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「意識を変えざるを得ない状態」を作ることで意識変革を促しTransformationを実践する

ITmedia ビジネスオンライン 7月13日(水)8時22分配信

 企業を変革するのは、その企業で働く人である。どんなに合理性のある中計や戦略を策定しても、それを実行する人が付いてこなければ結果は伴わない。従来の考え方の延長で仕事をしていては、ちょっとした改善は行えても、Transformationという大きな変革を成し遂げることはできない。つまり、そこで働く人材には意識変革が求められるのだ。

 社員の意識変革というと、経営陣からの直接コミュニケーションや研修などを通じて、なぜ、どのように意識を変革して欲しいのかを経営が示すやり方がよく見受けられる。このような取り組みも重要であり、同社も相応に行ってきたが、それよりも経営陣が社員に対して「意識を変えなければならない状態」を作り上げることで、社員の意識改革を行ってきたように筆者には見える。

 つまり、人を「変える」ではなく、人が「変わらなければいけないという意識を強く持てる」ようにして、これを実践してきたように思われる。前2回のコラムでは、コニカミノルタの中核である情報機器事業を中心に考察を行ってきたが、今回は他の事業も含めて同社がどのような取り組みを通じて、このようなことを実践してきたかを考察してみたい。

 コニカミノルタは、2021年3月期連結売上高1兆5000億円(16年3月期見込比38.8%増)を目標に掲げている。この成長を牽引する事業の一つがヘルスケア事業であり、売上高を1700億円と倍増させる計画だ。今後は、AI(人工知能)の診断への活用、介護ケアサポート領域への展開などにより、介護経営や在宅医療の支援サービスを提供していく方針だが、これは今までに成し遂げてきたTransformationの一環、社員の意識改革の成果の上に成り立っていると筆者は評価している。

 この意識改革は、2011年に発売したカセッテ型のデジタルX線撮影装置(DR)にまで遡る。X線診断装置がアナログからデジタルのCR(コンピュータX線撮影)に変わった時には、違いが明確だったため、従来の医療事業者とのリレーションシップ・マネジメントの考え方で、販売を強化すればビジネスを伸ばすことができた。

 しかし、DRとCRはいずれもデジタル機器であるため、他社に対する優位性ばかりでなく、CRでのX線撮影との違い、DRを使用した時のX線技師や医者にとってのベネフィットが何かを相手に分かり易く伝えることが求められた。

 また、全国の病院から営業ターゲットを選定し、優先順位も策定した上で、デモなどを行って感触を探りながら営業をして行く、というような、従来の販売工程管理も同時に変革する必要があった。

 これらの課題に対応するためにまず行ったことは、開発メンバーの営業同行である。お客様は、DRのメリットを理解するために、当然のことながら専門的な質問をしてくるわけだが、自身の知識不足に不安がある営業は、恐怖心から新たな顧客へのアプローチを躊躇している様に経営陣の目には映ったからだ。

 技術者が営業をサポートすることで、営業には従来のリレーションシップ・マネジメントを超えた提案営業の重要性と実行可能性を体験させると同時に、開発者には現場のお客様の直接の声を通じて市場のニーズに即した開発の重要性を体感させたのだ。さらに、営業支援ツールとして、DRのベネフィットを分かりやすく説明したビデオも作製することで、営業がより積極的に活動できるようにサポートをした。

 DRはX線の被ばく量が少なく、コニカミノルタのDRは軽量で持ち運びができるため、さまざまな用途で活用可能である。例えば、小型のX線照射装置と合わせて使うことで、手術室での術後の体内残存物チェックや、救急車の中や災害現場での応急検査などでも活用でき、災害現場用としてはアタッシェケースに入れられたキットも作られ、東日本大震災でも貢献したという。

 このような、軽量である事、耐久性が高い事、無線利用の有用性など、さまざまな用途での具体的活用事例とメリットを医師や技師が語ったビデオを作製し、販売ツールとして活用していったのだ。この取り組みを通じて、お客様に新たな製品のベネフィットを理解してもらうためには、具体的なイメージを持ってもらうことがいかに重要かを営業に体験してもらい、その意識改革を促進したのである。

 このような取り組みは、その後のビジネスでさらに加速している。例えば、昨年発表したケアサポートソリューション(介護施設において入居者の行動を非接触センサーで検知し、介護スタッフにスマートフォンで知らせるシステム)の開発では、研究者が開発段階から現場に飛び込むアプローチが試行されている。

