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阪神・金本監督のスパルタ式は、やっぱり時代錯誤なのか

ITmedia ビジネスオンライン 7月14日(木)8時22分配信

 プロ野球の阪神タイガースが悪戦苦闘を強いられている。ブービー争いの直接対決となった7月12、13日のヤクルト2連戦(神宮)には何とか連勝。最下位脱出を果たしたものの借金は依然として2ケタの「10」で、前半戦をBクラスの5位で終えた。首位を独走する広島東洋カープには14.5ゲーム差と大きく引き離されており、自力Vも球宴を前に消滅してしまっている。

【阪神タイガースは浮上するのか!?】

 今季から新指揮官に就任した金本知憲監督は「超変革」をテーマとして訴え、ぬるま湯に浸り気味だったチームの改革を進めようと連日厳しい姿勢でタクトを振るっている。しかし結果が伴わない。その手腕に大きな期待を寄せていたはずの虎党の中からは早々と金本批判まで飛び交い始めている状況だ。

 7月9日に本拠地・甲子園球場で行われた広島戦ではエースの藤浪晋太郎投手に課した「懲罰登板」が大きな波紋を呼んだ。すでにネット上でも数多く報じられているのでご覧になった方も多いと思うが、状況説明のためにここで改めて振り返っておきたい。

 この試合で藤浪は立ち上がりから制球に苦しみ初回に2つの四球が絡む形で3失点。さらに自滅による失点に怒りを爆発させた金本監督はエースの自覚を促す意味で、3点差に追い上げていた7回の第3打席でも藤浪に代打を送らなかった。この時点ですでに球数が130球を超えていた藤波の投球は明らかに本来の姿ではなく、その直後の8回にも再び崩れて致命的な3失点。チームは2-8で大敗を喫したものの藤浪は結局8回7安打8失点で最後まで投げ切り、投球数は何と161球にも達した。

 現代プロ野球においては一般的に「5回100球」が交代のメドとされている。しかも大差の付いた負け試合で先発投手が“完投”するケースはいかなる状況があろうとも、まずあり得ない。それを考えれば、藤浪の投じた161球がいかに異常な数字だったかがよく分かる。

 この日の試合後に金本監督は藤浪について「今日は何球投げようが、何点取られようが最後まで投げさせるつもりだった」「ストライクが入らず、取りに行って打たれて……」「これで一体何度目なのか。何も変わってないことを感じないといけないと思う」などとコメントしたことからも、これが「懲罰登板」だったのは明白だ。

●鬼采配を断行しなければならない理由

 金本監督の采配について、ネット上ではファンとおぼしき人たちから次のような怒りの声が上がっている。

 「あんな球数を投げさせるなんて藤浪の体をぶっ壊すつもりなのか」

 「藤浪に代打を送れば逆転できるチャンスがあったかもしれないのに、監督が勝負を放棄するなんてファンに対する裏切り行為」

 「1人の先発投手の精神を鍛え直そうと最後まで完投させるゲームなんて練習試合じゃあるまいし、見たくはない」

 「指揮官の暴走を止められないコーチもぬるま湯に浸っているんじゃないのか」

 金本監督に対し、ブーイングを向けたくなる気持ちはよく分かる。だが、その半面で「なぜ、指揮官はこれほどの鬼采配を断行しなければならないのか」についての理由も把握しなければいけないと思う。広島に在籍していた現役時代から金本監督を良く知る古参OBに話を聞いたところ「アイツがブッ壊そうとしているのは間違っても藤浪の肩、ヒジなんかじゃない」と声を大にして言い切り、こう語気を荒げながら続けた。

 「タイガースそのものをいい意味でぶっ壊し、全員が闘争心みなぎる“戦闘集団”に再構築させようと本気で考えているんだ。巨人と並ぶ全国クラスの人気球団でありながら、もう今年で11年もリーグ優勝から遠ざかっている。そんな強い危機感をチームOBのカネ(金本監督)は抱いて、球団からの指揮官就任要請を快諾し、引き受けたのだ。

