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ギリシャ危機2015-緊迫の3週間を振り返る

ZUU online 7月14日(木)18時10分配信

2015年夏、ギリシャ情勢は、予想を大きく超える劇的な急展開を辿った。以下に15年6月下旬から7月中旬まで、事態の変化に応じて執筆した4本のレポートを時系列で並べた。重要な動きとともに、その時々の筆者の考えを述べた部分にも下線を引いた。3週間余りの緊迫した情勢を振り返っていただけるのではないかと思う。

「ギリシャ危機2015」は、6月末の期限目前での支援協議決裂、銀行の一時休業と資本規制の導入、支援条件への是非を問う国民投票での圧倒的多数の「NO」というプロセスを経て、第3次支援プログラムの合意で終息した。しかし、ギリシャの政府の債務があまりに大きく、支援条件があまりに厳しかったため、危機再燃のリスクを強く意識せざるを得なかった。

早ければ今夏の「ギリシャ危機2016」も想定できた。昨年同様、7月20日にECBなどが保有する23億ユーロの国債償還を控えるが、ギリシャの改革が難航し、新たな支援が凍結されたままになっていたからだ。

しかし、幸い、5月24日のユーロ圏財務相会合(ユーログループ)で、年金や税制改革、民営化基金創設などの取り組みを認め、6月中に75億ユーロの支援を実行する方針が固まり、今夏の危機再燃は回避される見通しとなった。

懸案の債務再編についても、24日のユーログループで、元本削減はしない大原則を維持しつつ、ギリシャの改革の進捗状況に合わせて、短期、中期、長期で実施する負担を軽減する案を協議した。債務再編を条件としてきたIMFの支援参加にも道が拓かれつつある。

「ギリシャ危機2015」終息後、EUにはシリアなどから大量の難民が流入、地中海をわたる難民のEUへの流入ルートの前線に位置するギリシャの地理的な重要性が改めて認識された。他方、大量の難民を受け入れたドイツでは、EUに流入する難民をコントロールすることが、最重要な政治課題となった。難民危機が、支援を巡るギリシャとドイツの力関係を微妙に変えた可能性がある。

経済データを見る限り、「ギリシャ危機2015」の景気や雇用への影響は当時予想されていたよりも軽微だったようだ。しかし、実質GDPは、16年1~3月期の段階でも世界金融危機前の水準を25%余り、雇用は15%余り下回っている。ユーロ離脱懸念を背景とする預金の流出も止まったものの、水準は回復しておらず、資本規制の解除にも至っていない。

ギリシャの歳入のGDP比の水準は、EU・IMFによる支援開始からこれまでに、10%も引き上げられている。大規模な財政緊縮によるギリシャ経済と社会の疲弊を憂慮する思いは、4本のレポートを執筆した当時も現在も変わっていない。

■ギリシャ新提案で交渉決裂は回避:6月22日ユーログループ、ユーロサミット

15年6月22日のユーロ圏財務相会合(ユーログループ)、ユーロ圏臨時首脳会合(ユーロサミット)は、前日のギリシャ政府による新たな「改革プログラム」の提示を受けて、無秩序な債務不履行(デフォルト)、ユーロ離脱に発展しかねない交渉の決裂を回避した。

48時間で支援機関が新提案を精査、欧州時間の24日夜にユーログループの会合を開催、EUの定例首脳会議が予定される25日朝に最終承認を目指す。支援交渉の完全な決裂は、ギリシャにとってもユーロ圏にとっても政治的な失敗であり、土壇場での合意が期待される。

合意が成立すれば、とりあえず最悪のシナリオは回避されるが、7月以降も多くのハードルがある。IMF返済資金の捻出方法、72億ユーロの支援実行後の支援体制、改革プログラムがギリシャ経済の再生とユーロ圏に残留する可能性を高める内容かどうかなど見極めが必要だ。

◆交渉決裂は回避も、決定は24日~25日に先送り

15年6月22日、ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)とユーロ圏臨時首脳会議(ユーログループ)が開催された。22日の会合は、18日の定例のユーログループの会合でのギリシャ支援問題を巡る協議が物別れに終わったことを受けて設定された。

凍結されてきた第二次支援プログラムの残金72億ユーロの支援は6月末に失効する。同じく6月末を期限とする国際通貨基金(IMF)への15.4億ユーロの返済の不履行(デフォルト)を回避するための最後の機会と位置づけられた。

結果として、22日の会合を前に、ギリシャ政府が21日に新たな「改革プログラム」を提示したことで、「無秩序なデフォルトとユーロ離脱」という最悪のシナリオに発展しかねない「支援交渉の完全な決裂」はとりあえず回避された。

ギリシャの新提案は、支援機関との間で争点となってきた年金改革については早期退職制度見直し、付加価値税についても、軽減税率見直しなどが盛り込まれたとされ、概ね好意的に受け止められた。

ユーログループのデイセルブルム議長も、ギリシャ政府の新提案は「幅広く包括的」で「合意の土台となる可能性がある」と評し、首脳会議議長のトゥスクEU大統領も「前向きな一歩」と述べた。IMFのラガルド専務理事も「より詳細になった」としている。慎重ながらも、18日の会合後の極めて悲観的な空気は和らいだように感じる。

しかしながら、ギリシャの新提案を精査する時間が必要との理由から、支援実行の可否や期間延長などに関わる具体的な決定は見送った。48時間で支援機関が新提案を精査、欧州時間の24日夜に臨時のユーログループを開催して、合意を目指し、定例のEU首脳会議が予定される25日朝の最終承認が新たな目標となった。

◆合意不成立ならどうなるか?

