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テスラ・モデルSは「人体実験自動車」なのか? 問われるメーカーの企業倫理

ZUU online 7/17(日) 16:10配信

自動運転車が事故を起こすーー今年5月、米国でテスラモーターズ「モデルS」のドライバーの死亡事故が発生したことは記憶に新しい。今月6日には、日本の国土交通省も米国の事故を受けて「現在実用化されている『自動運転』機能は、完全な自動運転ではありません」との見解を発表し、注意を喚起する事態となった。

読者の中には、国交省の見解に驚かれた人もいることだろう。自動運転が「完全な自動運転ではない」とは、どういうことなのだろうか。

■なぜ、自動ブレーキシステムが作動しなかったのか?

モデルSの死亡事故は、フロリダ州を縦断するハイウエイで発生した。「オートパイロットモード」で直進中のモデルSが、対向車線を左折してきたトレーラーと衝突し、ドライバーが死亡したものである。

6月30日の米運輸省発表によると、死亡事故を起こしたモデルSには長距離超音波センサーが12個搭載されていた。センサーは周囲360度にわたって半径4.8メートル以内の物体を感知することが可能とされている。

モデルSには長距離超音波センサーに加えて、フォワードレーダーやフォワードビューカメラも搭載されていたが、晴天の強い日差しがトレーラーの白いボディを認識できず、自動ブレーキシステムが作動しなかったと指摘されている。

■いまさら「自動運転」は「完全自動運転ではない」と言われても…

ちなみに、オートパイロットモードは、米国運輸省道路交通安全局や日本政府が定める「ロボットカーの自動化レベル」で、全5段階(0~4)の上から3番目となる「レベル2」に定義されている。

レベル2とは「加速・操舵・制動から2項目以上をドライバーに代わり、調和して自動的に行うシステム」と定義づけられており、実質的には既存の「ステアリングアシスト付アダプティブクルーズコントロール」と同レベルとなる。

つまり、オートパイロットモードは名前こそ「オート」であるが、その実態は「完全自動運転」と呼ぶにはほど遠いシステムと言って良い。日本でもオートパイロットモードを「自動運転」と呼ぶ傾向にあるので、ユーザーが誤解するのも無理はないだろう。

そもそも、モデルSの死亡事故が発覚してから、後だしジャンケンのように自動運転は「完全自動運転ではない」と言われても納得できないユーザーも多いのではないか。モデルSの購入を検討していたユーザーなら、なおさらだ。

ようするに「自動運転」という言葉が適切ではないのだ。国交省が示す「完全な自動運転」にある「完全」の対義語は、欠如、不全、不完全である。不完全には「欠陥」という意味も含まれる。換言すれば国交省の「現在実用化されている『自動運転』機能は、完全な自動運転ではありません」との見解は、「現在実用化されている『自動運転』機能は、欠陥自動運転です」と遠回しに言っているようなものである。

さすがに不完全自動運転、欠陥自動運転に名称を変更しろとまでは言わないが、せめて「半自動運転」「準自動運転」といった誤解を招かない名称にすべきではなかろうか。

■モデルSは「人体実験自動車」なのか?

テスラモーターズによると、米国を走る全てのクルマは走行距離9400万マイルに1回の頻度で事故が起きているという。それに対し、今回のオートパイロット搭載車は1億3000万マイルを超えて初めて事故が発生したと強調している。

加えて、同社のイーロン・マスクCEOはオートパイロットについて「パブリックベータ版」であることを表明。同時に「ユーザーはハンドルから手を離さないことに同意している」とも主張している。

だが、海外メディアではベータ版で公道を走行させたことへの批判もみられる。見方によっては、人体実験を行っているかのような印象を受けるからだ。

テスラ車の大きな特徴として、無線通信によるソフトウェアアップデートが挙げられる。PCのように、アップデートを重ねれば、さまざまな機能の改善・追加が可能で、いわば従来の自動車にはない「進化する自動車」ともいえる。

しかし、ベータ版だからといって、人の命を奪って良いことにはならない。アップデートのために人命を犠牲にすることが許されるはずもない。PCやアプリのように不具合があれば、その都度改善すれば良いという問題ではないだろう。これは人命に関わる問題なのだ。

■国家戦略に誤魔化しがあってはならない

昨年10月、安倍晋三首相は「科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム」年次総会のスピーチで、日本を「イノベーションが次々と起こる国に変える」と述べ、2020年の東京五輪・パラリンピックまでに、自動運転技術の実用化と普及を実現させる方針を明らかにした。

自動運転技術は、日本の国家戦略の柱の一つであり、そうした文脈の延長線上に国交省の「現在実用化されている『自動運転』機能は、完全な自動運転ではありません」との見解がある点に留意すべきだ。

私たちユーザーは、これまで以上に自動運転技術の行方を厳しい目で見つめる必要がある。今回の事故は、テスラモーターズの企業倫理を問う出来事であると同時に、日本の国家戦略にも影響を及ぼしかねない重大な「事件」なのだ。(モータージャーナリスト 高橋大介)

最終更新:7/17(日) 16:10

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