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前代未聞「ドラクエ遠足」、その実態は……? ネットの高校「N高」初のチャレンジに先生びっくり

ITmedia ニュース 7月19日(火)7時10分配信

 「先生、おやつを持ってきてもいいですか?」「ざわざわしな~い、整列!」――ごく一般的な遠足での会話に聞こえるかもしれないが、これらは“リアルの会話”ではない。カドカワが4月に開校した通信制高校「N高等学校」(N高)が、オンラインゲーム「ドラゴンクエストX」の世界で実施した“ドラクエ遠足”での一幕だ。

【遠足中の画像】モンスターと戦う生徒と先生たち

 「普通の高校と同じように、ネットでも友達をつくってほしい」。通信制高校にありがちな友達づくりの難しさを解消しようと、ドラクエ遠足は生まれた。一般的な学校行事になぞらえ、学期初めに初対面の生徒たちが交流を深める「遠足」をネットでも再現しようという試みだ。

 ドラクエ遠足は、舞台がゲームということを除けば、実際の遠足と近いプログラムになっている。担任の教師が生徒たちを引率し、フィールドを歩き、モンスターを倒しながら、目的地「ヴェリナード城」を目指す。生徒たちは、スクウェア・エニックスが用意した“N高風”の制服アイテムを着用。それ以外は“特別扱い”せず、一般のプレイヤーと同じサーバで冒険に出掛ける。

 ヴェリナード城に到着すると、班ごとに別のダンジョンやカジノに出掛けたり、クラスメート全員で鬼ごっこを楽しんだり――と、多数のレクリエーションを用意。ネット上では「うらやましい」「参加したい」などの声が上がっていた。

 一方「ネットで遠足をして、何が楽しいんだ?」「生徒たちが勝手な行動をするのでは?」など、批判的な意見もあった。果たしてその実態は――6月に実施した初のドラクエ遠足を引率した、ばさし先生、よこしゅ~先生、ナカナヤン先生(いずれもゲーム中の名前)に裏側を聞いた。

●「え、無理でしょう? これって遠足と呼ぶの?」

 「え、無理でしょう? これって遠足と呼ぶの?」「遠足にもデジタルの時代が到来したのかと困惑した」――遠足をドラクエで行うと聞いて、先生たちは不安を隠せなかったという。「ほとんどゲームに触れたことがなく、生徒のほうがレベルもやり込み具合も上だと思ったので、本当に引率できるか不安だった」(ばさし先生)。

 だが、遠足の引率も業務の1つ。道中でモンスターに負けないように、業務の合間や帰宅後の時間を利用し、どの先生もレベル上げにいそしんだ。レベル上げを効率よく行うために、もらえる経験値が多い『メタル迷宮』などの“お得な情報”を先生同士で共有したという。

 事前に遠足ルートの下見をしたところ、予想以上に敵が強く、壊滅したパーティーも少なくなかったという。「もっとレベルを上げる必要があるし、無理な戦闘は避けるべきだと思った」(ナカナヤン先生)。

 そんな苦労のかいあってか、遠足前には「レベル上げやストーリーを進めるのが楽しくなった」(ばさし先生)という。「転職を繰り返してスキルを増やし、HP(ヒットポイント)やMP(マジックパワー)を上げて万全の状態で臨めるようにした」(ばさし先生)。

●生徒の反応に「心底かわいいな」

 遠足当日、現実と違って顔が見えない分、勝手な行動をする生徒もいるかと思いきや、どの先生も「生徒の動きがスムーズで、心配はいらなかった」と振り返る。「『グループごとに整列!』と言えば、きちんと4列に並んでくれた」(よこしゅ~先生)。

 「生徒たちの発言や動きを見ると、たとえゲームの中であっても、お互いが楽しむためにスムーズに進行したいという思いがあったのだと思う」(よこしゅ~先生)

 ばさし先生は「直接顔を合わせない分、初対面だとバーチャルの方が遠慮せずコミュニケーションできるのでは」と話す。ナカナヤン先生によれば、リアルではおとなしい生徒もドラクエ遠足では「ひゃっはー!」などの“はっちゃけた発言”があり、「素の一面を見ることができた」という。

 一方、集合写真を撮る際などに一般のユーザーが便乗して映り込もうとする一幕があり、ネットでは「めちゃくちゃ荒らされたらしい」などのうわさも出た。だが先生たちによれば、生徒から「N高のグループ以外が画面に映らないように設定する方法」を教えてもらい、さほど問題には感じなかったようだ。

 また、一般ユーザーが興味本位で近づいてきても「先生、ギャラリーが怖いです!(笑)」と軽く受け流したり、「先生、グループ内のチャットにしないと周りにコメントを聞かれているよ」とアドバイスしてくれたりする生徒もいたという。「生徒の反応や言葉に心底かわいいなと思った。リアルな遠足をしているようで、教師と運営側と生徒の間の信頼感が高まった」(よこしゅ~先生)。

●ネット起点で生まれる“リア友” 「友達づくりの入り口に」

 遠足を終え、生徒たちからは「思っていたより遠足だった」「話したことがない人と友達になれた」といった感想が寄せられたという。中には「何も考えずに異性のキャラクターを選んだら、普段は着られない制服を着られてうれしかった」「普段は1人で遊んでいて、パーティーを組んだのは初めて。緊張したが、楽しかった」など、ネットの遠足ならではのコメントもあった。

 「実際の遠足と比べてよい点は、きっかけのつくりやすさ」――ドラクエ遠足の企画に携わった秋葉大介さん(ドワンゴ教育事業本部コミュニティ開発部長)はそう話す。「リアルだと相手に話しかけるのにも、それなりに勇気が必要だが、ゲーム内では比較的抵抗なく、気軽に交流できるのだと感じた」(秋葉さん)。

 秋葉さんは、ネットの遠足はその場だけで完結するのではなく「友達づくりの入り口として非常によい機会だった」と話す。N高の生徒たちの中には、ネットでのイベントをきっかけに連絡を取り合うようになり、カラオケやゲームセンター、買い物など、リアルでも交流を楽しんでいる人もいるという。「僕自身もネットで誰かと仲良くなったら、実際に話したり会ったりしたくなるだろうから、当然といえば当然の現象だと思う」(秋葉さん)。

 「ネットでのきっかけづくりは徐々にできつつある。今後は、地方の祭りと連携して実際に遠足をするなど、リアルでの接点も増やしていきたい」(秋葉さん)

最終更新:7月19日(火)18時55分

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