18日の段階で、IMFのラガルド専務理事は、ギリシャ政府が6月末に返済しなかった場合、猶予期間や返済延期の期間は設けず、デフォルトと見なすとの立場を示している。

IMFへのデフォルトは、民間投資家が損失を被る国債のデフォルトとは異なるが、その後の国債の償還の可能性が低下することで、ギリシャ国債を担保とするギリシャの銀行の資金調達は更に厳しくなる。7月10日、17日に償還を予定している短期国債の引き受け手は主にギリシャの銀行だが、7月14日には117億円のサムライ債の償還も予定されており、日本の投資家が影響を受ける可能性もある。

「デフォルト=ユーロ離脱」ではないが、期限内に合意が成立しなければ、ギリシャのユーロ圏の一員としての権利が制限され、その後もユーロ圏との関係改善が図られなければ、ユーロ離脱に近づくことになるだろう。

欧州中央銀行(ECB)は、政権交代後、ギリシャ政府の改革プログラムの実行が不確かになったことを受けて、15年2月11日からギリシャ国債を適格担保から外し、ギリシャの銀行は定例オペに参加できなくなった。ギリシャ国債は、同年3月に始まった量的緩和による国債買い入れプログラムの対象からも外されている。

その一方、ECBは、ギリシャ中央銀行が、市中銀行に一定の金額を上限として、緊急流動性支援(ELA)を行うことは認めてきた。22日もECBはELAの上限引き上げを決めたが、仮に、交渉が決裂し、支援プログラムからの離脱が「確定」すれば、7~8月に予定されるECBが保有する国債償還の目処も立たなくなり、ギリシャ国債を担保とするELAを制限あるいは停止せざるを得なくなるだろう。

ELAは、預金流出が続くギリシャの銀行の命綱となってきた。支援交渉の決裂で預金流出が加速する一方、ELAが停止されれば、ギリシャの銀行システムは混乱に陥り、資本規制の導入は不可避になる。

◆支援交渉決裂はギリシャ政府、ユーロ圏の双方にとって政治的な失敗

15年1月のチプラス政権発足後、ギリシャ政府と欧州連合(EU)・国際通貨基金(IMF)、欧州中央銀行(ECB)からなる支援機関との協議はおよそ5カ月にわたり、平行線を辿り続け、しばしば、『チキンゲーム』に例えられてきた。

しかし、支援交渉が完全に決裂し、ギリシャ政府がデフォルト、ユーロ離脱といった事態に発展することは、ギリシャにとってもユーロ圏にとっても政治的な失敗となる。このため極力回避する努力がなされると見られることが、土壇場での合意が期待される最大の理由だ。

チプラス政権や政権を支持する国民は、財政緊縮策の緩和や債務負担の軽減は望んでいるが、「ユーロ離脱」は望んでいない。

ユーロ圏にとってもギリシャのデフォルトやユーロ離脱は大きなダメージとなる。金融市場の混乱や周辺国の財政危機の連鎖を引き起こすリスクは2012年までに比べて低下している。12年に民間保有の債務が再編され、欧州安定メカニズム(ESM)、ECBの国債買い入れプログラム(OMT)さらに量的緩和と、危機拡大を防ぐ防火壁も分厚くなっているからだ。

それでも、どのような副作用があるか、完全に予測することは困難であり、ユーロという制度への信頼を維持する観点からも、離脱国を出すことは望ましくない。ギリシャ経済が大混乱に陥ることを承知の上で切り離すことはEUの連帯を傷つけ、地政学的なリスクを高める。ギリシャに対してこれまでに実行した支援金が返済される可能性が低下することは、支援に参加した各国政府にとって大きな問題になる。

◆それでは、なぜ協議は平行線を辿ってきたのか?

双方ともに支援交渉の決裂が望ましくないのであれば、なぜ、協議に、これだけの時間を費やすことになったのだろうか。

チプラス政権は、支援の見返りに強制された行過ぎた財政緊縮や改革の軌道修正、債務負担の軽減を公約に掲げて総選挙に勝利し、発足した政権であり、交渉を引き延ばすインセンティブがあった。

協議の争点の1つとなってきた年金分野では、ギリシャは、2010年以降、支給開始年齢の引き上げ(2012年11月、満額受給の場合;65歳→67歳)、満額受給に必要な積立期間の延長(2010年7月、37年→40年)、早期退職年齢の引き上げ(2011年から53歳→60歳)などの改革を行ってきた。

一連の改革で、年金の給付の水準が大きく引き下げられ、貧困ラインを下回る水準の年金受給者が4割強を占めるとされている。チプラス政権は年金改革を超えてはならないレッドラインの一つと位置づけた。

政権基盤固めには、支援機関と戦う姿勢を示すことが必要とされ、急進左派連合(SYRIZA)内の強硬派や連立パートナー「独立ギリシャ人」が安易な妥協を阻んだ。各種の世論調査では、SYRIZAは、最大野党のNDを大きく引き離し続けており、チプラス政権の瀬戸際戦術は、ある面では功を奏してきたようだ。

他方、ギリシャを支援してきたユーロ参加国の政府は、フランスやイタリアなどの大国も含めて「行過ぎた財政緊縮は却ってマイナス」という思いを共有する国は少なくないが、ギリシャの要求を許容できる範囲にも限界がある。ギリシャの年金制度を他国と比較すると、改革後も手厚すぎるように映る。年金支出のGDP比は、2012年時点で17.5%とユーロ圏で最も高かった。

改革により年金の支給開始年齢は多くの国と並ぶようになったが、早期退職制度の影響もあり、男性の実効退職年齢は61.9歳でOECD平均の64.2歳を大きく下回る(図表2)。

これらのデータは、他国に比べて、ギリシャの名目GDPの落ち込み度が大きく、高齢化が進展し、雇用情勢が厳しい結果でもあり、一概に「年金の手厚さ」を示すものとは言えない。しかし、支援国の国民から見れば、「他国の国民がより長く働き、ギリシャの年金生活者を支える」構図に映る。

