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どこが違うのか クルマと鉄道の「自動運転」

ITmedia ビジネスオンライン 7月15日(金)8時5分配信

 古い話だけど、1981年8月に放送されたTVドラマ『東芝日曜劇場 - お父さんの地下鉄』で、俳優の川谷拓三さんが福岡市営地下鉄の運転士を演じた。運転台に並んだ2つのボタンを押すだけで電車は走り出し、次の駅で自動的に停止する。当時、私は中学生だった。物語は覚えていないけれど、この仕組みには驚いて、自動運転の場面はいまだに覚えている。

【ポートアイランド線建設時の逸話】

 自動車の自動運転が話題になっている。一方、鉄道の自動運転は、試験段階を含めると50年以上の歴史があり、無人運転まで実用化されている。東京では「ゆりかもめ」、近畿では神戸新交通などの新交通システムが無人運転を実施中だ。仙台市営地下鉄、東京メトロ丸ノ内線など、地下鉄路線も自動運転が行われている。

 ただし無人ではなく、前述の福岡市営地下鉄と同様に、運転士または車掌がボタンを押して発車のきっかけを与えている。私がドラマで驚いた1981年の2月には、神戸で新交通システムのポートアイランド線が開通した。こちらは完全自動運転で運転士は乗らない。日本初の無人運転だ。恐らく世界初だった。

 だから「クルマより進化していた」と言うつもりはない。鉄道の場合はクルマのようなかじ取りは不要だし、道路のように歩行者や自転車も混じる混合交通ではないから統制をとりやすい。しかも自動運転以前に、さまざまな安全装置があって、その延長で実用化したに過ぎない。無人運転はあまりにも完成されて、列車らしくないとさえ思う。

 ゆりかもめなどの新交通システムに乗ってみると分かるけれど、エレベーターが横方向に長距離で動くような感覚だ。重量が規定値を超えるとドアが閉まらないという仕組みもエレベーターに似ている。そう言えば、エレベーターもかつては運転士が乗っていたという。

●自動車の自動運転事故は必然だった

 私にとって4台目のクルマにオートクルーズ機構が付いていた。作動させると電車の惰性走行に似ていると思った。私はクルマでも電車っぽい運転をするクセがある。スムーズに加速して、一定速度で走行し、なるべく一定の減速度で停止する。交差点の停止線でピッタリ停まると満足感がある。

 最近のクルマはレーンキープ機能があって、かじ取りなしで車線を維持してくれるそうだ。かじ取りをしないなんてますます電車っぽい。さらに、前のクルマに追随し、レーダーで障害物を検知すると緊急停止、縦列駐車や車庫入れも自動だという。次のクルマは自動装置をたくさん搭載した電気自動車にしよう。電気自動車を略しても電車には違いない……かな。

 自動車の自動運転技術は目覚ましく発達している。そんな中で、米国でテスラ車のクルマがオートパイロットシステムで運行中に事故を起こし、ドライバーが亡くなった。性能面で進化を続けている自動運転技術もまだ完璧ではない。運用の不備で重大な事故が起きる。この事故は不幸だったけれど、この事故のおかげで自動運転技術の進化を知った人も多かっただろう。また、技術の礼賛が目立つ風潮から、自動運転の定義、運用の倫理や法整備まで議論が表面化した。いつかは起きる議論が、この事故できっかけを得た。

 亡くなった方には気の毒だけど、誰かが死ななければ深刻な議論にならない。悲しいかな、これは安全に関する技術が、いつかは通る試練でもある。交通事故をきっかけに作られた横断歩道や信号機は多いし、鉄道の安全技術も多くの犠牲と反省から生み出された。残念ながら、クルマの自動運転も確立するまでは、今後も命の代償が払われると思う。予測不可能な事故について対策を用意できるわけがない。安全施策は事後対策の歴史であるからだ。

●鉄道の自動化、無人運転までの歴史

 クルマの運転自動化については、国土交通省が次のように分類している。これはNHTSA(米国運輸省道路交通安全局)が2013年5月30日に公表した一次政策方針に基づく。