 介護施設では、リスクが高い入居者をできるだけ介護したいと思っているが、リソース不足で十分な対応ができていない。また、老人も何かある度に毎回ナースコールをするわけでもない。その結果、必要な時に必要な場所へ介護スタッフが行くことができず、助けられる人を助けられないというような問題が起こっている。

 このソリューションでは、入居者の普段の行動を映像から学習し、カメラで行動をモニタリングして、何かあったと判断した際には介護スタッフに知らせることができるようにした。介護施設で入居者が亡くなる主な原因には、病気・転倒・誤飲の3つがあるが、中でも転倒事故では、ナースコールをせずに自分でベッドから降りようとして転んでしまい、転んだことに介護スタッフが気づくことができずに亡くなられる方がいた。つまり、介護すべき人を介護すべき時にケアできていなかったのである。

 このソリューションは、このように介護スタッフが気付かずに、介護できなかった人を減らすことを目的として開発されたのだ。また、これ以外にも、介護スタッフの負担を減らすために、多くのベネフィットを提供することを狙っている。

 例えば、介護スタッフの移動距離だが、試行では夜間の移動歩数が908歩から647歩へと29%減少できた。これは、スマホをプラットフォームにしたことでナースセンターに戻らなくても介護士が異常を検知し、現地から現地へ行けるようにしたためである。

 さらに、デジタル化された情報を活用することで、介護記録転記のムダの削減、事故発生時の前後画像の記録による訴訟対策への活用など、さまざまな効果を生み出すことを狙っている。さらに、今後はAIも活用してソリューションの付加価値向上を目指すとのことだ。

 このソリューションの検討に際しては、研究員30人が3カ月かけて70社の介護施設を実際にまわり、自ら介護を実践することでニーズの把握を行った。その結果、「何が必要で、何が不要かを開発者が全て分かった上で開発することができたため、介護施設と介護士のニーズに合ったソリューションにすることができた」と技術担当常務執行役の腰塚氏は語っている。

 つまり、ヘルスケア事業のこの一連の取り組みでは、技術者が現場に行き、営業は技術者と共に市場と会話することで、ビジネスの基本である市場ニーズを販売と技術が一体となって把握し、技術者は市場ニーズに即したサービス・ソリューションの開発を、営業はその特性を生かした提案営業を実践できるように、人材の意識変革を行ってきているのである。

 一方、主力事業の情報機器事業では、グローバルレベルで意識変革が行われた。2010年末にAll Covered Inc.を買収した際には、ビジネスの作り方・進め方に関しても両社共同で検討を行った。コニカミノルタのMFPを軸としたドキュメントソリューションとAll Covered Inc.のManaged ITサービスではカルチャーが違うため、これらをクロスで売ることで他社との「違い」を持ち込むというコンセプトでビジネスを開始したのだ。

 ただし、この取り組みの本当の狙いは、「当社の営業がManaged ITサービスを売ることでITについて理解を深め、今後の営業時に付加価値を付けられるようにすることだった」と山名社長は当時を振り返っている。

 その実行に際しては、「All Covered Inc.は、規模の割に充実したネットワークを持っており、一緒になったら彼らは当社とスケール感を持ってやってくれる、と想定していたが、これは思ったようには進まなかった」と現場で指揮を執っていた原口常務執行役は語っている。

 カルチャーやノルマ、ビジネスサイクルが異なる両社が融合することは容易ではなく、ローカルの独立 IT企業であったAll Covered Inc.には自律した企業であり続けたいという思いもあったようである。このような状況に直面し、経営陣は「われわれが変わらないといけない」という意識を強く持ち、ITが分かる人材の採用を行った上で直販メンバーの入れ替えも行い、外からの血も入れることで自社社員の意識を変えながら徐々に融合を図っていったのだ。

 「買収後の3年間は、当社が主体となり、直販のプロセス・商材・事業を変え、両社のベクトルを合わせる試行錯誤の期間だった」と原口氏は振り返っており、現場での泥臭い取り組みで、社員の意識変革を行ったと言えるのではないだろうか。

 このような経験を糧に、外の血を取り込み続けながら内部人材の意識変革を行い、グローバルレベルで新たなソリューションを作り続けられるようにするために作った仕組みが、2014年に世界5極で開設したBIC(Business Innovation Center)である。

