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星野リゾートの青森エリアが挑む「冬」との戦い

ITmedia ビジネスオンライン 7月19日(火)8時10分配信

 東京・大手町、オフィス街のど真ん中に日本旅館――。

 ホテル・旅館運営の星野リゾートが7月20日に高級日本旅館「星のや東京」を開業する。18階建ての旅館で、客室は84室。近隣には「アマン東京」や「パレスホテル東京」、「シャングリ・ラホテル東京」など高級ホテルがひしめき合う中、星のや東京の料金も1泊2日で約7万円からとそん色ないが、既に次々と予約は埋まっているという。

【マイナスイオン溢れる奥入瀬渓流】

 星野リゾートの事業は主に経営難に陥ったホテルなどを再生し、その運営に当たること。現在の運営施設数は国内外35拠点、取り扱い高は441億円に達する。2017年春には北海道の「旭川グランドホテル」の運営を開始、同社初となるビジネスホテルの再生に乗り出す。さらに地元行政と提携して、2019年をめどに山口県長門市にある長門湯本温泉の再生を目指すなど、その事業領域の幅は広がりつつある。

 そんな星野リゾートが力を入れているエリアの1つが青森だ。「青森屋」(三沢市)、「奥入瀬渓流ホテル」(十和田市)、そして「界 津軽」(南津軽郡)という3つの宿泊施設を展開する。

 青森屋は2005年、奥入瀬渓流ホテルは2005年、界 津軽は2011年から星野リゾートが運営する。それぞれが経営悪化に追い込まれた段階での運営スタートだったが、今やこの3施設の売上高は右肩上がりと順調だ。例えば、奥入瀬渓流ホテルの2015年の売上高は17億円、年間利用者は7万人となっている。青森屋も過去5年間で売上高を4割伸ばした。

 ビジネス成長に向けて一体どのような取り組みがあるのだろうか。

●観光客は増加傾向、訪日外国人も

 その前に青森の観光産業事情を見てみよう。

 青森県の観光客推移は、ここ数年増加傾向にあり、2014年度は対前年比2.4%増の3396万1000人だった。観光消費総額は同1.1%増の1493億2100万円、費目別では宿泊費が同6.1%の503億2100万円となった。2014年には青森空港にANA(全日本空輸)が就航したことが追い風となった。

 全体の底上げとともに、海外からの観光客数も伸びている。そのけん引役の一人として県内の関係者が口をそろえて名前を挙げるのが三村申吾・青森県知事である。三村氏は韓国、台湾、中国、香港を重点エリアに位置付け、観光PRを自ら積極的に行うことでインバウンド需要を取り込んでいる。その成果は着実に表れていて、2015年1~11月に青森県内に宿泊した外国人は10万人を超え、過去最高を記録した。

 一方で、国内に目を転じると、今年3月の北海道新幹線の開通が、青森の観光にとっても大きなチャンスになると見られている。例えば、まずは飛行機で北海道に入り、新幹線で青森を経由して、仙台まで行き、そこから再び飛行機でといった周遊型の旅行が増えるとみている。また函館と青森の行き来が便利になったことから、北海道からの観光客の需要も期待できる。単なる通過地点ではなく、いかにして青森を乗客にアピールできるか躍起になっているのだ。

 そうした外的要因に加えて、旅行者そのものの行動にも変化が見られる。かつては団体旅行で青森を訪れる人が多かったが、今は個人旅行の比率が高まっている。例えば、近年は、青森県立美術館や十和田市現代美術館を相次いで開館していることから、芸術に関心のある若者がやって来る機会が増えている。

 ただし、青森は他地域と比べて観光で不利な面がある。それは冬。ご存じの通り、国内有数の豪雪地帯で、県庁所在地の青森市は年間降雪量で全国トップの常連。このことが与える影響は特に交通機関に顕著で、国内外からの飛行機の離着陸や、ローカルバスなどにもかかわってくる。

