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若年層の経済格差と家族形成格差-増加する非正規雇用者、雇用形態が生む年収と既婚率の違い

ZUU online 7月18日(月)18時50分配信

■はじめに

近年、若年層を中心に非正規雇用者(*1)が増加している。非正規雇用者は正規雇用者と比べて年収水準が低く、その差は年齢とともに拡大する。また、20~30代の男性の年収と既婚率は概ね比例関係にあり、経済状況の違いは家族形成状況にも影響を及ぼす。

このような現状を背景に、政府は今年6月に「ニッポン一億総活躍プラン」の中で、「希望出生率1.8」の実現に向けた「若者の雇用安定・待遇改善」への取組みの方向性をまとめている。

本稿では、若年層の経済状況や家族形成状況について、改めて最新の数値で確認することで、雇用形態による経済格差はどのくらいあるのか、家族形成の壁にぶつかっている層はどれくらいいるのか等を把握し、若年層の雇用と家族形成に関わる課題をより明確化することを目的とする。

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(*1)本稿では総務省「労働力調査」と同様、会社・団体等の役員を除く雇用者のうち、「正規の職員・従業員」を正規雇用者、「パ-ト」や「アルバイト」、「労働者派遣事業所の派遣社員」、「契約社員」、「嘱託」、「その他」を非正規雇用者とする。
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■若年層の非正規化と年収格差

◆非正規雇用者の割合の推移~90年代以降、急増。

総務省「労働力調査」によれば、雇用者に占める非正規雇用者の割合は1990年代から上昇している。特に若年層で大きく上昇しており、2015年では15~24歳の男性44.6%、女性52.1%、25~34歳の男性16.6%、女性40.9%を占める。

この中で25~34歳の男性の値は比較的低いが、15年前と比べて3倍に上昇している。現在では家族形成期にある男性の6~7人に1人が非正規雇用という不安定な立場で働いていることは、未婚化・少子化が進行する中で大きな課題である。

一方、35~44歳では、男性は若年層と比べると非正規雇用者の割合は低いが、やはり1990年代以降、上昇傾向にある。女性はM字カーブ問題で言われるように、出産・子育てで一旦離職し、子育てが落ち着いてからパート等で再就職するケースも多いため、非正規雇用者の割合は以前から高水準だが、男性同様、やや上昇傾向にある。

なお、同調査では2013年から、より細かな年齢区分でデータを公表している。状況を詳しく見るために、5歳階級別の雇用者に占める非正規雇用者の割合を示す。

10歳階級別に見た傾向と同様、男性では年齢が若いほど非正規雇用者の割合が高い。また、女性では20代までは年齢が若いほど非正規雇用者の割合が高いが、25~29歳を底に30代以降は年齢とともに非正規雇用者の割合が高くなる。なお、直近3年間では、いずれの年齢階級でも横ばいで推移している。

◆世代別に見た非正規雇用者の割合~若い世代ほど同年齢でも非正規が多い、「世代効果」の負の影響

非正規雇用者の増加要因については、2000年頃から特に若年層に注目した報告が増えており、マクロ的要因として景気変動や労働需要の変化(*2)、個人的要因として生まれ育った社会階層や家庭環境(*3)などの影響が指摘されている。

マクロ的要因として、2008年の労働政策研究・研修機構の周氏による報告では、新卒時点の労働市場の状況が、その後のキャリアに継続的に影響を与える「世代効果」が指摘されている。

本稿でも「世代効果」に注目し、総務省「労働力調査」の最新値を用いて、生まれ年別に雇用者に占める非正規雇用者の割合を見ることで、世代(生まれ年)間の違いを確認する。つまり、年齢とともに非正規雇用者の割合は変化するが、世代によって、その変化に違いはあるのかを確認する。

男性の1981~90年生まれでは、雇用者に占める非正規雇用者の割合は15~24歳時点では44.3%、25~34歳時点では16.6%というように見る。その結果、男性では生まれ年が最近であるほど、つまり、若い世代ほど、各年齢階級における非正規雇用者の割合が高いことが確認できる。

