ここから本文です

「夢の時代」が終わった今、ゲームアプリを作る意味 「ひとりぼっち惑星」開発者に聞く

ITmedia Mobile 7月18日(月)6時10分配信

 2016年6月、とあるゲームアプリの画像がTwitterで話題となった。アプリ名は「ひとりぼっち惑星」。ユーザーがTwitterに投稿したアプリの画像のリツイートや「いいね!」をきっかけに多くのTwitterユーザーがそのアプリ名を知ることになる。

【「ひとりぼっち惑星」のプレイ画像】

 結果、大量のアクセスによって、サーバがダウンするという非常事態に見舞われ、課金アイテムの販売も停止になるほどの盛り上がりを見せた。

 実際にアプリを遊んでみると、ユーザー間でメッセージをやりとりするのが特徴のアプリなのに、返信ができないという不思議な仕様になっているらしい。いつでも連絡とれるのが当たり前の時代に、なぜこんなにもひとりぼっち惑星が流行しているのだろうか。

●特徴は「世界観」「コミュニケーション」

 ひとりぼっち惑星の特徴は、その独自の世界観にある。内容は惑星に“ひとりぼっち”となったプレイヤーが、人工知能の「部品」を拾って「あんてな」を作り、宇宙から届く「こえ」を探すゲームである。と書いてもなかなか伝わりづらいだろうが、ストーリーを進めるとその他のユーザーとコミュニケーションが取れるようになる要素を持っている。

 ゲームのあらすじをざっくり紹介すると、最初のうちは、アプリ内であらかじめ決まった固定のメッセージを受信し、それによってストーリーが進んでいく。しかし、それ以降はゲームで用意されたメッセージではなく、このアプリを遊んでいる他のユーザーからのメッセージが届くようになる。つまり、ゲームの前半と後半で性質が変わるのだ。後半は、いわば「ボトルメール」のような機能を持ったゲームだといえる。

 アクション要素もなく、部品を集めるなどの簡単な操作が基本で、「ジンコウチノウ」「戦争」「宇宙」をはじめとしたSFを思わせるような言葉が多く出てくる。

 また、アプリ内で流れる音楽がさらにその世界観を引き立てており、アプリ内で“こえ”を受信したユーザーがTwitterに続々と投稿するなど、SNSとの親和性も高い。誰とコミュニケーションできるか分からない、魅力あるメッセージが届いても返信できない……そんなもどかしさがヒットした理由なのだろうか。

 冒頭の疑問に戻るが、なぜこんなにもひとりぼっち惑星が流行したのだろう。届いたメッセージに返信ができないシステムは常識的に考えると不満を呼びそうだが、そこにはどんな意味がこめられているのだろうか。

 編集部からアプリを制作したところにょり氏にアクションを取ったところ、「メールならば」とインタビューに応えてくれた。

●ひとりぼっち惑星が流行したのは「みんな寂しい」から

―― なぜ「ひとりぼっち惑星」を思い付いたのか、アイデアの発想となったものや影響を受けたものなどをおうかがいできますと幸いです。

▼ところにょり この手の質問は本当にいつも何時間も悩んでしまうのですが、数えきれない程たくさんのものからの影響が複雑に入り交じっているので、自分でもなんの影響でこれを作っているのかというのは把握できません(笑)。ただ、しいて挙げるとすれば、一人旅をして、人がまったくいないようなところで何もせず、じっとしているのが好きなので、そういった趣味嗜好が色濃く反映されているのは確かだと思います。

―― なぜ「ひとりぼっち惑星」がこんなにも流行したのでしょうか?

▼ところにょり やっぱり「みんな寂しいんだな」と思いました。どれだけSNSが乱立してコミュニケーション過多な時代になっても、常にいろいろな形のコミュニケーションを貪欲に求め続けていると言いますか、ひとりぼっち惑星では少なくともここ最近にはなかったコミュニケーションの形を提示できたと思うので、そういうのが時代に偶然合致したのかなと思います。

-----

 筆者は、ところにょり氏の中でアプリのもとになった特定の作品や過去の経験があるのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。

 確かに、SNSが乱立している今では、常にネット上で誰かに見られているような感覚がある。スマホの普及で、ネット上の付き合いがさらに増え、SNS疲れやスマホ依存症に悩むユーザーもいるだろう。

 度合いは人それぞれかもしれないが「誰でもいいから匿名で悩みを聞いて欲しい」「適度な距離のあるコミュニケーションが欲しい」など今までとは違う形で付き合いを構築したい人種は少なからず存在するように思った。

●シンプルで気兼ねないコミュニケーション

―― 「メッセージに返信できないシステム」にしたのはなぜですか?