債務負担の軽減にも異論がある。ギリシャ政府債務残高の名目GDP比の水準は突出して高いが、ユーロ圏からの支援は、アイルランドやポルトガルよりも返済猶予の期間が長く、平均償還期間は31.14年と、アイルランド、ポルトガルの20.8年よりも10年以上長い。支援金の金利も低く抑えられているため、一般政府の利払い費の名目GDP比は、ポルトガル、イタリア、アイルランドなどよりも低い。

ユーロ圏からの支援金の元本を削減する債務の再編は、救済を禁じたEU基本条約違反であり、極めて困難だ。一層の利払い負担の軽減も、財政健全化の目標をなんとか達成し、自力で調達する国々とのバランスを考えると限界がある。

◆改革プログラムで週内合意成立でも多くのハードルが残る

今週中にも「改革プログラム」で合意すれば、とりあえず最悪のシナリオは回避される。

だが、ギリシャの資金繰りには7月以降も多くのハードルがある。支援機関との合意が、これらのハードルをカバーする内容なのかどうか見極める必要がある。

当面の問題として、6月末に迫るIMFへの返済資金を捻出するかがある。72億ユーロの支援金の受け取りには、合意した改革について、ギリシャ議会での法案の成立と、これを受けた支援国側の議会承認が必要となるが、合意自体が遅れたために、6月末までにこれらのプロセスを終えることは難しいと見られる。「改革プログラム」に関するギリシャ国内の議決が滞れば、さらに遅延する可能性もある。

当面のつなぎとして、(1)ギリシャの銀行が主たる引き受け手となっている短期国債の発行枠の引き上げ、(2)ユーログループの管理下にあるギリシャの銀行増資のための基金(109億ユーロ)の流用、(3)プログラムの完了時にギリシャへの返済が予定されているECBのギリシャ国債購入からの利益(19億ユーロ)の活用などの選択肢が浮上しているが、最終的にどのような形で決着するのかは未だ見えない。

72億ユーロの支援金を受け取り、第二次支援プログラムが終了した後のギリシャ支援体制の青写真が、6月末までの合意に、どこまで盛り込まれるかにも注目したい。

いずれにせよ、最も重要な点は、「改革プログラム」が、全体として、ギリシャ経済の再生とユーロ圏に残留する可能性を高めることにつながるかどうかだ。

■ギリシャ支援6月末失効へ:なぜ協議は決裂したのか?これからどうなるのか?

15年6月27日、ユーログループは、支援機関側が提示した「改革プログラム」の最終案の賛否を問う国民投票を7月5日に実施する方針を表明したギリシャ政府からの支援期限の延長要請を退けた。ギリシャの銀行からは預金流出が加速しているが、ECBはギリシャ中央銀行へのELAの上限引き上げを見送り、ギリシャは29日から資本規制導入に追い込まれた。

6月末に現在の支援プログラムは失効、IMFへの延滞も避けられなくなったが、ただちにギリシャのユーロ離脱に発展する訳ではない。ギリシャ政府の要請で、ユーログループと支援協議を再開することは可能であり、現時点では、無秩序なデフォルトからユーロ離脱に発展することは避けられると見ている。

リスクシナリオは、国民投票の結果、「NO」が多数を占めた場合であり、ユーロ離脱が現実味を帯びる。しかし、その可能性は高くはなく、ギリシャが直面する問題の解決策にもならない。

◆ユーログループは国民投票を決めたギリシャへの支援延長を拒否-先週末からの流れ

ギリシャ支援協議が週末に急展開し、6月末を期限とする国際通貨基金(IMF)の15.4億ユーロの延滞が不可避となった。

22日には、ギリシャ政府が超えてはならない「レッドライン」としてきた年金改革も含む「改革プログラム」を提案したことで合意への期待が広がったが、裏切られてしまった。24日にプログラムを精査した支援機関側が「改革プログラム」の修正案を提示、受け入れを迫ったことで流れが変わった。

26日、ギリシャ政府は、支援機関側の最終案への賛否を問う国民投票を7月5日に実施する方針を表明、これに伴う支援期限の延長を支援機関側に要請した。しかし、27日、ユーログループは、ギリシャ政府からの支援期限の延長要請を退けた。

これにより凍結されてきた72億ユーロの支援金とともに、欧州中央銀行(ECB)が国債買い入れプログラム(SMP)、ユーロ参加国の中央銀行が国家金融勘定(ANFA)を通じてギリシャ国債の償還で得た収益の受け取る権利も失効する。

28日には国民投票に関する法案がギリシャ議会を通過、ECBは、電話による緊急会合を開催し、ギリシャ中央銀行に認めている緊急流動性支援(ELA)の上限を26日の水準(約890億ユーロ)に据え置くことを決めた。

チプラス首相は、テレビ演説で、支援機関側に、国民投票実施のための支援期限の数日間の延長を引き続き求めていることを明らかにすると同時に、29日からの銀行営業の停止と資本規制の実施を発表した。

◆なぜ協議は決裂したのか

筆者は、支援協議の決裂は、ギリシャ政府にとっても、ユーロ圏にとっても政治的な失敗となるため、土壇場で合意が実現すると期待していた(*1)。

しかしながらギリシャが、一時的にせよ、支援プログラムから外れる方向に事態が展開した原因は、チプラス政権が、実現不可能な公約を掲げて発足したことにあると考えている。

チプラス政権は、「財政緊縮緩和」、「債務負担の軽減」、そして「ユーロ残留」という道筋を探ろうとしてきた。だが、ユーロ圏から見れば、ギリシャに他のユーロ参加国とのバランスを著しく欠いた譲歩はできなかった。EUの基本条約が救済を禁じているために債務再編にも限界があった。