 そういう意識があるからこそチームを『超変革』に導くためなら、世間から批判を受けて泥をすするハメになることもアイツは覚悟している。つまり藤浪に最後まで投げさせたのもアイツなりの『闘魂注入法』だった。それが証拠として、アイツは各方面から批判されても何の反論、弁明も一切口にしていないだろう」

 これに補足すると、金本監督は水面下でフロントからも2016年のシーズンは“育成期間”として容認されており、球団及び親会社阪急阪神ホールディングスの有力幹部たちからは「今季は優勝できなくてもいいし、最悪でCS(クライマックス・シリーズ)出場圏内のAクラス入りもしなくていい。その代わり、自分の好きなように徹底的なチーム改革を行ってくれ」とまで言われているという。ただし今季1年は我慢することと引き換えに「来年はその悔しさをバネに是が非でもVを奪えるチーム体制を作り上げてくれ」とも厳命されているそうだ。

●スパルタ指導は時代と逆行しているが……

 前出のOBはさらに続け、こうも口にする。

 「アイツは広島に入団したころは箸にも棒にも引っかからないヤツで、戦力として使えるかどうかも微妙なプレーヤーだった。ところが毎日のように罵倒され、シゴかれながらも猛烈な努力によって大化けし、ついには日本球界を代表するトップ選手にまで上り詰めた。

 そういう背景があるから強い覚悟を持って練習に励み、試合に臨めば結果は必ず付いてくるという信念がカネの心の中にはある。鉄拳制裁などの根性野球が受け入れられない世の中になった今、あえて許容できるかできないかの限界ギリギリの指導法で『超変革』に励んでいるのも、かつて自分が大きく成長した“スパルタ指導”が礎となっている」

 しかしながら、この金本流のスパルタ指導は時代と逆行しているのも明らかな事実。鉄拳制裁はもちろんのこと、カミナリを落とされたり、シゴかれたりすることに不慣れな今の選手たちから猛反発を食らい、ひいてはチームが空中分解に追い込まれる危険性も決してゼロではない。

 それでも球団及び親会社の幹部たちが金本監督に指揮系統の全てをまかせっ切りにしているのは、現状の阪神に足りない“何か”をきっと植え付けてくれるであろうという思いが根底にあるからに他ならない。金本知憲という男を監督として迎え入れたのは、どうしようもない状態にまで没落してしまったチームを再建させるためのイチかバチかの賭けであり、いわば「劇薬」の投入なのである。

 思い起こせば奇しくも今年開幕前の沖縄・宜野座キャンプで金本監督は筆者に対し、こう悲壮な決意を漏らしていた。

 「必ずや強いタイガースを復活させますよ。でも今のチームには残念ながら絶対的な強さがない。そして選手一人ひとりにも『オレがチームを変えてやるんだ』という気概もまったく感じられない。自分には、そういう今の構図が我慢ならないですね。

 球団側も全面バックアップしてくれていますし、今さらもう後には絶対に引けない。自分がここで何を求められ、何を為すべきなのか。それについてはよく分かっているつもりです。キレイなことをするつもりは毛頭ありませんよ。やるからには死ぬ気でやりますんで、まあ、見ていてください」

 そう語ったとき、金本監督の目はウソ偽りなどなく澄み渡り、確かに光り輝いていた。

●どん底に落ちたチームを蘇らせる

 このように古巣再建に強い気持ちを持っている金本監督には全国の虎党より就任前から応援メッセージが多数届き、ラブコールも数多く寄せられていた。虎のレジェンド・金本監督ならば、どん底に落ちたチームを再び蘇らせることができるはず――虎党の誰もが本音としては今も、そう固く信じているはずなのだ。

 その空気を察している金本監督もすでに覚悟を決めている。嫌われ役として苦悩しながらも何とか必死に前へ進み、どことなく未だに封建的なムードも漂う阪神というチームをキレイにすべてぶっ壊そうと決意を固めている。その結果が出るのは、これからだ。もう少し長い目で金本流チーム改革を見た上で「YES or NO」の決断を下したい。

(臼北信行)

最終更新:7月15日(金)1時33分

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