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TOTOが成田空港に“最新トイレ”を設置するワケ

ITmedia ビジネスオンライン 7月13日(水)6時56分配信

 成田空港で出国を待つ外国人を見かけたら、お聞きしたいことがある。「Youは何しに日本へ……」ではなくて、「Youは空港内のトイレを使ったかい?」と。

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 「いきなりトイレの話かよ。昼飯を食っているときに、まったく」と思われたかもしれないが、もうしばらくお付き合いいただきたい。成田空港内に、近未来のトイレがあるのをご存じだろうか。その名は「GALLERY TOTO」。自動でトイレのフタが開いたり、便座が温まったり、節水機能が付いていたり――。最新の機能を体験できるだけでなく、壁にダンスをする人の映像が映し出されたりするので、初めて見た人の多くは「ここは本当にトイレなの?」と思うだろう。

 実際に利用した人からは「テクノロジーや最新技術が用いられていて、びっくり」「空間が大きく開放感がある」といった声が聞かれる。それにしてもである。なぜTOTOは空港内にこのような施設をつくったのだろうか。

 「ははーん、インバウンドを狙っているんでしょ。たくさんの外国人がやって来るので、トイレを使ってもらうと“指名買い”が増えているのでは」と推測されたかもしれないが、半分正解で半分不正解。「たくさんの外国人に使ってもらう」は正解だが、すぐに購入に結び付くわけではない。では、なぜに? その答えは、同社のすぐに結果を求めない……いや、求めてはいけない掟があるからだ。

 TOTOの海外展開はかなり早く、1977年にインドネシアへ進出した。しかし、2015年3月期の海外売上高比率は22%にとどまっている。「なーんだ。たいしたことないな」と思われたもしれないが、早合点は禁物である。ここ数年を振り返ると、海外売上高比率はジワジワと伸びている。いや、そもそも売り上げが急激に伸びるビジネスモデルではないのだ。

 農作物の収穫に例えると、畑を耕し、種をまき、水をまく。次に、芽が出てきて、大きくして、収穫する――。といった一連の流れを踏んで、ビジネスを大きくしてきたのだ。勘のスルドイ読者はもうお気づきだろう。「成田空港に設置している体験型のトイレは、“畑を耕している”ようなものね」と。

 TOTOは世界中で畑を耕しているわけだが、その中で堅調に数字を伸ばしてきたのが中国である。2015年度の売上高は625億円。中国景気がやや低迷していることを受け、ここ数年の売り上げは減速気味だが、それでも海外の中で断トツ。なぜ、TOTOのトイレは中国で支持されているのか。同社広報部の山下名利子さんに話を聞いた。

●早いタイミングで進出しなければいけない

土肥: 海外事業の売上高比率がじわじわと伸びていますよね。直近の決算で22%。ただこの数字に満足しているのではなくて、将来的には50%にまで高めたいとか。TOTOが海外に進出したのは1977年なので、「えっ、まだ22%? 遅いなあ」と思われる人もいると思うのですが、現地ではどのような活動をされているのでしょうか?

山下: 自動車や家電製品などは消費者にウケるとものすごく売れますよね。でも購入して少し古くなったら「買い換えるか」となって、新製品を購入される人がいます。でも、トイレは違う。「家のトイレは5年ほど使っているから、買い換えるか」といったモノではないんですよね。だから、現地に早いタイミングで進出しなければいけません。

土肥: トイレは頻繁に購入するモノではない。それは理解できるのですが、早いタイミングで進出しなければいけないって、どういう意味でしょうか?

山下: インフラ(水洗など)が整備されていない国はたくさんあるのですが、整備される前の段階から進出していると、時間がありますよね。その時間を使って、さまざまなことを「学ぶ」ことができるんです。例えば、現地の工場でトイレをつくったものの、その商品が受け入れられるかどうかはやってみないと分かりません。

 また、いいトイレをつくるために、原材料はどこで調達すればいいのか、安定供給できるのか。こうした問題をクリアしないと、いい製品がつくれません。天候が変わったり、湿度が変わったり、水が変わったり――さまざまなことを想定して、「これがダメになったら、これで」といった感じで、原材料を代替えできるようにしなければいけません。ちなみに、トイレをつくる原材料は、すべての工場で違うんです。でも、当社が定めた品質でなければ、市場に出回ることはありません。

土肥: ほー。料理に例えると、塩は塩でも、違う塩を使っている。でも、「味は同じだなあ」と感じられるようにしているわけですね。トイレの原材料って、どんな配合になっているのですか? (ずうずうしく)

山下: それは企業秘密なので、お伝えすることはできません(きっぱり!)。

土肥: 残念。

●現地の人にその国のトイレをつくってもらう

土肥: 早いタイミングで進出して、原材料などを調達するようですが、そのほかに何をしているのですか?