最終的に支援機関側は、支援プログラムを5カ月延長する提案とともに、ギリシャ政府が22日に提示した「改革プログラム」を、成長と両立し得る内容に改めるよう求めた。法人税収の増収への依存度を引き下げ、負担を公平化、年金制度は簡素化と早期退職を促す制度の見直しを前倒しするというのが大枠だ。

例えば、年金分野では、(1)開始時期をギリシャ案の15年10月末から同年7月1日に前倒し、(2)年金受給開始年齢の67歳への段階的引き上げの最終期限をギリシャ案の2025年に対して2022年に前倒し、(3)低所得年金受給者向け手当て(EKAS)についてはギリシャ案の「段階的に代替する枠組みに切り替える」案に対して、支援機関案は19年までに段階的に廃止するなどを求めた。

税制に関しては、(1)法人税率の引き上げ幅は、ギリシャ案の26%→29%を26%→28%に下方修正、(2)ギリシャ案の50万ユーロ以上の利益がある企業に15年度1回限りの12%の特別法人税を却下、(3)離島に永住する低所得者への特別税額控除の提案を却下、(4)付加価値税についてはギリシャ案の軽減税率対象品目の削減でGDP比0.74%の増収に対して、支援機関は同1%の増収を求めた。

チプラス政権は、「改革プログラム」を提案した段階では、年金改革に踏み込んでも、政権の支持基盤と思われる低所得者や弱者に配慮し、企業に負担を求めるという構図を維持することで、支持者に説明する方針だったと思われる。しかし、こうした政権としての配慮が刈り込まれた最終案を受け入れれば、政権の維持は困難だった。支援を受けながら政権を維持するための苦肉の策であった可能性がある。

しかし、支援機関から見れば、支援機関の提案の否決を呼びかけて実施される国民投票のために、チプラス政権に猶予を与えることは難しかった。

国民投票の決定を受けたユーログループの支援延長拒否、ECBのELAの上限引き上げ見送りによって、銀行の営業停止、資本規制の導入に追い込まれたギリシャ経済の混乱は避けられないだろう。

◆これからどうなるのか? ギリシャのユーロ離脱には直結せず、支援協議の再開も可能

国民投票を実施するチプラス政権の延長要請を拒否したことで、現在の支援プログラムは6月末に失効する見通しとなった。IMFへの延滞も避けられないが、ただちにユーロ離脱に発展することはない。ギリシャ政府の要請によってユーログループと支援協議を再開することは可能である。今後、無秩序なデフォルトの末、ユーロを離脱する事態に発展することは回避できるのではないか。

ユーロ圏としてもギリシャが、そうした状況に陥ることは好ましくない。12年までと違い、金融のネットワークを通じた危機拡大のリスクは低下しているし、財政危機の飛び火も起きにくくなっている。それでも、ユーロ離脱の意志はなく、その準備もしていないギリシャ政府を切り捨てることは、地政学的なリスクの観点、何よりもEUの連帯を大きく傷つけるからだ。

7月5日に実施される国民投票で「YES」が圧倒的多数を占めた場合、支援協議は再開しやすくなる。しかし、支援機関のチプラス政権への不信感は根強い。解散・総選挙を経て、新政権が協議にあたることが必要になるかもしれない。

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(*1)経済金融フラッシュ「ギリシャ新提案で交渉決裂は回避:6月22日ユーログループ、ユーロサミット」をご参照下さい。(http://www.nli-research.co.jp/report/flash/2015/flash150623.html)
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◆リスクシナリオは、国民投票で支援機関提案の受け入れ拒否が多数を占めた場合

リスクシナリオは、国民投票の結果、「NO」が多数を占めた場合だろう。支援機関提案の受け入れ拒否が多数に終わったからといって、支援機関側が大きく譲歩する形で、協議を再開する可能性は高くない。

ギリシャが、ユーロ圏のバックアップを欠いたまま、長期に存続することは難しく、無秩序なデフォルト、国内の年金や公務員給与支払いなどのための借用証書(IOU)の発行などに追い込まれ、ユーロ離脱も現実味を帯びる。

現時点では、ユーロ離脱という未知の領域に発展しかねない「NO」が多数を占める可能性は高くはないと思われる。ただ、出口のない財政緊縮と不況は、ギリシャ国民のユーロ残留への意志を蝕んできた面はある。「NO」がどの位の割合を占めるのかは、気になるところだ。

ギリシャの人口のうち貧困と社会的排除のリスクにさらされている割合(*2)は財政危機を境に急上昇し、14年には36%に達した。ギリシャの貧困率は、ユーロに参加している19カ国で最も高く、EU加盟28カ国でも3番目に高い。貧困率がギリシャよりも高い、ないしギリシャと同じ程度の国は中東欧の国々で、これらの国の場合は、2004年以降のEU加盟時よりも低下している。「貧しくなった」という実感が最も強いのはギリシャだろう。

ちなみに、統計上は、貧困率が、とりわけ高く、かつ、上昇が目立つのは18~24歳の若年層である。年金改革の影響を受ける55歳以上ないし65歳以上の貧困率は上昇が見られず、貧困の増大は、年金改革よりも、雇用情勢の悪化が長期化している影響が大きいと思われる。

ギリシャの生産活動は、財政危機前のピークのおよそ7割の水準で停滞し、失業解消の目処が立たない中でも、ギリシャ国民の多数はユーロに対してポジティブなイメージを持っている。

しかし、世論調査では、チプラス政権による支援交渉が始まった2月以降、ユーロへの支持が低下していることが確認できる。特に、交渉が大詰めを迎えた6月は、支持と不支持の差は大きく縮小した。