 この組織は、地域・市場のニーズに即した新規ビジネスを開発・提供することを目的としており、これまでの取り組みの一つの集大成と言える。松?取締役会議長は、BIC設立に向け「生き残っていくためには進化を続けなければならない。しかし、例えばMFPは、モノクロからカラー化して以降に飛躍的変化がない。このようなことに問題意識を感じ、飛躍的に変化するためには中だけの議論では十分ではなく、部外者に当社の商品やビジネスを理解してもらった上で生まれる新しい発想が必要と考えた」と語っている。

 そこで、当センターの全体統括、各極のトップは外部からヘッドハンティングした人材を登用し、全体統括はICT業界で製品・事業開発を推進した経験のある人材、各極トップも同様に、起業や事業開発を経験してきた現地人材という布陣となっている。

 BICの規模は各々10人ぐらいで、最大でも20人程度の必要最低限の小さい組織で運営していく方針とのことだ。そこで不足するものは、オープンイノベーションで外部と提携しながら開発するスタイルを取ることで、環境変化のスピードに対応していこうとしている。また、BIC各極と日本の事業部門が協力するような、内部での連携も含めて取り組んでいる。

 例えば、ハードは日本が開発し、ビジネスとしてのトータルな部分のリーダーは欧州、アプリは米国が開発するなど、グローバルでスピード感を持ってビジネスを進めて行くような形である。要は、全体を一番分かっている人がトップに立ち、チームの構成はグローバルから適材適所で柔軟にチームを作るという、グローバル企業に相応しい組織運営を志向しているのだ。

 また、チームメンバーについても、ストック人材とフロー人材(正規社員ではなく必要に応じて出入りする人材)というシリコンバレーの企業と同じ様な考え方を適用しようとしており、その時々の状況に応じて優秀な「外」の視点を持っている人材を、柔軟に活用して行く方針とのことである。

 さらに、事業間の壁を取り払って会社全体でグループシナジーを生み出す意識を持たせるために、2013年には持株会社・分社化制を廃止し、一つの事業会社となった。この実施に当たり、松?氏は全世界の社員に対して「事業毎のサイロは取った。あとは皆さんの心のサイロを取って下さい」というメッセージを発信したとの事である。この変革は、その後具体的な形となって成果を生み出し始めている。

 例えば、ヘルスケア事業では米国の情報機器事業とヘルスケア事業が一体となって病院向けソリューションを開発・提供し、これまでの消耗品ビジネスが減少する中、DR・超音波などの製品とこれらの情報を統合管理して診断に生かすサービスビジネスの構築が進んでいる。松崎氏は、このような変化を見て「(それまでは)会社の方針、形がこのような変化を拒ませていた」のだと語っている。

 これ以外にも、コニカミノルタではTransformationを実現するために、生産や販売の人材をグローバルレベルでローテーションしたり、計測事業では買収した企業と開発者の交流を図ったり、TACフィルム事業では生・販・開一体の市場情報共有を週次で行ったりするなど、さまざまな施策を行って社員の意識改革を行っている。

 これらの取り組みには、松?氏の言葉に代表される首尾一貫した思想があるように思われる。それは、「新たな商品・ビジネスを考える上で重要な事は、"先を見ること"と"ユーザーの用途を考えること"である」という言葉だ。

 変化する環境の中でグローバルにこのようなことを実践するために、経営陣が各現場で行っていることの基本方針は、「中の議論に閉じない」という事のように筆者には思われる。ビジネスの基本ではあるが、愚直に市場のニーズを組織全体でつかみに行き、開発から営業、サービスまでが一体となって市場の要請に応えるソリューションを提供する意識を持つ。また、自前では持てない発想は「外の血を入れて」内部を活性化し、新たな発想を生む。

 サービス業への変革を標榜する日本のメーカーは多いが、新たな取り組みにおいて技術論に固執したり、自前主義にこだわり続けたりする企業も多い中、「市場」と「外の血」を活用して社員に「変わらなければならないという意識を強く持てる」ようにするコニカミノルタの基本的な考え方、手法は大いに参考になるのではないだろうか。

(井上 浩二)

(ITmedia エグゼクティブ)

最終更新:7月13日(水)8時22分

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