山下: 例えば、インドネシアの場合、1977年に進出して、現地に工場をつくりました。でも、すぐに現地用のトイレは売れませんでした。なぜなら、インフラが整っていなかったから。そこでどうしたかというと、工場でつくったトイレを海外に輸出していました。

土肥: 「安い労働力を使って、先進国に輸出して稼ぐのね」といった話?

山下: ではありません。現地の人を雇用して、ゴールは現地の人に使ってもらうトイレをつくること。ただ、工場をつくったばかりのときは現地用のトイレはそれほど注文がないので、輸出用のトイレをつくっていました。

土肥: 日銭を稼ぎながら、運営していくわけですね。

山下: はい。中国の場合も、80年代に進出して、工場を建設しました。当初は輸出用のトイレを中心につくっていましたが、今は違う。工場でつくっているほとんどの商品が国内用なんですよね。

 「中国やインドといった国で安くつくって、日本に輸出する。そのほうが儲かるでしょう?」とよく聞かれるのですが、基本的に私たちはそのようなことをしません。社会貢献という意味もあるのですが、トイレは生活密着型の商品なので少しでも早くブランドを覚えていただいたほうがいい。ということもあって、現地の方に働いていただき、その国で使うモノをつくっています。

土肥: なるほど。次にどんなことをしているのですか?

●トイレが普及するのにうん十年かかる

山下: ホテルや空港といった場所で、たくさんの人にトイレを使っていただかないと、なかなか広がりません。ホテルで使っていただいた人が「以前使ったTOTOのトイレはよかったなあ。また、ちょっと使ってみたいけれど、どこにあるのかなあ」といったときに、家の近くにショールームがなければいけません。というわけで、ホテルや空港にトイレを設置しながら、代理店やショールームといった販売網を強化しなければいけません。

 ……と言葉にすると、ものすごく簡単に聞こえるかもしれませんが、ホテルなどにトイレを設置して、販売網を強化して、一般家庭に広がっていくのに、うん十年かかるんですよ。

土肥: マーケティングの教科書なんかには、単年度黒字5年、累損一掃7年などと書かれいますが、そんな期間では黒字にできない?

山下: 「すぐにトイレをつくって、すぐに売れて、すぐにボロ儲け」といったことは、絶対にないですね。先ほど工場をつくって、現地の人に働いてもらって……といった話をしましたが、地元の人にブランドを覚えていただくのは10年後、20年後になるかもしれません。ただ、家を購入したときに「トイレをどれにしようかな」と考えたときに「TOTOにしよう」と決めていただければ、このビジネスは長く続くんですよね。

土肥: 現地に進出して、「まずホテルや空港などにトイレを設置する」とおっしゃいました。ということは、成田空港に体験型のトイレを設置したのも、外国でやっていることと同じように認知拡大を狙っているわけですね。

山下: はい。帰国する前に、空港でトイレを使っていただくと記憶に残りやすいかなあと。

土肥: ふむふむ。でも、それってヒット率がものすごく低くないですか。まず、トイレを使ってもらわなければいけない。そして、このトイレはいいなあと思って、メーカー名を見てもらわなければいけない。さらに、それを覚えてもらわなければいけません。10年後、20年後、30年後にトイレを購入するときに名前を憶えている人ってどのくらいいるのでしょうか。「そーいえば、成田空港で使っていたトイレは……えーと、どこだったけな」という人はまだましで、ほとんどの人は帰国したら忘れているのではないでしょうか。トイレを使ったことすら忘れているかもしれません。

山下: ご指摘のとおり、確率はかなり低いですが、10年後、20年後にトイレを買い替えようとなったときに選んでもらえるようにしなければいけません。そのために、1人でも多くの人に使っていただかなければいけません。

●ウォシュレットも好調に推移

土肥: 話は変わりますが、直近の数字をみると、ウォシュレットも好調ですよね。中国の場合、売上高に占めるウォシュレットの割合が前年と比べ5ポイントも増加している。また、販売台数をみると、2014年を100とすると、2015年は154に増えています。

 この数字の裏にも、やはりホテルや空港などにウォシュレットを設置して、まず体験してもらう。そして、販売網を強化して、消費者が「欲しいなあ」と思ったときに、家の近くのショールームで体験できるような流れで売り上げを伸ばしてきたのでしょうか?