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(*2)(1)世帯内の成人(18~59歳、学生を除く)1人につき、フルタイムで働いた場合の1年間の就業月数を12カ月とし、そのうち1世帯平均20%(2.4カ月)以下しか就業していない、(2)等価可処分所得の中央値の60%以下の収入しかない、(3) 1)家賃や公共料金、2)適度な暖房、3)予期せぬ出費、4)一日おきの肉や魚などのたんぱく質の摂取、5)年に一度の1週間のバカンス、6)自家用車、7)洗濯機、8)カラーテレビ、9)電話のうち4項目以上を賄えないという3つの条件のうち少なくとも1つにあてはまる。
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◆ユーロ離脱は問題の解決策にはならない

ギリシャの財政危機が表面化した当初から、ギリシャはユーロを離脱すべきとの議論はあった。ユーロを離脱、自国通貨ドラクマを復活させるベネフィットは、為替相場によって競争力が調整されるため、賃金・物価の切り下げという痛みを伴うルートのみに頼らずに済むことだ。

しかし、ギリシャの場合、自国通貨への復帰による競争力回復の効果は、あまり期待できない。域内からの輸入依存度が高く、ドラクマが対ユーロで大きく切り下がれば、輸入インフレで、インフレが加速する可能性がある。

そもそも、ギリシャの競争力の問題は、賃金の割高さより、徴税などの制度、行政手続きの効率性、投資関連規制などに根ざすものだ。世界銀行が作成しているビジネス関連の法規制や諸手続きに焦点を当てたビジネスのしやすさに関するランキングでは(図表4)、ギリシャは189カ国61位。

ギリシャの後にEU・IMF支援を要請、すでに支援を卒業したポルトガルは25位、スペインは33位で、ギリシャよりも評価は高い。ユーロ圏で、ギリシャよりもランクが低いのは島嶼国家のキプロスとマルタだけだ。

こうしたビジネス環境に関わる問題は、ユーロを離脱しても解決しない。むしろ、離脱によって、ユーロ圏との間で為替リスクが発生、両替のコストも生じる。ECBによる金融政策だけでなく、一元的な銀行監督、単一化を目指す銀行破綻処理の枠組みなどからも外れ、銀行経営の健全性に対する見方も厳しいものとなる。ギリシャ当局がよほど努力しないかぎり、ユーロ離脱によるビジネス環境の不利化の悪影響を埋め合わせることはできないだろう。

財政運営も、ユーロを離脱したからといって楽にはならない。ユーロの離脱は、支援機関に対するデフォルトとセットとなり、ユーロ参加国としての信用補完効果も失われるため、市場復帰は遠のく。

チプラス政権もユーロ離脱が解決策とならないことを承知しているからこそ、ユーロ残留を前提に協議してきたのだろう。しかし、この5カ月間で、ユーロ残留と緊縮策の撤回は両立しないことが明らかになった。

ユーロの導入は、EU加盟国の義務であり、離脱に関するルールも定まっていない。ギリシャ国民が「NO」を突きつけた場合、EUにできるのは、そのプロセスをいかに秩序立ったものとするかに限られる。

■ギリシャのユーロ離脱シナリオを用意して開催される12日EU首脳会議

ギリシャとユーロ圏の双方が望んでいなかったデフォルトと事実上のユーロ離脱という最悪のシナリオがいよいよ現実味を帯びてきた。

15年7月7日のユーロサミットでは、ギリシャ政府に新たな支援の見返りに実行する改革案を9日までに提出するよう求め、12日にEU首脳会議を召集することを決めた。前日11日のユーログループの結果が芳しくなければ、12日の首脳会議は、ギリシャに改革案での合意か、ユーロ離脱かの選択を迫ることも考えられる。

チプラス首相が、ユーロ離脱を回避すべく、首脳会議で支援への暫定合意に漕ぎ着けようとすれば、「有利な条件」を期待してNOに票を投じた有権者を裏切ることになる。

首脳会議で「離脱」、「除名」を決議することはないが、支援要請を却下すれば、ECBのELA打ち切りにつながる。ギリシャ政府は、政府借用証書(IOU)などを発行するなどの対処を迫られ、事実上のユーロ離脱の様相を呈することになろう。その後の社会の混乱は避けられず、やはり有権者は裏切られたと感じるのではないか。

その後のギリシャには、法定通貨のユーロからドラクマへの切り替えという選択と、信頼に足る改革案を提示し直し、ユーロ参加国としての権利を回復する選択が残されるかもしれない。

ギリシャ情勢は、支援協議の決裂(6月26日)、銀行の一時休業、預金引き出し制限など資本規制導入(6月29日~)、国民投票の改革案否決多数(7月5日)と、支援合意への期待を裏切る展開が続いた。

ギリシャとユーロ圏の双方が望んでいなかったデフォルトと事実上のユーロ離脱という最悪のシナリオがいよいよ現実味を帯びてきた。

◆ギリシャ政府は7日の段階では新たな支援の見返りに実行する改革案を提示せず

7月5日のギリシャの国民投票が、支援機関の改革の最終案への反対が61.31%と賛成の38.69%を大きく上回ったことを受けて、7日にユーロ圏財務大臣会合(ユーログループ)、ユーロ圏首脳会議(ユーロサミット)が開催された。

7日のユーログループには、辞任したバルファキス氏の後任となったチャカロトス財務大臣が参加したが、支援の見返りに実行する改革案が提示されなかったため、具体的な協議は行われなかった。

7日にユーログループに続いて開催されたユーロサミットでは、ギリシャ政府に遅くとも9日までに改革案を提示するよう求め、12日にユーロ未導入のEU加盟国も参加するEU28カ国での首脳会議を開催することで合意した。