レベル0 自動化なし

常時、ドライバーが、運転の制御(操舵、制動、加速)を行う。

レベル1 特定機能の自動化

操舵、制動または加速の支援を行うが操舵・制動・加速の全てを支援しない。

レベル2 複合機能の自動化

ドライバーは安全運行の責任を持つが、操舵・制動・加速全ての運転支援を行う。

レベル3 半自動運転

機能限界になった場合のみ、運転者が自ら運転操作を行う。

レベル4 完全自動運転

運転操作、周辺監視を全てシステムに委ねるシステム。

 これを鉄道になぞらえる。鉄道は線路があって、運転士の操舵操作は不要。だから鉄道は自動運転レベル0をスキップし、レベル1から始まったと言える。

 制動(ブレーキ)の支援をATS(自動列車停止装置)の実装とするなら、1927年の地下鉄銀座線から始まった。加速の自動化はATO(Automatic Train Operation:自動列車運転装置)の実装で始まる。この段階で鉄道は自動運転を可能とした。ただし、運転士が乗務して機器を監視し、緊急対応を実施する。レベル2とレベル3が同時に達成されたと言える。

 日本初のATOは名古屋市営地下鉄で、1960年に試験的に運用され、1年半で終了している。その後、大阪市営地下鉄、営団地下鉄などでも長期試験が行われた。実用化は1970年の大阪万博会場内モノレール。恒久的な営業運転への導入は神戸市営地下鉄西神線で、1977年からだったという。それから4年、冒頭のように、1981年からポートライナーで無人運転が始まった。レベル4の達成だ。

●自動運転は既存の保安装置の延長にある

 興味深いのは、無人運転を実施するに当たり、法律の改正などが見られなかったことだ。当時、開業に当たる法的根拠は地方鉄道法と軌道法だった。専用敷地に線路を敷く場合は運輸省(当時)の地方鉄道法の免許が必要で、道路と一体整備する部分は軌道法の特許が必要になる。どちらも路線の認可と廃止の手続きなどを定めているけれども、運転に関しては「最高速度を定めよ」程度だ。

 また、それぞれの法律には省令で施行規則が定められている。地方鉄道法では第20条に自動列車運転装置という文言が追加されたけれども、これは保安装置を設置する際に図面も添えて申請せよという条文で、自動列車停止装置などに追加された程度。軌道法では第9条が該当するけれども、自動列車運転装置の文言はない。自動列車運転装置は既存の保安装置の延長にあったようだ。

 さらに探すと、現行法令では鉄道営業法に基づく「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」において以下のように定められていた。

第百二条  動力車を操縦する係員は、最前部の車両の前頭において列車を操縦しなければならない。ただし、列車の安全な運転に支障を及ぼすおそれのない場合は、この限りでない。

 原則として運転士は先頭に、例外として不在でも良し。これで無人運転が認められている。そしてこの省令はポートアイランド線開業のずっと後、2001年に発令された。既に複数の路線で無人運転を実施中だったから、実態に即して作られた条文と言える。

 無人運転の法的根拠が定まっていなかったとはいえ、国が放任していたわけではない。新交通システムについては1960年代から欧米で研究開発が始まっていて、日本でも1966年から事業の可能性を探る動きがあった。1970年に神戸ポートアイランドで導入が検討されると、運輸省と建設省は「新交通システム開発調査委員会」を設置して具体的な調査検討を実施している。

 ポートアイランド線は、その調査検討の結果を受けて1977年に認可申請が行われ、1981年に開業した。乗客安全ではさらに強化され、日本で初めてホームドアが設置された。ホームは床から天井までガラス張りで、うっかりどころか故意でも線路に立ち入れない。さらに、監視カメラなどで各所を監視し、列車運行、駅の管理などを中央指令室でコントロールする。その意味では、無人運転ではあるけれど、自律運転ではない。

●自動運転の前提にあった保安装置

 鉄道の無人運転は多大な努力と数年間にわたる技術の情勢によって達成された。しかし、歴史的に俯瞰(ふかん)すると既存の安全装置の延長である。では、既存の安全装置とはどのような仕組みだろうか。

 追突、衝突安全については、鉄道では「閉塞」という伝統的な技術がある。線路を一定の間隔で区切り、1つの区間には1つの列車しか入れない。閉塞区間の手前には信号機を置く。運転士が停止信号を見落とした場合は2つの安全装置が働く。1つはATS、もう1つは安全側線だ。

 ATSは運転士が操作しなくても強制的に非常ブレーキをかける。日本で初めて実用化されたATSは1927年に開業した地下鉄銀座線だ。赤信号と連動してレール間に設置した板が持ち上がり、車両側のレバーが接触し倒れると非常ブレーキが作動する。かなり原始的だけど、私が高校時代に見ているから、1980年代前半までは現役だった。