▼ところにょり 基本的に、僕は自分の好みと合致する人だけに向けてゲームを作っています。なので、僕のゲームの全ての要素は「そういうのが好きだから」で説明することができるのですが、「返信できないシステム」のどこが好きなのかというと、それが最もシンプルで気兼ねないコミュニケーションだと思うからです。

 受け取っても返信できず、送っても反応を期待できない場所なら、変な人に絡まれることもないですし、楽しくない人と楽しげに話す必要もなく、ずっと静かにひとりぼっちでいられます。ただ静かに誰かのこえに耳をすませて、こっそり泣いたり笑ったり、たまには怒ったりしながら、気が向いたら誰かに向けて「こえ」を送る。その「こえ」に頼んでもいない批評が返信されてくることもなく、ただ静かにどこかへと漂っていく。僕はこれだけでも十分なコミュニケーションだと思いますし、個人的にこれ以上のものは相手にもよりますが、だんだんと辛くなってくるので、そういった価値観が「返信できないシステム」につながっているのだと思います。

-----

 ところにょり氏はひとりぼっち惑星の「返信できない」「送っても反応を期待できない」この2つのシステムがあるからこそ「ずっとひとりぼっちでいられる」という。

 リアルな場であれば、何かを話したら相手の反応が欲しいはずだが、アプリ内ではこれとはまったく逆のアプローチをアプリ内で行っている。このあたりに、筆者はところにょり氏の価値観が強くアプリ内で反映されているように感じた。

●企業や個人関係なく、面白ければ“関係ない”

―― 課金システムについて、ご制作したゲームの中でどのように捉えていますか?

▼ところにょり 課金システムに対してこれと言った考えはないのですが、少なくとも個人が企業と同じことをするのはあまりにもつまらないとは思っています。個人的に企業の最大の足かせは「大金を稼がないといけない」という点だと考えていて、そのために無尽蔵にユーザーに課金させるようなシステムを構築することが最重要のテーマになり、「自由なゲーム制作」なんていうのは後回しにせざるを得ない状況になってしまっていると思います。

 個人や少人数で開発しているのなら、わざわざ企業と同じ足かせをはめる必要もないですし、大金を稼がないといけないという点を取っ払った「自由なゲーム」が作れると思います。また、大手企業のゲームが多く目に付く時代には、むしろそういったゲームのほうが光って見えるのではないかと感じています。

-----

 ところにょり氏は課金システムについて「企業と同じことはしない」と話す。

 個人と企業では、ゲームを開発する上でどこを重要視するのか、そもそもテーマが違うし、かけられるリソースも全く変わってくる。ところにょり氏は個人であるならば「企業と同じ足かせをはめる必要はない」という。

●「夢の時代は終わった」ゲームアプリ業界

―― niftyさんのインタビューで「個人開発者に寛容な社会に少しずつ変わっていけばいいなという希望を持っています」というコメントがありました。

▼ところにょり 個人開発に限れば、スマホゲームはまだまだ発展途上にあると思います。これからますます平凡な企業は淘汰(とうた)されて、企業にとってはつらい状況になっていくかもしれませんが、個人にとってみれば、まだまだやれることは開発者の数だけあるはずです。少なくともいえるのは、つまらないゲームでも大量にダウンロードされる「夢のような時代」はとっくの昔に終わっているということです。

 スマホゲーム界にいまあるのは、他のあらゆる媒体と同じように、面白ければ受け入れられるし、つまらなければ淘汰されるという、至極単純で当たり前な構造だけです。そして、その構造の中で個人開発者が生き残るには面白いゲームを作るしかないし、面白いゲームの判断基準は企業と同じであってはならないと思います。企業には作り得ない、個人でしか作り得ない、その人にしか作り得ない作品を作っていく。当たり前の話ですがそれ以外にないと思いますし、僕自身もそうやってこれからも作っていきたいと思っています。

-----

 ところにょり氏に今のスマホゲーム界について聞くと「夢の時代は終わっているのでは」という。

 「面白ければ受け入れられる」「つまらなければ淘汰される」簡単なルールだが、企業と同じ判断基準では生き残っていけないという点は今後さらに加速していくのではないだろうか。

●“ひとりぼっち”になりにくい「現実」と「コミュニケーション」

 「LINE」などのメッセージツールを使うユーザーが増え、SNSをやるのが当たり前になった現代では、スマホによって人とずっとつながることが可能になった。しかし、スマホがあることで、ストレスやプレッシャーが増え、つながっていないといけない感覚に悩むユーザーもいる。スマホストレスを解消するために、スマホ断ちやSNS断ちをする人も出てきた。

 「煩わしい関係性は嫌だ」と思うのは誰もが同じ。だがその一方で、「完全にスマホを断つのは不安」という感覚も同時に残っている。そんな相反する要望に対して、“ひとりぼっち”なのに“どこかの誰か”とつながっているという答えを提示した点が、ひとりぼっち惑星が多くのユーザーに支持された理由ではないか。

 一見不便に見える「返信できない」という機能は、そう考えればむしろ必然であったともいえる。そして、こうしたゲームを生み出すことができるのは、足かせにはめられることのない個人制作者だけなのかもしれない。

最終更新:7月19日(火)11時51分

ITmedia Mobile