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「土地価格上昇で相続税UP」とも言い切れない理由

ZUU online 7月13日(水)19時10分配信

国税庁は7月1日、相続税や贈与税の課税の際、土地などの評価基準となる2016年分の路線価を公表した。それによれば、全国約33万前後の地点における標準宅地の平均路線価は前年比0.2%のプラスとなり、リーマンショック以降続いていた下落傾向が8年ぶりに上昇に転じたとのことだ。

これは、外国人旅行者によるインバウンド消費が地方にも波及したことにより、オフィス需要だけでなく、店舗やホテルなどの宿泊施設のニーズの高まりによるものとみられる。景気回復の表れと見れば好ましい結果だが、「相続」という観点からしてみれば、路線価の上昇は相続税の負担増にもつながる。心配を膨らませる世帯も少なくない。

■「相続財産≒土地・建物」だけではない 金融資産にも注意

日本の相続財産の中で最も多いのが「土地・建物」と言われる。確かに、国税庁の資料にて相続財産の金額の構成比の推移をみると、直近データの2014年(平成26年)においては、土地が41.5%、建物が5.4%で、トータル約47%を占めている。しかし同時に、有価証券の占める割合は15.3%となっており、現金や預貯金等と併せると金融資産の占める割合は42%前後となり、不動産の占める割合と大して差がない。

さらに、推移そのものに目を向けると、1994年(平成6年)には土地・建物の占める割合が76%であったが、2014年には4割近く減少している。一方、有価証券については、1994年は8.3%でしかなかったのが、2014年にはおよそ2倍になっている。加えて、NISAの加入数が今年3月末時点で1000万を超える状況などから、有価証券の相続財産占有率は今後も上昇していく見込みだ。

この背景には、居住用の建物や土地を相続する場合の小規模宅地等の特例の適用が厳しくなったこと、そして株式や投資信託などでの資産運用がインターネットの普及などで手軽で身近なものになったことなどがあげられる。つまり、「相続財産=土地や建物ばかり」というのはもはや幻想にすぎず、実際には、有価証券や現金・預貯金などの金融資産も相続財産の内で高い比率を占めているのである。

■金融市場の低迷は継続 相続税への影響は?

さて、ここで昨今の金融市場に目を向けてみよう。日経平均株価は、今年の始値1万8000円台半ばからスタートし、1月の黒田総裁によるマイナス金利の導入により、円安株高に誘導されるかのように見えた。

しかし、その直後の世界同時株安、中国の景気減速への懸念、原油価格の下落、さらにはアベノミクスの失敗などから投資家の間で不安が広がり、株価はあっという間に下落、この半年間で一時1万4000円台にまで落ち込んだ。現在は1万5000円台にまでは回復したものの、イギリスのEU離脱による混乱などから、しばらく株価の回復は見込めない様子だ。

さて、この事態がどのように相続税に影響を及ぼすのだろうか。相続財産に有価証券が含まれるのならば、この有価証券の評価に大いに関係する。上場株式が通常の市場価格で評価されるのは当然だが、未上場の株式等も類似業種株価(未上場の会社と事業内容が類似する業種目の上場会社の株価を参考にして計算した未上場株の価格)で評価されることがあるからだ。つまり、株式市場が低迷しているなら、相続資産である有価証券の評価額も当然下がる。結果、最終的な相続税額も下がることになるのである。

■路線価よりも気にするべきは金融資産の相続対策

こういったことから、「路線価が8年ぶりに上昇に転じた」というニュースを耳にしたからといって、すぐに相続について一喜一憂する必要はない。繰り返しになるが、土地建物の相続財産に占める割合が20年前に比べて低下していること、代わりに有価証券がその比率を高めていること、そして有価証券の評価基準となる株価がこの半年低迷していたことなどから、路線価の相続に対する影響はそれほど大きくないからだ。場合によっては金融市場のマイナスが路線価のプラスに影響し、トータルでみると相続税が減少することもあるだろう。

現実には、有価証券や預貯金といった金融資産が、多くの世帯の資産の中心をなすケースが増えつつある。それを鑑みると、路線価の上昇のニュースに振り回されて、巷に流布する相続本で土地建物の評価の知識ばかりに意識が行きすぎ、もうひとつの重要な資産である金融資産の相続対策を疎かにするほうが実はまずいのだ。

有価証券を保有している世帯は、今この時点で、現役で投資活動を行っている人も多いだろう。そういう人ほど、株式投資に夢中になって日々の株価や時事ニュースにばかり意識を向けるのではなく、「今投資しているこの株や自分の経営している会社の株(自社株)は、いずれ相続財産となるのだ」という気持ちをもち、なるべくムダに税金をかけずに子や孫に移すにはどうしたらよいかをきちんと考え対策しておきたい。

■金融資産は相続税対策がしづらいからこそ早期の対応を

路線価が上昇したからといって不安に駆られる必要はない。土地や建物については、その用途や条件を配慮して、評価額が低くなるようなシステムが相続税法上にあるからだ。

たとえば、お手持ちの資産が居住用や事業用ならば、相続税法上に小規模宅地等の特例などといった制度を活用することで節税をすることができる。また、評価そのものについても、自分の土地や建物がどういうものかをきちんとリサーチすれば、仮に土地が広大地や墓地の近くのもの、あるいは前面の道路が4メートル未満のものなどであった場合、評価額を下げることができる。

しかし、金融資産については、相続税法上、特別な配慮はなされていない。むしろ、生活必需品でもない流動資産であるため、場合によっては土地や建物以上に対策が必要だ。もしまだ実際の相続が生じそうな時期まで時間があるのなら、相続時精算課税制度や暦年課税贈与制度を活用して生前に贈与をしておく、預貯金については教育や結婚・育児に関する贈与税の非課税枠を利用して子や孫に移転しておくなどといった対策をしておこう。

繰り返しになるが、「相続財産≒土地・建物」は思いこみにすぎない。実際には金融資産も半分くらい占めているケースが多い。思い込みを外さないと、実行した相続対策が対策にならずに終わることにもなりかねない。目先のニュースに振り回されるのではなく、一度落ち着いて、手持ちの財産は何かを振り返りながら財産目録を作成し、じっくりと相続対策を検討することをオススメする。

鈴木 まゆ子 税理士・ライター・セラピスト
税理士鈴木まゆ子事務所代表。2000年、中央大学法学部法律学科卒業。12年に税理士登録。現在、外国人のビザ業務を専業とする行政書士の夫と共に外国人の起業支援に従事。現在、会計や税金、数字に関する話題についてのWeb上の記事執筆を中心に活動している。税金や金銭に絡む心理についても独自に研究中。共著に「海外資産の税金のキホン」(税務経理協会、信成国際税理士法人・著)がある。ブログ「税理士がつぶやくおカネのカラクリ」

最終更新:7月13日(水)19時10分

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