女性では30歳前後で出産・子育てを機に離職するケースも多いため、男性とグラフの形状は異なるが、やはり若い世代ほど各年齢における非正規雇用者の割合は高い傾向がある。

つまり、生まれ年別に非正規雇用者の割合の推移を見ると、生まれ年が最近であるほど、新卒時点から非正規雇用者の割合が高く、年齢を重ねても非正規雇用者の割合は高水準で推移している。

よって、若い世代ほど始めから非正規雇用者として働き、そのまま非正規雇用者として働き続ける者が多いことになる。景気低迷が長らく続き、新卒一括採用が主たる日本の労働市場では、若い世代ほど、負の「世代効果」が働いている様子がうかがえる。

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(*2)周燕飛(2008)「若年就業者の非正規化とその背景:1994-2003年」、日本経済研究、NO.59、2008.7. 等
(*3)西村幸満 (2006) 「若年の非正規就業と格差~都市規模開格差、学歴間格差、階層間格差の再検討」、季刊社会保障研究、42、pp. 137-148. 等
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◆雇用形態別に見た平均年収~特に男性で年齢とともに差が拡大、若年非正規は年収300万円以下。

正規雇用者と非正規雇用者では賃金格差があることは各所で指摘されており、現在、政府は、不合理な待遇差を是正するとして、「同一労働同一賃金」の実現に向けた検討を進めている。

ここでは、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」の最新値を用いて、正規雇用者と非正規雇用者の年収差、及び年齢による変化を確認する。また、両者の比率をイメージしやすくするために、各年齢階級における非正規雇用者の割合も重ねて見る。

正規雇用者と非正規雇用者の年収差は、特に男性で大きく、その差は年齢とともに拡大する。男性の20~24歳では両者の差は70.4万円だが、45~49歳では332.9万円となり、正規雇用者の年収(645.6万円)は非正規雇用者(312.7万円)の2倍以上になる。なお、45~49歳の男性で非正規雇用者は同年代男性雇用者の8.6%を占める。

また、非正規雇用男性について見ると、20~24歳では同年代男性雇用者の39.2%を占め、平均年収は222.2万円である。25~29歳では非正規雇用者の割合は19.1%であり、20~24歳と比べて大きく低下する。

しかし、前項で見た通り、若い世代ほど各年齢階級における非正規雇用者の割合は高まるため、図表4の20~24歳の非正規雇用男性が25~29歳に成長する時点では、非正規雇用者の割合は現在の値を上回る可能性がある。

同様に考えると、正規雇用者と非正規雇用者で年収差が2倍以上ひらく45~49歳では、非正規雇用者の割合が現在は1割に満たないが、今後、拡大する可能性がある。

女性では、男性ほどではないが、やはり正規雇用者と非正規雇用者では年収差があり、年齢とともに、その差は拡大する。

なお、非正規雇用女性の年収は、最も多い35~39歳(234.8万円)でも250万円に満たない。なお、女性では新卒時点から非正規雇用者として働き続ける層と出産・子育てで離職後に非正規雇用者として働き始める層が混在することを考慮する必要がある。

◆雇用形態別に見た年収階層別の雇用者数分布~年齢とともに正規で2つの分布、ピークは高い位置へ

ところで、次節で詳しく示すが、男性では年収300万円あたりに家族形成の壁がうかがえる。その壁にぶつかっている層を推計するために、前段階として、収入階層別の雇用者数を確認する。

各年齢階級において、雇用形態ごとに所定内給与額(毎月きまって支給する現金給与額のうち、超過労働給与額を差し引いた額)階級別の雇用者数を見たものである。なお、数値は、各年齢階級における雇用形態別の所定内給与額の平均値であり、平均年収の推計で用いたものである。

男性の正規雇用者では、年齢とともに雇用者数のピークが所定内給与額階級の高い階級へ移動するとともに(20~24歳:20.0~21.9万円→35~39歳:28.0~29.9万円)、2つ目のピークがより高い階級(40~44.9万円)にあらわれる。よって、各年齢階級における所定内給与額の平均値より低い階級と高い階級に2つの雇用者分布ができるようになる。