◆8日の支援要請の段階では国民投票結果を受けた譲歩を迫る姿勢は見られず

ギリシャ政府は、8日に欧州安定メカニズム(ESM)に正式に期間3年の支援を要請、9日に包括的改革案の詳細を提出する方針を示した。

英フィナンシャル・タイムス紙がホームページ上に掲載したギリシャ政府の支援要請書によれば、緊急に協議を要請する理由として、金融システムの脆弱性、流動性の不足、債務の返済期限、国内の支払い遅延、IMFへの延滞の解消を挙げている。

税制改正と年金改革は、来週早々にも実行に移すとし、IMFの延滞の早期解消や、今月20日に迫るECBが保有する35億ユーロの国債の償還資金などの確保のため「つなぎ融資」を求める意図が伺われる。

債務減免についても、「広範な議論の中で、公的債務が長期的に持続可能なものとなるような潜在的な方法について機会を歓迎する」というごく控えめな表現が盛り込まれているだけだ。

少なくともギリシャ政府の支援要請書を見る限り、国民投票の大差のNOを後ろ盾に、支援機関側に譲歩を迫ろうという強硬姿勢は感じられない。

しかしながら、9日に提出される包括的改革案を見なければ、支援合意に至るかどうか判断はできない。

◆12日のEU首脳会議で、ギリシャ政府に改革案での合意か、ユーロ離脱かの選択を迫る可能性

本稿執筆時点(日本時間9日13時)では、9日に提出されたギリシャの改革案を検討した上で、首脳会議前日の11日にユーログループが、ESM支援の対象とするかどうかを協議する予定となっている。

7日にはEU法を立案する機関である欧州委員会のユンケル委員長は「ギリシャ離脱の詳細なシナリオを準備している」ことを明かしている。ユーログループの結果が芳しくなければ、12日のEU首脳会議は、ギリシャ政府に「改革案での合意」か「ユーロ離脱」かの選択を迫ることも考えられる。

◆ギリシャの改革の約束がなければ債務減免もない。合意はNOを投じた有権者を裏切ることに

ギリシャ政府が、支援を取り付けるには、ユーロ参加国としての義務を履行する姿勢を示さなければならない。ユーロ圏の支援は、ギリシャよりも所得水準が低い国を含む参加各国の拠出によるものである。支援を受けながら、持続不可能な年金制度も改革せず、付加価値税も見直さないという主張は通らない。

チプラス首相は、国民投票で「支援機関から有利な条件を引き出すことにつながる」とNOに賛同を求めた。5カ月にわたる協議で、支援機関側の譲歩の余地は殆どないことを承知していたにも関わらず、国民にはNOが支援獲得を阻み、事実上のユーロ離脱に発展するリスクを伴うことは説明しなかった。国民投票が、こうしたリスクを説明した上で実施された場合には、おそらくNOが圧倒的多数ということにはならず、むしろYESが勝ったのではないか。

ギリシャのデフォルトとユーロ離脱は、EUとしても回避したいシナリオだった。ユーロ圏はギリシャ支援にすでに1830億ユーロ(第一次支援の二国間融資で529億ユーロ、第二次支援のEFSFからの融資が1309億ユーロ)(*3)を投じており、デフォルトすれば、これらの債務の再編が必要になる。

ユーロから離脱すれば、「後戻りできない通貨」という前提が崩れる。2012年までに比べて、金融システムの混乱や財政危機の飛び火のリスクは低下、ESMやECBによるコントロール力も増したが、ユーロの信認は大きく傷つく。EUとNATO(北大西洋条約機構)にとって地理的要衝に位置するギリシャでの経済・社会の混乱拡大も望んでいなかったはずだ。

それでも、首脳会議の段階で、EU側が提示できるのは、銀行閉鎖後の社会情勢の混乱に対処するための人道支援(医薬品、食品、燃料の供給)くらいだろう。ギリシャ政府が求める債務減免は、IMFのラガルド専務理事や米国のルー財務長官も必要性を認めている。ユーログループとしても、金利の減免や返済猶予期間、償還期間の延長などの用意はあるだろう。

しかし、チプラス政権は、発足からこれまでに改革に取り組んでこなかったことから、ギリシャ政府が、改革への強固な約束を実行する見返りとしてしか応じないだろう。また、基礎的財政収支の目標は決めるが、その具体的アプローチはギリシャ側に委ねるという方法もあり得るが、チプラス政権のポピュリズム色の強さへの警戒は強く、譲歩は容易ではないだろう。

チプラス首相が、ユーロ離脱を回避すべく、首脳会議で支援の「承認」に漕ぎ着けようとすれば、国民投票で否決されたものと大枠で変わらないか、それ以上に厳しい改革案を受け入れることになるだろう。仮に、人道支援に、将来の債務減免の約束が上積みされたとしても、チプラス首相の言葉を信じ、「有利な条件」を期待してNO票を投じた有権者は裏切られたと感じるかもしれない。

交渉の結果を、チプラス首相が、議会や国民に説明できるかは疑わしく、実行力にも不安が残る。

◆「離脱」決議は困難。支援要請の却下は、事実上の離脱に発展する

仮に、ギリシャ政府が、支援機関側を納得させるような包括的改革案を提示できない場合、あるいは支援機関側の修正提案の受け入れを拒否した場合も、12日の首脳会議で、ユーロ圏やEUからの「離脱」、「除名」を決議することはないと思われる。

ユーロは「後戻りできない通貨」として導入されたため、EUの基本条約に離脱に関する手続きはない。EUからの離脱は、離脱を希望する加盟国の「告知」に始まる。少なくとも現在のギリシャ政府に、EUやユーロ圏を離脱する意志はない。

