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生前退位は改憲論議に影響も

ニュースソクラ 7月15日(金)12時20分配信

なぜ、摂政制度の活用でなく生前退位なのか

 NHKが13日19時前に「天皇陛下が生前退位の意向を漏らされた」と報じたのをきっかけにメディアは一斉にこの事実を報じている。宮内庁は直ちに次長が公式に否定し、後から長官も否定している。しかし、「天皇陛下がの政治発言をした」と受け取られないようにするための「建前」としての否定とメディア各社は判断しているのだろう。

 82歳とご高齢で、公務の削減が取りざたされていた。まじめなご性格で手抜きができない方と伝わってきているだけに、「早くご意向に沿った制度改正を進めてさしあげるべきだ」というのが多くの国民の素直な感情といっていいだろう。
 
 生前退位は、江戸時代の光格天皇以来200年以上なかった。だが、大正天皇の時に後の昭和天皇が摂政としてすべての天皇の職務を代行していた事例はある。摂政制度により、いまも皇太子さまが天皇陛下の仕事を全面的に引き継ぐことは、皇室典範の簡単な改正だけで可能だ。日本国憲法も皇室典範に基づく摂政の制度を規定している。

 皇室典範は、天皇が成年に達していない場合や、「精神もしくは身体の重患または重大な事故により、国事に関する行為をみずからすることができない」時には摂政を置けると定めている。天皇陛下の健康状態は重患とはいえないだろうから、その部分の皇室典範の改正は必要だが、生前退位の制度を設けるよりは簡単な改正になる。

 13日夕のメディア各社の報道では、皇室典範を改正すれば生前退位の制度を設けられるとしているようだが、摂政制度が憲法に定められていることを踏まえると、天皇制の根幹に係わる問題であるだけに、憲法に規定する必要があるとの見方もでてくるだろう。石原慎太郎氏が民放BSで「これは憲法問題になる」と困惑気味に語ったと報じられてもいる。

 天皇陛下が摂政制度の活用でなく生前退位を漏らされたのは、なぜだろう。推測するほかないが、高齢とはいえ健康な天皇陛下がおられるなかで、皇太子さまが摂政になられることは、お二人の関係があいまいになりかえって混乱されると考えておられるのではないか。だが、結果的に、天皇陛下の望まれる「生前退位」は憲法論議に大きな一石を投じると考えられる。

 天皇制を振り返ると、生前退位は天皇の意思のみで行われてきたわけではない。その時々の権力者が、自分に都合のよい天皇を据えるために、退位を迫ったと思われる例が数多い。天皇親政を打ち立てた大日本帝国憲法が、生前退位の制度を設けていないのは、ひとつには天皇親政を強化するためだったと理解できる。

 政治権力を持たない象徴天皇制度の下では、こうした権力の問題はあまり深く考慮すべきではないだろう。だが、いままさに改憲論議が始まろうとするなかで、生前退位を憲法に定めるかどうかという議論になるとすれば、その他の事項の改憲論議への影響は非常に大きい。天皇陛下がご高齢であることを考えると、最優先の改憲課題になるともいえなくもないからだ。

 天皇陛下が提起された生前退位の問題は、陛下の意図とは別に、非常に大きな政治問題であるともいえるのではないだろうか。

■土屋直也(つちや・なおや) ニュースソクラ編集長
日本経済新聞社でロンドンとニューヨークの特派員を経験。NY時代には2001年9月11日の同時多発テロに遭遇。日本では主にバブル後の金融システム問題を日銀クラブキャップとして担当。バブル崩壊の起点となった1991年の損失補てん問題で「損失補てん先リスト」をスクープし、新聞協会賞を受賞。2014年、日本経済新聞社を退職、ニュースソクラを創設

最終更新:7月15日(金)12時20分

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