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シナジー効果は不透明だが全領域に関わる――ソフトバンクがARM買収で目指すもの

ITmedia Mobile 7月19日(火)0時8分配信

 「私の事業化としての人生の中で、ハイライトを当てるべき日が今日だと思っている」――。ソフトバンクグループ孫正義社長は、英ARM買収に際して興奮気味にコメントした。既報の通り、ソフトバンクグループが7月18日、半導体設計大手のARMを約3.3兆円(約240億ポンド、約310億米ドル)で買収すると発表した。

【孫氏が学生時代に出会った1枚の写真が始まりだった】

 孫氏は今回の買収を「運命的な決断だと思っている」と語る。「さかのぼること40年前、ソフトバンクを創業する前、19歳のときに、ある1枚の写真と出会った。車から降りて、歩道の落ち葉を踏みしめながら歩いているときに、サイエンスマガジンを読んでいた。その1枚にこの写真があった」と紹介するのが、PCに搭載されたプロセッサの拡大写真だった。「初めて見る写真で、未来都市の設計図のように思えたけど、不思議に思って次のページをめくると、指先に載るコンピュータだと生まれて初めて知った」(孫氏)

 それを見た孫氏は「両手両足の指がじーんとしびれて、感動しすぎて涙が止まらなかった。ついに人類が初めて、人類の頭脳を超えるであろうものを、自らの手で発明した。これが将来、もっと進化したときに、人類の未来に与える影響がいかばかりのものか。いずれ、人類の脳細胞の働きを止めるだろうと。その怖さと感激と興奮が、一瞬のうちに涙が止まらない状況にした」と当時を振り返る。

 その写真の出会いから40年後、ARMの買収を実現させ、「私自身が、その人類の未来の姿に大きく関わることができる」と孫氏は感慨深げに話した。

●買収は2週間で決定

 孫氏は「10年ぐらい前から(ARMの買収について)強い関心を持っていた」そうで、スーパーセルやガンホーを売却して資金に余裕ができたことから、ARMの買収を決意。約2週間前にソフトバンクグループ側からARMに提案し、そこから一気に決定したという。従って6月22日に代表取締役と取締役を退任したニケシュ・アローラ氏はARMの買収決定は直接的には関わっていないことになる。

●人類史上最大のパラダイムシフトがIoT

 ソフトバンクグループはこれまで、PCのソフト流通、PCインターネット、PCブロードバンド、モバイルインターネットという「10年に1回のパラダイムシフト」(孫氏)に対して、投資を行ってきた。そして「人類史上の最も大きなパラダイムシフトはIoT(モノのインターネット)になる」とし、その入口での投資が、今回のARM買収だったと明かす。

 ソフトバンクがボーダフォンジャパンを買収したときは、携帯電話のインターネット利用(モバイルインターネット)が普及することを見越したため。実際、世界中でiPhoneやAndroidスマートフォンが急速に浸透し、その大半にはARMベースのチップが使われている。今後はスマートフォンにとどまらず、日常のあらゆるものがインターネットにつながる時代に突入し、2040年には1人当たり1000台のデバイスがインターネットにつながると孫氏は以前から予測している。また自動運転の普及が期待される自動車にもARMベースのチップが使われており、自動車業界におけるARMの市場価値も高まっている。

●ARMとのシナジー効果は不透明

 では、ソフトバンクがARMを買収したことで、どんなシナジー効果が表れるのだろうか? 

 孫氏は「ソフトバンクは、インターネットのインフラを提供している。あらゆる製品にARM(ベースのチップ)が入っていくことは、少なくともIoTがネットにつながるときに、ソフトバンクのインフラとARM内蔵製品は、シナジーを持ってつながり合う」と説明するが、これは買収をしなくても実現する、ごく当たり前のことだ。

 「ARMはチップの設計だけでなくて、(ハッキングなどを防ぐ「TrustZone」という)セキュリティ(技術)も提供しているので、そういうサービス部分とソフトバンクグループのサービス部分で何らかのシナジーを将来的には持つことがあるかもしれない」と孫氏は続けるが、具体的なシナジーの創出は、まだ先のことになりそうだ。

 一方、孫氏はARMとのシナジーはソフトバンクグループが関わる全領域に影響を及ぼすとみる。「今日も朝、(アリババの)ジャック・マーから電話がかかってきて、『ぜひ、中国でアリババがARMのパートナーになりたい』と熱望された。アリババは中国のスマートフォン(Meizu)向けにOSを提供しているし、アリクラウドやアリペイでも関わってくる」

●ARMの中長期的な戦略には関わる

 ARMの経営に対し、孫氏がどのように関わっていくのかも気になるポイントだ。「ボーダフォンジャパンを買収したときは(ボーダフォンジャパンは)沈みゆく船だったが、ARMそのものを立て直すことは何もない。黒字で、現在のマネジメントは有能なので、毎日のオペレーションに関わっていく必要はない」(孫氏)。

 一方、「会長になるのか、どういう形になるのかはまだ決めていないが、少なくとも、ARMの中長期的な戦略には関わって、積極的な投資の後押しをしたい」と話す。

●チップメーカーに対しては中立性を保つ

 世界中のスマートフォンに使われているプロセッサのライセンスを提供しているARMがソフトバンクグループ傘下になることで、モバイル業界における中立性が保てるのかという懸念もある。極端なことをいえば、ソフトバンク端末に優先的にARMベースのプロセッサを搭載する――といったこともあり得る。孫氏は「ソフトバンクだけに優先的にということはない。Yahoo!のサービスもソフトバンクに限ったものではない」と話し、ソフトバンクの自社製品にとって優位にビジネスを展開することが目的ではないことを示した。

 ARMがライセンスを提供しているのは、QualcommやMediaTekなどに加え、Apple、Samsung Electronics、Huaweiなどスマートフォンもプロセッサも手掛けているメーカーも含まれる。特にソフトバンクはiPhoneの販売に注力していることから、端末ビジネスに影響を及ぼすことも考えられるが、孫氏は「チップメーカーに対しては、中立性を保ちたい」と話す。

 「ソフトバンクは一切のチップを開発していない。Apple、Samsung、Huawei、HTC、シャープ、ソニーなどあらゆるスマートフォンのメーカーもARMを使っているが、われわれは、それらの会社が作った製品(スマートフォン)を最終製品として買っているし、われわれが競合している会社(ドコモやKDDI)も買っている。ソフトバンクグループになったからといって、そこに差別化が生まれるわけではない。ARMからみても、そこは中立な立場でさまざまなチップメーカーに提供し、チップメーカーは(プロセッサを)最終製品のスマートフォン、ノートPC、家電に提供していくと思う。他のキャリアに売ってほしくないということは考えていない」

最終更新:7月19日(火)0時8分

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