”が導く輝かしい未来

SOCCER KING 7月12日(火)17時37分配信

 ベスト4は望外の結果だった。その証拠に、ジョー・レドリーは自身の結婚式を延期し、クリス・ガンターは兄弟の挙式に参列できなかった。ニール・テイラーは妻と約束していたビヨンセのライブを諦め、デイヴィッド・コッテリルはオーナーを務めるアメリカンダイナーの開店日が先延ばしになった。「予定はすべて決勝の後に入れた」というギャレス・ベイルを除く誰もが、ここまで勝ち上がれるとは思っていなかったのだ。そんな無欲の集団だったが、フランスの地で示した堂々たる強さを見れば、間違いなく4強に相応しいチームだった。

 最大の要因は、なんといっても、チームの根幹をなした1989~90年生まれの「黄金世代」が躍動したことだ。雨あられのごとくシュートを撃ちまくったベイル(3得点1アシスト)、縦横無尽にピッチを駆け回ったアーロン・ラムジー(1得点4アシスト)の二枚看板はもちろん、中盤で絶大な存在感を放ったジョー・アレンもチームMVP級の働きを見せ、クレバーな守備を見せたジェイムズ・チェスター、アップダウンを繰り返した両翼のテイラー&ガンターも安定感抜群だった。そして、ハル・ロブソン・カヌである。スロヴァキアとの初戦に続き、ベルギーとの準々決勝でも完璧なクライフターン(本人は「ジダンの真似」だと言い張るが)で3人の敵を出し抜き、決勝ゴールをゲットした無名のストライカーは、一躍ラッキーボーイとなった。

 この同世代組に、少し後輩のベン・デイヴィスや、チームを束ねた31歳の主将アシュリー・ウィリアムズらを加えた主力組は、とにかくコンディションのよさに裏打ちされたハイパフォーマンスが際立った。ベイルがチャンピオンズリーグ決勝まで長いシーズンを戦い抜き、他の選手たちもイングランドのクラブシーンで心身ともにハードな1年を過ごした直後だったにも関わらず、ウェールズは他国に比べてトップコンディションの選手が格段に多かった。これは決して偶然ではなく、ベイルが「最高の準備をする監督」と敬意を表するクリス・コールマン監督と、その下で働く裏方たちのスタッフワークの賜物だった。

 たとえばメディカルチームは、元リヴァプールのドクターでもあるライランド・モーガンズを中心に、選手の食事メニュー考案から、ポルトガル代表やレスターも採用した冷凍療法(クライオセラピー)の採用まで、ピーキングとリカバリーに細心の注意を払った。さらに予選からチームに帯同した元選手の心理学者イアン・ミッチェルがメンタル面をケア。加えて、敏腕フィジオチームも数々の“魔法”を披露し、5月上旬に腓骨を骨折したMFレドリーをわずか40日で先発できる状態まで回復させ、準々決勝ベルギー戦で肩を負傷して腕を上げることすらままならなかったA・ウィリアムズを5日後のポルトガル戦に間に合わせた。一方では、ベイルにのみレアル・マドリードのフィジオを「専属」で帯同させるなど協会の柔軟な判断も奏功し、サポート体制は万全だった。

 ピッチに目を向ければ、アシスタントコーチを務めたオシアン・ロバーツというキーマンがいた。育成年代の代表を率いた後、07年より協会のテクニカル・ディレクターとして活躍してきたロバーツは、母国に若年層から一貫した強化プランを植えつけた功労者にして、選手たちが「戦術の天才」と評する名参謀。ロバーツとコールマンが二人三脚で練りあげたのが、守備は組織と粘り腰、攻撃はベイルのスピードやラムジーの運動量を最大限に生かして自由に、というダイナミックなカウンター戦術だった。英国では“邪道”とも言える3バックを基本に据え、予選から一貫して完成度を高めてきたシステムは大舞台でも見事にハマった。

