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「長時間労働では人は病まない」2つの理由

ZUU online 7月16日(土)17時10分配信

「精神障害に関する労災申請数が過去最多」--。

6月24日に厚生労働省が公表した「過労死等の労災補償状況」の中に、精神障害の労災補償状況という報告がある。これによると、2015年度の精神障害に関する労災申請件数が、1515件と過去最多を記録したそうだ。

過労死や精神障害の問題となると「長時間労働」というワードが当たり前のように頭に浮かぶ。実際、厚生労働省の定める精神障害の労災認定要件には労働時間数について細かく基準が記されており、長時間労働が精神障害の大きな要因の1つとみなされていることが分かる。

そこで今回は長時間労働と精神障害及び過労死の関係について明らかにする。

■分岐点は1998年 自殺者数にも大きな変化

労働時間について、実は厚労省の統計では「一般労働者(パートタイム以外の者)の年間総実労働時間」はここ20年間変わっていない。「ブラック企業」という言葉がよく聞かれるようになったここ数年、違法残業に気をつける風潮になっていることを考えると、以前の方が労働時間は長かったと考えるのが自然だ。

しかし一方で自殺者数の推移を見ていくと、1998年に大きな変化が起きている。勤務問題が原因の一つとされる自殺者数が、前年の1.5倍に跳ね上がり、翌年以降も同程度の高い水準で推移しているのだ。労働時間に大差がない以上、原因は他にある。

1998年には何があったのだろうか。この年は実質GDP成長率がマイナスになり、現金給与総額増減率も初めてマイナスになった年だ。さらに完全失業率も前年から跳ね上がり、非常に高い数値を記録している。「リストラ」という言葉をよく耳にしたのもこの頃。終身雇用の崩壊とかつてのように上がらない賃金。多くの人が、衣食住に困らず、家族を養うといった、安定した当たり前の生活を描けなくなった年と言える。

■働くこと自体が強いストレスとなる

モチベーション理論として有名なマズローの欲求5段階説でみると、前述のような経済状況では、生理的欲求や安全欲求といった低次の欲求が満たされなくなる不安を感じる。この状態では人はモチベーションなど上がらず、働くこと自体が強いストレスとなる。

ここで初めて長時間労働が関係してくる。仕事が強いストレスになっている状態に長くさらされるほど心理的負荷は高くなり、結果、精神障害や過労死を引き起こすリスクも上がるのだ。また、強い心理的負荷は、判断力を奪う。自殺者が急増したのは、そのせいだろう。

■精神障害を引き起こすもう一つの問題

長時間労働自体ではなく、賃金や生活への危機感が大きな心理的負荷になることは分かったが、もう1つ、仕事において大きなストレスとなるものがある。それは人間関係だ。

冒頭で挙げた、精神障害の労災補償状況をよく見ていくと、「1ヶ月に80時間以上の時間外労働を行った」「2週間以上にわたって連続勤務を行った」といった長時間労働に該当するケースの労災認定率は確かに高い。

全体の認定率が36.1%であるのに対し、この両ケースはどちらも65%を記録している。しかし、精神障害を発病した理由として申請を受理し、審査された件数自体は実は少なく、合わせても全体の1割に過ぎない。

最も多かった理由は人間関係である。「ひどい嫌がらせ・いじめがあった」「上司とのトラブル」「同僚とのトラブル」「部下とのトラブル」合わせて、実に全体の35%を占める。それぞれ労災認定率は39.7%、8%、4%、10%と、嫌がらせのケース以外はかなり低くなるが、あくまで労災と認定されづらいだけで、多くの労働者にとって、長時間労働よりも職場の人間関係の方が、より強いストレスとなっているのは明白である。

ちなみに、再びマズローに当てはめるなら、職場の人間関係は、これも低次の欲求の一つとされる「社会的欲求」に当たるものだ。低次の欲求が満たされない状況では、やはりモチベーションは上がらずストレスになる。

いかがだろうか。こうして見ると、長時間労働自体は大きなストレス要因にはなっていないことがよく分かるのではないだろうか。長時間労働は、生活の不安や人間関係のトラブルと合わさることで、初めて大きな問題となる。逆に、生理的欲求や安全欲求、社会的欲求が満たされていれば、多少労働時間が長くても、得てして人は意欲的に働けるものだ。

長時間労働を勧めるつもりはない。法で定められた範囲で収めるべきだ。しかし、企業が従業員のメンタルヘルスに取り組むのであれば、単に労働時間を管理するだけでなく、従業員が安心して働ける環境づくりのため、まずは待遇面や人間関係の見直すことをお勧めしたい。

藤田大介 DF心理相談所 代表心理カウンセラー 

最終更新:7月16日(土)17時10分

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