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障害者向けに著作物の変換認める「マラケシュ条約」ネットで絶賛…日本でも必要?

弁護士ドットコム 7月15日(金)9時54分配信

視覚障害者などえが著作物に触れることができるよう、出版物を点字やオーディオブック、電子書籍といったフォーマットに変換して提供することを著作権保護の例外とする「マラケシュ条約」が9月30日に発効する。

世界知的所有権機関(WIPO)によると、条約の発効には20カ国が批准が必要だったが、6月30日にカナダが批准したことで条件が整った。日本はまだ条約を批准していないという。

ネット上では、「素晴らしい規制緩和」「情報格差を埋める取り組み」など絶賛する声が相次いだ。一方で、「日本の現状はどうなっているのか」と、日本における障害者向けの著作物の取り扱いを気にする声もあった。

「マラケシュ条約」が発効することにはどんな意義があるのか。日本では、出版物などを点字、オーディオブックなどに変換して公表することは、著作権法上どのように扱われているのか。著作権の問題に詳しい雪丸真吾弁護士に聞いた。

●日本では、障害者のために著作権を制限することが既に実現

「日本はまだマラケシュ条約を批准していませんので、条約が発効することが、直ちに日本に影響を与えることはありません」

雪丸弁護士はこのように述べる。日本の法制度の現状はどうなっているのか。

「実は日本の著作権法には、現状既に第37条及び第37条の2という条文が用意されており、障害者の方のために著作権を制限することが実現されています。

たとえば、37条3項では、視覚障害者の方が利用できるように、公表された著作物の文字を音声に変更したり、『利用するために必要な方式により、複製し、又は自動公衆送信(送信可能化を含む)を行うことができる』と定められています。37条の2は聴覚障害者の方のための規定です」

障害者が利用できるように著作物をオーディオブックや点字に変換することは、著作権の侵害にはならないということだ。すでにこうした法整備がされているということは、日本がマラケシュ条約を批准する必要がないということだろうか。

「そうとは言い切れません。

マラケシュ条約では、視覚障害者に加えて、身体障害で読書をするために書籍を保持したり、手で扱うことができなかったりする人や、目の焦点を合せたり、目を動かすことができなかったりする人も保護の対象に含まれています。

現行著作権法よりも保護対象が広く、この点に改正の必要性を見出すことはできるでしょう。

ただ、日本は2009年の改正で大幅な拡充がなされた経緯もあり、今般のマラケシュ条約発効を受けて同条約の批准や、著作権法の改正が急ピッチで進んだりするといった情勢ではどうもなさそうです。

なお、2010年には、関係当事者間の合意で『図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン』(http://www.jla.or.jp/portals/0/html/20100218.html)が作成されました。

この別表1※では、著作権法第37条3項により複製された資料を利用できる『視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者』として、次のような方たちが広く含まれることになっています。

こうしたことからすれば、日本では、マラケシュ条約を実質的に既に実行していると評価することも可能かもしれません」

雪丸弁護士はこのように述べていた。

※別表1

視覚障害、聴覚障害、肢体障害、精神障害、知的障害、内部障害、発達障害、学習障害、いわゆる「寝たきり」の状態、一過性の障害、入院患者、その他図書館が認めた障害



【取材協力弁護士】
雪丸 真吾(ゆきまる・しんご)弁護士
著作権法学会員。日本ユニ著作権センター著作権相談員。慶応義塾大学芸術著作権演習I講師。2014年2月、実務でぶつかる著作権の問題に関する書籍『Q&A 引用・転載の実務と著作権法』第3版(中央経済社)を出版した。
事務所名:虎ノ門総合法律事務所

弁護士ドットコムニュース編集部

最終更新:7月15日(金)11時51分

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