 これ以降は電気信号式になっている。官営鉄道では大正時代から試験を実施しているけれど、実用化は1941年からだ。ATSはその後、鉄道会社各社で改良されており、機能も多岐にわたる。現在は非常ブレーキだけではなく、急カーブで制限速度までブレーキをかけるといった速度調整も可能になった。

 安全側線は脱線ポイントともいう。赤信号と同時にポイントを本線の外側に切り替える。ただし、切り替えた先には線路がなく、砂利を積んだ小山などである。列車同士の衝突を避けるため、暴走する列車のほうをわざと脱線させる。恐ろしい仕組みだけど、現在も各地で稼働している。

 ATSの次の段階として、ATC(Automatic Train Control:自動列車制御装置)が開発された。名前だけ見ると自動運転してくれそうだけど、加速機能はない。地上の信号機の代わりに運転席に制限速度を示し、その速度を超える場合に通常のブレーキをかけ、制限速度以内に収まったらブレーキを解除する。

 このブレーキは非常ブレーキの1つ手前の強い制動力を持つため、乗り心地は悪い。だから運転士は制限速度を注視し、穏やかにスピードを落としている。ただし、信号が速度0を示したときは赤信号と同等だから、見落とすと非常ブレーキがかかる。ATCも進化しており、最新式のデジタル式は前後の列車の運行間隔を精査して速度を調節する。

 ATCの次の段階にATOがある。発車、加速、走行、減速、停止までを自動的に行う。線路側で位置情報を発信し、列車側が位置を読み取り、あらかじめ設定された加速や減速を行う。

●自動車の自動運転技術はLRTにも有効

 自動車の自動運転では、道路に飛び出してきた人や障害物を検知して停止する機能がある。列車にはこの装置はない。線路は立ち入り禁止という前提があるからだ。踏切には障害物検知装置があり、誰かが立ち止まると運転司令所や列車に警報を出す。

 それでも踏切事故は起こるし、ホームから自殺者が飛び込む事態はある。列車にも障害物検知装置があれば、踏切事故やホームの人身事故は減るかもしれない。しかし、恐らく搭載されないだろう。ここがクルマと鉄道、あるいはバスとの違いだ。鉄道が守るべき安全の対象は乗客だ。簡単に非常ブレーキを作動させると車内の人々に衝撃を与え、危険である。

 鉄道会社は表だって言わないけれど、踏切や線路内に立ち入る人の安全施策は優先度が低い。「乗客の安全のためなら、ルールを守らない人は死んでもやむを得ない」という仕組みである。だからこそ踏切やホームの端は危険なのだ。本当は鉄道会社も明示すべきだとは思うけれど、子どもやドライバーに交通法規を教える人は、鉄道会社が乗客以外の安全を保証しないことをきちんと伝えるべきだろう。

 ただし、自動車の自動運転技術の中で、鉄道にも使える技術はある。確かに車両側の障害物検知装置は普通の鉄道には不要だが、路面電車には搭載すべきかもしれない。路面電車は道路の交通法規に従うため、閉塞という考え方をしない。だからこそ速度は制限され、続行運転が可能になっている。

 自動車の自動運転は安全面だけではなく、輸送効率向上という目的もある。自動追尾システムがそうだ。トラックを車間距離4メートル程度で隊列走行させる。ドライバーは先頭車両のみ。この仕組みは、路面電車やLRT(ライトレール)に応用できる。ラッシュ時の路面電車は続行運転しているし、連接車体の大型車両を使う場合もある。隊列走行する仕組みがあれば、運転士一人で複数の車両を運行できる。時間帯によって大型連接車両と小型車両を使い分ける必要はない。同じ小型車両を量産配置すればいい。自動隊列走行は、車両調達コストや人件費削減につながる。

 2013年に広島市で、マツダ、広島電鉄、東大などが参加して、自動車と路面電車の車車間通信によって安全性を高める実験が行われた。自動車の自動運転と鉄道の自動運転は、技術の成り立ちも考え方も違う。しかし、路面電車やLRTは道路交通の参加者だ。

 一方で、「自動運転車が普及すれば公共交通機関は不要」という考え方もある。自動車の自動運転の普及によって、公共交通機関のすみ分けが変わってくる。これは別の機会に論考を試みるとして、鉄道業界も自動車の自動運転には大きな関心を持っているはずだ。

(杉山淳一)

最終更新:7月15日(金)8時5分

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