しかし、「事実上の」ユーロ離脱につながる決議が下される可能性はある。首脳会議が、ギリシャ政府のESMへの支援要請を「信頼に足る改革案を欠く」などの理由で「却下」すれば、ギリシャのデフォルトは避けられなくなる。ECBは、13日に予定している政策理事会で、首脳会議の決議を受け、ギリシャの銀行の命綱となっているギリシャ中央銀行による緊急流動性支援(ELA)を打ち切るという流れだ。

すでにECBは、支援協議が決裂した6月28日からELAの上限は886億ユーロで据え置かれており、ギリシャ政府は、1日当たり60ユーロを預金引き出しの上限とするなどの資本規制導入を迫られた。ECBは、6日、ELAの残高は維持したが、担保となっているギリシャ国債などの割引率を調整することを決めている。銀行経営への圧力は一段と強まっているはずだ。

ECBが、ELAの打ち切りを決めれば、ギリシャの商業銀行は破綻する。第二次支援プログラムで利用可能だった銀行増資や破綻処理のための109億ユーロは6月末に失効した。新たな支援が却下された状態では、ギリシャ政府は、銀行の資本再構築のために政府借用証書(IOU)などを発行し、対処を迫られるかもしれない。事実上のユーロ離脱の様相を呈することになる。

デフォルトすれば債務再編は可能になるが、新たな資金調達の道は当分閉ざされる。年金などの給付水準の実質的な切り下げは避けられないだろう。

国民投票でNOに票を投じた有権者には、その代償として、デフォルトとユーロ離脱といった事態を受け入れる覚悟が、どの程度あったのかわからない。このケースでも、有権者はチプラス首相に裏切られたと感じるのではないか。

◆EUからの離脱には直結させず。ユーロ圏復帰の道を残す可能性も

ELAが打ち切られ、IOUが流通するようになっても、ギリシャの法定通貨はユーロのままで、ギリシャ中央銀行は、ECBとユーロ参加国の銀行からなるユーロシステムの構成メンバーであろう。安全保障上の理由などから、EUからの離脱にも直結させないように思われる。

その後のギリシャには、法定通貨のユーロからドラクマへの切り替えという選択と、信頼に足る改革案を提示し直し、ユーロ参加国としての権利を回復する選択が残されるかもしれない。

支援協議がまたしても決裂した場合に備えて、欧州委員会が果たしてどのような離脱のシナリオを用意しているのか定かではないが、そのプロセスが極力秩序だったものであることが望ましい。これまでに様々な危機の場面で創造的な解決策を見出してきたヨーロッパの英知に期待したい。

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(*3)European Stability Mechanism, “FAQ document on Greece", Last updated: 30 June 2015による。IMFの融資残高は348億ユーロに上る。
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■ユーロ圏からの離脱の可能性を含むギリシャ支援合意~債務負担軽減のあり方を巡る調整が今後の焦点~

◆ギリシャが支援再開の条件をクリア、当面のデフォルトとユーロ離脱は回避へ

15年7月12日に開催されたユーロ圏首脳会議は、17時間にわたる協議の末、3年間で最大860億ユーロの第3次支援を行うことで合意した。

15日には、欧州安定メカニズム(ESM)の支援手続き開始の条件とされたギリシャ議会(議席数:300)での付加価値税の増税や年金改革等の法案が229票の賛成により成立したことで、フランスやドイツなどの議会での支援手続きが始動、ECBもELAの上限を向こう1週間で9億ユーロ引き上げるなど支援の動きが加速している。

ESM支援の正式な始動には数週間を要するため、7月20日予定されるECBが保有する国債の償還や、国際通貨基金(IMF)への延滞の早期解消のためにEUから「つなぎ融資」が実施される見通しだ。20日には、先月29日から休業が続いた銀行も一部営業を再開できる見通しとなりつつある。

支援協議がまとまらないまま、ECBへの国債償還が出来ず、これを受けてECBがELAを停止、ギリシャ政府が政府借用証書(IOU)を発行せざるを得なくなる、「無秩序なデフォルト、銀行システムの崩壊、事実上のユーロ離脱」というシナリオはとりあえず回避された。

◆ドイツが迫った「厳しい条件付きの支援」か「一時的なユーロ離脱」かの選択

12日の首脳会議は、6月までと違う雰囲気で開催された。ギリシャ支援に参加する多くのユーロ圏の国々は、5カ月にわたる協議の末に、EUの提案に「NO」を突きつける国民投票を実施したチプラス政権に不信感を強めた。欧州委員会のユンケル委員長は、「ギリシャのユーロ離脱の詳細なシナリオを準備している」と語り、ドイツの財務省は「厳しい条件付きの支援」か「一時的なユーロ離脱」という選択肢を用意、決断を迫ったとされる。

各種の報道によれば、ドイツが用意した「一時的なユーロの離脱」は、最低5年など一定の期間、ユーロ圏から離脱し、その間に本格的な債務再編と競争力の調整を進めるものとされる。EUの加盟国として、EUから経済成長のための支援や人道支援は受けることができる。混乱した状態のまま、偶発的にユーロ圏から切り離されることは望ましくないが、EUの支援を受けながら秩序立った形で一時的に離脱するのは好ましいようにも見える。

ギリシャのデフォルトやユーロ離脱が、市場を通じて拡大するリスクは、民間が保有するギリシャ向けの債権の残高が削減されているため、2010年、12年に比べて小さくなっている。ユーロ圏内の他国への財政危機の飛び火も、ギリシャの離脱が避けられない状況になれば、ECBが全力で阻止するだろう。

