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スマホ市場の“敗者”に残された道

EE Times Japan 7月13日(水)12時13分配信

 中国のiaiwai社の格安スマートウォッチ「C600」に搭載されていたチップを解剖し、検証していく。

【Link It Oneのメインボードに搭載されているチップの画像などその他の分解写真へ】

 本製品はカメラを内蔵していたり、活動量や睡眠量をモニタリングできたりといった機能に加え、2GとBluetooth通信機能を備えている。腕時計サイズで通信機能を持っている製品は、現在では世界中に多々あるが、前回取り上げたように、タッチパネル・コントローラーを含めてわずか4チップで上記機能が完成している点が特徴的だ。さらに、C600にはチップが実装されていないランド端子がいくつもあることも紹介した(図1)。

 ウェアラブルやIoT(モノのインターネット)という市場が語られるようになったのは、2014年くらいからである。これには、2つの背景があるものと思われる。

 1つ目は、スマートフォンという驚異的な成長を続ける市場において、チップメーカー、端末メーカー、キャリアの“勝者”がほぼ決まったこと。つまり、スマートフォン市場での利益は、これら“勝者”の間でだけ配分され(「富の再配分」)、それ以外のメーカーは他の分野に活路を見いだすしかなくなりつつある。実際、Nokia、Motorola、Blackberryなどの旧トッププレーヤーは壊滅的な苦杯をなめている。

■3つの「A」

 老舗が衰退する中、AppleやSamsung Electronicsに続いて、中国の多くのメーカーが世界市場にのし上がってきた。Huawei、Lenovo、OPPO、VIVO、Xiaomiらである。

 この背景には「AAA」、すなわち「ARM」「Android」「Asia」という3つのAが関与していたことは間違いない。高度な経験と技術がないと開発できないCPUをARMが提供し、Android OSによって動かすための環境も用意された。そしてグローバル時代、インターネット時代においてアジアの成長がどれほど目覚ましいかは、言うまでもないだろう。

■失地回復のための新市場

 だが、スマートフォン市場での「富の再配分」によって締め出された者にも、次の一手があった。新市場での失地回復だ。それが、ウェアラブルやIoTだったのである。

 スマートフォン市場という“宝の山”では、その宝を山分けできるメンバーは決まってしまった。そこで、新市場であるウェアラブルやIoTなどの新しい財源を見つけて、そこから得られる利益を再配分できるようにしなければならない。スマートフォンは、コンパクトデジタルカメラや携帯音楽プレーヤー、ICレコーダー、雑誌、PCなど既存製品を飲み込み、それらの市場さえも財源とした。

 このように、新しい財源を見つけて利益の再配分を始めることは、イノベーションとも呼べるだろう。

■“エレクトロニクス海戦術”

 ウェアラブル市場が生まれたもう1つの背景は、人口問題である。人口は国富であるという時代が通り過ぎ、今や先進国の多くは少子高齢化の課題を抱える時代になっている。

 その最大の問題は近未来、極端な生産性の低下が予想されることである。今までは人海戦術を容易に組むことができ、その結果品質や生産性を維持できた。しかし「品質も生産性」も落とさずに従来の社会を維持しなければならないという課題があった場合、夢想と言われようとも「IoT」「ロボット」「AI(人工知能)」に取り組まざるを得ない状況になっていることも否めない。その結果として、人海戦術に代わる“エレクトロニクス海戦術”がIoTなのかもしれない(あくまでもシニカルな見方の言い回しである。産業としての期待を否定するものではない)。そしてウェアラブルもその一部として市場で扱われている。

 健康や睡眠、運動をエレクトロニクスによって可視化することで「予防医学」の補助となり、ヒトの豊かさにつながるというロジックだ。実際には旧来の万歩計や活動量計の機能を超えているわけではないが、スマートフォンやクラウドでのデータ管理によって、将来的には、予防医学としての高い成果を発揮するかもしれないとの期待も持たれている。 いつの日にかウェアラブル機器が「今すぐ病院に行きなさい。予約はしておいたから」とユーザーに通知する時代がくるかもしれない。

■MediaTekの「Link It One」

 2014年に台湾MediaTekが、IoTやウェアラブル、ビーコンなどエッジ端末向けのプラットフォームとして発表した「Link It One」を見ていきたい。ウェアラブルやIoTの骨格となる通信機能としてWi-Fiチップ、Bluetooth搭載のARMマイコンが搭載されている他、位置情報を取得するために、GPS、GLONASS、北斗(中国の測位衛星システム)に対応するチップで構成されている。

 通信と位置情報チップはこのプラットフォームのために新規開発されたものではなく、スマートフォンやPND(ポータブル・ナビゲーション・デバイス)などで実績のあるものをそのまま流用している。新規チップはコアになる「MT2502」だけである。このチップは既に多くの中国製のIoT機器に採用されているが、用途としてはあくまでもマイクロコントローラーである。またMediaTek自身も本チップをMCU(Microcontroller Unit)とうたっている。

 Link It Oneのプラットフォームは、センサー接続をターゲットにする。A-Dコンバーターのインプットは7つ。カタログでは奨励センサーが記載されるわけではなく「Your Sensors」と書かれている。「何でもどうぞ!」というスタンスだ。

 Link It Oneのチップは「MT2502」、図1のiaiwaiのC600が活用するチップは「MT6261A」。型名からは共通点は見いだせない。

■2つのチップの相違点

 チップを分解した結果を紹介していこう。

 2つのチップはサイズも内部の配置も一致したものだが、違いが2つだけある。1つ目は、片方はパッケージ内部で2つのチップが接続されるSIP(Silicon In Package)構造を取っていること。2つ目は、2つのチップ(パッケージ開封後に確認できるチップ)に刻印されている日付が違っていることである。日付はわずかに1カ月違いだ。恐らくベースとなっているチップが「MT6261A」で、一部を改造して派生させたものが「MT2502」なのであろう。基本機能はどちらも共通だからだ。

■生き残れるのは迷いがないメーカーか

 スマートフォン市場から弾き出された前記の老舗メーカー群が、IoTやウェアラブルの新市場でシェアやポジションを十分に確保できるであろうか。

 スマートフォンでの成功に甘んじることなく、MediaTekは次々と手を打ってくる。このチップには最先端な仕様はない。しかも3世代ほど古い安価なプロセステクノロジーで製造されている。GSM通信、クラシックなARM7……。しかし、中国やアジアではLink It OneやMT6261Aを活用した製品はまるで雨後のたけのこのごとく生まれている。息せいて最新パーツを最新プロセスで作らなくても、製品は登場する。ウェアラブル機器やIoT機器、ビーコンなどのエッジ端末市場では、「迷い」がないメーカーしか生き残れないのかもしれない。

最終更新:7月13日(水)12時13分

EE Times Japan