なお、40代以降では、1つ目の雇用者数分布より、2つ目の分布の方が大きくなっていく。一方、非正規雇用者では、ピーク位置が正規雇用者より低い位置にあり、また、年齢が上がってもピーク位置は正規雇用者ほど動かずに10万円台後半で推移する(20~24歳:16.0~17.9万円→35~39歳:18.0~19.9万円)。

また、詳細に見れば、非正規雇用者でも正規雇用者と同様に、所定内給与額階級の比較的高い位置で2つ目のピークが成長していくのだが、正規雇用者ほど顕著ではない。

女性では、男性ほど顕著ではないが同様に、正規雇用者では年齢とともにピーク位置が所定内給与額階級の高い位置へ移動するとともに、2つ目のピークがあらわれる。

非正規雇用者でも、男性同様の動きが見られるが、女性では非正規雇用者が多いため、年齢とともに、正規雇用者の雇用者分布より非正規雇用者のものの方が大きくなる。

◆年収300万円未満層の人口・雇用者比率~20代男性263万人・雇用者の過半数、非正規では約8割

次に、年収300万円未満層を推計する。20~24歳の男性正規雇用者の平均年収(292.6万円)の推計で、所定内給与額の平均値(20.8万円)に年間賞与その他特別給与額を合わせたことを参考に、ここでは「所定内給与額階級20.0~21.9万円以下」を年収300万円以下と仮定する。

ただし、この仮定では、男性正規雇用者の所定内給与額と年間賞与その他特別給与額から推計した年収を参考にしており、男性非正規雇用者や女性では、男性正規雇用者と所定内給与額階級が同等でも、年間賞与その他特別給与額は少ない可能性がある。

その場合、実際の年収は男性正規雇用者で想定したものより少なくなる。よって、男性非正規雇用者や女性における年収300万円未満の層は、この推計で得た結果より、やや多い可能性がある。

以上を踏まえて、20~24歳の男性で年収300万円未満の雇用者は150万人で、同年代男性の正規雇用者と非正規雇用者を合わせた雇用者合計の74.9%を占めると推測される。雇用形態別に見ると、20~24歳男性の正規雇用者で年収300万円未満は83万人(同年代正規雇用男性の68.1%)、非正規雇用者では67万人(同85.5%)となる。

分かりやすさのため、正規雇用者と非正規雇用者を占める「所定内給与額階級20.0~21.9万円以下」の割合、つまり年収300万円未満と推定される層の割合を図示化した。

図を見ると、年収300万円未満層の割合は、正規雇用者より非正規雇用者の方が多い。また、男女とも20~24歳では正規雇用者でも7割程度を占めるが、年齢とともに低下し、45~49歳では男性は1割を下回り、女性でも3割程度まで低下する。

一方、非正規雇用者では、20~24歳では男女とも9割前後を占め、正規雇用者ほど年齢に伴って大きく低下するわけではないため、45~49歳でも男性は6割、女性は8割程度を占める。

■若年層の家族形成格差

◆男性の年収と既婚率の関係~年収300万円あたりの結婚の壁にぶつかる20~30代男性は約400万人

前節では、雇用形態による年収差や年収300万円未満層の規模を推計したが、実は男性では、雇用形態や年収の違いは経済格差のみならず、家族形成状況の違いにも直結する。

20~30代の男性の年収と既婚率の関係を見ると、両者はおおむね比例関係にある。

1500万円以上の高年収層では、年齢が若いほど逆に既婚率が低下するが、これは仕事が忙し過ぎて、まだ結婚を考えられない、あるいは、その高年収という状況から結婚相手を吟味しているといった可能性もあるのだろう。

1500万円以上の高年収層を除くと、男性の年収と既婚率は、ほぼ比例関係にある。両者で描く曲線は、年収階級の低い位置では緩やかな傾きを示すが、300万円台あたりから傾きが急になる。また、プロットしたように、年齢階級別の既婚率が、このあたりに重なる。

20~30歳代の非正規雇用男性の年収は300万円に満たなかったことから、これは非正規雇用者と正規雇用者の境目と考えられる。雇用が比較的安定している正規雇用者の割合が多くなると、既婚率が大きく上昇するのだろう。逆に言うと、不安定な雇用は未婚化の進行につながることになる。

