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紙切れでもできる画期的な質量分析法を開発

EE Times Japan 7月15日(金)9時45分配信

■紙切れなどの「たわみ」で分子量を割り出す

 物質の分子量を調べることで、物質の種類を特定できる「質量分析」が個人レベルでも実現できるかもしれない――。

【MCLに対して下方向から気体試料を吹きかけた際の有限要素解析によるシミュレーション結果などの画像へ】

 物質・材料研究機構(NIMS)の柴弘太氏と吉川元起氏の研究グループは2016年7月14日、真空やイオン化などを必要とせず、携帯可能な小型デバイスで質量分析が行える可能性のある新たな質量分析法を開発した。

 質量分析は、食品、医療をはじめ、環境、農業、化粧品、さらには犯罪捜査などでも使用される。質量分析により、呼気による健康チェックや口臭/体臭測定、室内環境の測定、動植物の状態管理、有毒ガスの漏出検査なども実現できる。

 だが、質量分析を行う装置は、大規模かつ高価で、個人レベルで所有するのは極めて難しい。現状の質量分析法は、真空中で分子に電子を衝突させるなどし、分子をイオン化し、そこに電場や磁場をかけて、分子量に応じて飛ぶ方向が変わることを利用し気体分子量の測定を行う。タンパク質などの質量分析を行うためのイオン化法を開発したことで2002年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏の業績も、こうしたイオン化を伴う質量分析の基本原理に基づくものだった。

■真空装置いらず

 今回、NIMSの柴氏と吉川氏が開発した質量分析法は、真空、イオン化を伴う従来手法とは全く異なる原理であり、「簡便に大気中でリアルタイムに気体分子量が測定できる新たな質量分析法」とする。

 開発した原理は、片方が固定された片持ち梁(はり)状の構造物(=カンチレバー)に、気体分子が当たる際、気体分子の重さに応じて構造物のたわみ方が異なるというもの。たわみ方の違い(変形量)で分子量を測定、すなわち、質量分析が実現できるというものだ。NIMSは「当たり前にも思えるこの原理は、これまで全く報告されておらず、従来よりも極めて小型で安価な質量分析装置を実現できる画期的な発見と考えられる」とする。

 研究グループでは実際に、シリコン製のマイクロカンチレバーや紙製の名刺を用いて、そこに気体を吹き当てた時に生じる変形量が、気体の分子量によって異なることを確認したという。

■名刺で分子量が分かった!

 まず、名刺を用いた実験は、手で持った名刺に窒素やアルゴンを一定流量で吹きかけ、変化量(たわみ)を測定。その変化量をプロットしたところ「解析解とよく一致していることが分かった」(NIMS)と結論付ける。

■シリコンデバイスでも確認

 髪の毛ほどの太さのシリコン製マイクロカンチレバー(MCL)を用いた実験は、常温、常圧下でさまざまな気体試料(ヘリウム、窒素、空気、アルゴン、二酸化炭素)を一定流量で吹きかけ、その際に生じる機械的な変形量が、特有の値となることを確認した。

 さらに、流体力学、熱力学、構造力学を組み合わせることで気体の分子量とカンチレバーの変形量との関係を表す式を導き出すことにも成功した。研究グループは、こうした質量分析法を、「流体熱力学質量分析(Aero-thermo-dynamic Mass Analysis:AMA)と命名した。

 今回の実験では、MCLのわずかな変形量を測定するために特殊な顕微鏡を使用したが、「物理的な変化に応じて電気抵抗が変化するピエゾ抵抗などをMCLに組み込むことで、顕微鏡を使うことなく電気的に変化量を測定できる」(NIMS)とし、将来的にスマートフォンなどモバイル機器に搭載可能なレベルの小型質量分析デバイスの実現が期待できる。

■窒素と空気の違いも分かる識別能力

 開発した新手法の気体識別能力は、分子量の差が1g/molに満たない窒素(28.01g/mol)と空気(28.97g/mol)でも両者を明確に区別できるレベルにあるとする。

 また、新手法は気体試料を対象にした質量分析法だが、「液体試料でも気化することによってその分子量を決定することが可能」とし、実際にペンタン、ヘキサン、ヘプタンという室温で液体状態の3種類の分子を気化させ、分子量を算出できることを実証している。

■液体も気化させれば大丈夫

 なお、イオン化を伴う従来の質量分析法では、同じ分子量で構造が異なる分子を見分けることができるが、新手法は分子量の情報のみしか得られず、構造を見分けることはできない。

 NIMSでは「新手法をモバイルデバイスへ実装すれば、個人レベルでも利用可能な質量分析器が実現し、それに伴う爆発的な需要と、従来用途にとどまらない多様な用途展開が期待される」としている。

最終更新:7月15日(金)9時45分

EE Times Japan

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