山下: はい、基本的にはトイレと同じです。1人でも多くの人に体験していただくことが重要かなあと。「外国人観光客が増えたので、ウォシュレットも売れているのでは?」といった質問を受けることがあるのですが、それだけでここまで伸ばしてきたのではありません。数年前から「インバウンド」「爆買い」といった言葉に触れる機会が増えてきましたが、ウォシュレットの場合、その前から現地で認知が広まっていました。でも価格が高いので、いわゆる“欲しいモノリスト”の中に入っているんですよね。

土肥: 経済発展していく中で、富裕層が増えてきた。以前は「いつかはウォシュレット」と思っていたのに、財布が膨らんできたので「買うのは今でしょ」となったわけですね。

 日本にもかつて「三種の神器」という言葉がありました。戦争が終わって徐々に景気がよくなっていく中で、仕事をがんばれば「テレビ、洗濯機、冷蔵庫」の3品目を購入することができる――。多くの人が「いつかはテレビ」と憧れ、その後、給料が増えたことで家電製品が広がりました。

 かつて日本で起きたことが、中国でも起きているわけですね。でも、日本では「いつかはウォシュレット」という動きはありませんでした。

●ウォシュレット完備しています

山下: ウォシュレットが発売されたのは1980年。日本経済は既に発展していたので、“欲しいモノリスト”を持っている人が少なかったのではないでしょうか。かつてのような動きはありませんでしたが、例えば、テレビゲームはこのように普及しました。「○○ちゃんの家に、テレビゲームがあった。遊ばせてもらったら、とても楽しかった。ウチでも買ってよ」といった感じで。同じような流れで、「○○ちゃんの家に、ウォシュレットがあった。使わせてもらったら、とても気持ちよかった。ウチでも買ってよ」といった感じで、ウォシュレットも普及していきました。

 このように日本の場合は、口コミで広がっていきました。中国でも口コミで広がった部分はあるのですが、いまはインターネットでたくさんの情報を手にすることができますよね。ウォシュレットの写真を見て、「あれ、なんだ? 一度使ってみようよ」となって、ショールームに来られる人もたくさんいらっしゃいます。

 ちなみに、日本でウォシュレットが広がり始めたころ、ビジネスホテルのチラシに「ウォシュレット完備しています」といった文言が書かれていました。

土肥: ほー。それを見た人が「おっ! ウォシュレットが使えるのか。じゃ、このホテルに泊まろう」となって、予約していたわけですね。いまでは当たり前のように設置されているので、そのような文言を目にする機会はほとんどないですよね。いまは「Wi-Fi使えます」といった文言に、注目する人が多いのでは。出張先のホテルで、Wi-Fiが使えると便利ですからね。

●過去があるから現在がある

土肥: 海外展開する上で大変なことは何でしょうか?

山下: やはり、現地の人たちが、私たちのことを「知らない」ことですね。繰り返しになりますが、まずホテルや空港など人の多いところに、トイレを設置します。でも、便器の価格は高い。ウォシュレットの価格も高い。「いいモノかもしれないけれど、いま必要ではないなあ」と思われる方がいらっしゃる。必要性を感じていただかなければ、トイレってなかなか普及しません。

土肥: 普及させるために、地道な活動を続けているわけですね。公共の場でトイレの設置数を増やしながら、販売網を増やして、1人でも多くの人に体験してもらう。

山下: はい。中国に進出した当時の人間に話を聞いたところ、当時は「“わらにもすがる”思いで、営業活動を続けていた」と言っていました。商慣習がよく分からないので、とりあえずカタログだけは持って販売網を広げようとしたのですが、簡単にうまくはいきません。聞いたこともない会社の人間がいきなりやって来ても、すぐに信頼していただけませんよね。では、どうしたのか。何度も何度も足を運びました。

 門前払いを何度も経験していたのですが、やがて「話を聞こうか」と言っていただける販売店さんが出てきました。そして「私たちはTOTOという会社の人間でして……」と言って、ようやく手に持っていたカタログを広げることができました。最先端のマーケティングを駆使して……といった世界ではありません。

 このように少しずつ人間関係を構築していくと、やがて情報が入ってくるようになってきました。例えば「あそこに新しいビルが建つぞ」といった感じで。そうしたちょっとした情報をきっかけに、ビジネスを少しずつ広げていくことができました。

土肥: 現在中国で活躍されている人の中には、このような人がいるかも。売り上げをどんどん伸ばしているので、「ふふふ、これはオレさまの実力」と天狗になっている人が。でも、過去に先輩たちがどのようなことをやってきたのかを忘れてはいけませんよね。地道に人間関係を構築してきたからこそ、いまは「まいどーTOTOです♪」と言って、会いたい人に会えるわけですから。

山下: はい。過去があるから現在がある――。このことを忘れてはいけません。

(終わり)

最終更新:7月13日(水)11時6分

ITmedia ビジネスオンライン

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