なお、この年収300万円の壁にぶつかっている20~30歳代の男性は、合計398万人、同年代男性雇用者の34.8%を占める(*4)。

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(*4)図表の5歳階級の値から20~30代を合計した値に計算したもの
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◆雇用形態別に見た婚姻・恋愛の状況~20~30代非正規男性の既婚率は約5%、交際相手なしが8割

雇用形態の違いは、結婚の入り口である恋愛の状況にも影響を与える。

雇用形態別に20~30歳代の婚姻・恋愛の状況を見ると、男性では正規雇用者は既婚が27.5%、恋人ありが27.2%で、両者を合計すると54.7%となり、過半数にパートナーがいることになる。

一方、非正規雇用者は既婚が4.7%、恋人ありが15.3%で、両者を合計しても20.0%である。裏を返すと、20~30代の非正規雇用男性の8割にはパートナーがいないということになる。さらに、その8割の男性のうち約半数には交際経験もない。

なお、国立社会保障・人口問題研究所「第14回出生動向基本調査」によれば、既婚者の約9割は恋愛結婚である(*5)。つまり、男性では雇用形態の違いは、結婚の前段階である恋愛の状況にも影響しており、それが既婚率の差としてあらわれている。

一方、女性では、正規雇用者より非正規雇用者の方が既婚率は高い。これは、これまでにも述べた通り、子育て期の女性は一旦離職して再就職するケースも多いためだろう。なお、既婚と恋人ありを合計したパートナーがいる割合は、女性では正規雇用者の方が多いが、男性ほどの違いはない。

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(*5)既婚者の出会いのきっかけのうち、「見合いで」や「結婚相談所で」を除き、「職場や仕事で」や「友人、兄弟姉妹を通じて」、「学校で」、「街中や旅先で」、「サークル・クラブ、習いごとで」、「アルバイトで」、「幼ななじみ・隣人」の選択割合を合計した値。
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■おわりに

本稿では、若年層における雇用形態の生む経済格差や家族形成格差について見てきた。長らく続く景気低迷を背景に非正規雇用者が増加しており、若い世代ほど同じ年齢時点における非正規雇用者の割合は高まっている。

正規雇用者と非正規雇用者では年収差があり、特に男性では年齢とともに、その差は拡大する。男性では年収と既婚率は比例し、既婚率が上昇する年収300万円あたりに家族形成の壁がある様子がうかがえる。

本稿では、この壁にぶつかっている年収300万円未満層を推計した結果、20代男性で263万人(雇用者の54.6%、正規雇用者の45.2%、非正規雇用者の79.5%)、30代男性で135万人(同様に20.4%、14.5%、62.4%)、40代男性で88万人(同様に12.1%、7.5%、59.4%)が相当していた。

政府は、今年6月に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」の中で、「希望出生率1.8」の実現に向けて若者の経済的基盤の強化を図るとし、非正規雇用者の正社員転換や待遇改善の方向性を打ち出している。待遇改善策としては、同一労働同一賃金の実現や最低賃金の引き上げ、長時間労働の是正等の検討が進められている。

若年層の雇用環境の改善を考える上では、国の中期計画として位置づけられる「ニッポン一億総活躍プラン」の中に「若者の雇用安定・改善」が明示されていることは非常に意義深い。

また、厚生労働省の同一労働同一賃金に向けた検討会では、不合理な待遇差を是正するとして、基本給だけでなく各種手当についても議論がなされており(*6)、非正規雇用者の待遇改善に向けて大きな期待が寄せられる。

一方で、年収300万円未満の若年層が結婚に踏み切れない理由は、単に目の前の収入が違うということだけでなく、5年先、10年先の雇用の安定が見えないことがあるだろう。

「ニッポン一億総活躍プラン」では「非正規という言葉を無くす決意で臨む」という強い表現も見られるが、若年雇用の改善に向けて、より実行性を高めるためには、「女性の活躍促進」で見られたような何らかの数値目標を設定し、現在の非正規雇用から安定した雇用への転換を促す政策も必要ではないだろうか。

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(*6)厚生労働省「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」
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久我尚子(くが なおこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員

最終更新:7月18日(月)18時50分

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