 そして、この戦術が完璧に機能した背景にあるのが、チームの一体感だ。2015-16シーズンのプレミアリーグで奇跡を体感した男、アンディ・キングに言わせれば現代表には「レスターと似た」チームスピリットがあった。そのことは、ベイルの言葉にも表れている。

「チームがすべて。カバーが必要な選手がいたり、誰かのスペースを空けるために囮の動きが必要だったりすれば、僕はいつでもやるよ。それはチーム全員がそうだ」

 大会中にそう語ったベイルは、ゴールを狙うだけでなく、ビルドアップやプレッシングにも汗を流した。10代の頃から切磋琢磨し、友人関係を築いてきた「黄金世代」の仲間たちが近くにいたことや、強い愛国心がそうさせたのだろう。皮肉にも、敗れた準決勝ポルトガル戦では、出場停止だったラムジーのタスクをカバーするために走り回ったことが逆に彼をゴールから遠ざけてしまったが、それでも彼はチーム最大のスーパースターであると同時に、決してエゴを出さない最高のチームプレーヤーでもあったのだ。

 ベイルは“スターの責任”もまっとうし、あらゆる試合の前に必ず1時間にわたってインタビューに答え、仲間たちをメディアの重圧から遠ざける役目も担っていた。そこで彼は、自分のことは控えめに、チームメートのことは賞賛を惜しまず、常に笑顔で取材に応じ続けたのだ。そうして静かなるリーダーシップを発揮していたベイルは、今回のチームを「何をするにもみんな一緒。仲間たちと休暇を過ごしているみたいだった」と表現した。たしかに、彼の口から語られる日々のクイズ大会や卓球大会、「チームでハンバーガーやパンケーキを食べにいった」等のエピソードからは、チームの雰囲気のよさが存分に伝わってきたものだ。

 そんな一枚岩の選手たちに、コールマン監督のキャラクターもピッタリだった。03年に33歳で監督デビューし、稲本潤一も在籍したフルアムでサプライズを起こした頃から、選手と近い距離で接する「兄貴分」的なスタンスが彼のモットー。現チームでも、選手に戦術を相談することもあれば、本大会で16強進出を決めた夜には選手のリクエストを聞いて「1杯のビール」を解禁するなど、その姿勢は変わらなかった。また、58年ぶりのメジャートーナメント開幕を目前に控えた最後のチームトークでは多くを語らず、シンプルに“家族からのメッセージ”を伝えることで選手を鼓舞するなど、モチベーターとしての才覚も光った。

 黄金世代、ピーキングの妙、ブレない戦術、チームスピリット、ボスの度量……、そして最後のピースに、11年に志半ばで他界したギャリー・スピード前監督の存在があったことも忘れてはいけない。

 ベイルやラムジー、アレンを10代で代表に抜てきしたのはジョン・トシャック監督だったが、彼らを主軸に据えて現チームの基礎を作ったのはスピードだ。また、代表にスポーツ科学のエッセンスを持ち込み、サポート体制の整備を促したのも彼だった。コールマン監督の親友であり、黄金世代から盲目的に崇拝されるスピードのレジームと意志を引き継いだチームだからこそ、ウェールズには逆境に屈しない底力があった。宿敵イングランドに敗れた失意をものともせずにロシアを一蹴したグループステージ第3戦の終了間際、“赤い壁”と呼ばれたサポーターが「There’s only one Speed(スピードは唯一無二)」のチャントを大合唱した今大会の名シーンは、その象徴だった。

 亡き前監督が種を撒き、その盟友が花を咲かせたチームは、フランスで持てる力を出し切った。今回はベスト4が限界だったが、主力組のうち30歳以上はA・ウィリアムズだけであり、25~26歳の黄金世代はこれからがピーク。次の大舞台まで、再び58年も待つ必要はないだろう。赤いドラゴンたちは2年後のワールドカップまでに、チームスローガンである「Together,stronger」の精神をさらに気高く、輝かしいものに磨きあげていくはずだ。

(記事/Footmedia)

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最終更新:7月12日(火)17時37分

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