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伊集院静氏が導く定年後の生き方「不運と思うな」

東スポWeb 7月16日(土)10時3分配信

 不運と思うな――。伊集院静氏のベストセラーシリーズ「大人の流儀」最新刊にはこう銘打たれている。思わぬ出来事に遭遇すると誰もが物事を運・不運で捉えたくなるが、我々はその感情とどう付き合えばいいのか。今回は、本紙読者への警鐘も含め、特に年齢を重ねた男性へ向けて語ってもらった。

 ――人は何歳になっても「どうして自分だけがこんな目に遭うんだろう」と思いがちです

 伊集院:若い人だけじゃないよな。例えば、定年退職した人だってそうだ。今の時代は、何かしようとしても退職金を自由に使えるわけじゃない。カミさんや子供が持っていっちゃうんだから、ラクができるようにはならない。「なんでこんな安いゴルフ場を探さないといけないんだ」「酒飲むのに、どうして安い店に行かないといけないんだ」とか…。

 ――家でものんびりできません

 伊集院:カミさんに「掃除するからどいて」「近所の人が来るからどっか行ってて」と言われるわけだ。そのとき初めて自分の居場所がないことに気付く。そして、徐々に文句ばっかり言うようになる。その中の一番いけない文句が「なんで俺はこうなったんだ」「なんで俺だけがこんな目に…」なんだ。それがしまいには「もしかして運がなかったってことか?」になる。

 ――分かるような気がします

 伊集院:すぐそうなるんだよ。大して考えなくても、そうなるの。でも、「不運だったのかな」って思って居酒屋に行く男と、例えば同窓会で会った同年代に刺激を受けて「あいつがあんなことやってたから俺も考えてみよう。何かやってみよう」と思って飲みに行くのとは、実は酔って外に出たときに相当な差がある。どうしようもない酔っ払いと、どうにかなる酔っ払い。同じ酔っ払いでも違うんだ。

 ――著書にも「己を不運と考えた瞬間から生きる力が停滞する」とあります。なぜ不運と思うのはダメなのでしょう

 伊集院:「不運だ」ってことは、ある結論に見えるんだよ。ひと言で終わってしまう。「運がねえな」って思ったところには出口がない。どん詰まりだ。いったん「不運だな」と考えたら、どんな状況にも対処できなくなるし、そこから抜け出せなくなるから、「いや待て待て」「不運とは思わない方がいい」という考え方をした方がいいんだよ。東スポの読者が大好きな賭け事だって同じだろう?

 ――どういうことでしょう

 伊集院:長く続けられるやつは、自分で出口を作ってるんだ。賭け事っていうのは何かの拍子に「これは当たる」「間違いない」って思うことがあって、どこかから金を引っ張ってくる。それで負けると「俺って運がねえのかな」ってなるの。でも、負けると思ってないからそうなるわけで、長く続けられるやつは、自分の中で「当たることもあるし、当たらないこともある」という考え方をする。「こういうこともあるさ」という感情をうまく作れる。

 ――出口ですね

 伊集院:そう。あと、ギャンブルが長続きするやつは、「この前の(負け分)を取り返す」という発想もしない。これをさっきの人生に置き換えると、定年前の肩書だとか、いろいろと持っていたものを「取り返そう」と思うから「(取り返せないのは)不運だ」となるわけだ。逆に、「もともと俺は、何にも持ってなかった」「就職する前には何もなかったんだから」ってところに戻れたら何でもできる。「ゼロに戻っただけ」だと考えればいいんだ。ゼロっていうのは運不運がないものだから。

 ――達観すべし…ということでしょうか

 伊集院:いや、ちょっと違うな。年を取って道徳心や正義感をよりどころにすると良くない。例えば、風俗に行って、「どうしてこんな人が現れたんだろう」「写真の人と違う」ってことがあるだろう? そういうときに「違うじゃないか」と言えない人が多いんだよ。

 ――言ってしまうと相手の女性がかわいそうですから…

 伊集院:その変な道徳心っていうのが一番いけないの。道徳心が裏切られたとき、人は「不運だ」って言い始めるんだ。だから、定年した人は風俗行っても「この女は違う」って言わないとダメ。若いやつと違い、一生懸命働いてきたあなたにはそれを言う権利がある。道徳心なんてくそくらえという発想とパワーで生きていってほしい。居酒屋で飲むにしても、隅で静かにしてるんじゃなく、大きな声を出さなきゃ。そうじゃなきゃ、年寄りは空き家みたいになってしまう。

 ――空き家ですか

 伊集院:今、日本中に空き家があふれているのは、潰したらお金がかかるからだろう? それと同じだよ。元気がなくて生産性のあることをしないような年寄りは空き家と同じ扱いを受けることになる。「おじいさんは人間としては機能していないけど、潰すとお金かかるから…」なんてな。そうならないためにも、ヘタってちゃダメだ。若者や女を注意できるぐらいじゃないと。特に東スポの読者は危ないんだから。

 ――東スポの読者が?

 伊集院:東スポを読みながら、「面白いなあ」「こんなことがしたいなあ」と思っていたのに、年を取って「やっぱり手に入らないじゃないか」ってなったとき、男はガクッと落ちるんだよ。いろいろなことに無関心になってしまう。東スポから夢と希望をもらってきた人は本当に危ないから、ヘタらないように気をつけなきゃな。

☆いじゅういん・しずか=1950年山口県生まれ。CMディレクターなどを経て、81年に作家デビュー。91年「乳房」で吉川英治文学新人賞、92年「受け月」で直木賞、94年「機関車先生」で柴田錬三郎賞、2002年「ごろごろ」で吉川英治文学賞受賞。現在も小説、エッセーを精力的に執筆している。シリーズ累計143万部を突破した「大人の流儀」の第6弾「不運と思うな。」が先週発売されたばかり。このたび、シリーズ第5弾までが電子書籍化された。

最終更新:7月16日(土)10時17分

東スポWeb

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

斬首動画が何百万回も再生されてしまう理由
昔は街の広場で、現代はYouTubeで。歴史を通じ、公開処刑には必ず人だかりがつきものでした。人が処刑というものを、恐ろしく不快に感じながらも、つい気になって見てしまうのはなぜか。フランシス・ラーソンが人間と公開処刑の歴史、中でも斬首刑に焦点を当てて解説したこのトークは、気分の良い内容ばかりではありませんが、同時に興味をそそること間違いないでしょう。