こうした変化が、政策当局者が「ユーロ離脱」という選択肢についてタブー視しなくなった背景にあるのだろう。

◆ユーロ残留を望み、厳しい条件を受け入れたギリシャ

ユーロ圏から離脱国が出ることが市場の混乱を引き起こさないとしても、「いったん導入したら離脱できない」ユーロの前提が崩れることが、単一通貨から、本来得られるはずのベネフィットを大きく制限し、存在意義を低下させるおそれはある。

例えば、ギリシャほどではないにせよ、過剰債務や低い競争力という問題がある南欧の国々の資金調達の条件は、急激で大規模ではないとしても、離脱がない場合に比べて、やはり不利になるのではないか。

世界金融危機以降、単一通貨圏内の銀行市場では信用リスクの高まりを背景に分断が生じたが、1カ国でも離脱国が出れば、解消しないままとなるおそれもある。これらはユーロ圏経済の成長を抑制する要因となる。欧州統合の中核的プロジェクトであるユーロが痛手を負えば、EUも傷つく。

今回の首脳会議では、ドイツの「一時的離脱案」に、フランス、イタリアなどは反対したとされる。何よりも、当事国のギリシャ政府が、ユーロ圏への残留を望み、厳しい条件を受け入れたことで、支援継続で落ち着いた。

債務危機の後、ギリシャの生産・雇用水準の落ち込みはとりわけ厳しく、失業の長期化、貧困の増大など社会的危機の様相を呈している。こうしたギリシャ経済の現状を考えれば、本来、支援の条件は、ギリシャ政府と支援機関側の双方が譲歩する形で合意することが望まれた。

しかし、国民投票を巡る混乱もあり、ギリシャ政府への不信感を一段と強めた債権者側と、ユーロ離脱を回避、銀行の営業停止を少しでも早く解除したいギリシャ政府との力関係で、ほぼ全面的にギリシャが譲歩する形になってしまった。

◆危機は遠からず再燃するおそれ

しかし、ギリシャがこの先、厳しい支援条件を順調にクリアし、回復軌道に乗るイメージは描き難い。今回は、無秩序なデフォルトと事実上のユーロ離脱を回避したものの、遠からず、今回と同じような状況、つまり改革が進まず、支援金を受け取れず、資金繰りに窮する状況に陥るリスクは高いと見ざるを得ない。

最大860億ユーロとされる金融支援を受け取るには、所定の期間内に約束した改革を実行し、支援機関の審査を「合格」しなければならない。

第3次支援プログラムの条件をまとめた覚書(MOU)は作成途上だが、首脳会議で大筋合意したメニューには、追加の年金改革のほか、財市場・労働市場の改革、500億ユーロ規模の国有資産を独立した基金に移管、民営化などによる売却を加速し、銀行の資本増強や債務の返済にあてるなどが盛り込まれている。

従来の支援プログラムの覚書にも、民営化や規制改革は、盛り込まれていたが、十分に実行されてこなかったもので、ギリシャ経済の効率性と競争力を高めるために必要だ。

だが、改革は、目先の大幅な需要不足、雇用機会の不足といった問題の解決にはつながらない。短期的には、銀行休業の後遺症や、15日に可決された年金改革や付加価値増税の影響で、景気や雇用は一層落ち込むと予想される。

◆ギリシャが得た譲歩は、焼き直しのEUの成長資金と限定的な債務再編の可能性

今回の支援合意で需要拡大、雇用創出を直接掲げているのは欧州委員会の「ギリシャ政府がEU財政から2020年までに350億ユーロ調達できるよう支援する」プランだけだ。350億ユーロという金額は14年時点のギリシャのGDPのおよそ2割に相当する。見た目の規模の大きさに関わらず期待が高くないのは、ギリシャ経済の梃入れのために新たに設けられた資金という訳ではないからだろう。

EUの財政は、予算の上限や配分が7年間固定される。350億ユーロの調達は、2007~13年の予算枠の未利用分や、現在の2014~20年の予算を有効に活用しようというものだ。ギリシャ支援が始まった2010年頃から実施されているが、十分な効果が確認できない計画の焼き直しの感がある。

ギリシャ政府が、財政健全化目標の緩和とともに要請してきた債務の再編もごく限定的なものに留まった。「プログラムを着実に実行し、最初の審査に合格した場合、返済猶予期間の延長や期限延長などには応じる」だが、「元本の削減は行なわない」と全面的に否定されてしまった。

◆終わりのない緊縮や改革への不満が募り、反EU・反ユーロ機運が高まるおそれ

ユーロ圏による支援の枠内に留まる限り、ギリシャ政府・議会の政策の自由度が大きく制限される問題もある。15日には、すでに基礎的財政収支目標から逸脱した場合には半自動的に歳出が削減される法案が成立している。さらに、ESM支援が始まれば、改革関連の法案は、草案の段階で支援機関の事前承認を得ることになる。

債務危機を教訓に導入された新たなユーロ圏の政策監視ルールでは、均衡財政や歳出抑制のルール、予算の事前提出などが盛り込まれているが、ギリシャの財政政策・経済政策、つまり議会の権限への制約はさすがに厳し過ぎるように感じる。

15日の段階では、銀行の営業再開、ユーロ残留などへの強い思いで法案の成立が後押しされたが、危機意識が薄らいでくれば、終わりのない緊縮や改革への有権者の不満が募るおそれがある。>

支援協議が落ち着いた秋頃には総選挙が実施されるとの観測がある。チプラス政権は「反緊縮でも親EU・親ユーロ」だったが、次の政権は「反緊縮かつ反EU・反ユーロ」の性格を強めるおそれもある。ユーロとEUにとって、いよいよ望ましくない展開だ。<

※本稿は2015年度に発行された「経済・金融フラッシュ」、「Weeklyエコノミスト・レター」を加筆・修正したものである。

伊藤さゆり(いとう さゆり)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席研究員

最終更新:7月14日(木)18時10分

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