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「ですぞ」という語尾で掲示板にカキコしていた頃のこと

ITmedia PC USER 7月19日(火)6時10分配信

 2000年頃の個人ホームページには「掲示板」が設置されていた。訪問者が書き込みをして、管理人がレスをつけていくわけである。書き込みの口調は、現在のネットと比べると、牧歌的と呼べるほどに丁寧なものが多かった。例えば、当時の個人ホームページの掲示板で見かけた典型的な書き込みはこんな感じだった。

 「はじめまして。通りすがりの○○という者です。すてきなデザインのページですね。コラムも面白かったです。お気に入りにいれたので、今後もちょくちょくのぞかせていただきます」

 念のため解説すると、ここで言う「お気に入り」とはブラウザのブックマークのことである。「お気に入りにいれたので」というフレーズは、当時本当によく見た。今でいえば、Facebookの「いいね!」やTwitterでハートを付ける行為に近いかもしれない。それが相手に好意を示すための定番の方法だったのだ。

●「ですぞ」という語尾を採用する

 さて、2000年頃、私はネットを始めたばかりの高校生だった。私は高校生なりに「掲示板には丁寧な口調で書き込むべきだ」と考えていた。しかし同時に、「あまり堅苦しくはしたくない」とも考えていた。これは矛盾だった。

 矛盾は「工夫」によって解決されるものである。私は、普段の言葉遣いである「だぞ」に、丁寧な言葉遣いである「です」を合成して、「ですぞ」という語尾にすれば、「丁寧かつ元気」という言葉遣いができるんじゃないかと考えた。それが私の「工夫」だった。なので私は「ですぞ」という語尾をひっさげて、チャット仲間の掲示板に書き込みをしてまわっていた。

 例えばあるとき、仲間のページを見ると、デザインが少し変わっている。すると早速掲示板に行って、

 「新しいデザイン、すごくいいですぞ~!」

 いま、書いていて耳が熱い。ムックじゃないか。こんなものはただのムックだ。工夫の結果がポンキッキ。もう少し、何かなかったものか。

 ちなみに、当時は掲示板に書込むことを「カキコ」と呼ぶ習慣があったが、私はその言い回しは恥ずかしいと思っていた。だからカキコとは言わなかった。「ですぞ」は平気なのに、「カキコ」は恥ずかしいのだ。今じゃどっちも同じだと思うが。「カキコとか言うのは恥ずかしいですぞ~!」ということだろうか。

●冷んやりとした経験で学習する

 あるとき、知り合いのページのリンクをたどっているうちに見知らぬホームページにたどりついた。センスのあるデザインで管理人の日記も面白い。プロフィールを見ると二十代後半の男がやっているようだった。当時の自分よりも十歳ほど年上だ。「仲良くなりたい」と思った私は、早速普段通りの口調で掲示板に書き込んだ。それは、

 「このページ、すごくセンスがいいですぞ~!」

 という一文で始まり、

 「また来ますぞ~!!!」

 で終わる、熱烈な書き込みだった。

 数日後、レスを楽しみに掲示板を見たら、ほかの人たちの書き込みには丁寧にレスを返している管理人が、私の書き込みだけは見事に飛ばしていた。それを見た私は、はじめて「あれっ……?」と思った。何度読み返しても管理人は私の書き込みを存在しないものとして扱っており、元気いっぱいの「また来ますぞ~!」は、むなしく放置されている。

 「また来てほしくないのか……?」

 私はほかの書き込みを冷静に見た。そして、ほかの人々は淡々と会話しており、ビックリマークを1つも使っていないこと、ましてや「ですぞ~!」などと言っている人間は一人もいないことに気がついた。ツツーッと汗が背中を流れた。

 要するに、掲示板で無視されることで自分の口調のおかしさに気付いたわけだが、当時のネットには「炎上」という派手な現象がないかわりに、こういう「冷んやりとした無視」が結構あった。そんな経験を繰り返して、適切な態度を学習していったように記憶している。これは、口の聞き方を知らない若者がいきなり炎上して四方八方からボコボコにされるよりは、ずいぶんマシな学習方法だと思う。

●言われる側で体験する

 余談だが、変なテンションで掲示板に書き込むこともなくなった大学生の頃、友人とチャットルームで雑談していたら、見慣れない名前の人が入室してきたことがあった。その人は開口一番、

 「いえ~い! よろで~す!!!」

 と言ってきた。私は即座に「あっ……」と思った。「この感じ、見たことある……!」と思った。数年前の自分の「また来ますぞ~!!!」を、今度は「言われる側」で体験したのだ。「確かにしんどい」というのが正直な感想だった。初対面で絶叫されても困ってしまう。住んでいるところを聞いただけで「名古屋~~!!!」と返ってくるし。

 その人はなんだかんだでチャットの常連になり、徐々に口調は「どうもー」というようなフラットなものに変わっていったんだが、後から聞いてみると、やはりネットを始めたばかりで、最初はどんなテンションでいけばいいのか分からなかったらしい。その結果、常に絶叫しているような妙なキャラになってしまったのだという。あの頃は、こういうことがよくあったのかもしれない。

<ライター:上田啓太>
1984年生まれのブロガー。京都在住。15歳のときにネットに出会い、人生の半分以上をネットとともに過ごしてきた男。

最終更新:7月19日(火)6時10分

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