 星野リゾートの施設でそのあおりを食らっているのが、奥入瀬渓流ホテルだ。冬になると奥入瀬から八甲田山の方につながるバスがなくなるため、観光が途切れてしまい、同ホテルは冬期の休業を余儀なくされている。例年11月末から翌4月中旬まで実に5カ月近くが休館となるのだ。「通期運営が喫緊の課題」と、奥入瀬渓流ホテルの宮越俊輔総支配人は語った。

 青森屋、界 津軽は通期で開業しているものの、運営開始時には同様に冬期の集客が課題だったという。そうした中で冬期の数字をどう数字を伸ばすか、あるいは冬期のマイナス分をほかでどう補うのか、それが年間の売上高に直結するのは説明するまでもない。各施設はこの課題に対してどのように向き合っているのだろうか。

●冬でも「夏祭り」

 3施設の中で、具体的な施策の効果が見え始めているのが青森屋である。青森屋では、青森の夏祭りを1年間通じて楽しめる仕掛けを用意。冬には温泉の目の前にある池にねぶたを浮かべて、祭りを体感できるようにしている。3年ほど前から始めた企画が、今では冬の風物詩になった。

 ところで、なぜ夏祭りなのか。青森には「青森ねぶた祭」(青森市)、「弘前ねぷたまつり」(弘前市)、「八戸三社大祭」(八戸市)、「五所川原立佞武多」(五所川原市)という四大祭りがあり、これらはすべて8月第一週に行われる。実はこの時期の観光客数が1年間を通じてピークで、2015年は計679万8000人を動員した。年間観光客数の5分の1が集まる計算だ。実際に観賞した観光客は「また来たい」と思わせるような魅力あるコンテンツ力があるという。

 青森屋内にあるショーレストラン「みちのく祭りや」では、料理を食べながら毎晩青森の四大祭りを体験できるコンセプトが人気を博している。「1年中、青森の夏の魅力を伝えることができることで、ファンは着実に増えていてリピーターも多いです」と渡部賢総支配人は力を込める。

 温泉旅館である界 津軽でも今年1~2月、みちのく五大雪まつりの1つである「弘前城灯籠まつり」にちなみ、同施設に特製の雪灯ろうを設け、利用者に青森の文化を感じさせる取り組みを実施した。

 そのほか、「津軽こぎん刺し」という伝統工芸を部屋の障子などにあしらったり、ロビーで津軽三味線や津軽笛の生演奏ライブを開いたりする。客層は50~60代の夫婦が中心で、ゆっくりと館内で過ごす客がほとんどであるため、外に出ずとも津軽の文化体験を提供することで、顧客満足度を高めようと考えている。

●アクティビティの参加率を高める

 唯一、冬期に営業できない奥入瀬渓流ホテルは、まさに春すぎから秋までが勝負である。古くから紅葉のシーズンは安定的に観光客が訪れるが、それ以外の季節でどう集客するかが課題としてあった。そうした中で、今注力している企画テーマが「苔」である。

 数年前から「苔ガール」と呼ばれる苔好きの20~40代女性が増えていて、その流れに奥入瀬渓流ホテルも“相乗り”。十和田・奥入瀬エリアはさまざまな苔の生息地として知られていることから、奥入瀬渓流ホテルは2013年から女性限定の滞在プラン「苔ガールステイ」を提供。当初は期間限定だったが、現在はその制約を取り払うほどの人気となった。2016年6月には部屋全体がモスグリーンに覆われた「苔ルーム」という個性的な客室を設けたほどだ。

 奥入瀬エリアは古くから青森の中では有名な観光地であり、多くの団体旅行客が訪れていた。近年になって団体から個人へと旅行客の傾向が変わっていったが、大半は40~60代の夫婦だった。どうしたら若い顧客層を獲得できるか、そう考えた末に出てきたアイデアの1つが苔だった。

 さらに2年ほど前から朝のツアーを開始。奥入瀬に詳しいホテルスタッフによる「奥入瀬ガイドウォーク」や「苔さんぽ」など、奥入瀬の大自然を体験するプログラムを企画する。目的はライトユーザーの取り込みだ。それ以前からもガイドツアーは行っていたものの、「内容が専門的で、しかも料金は高額でした。あまり利用者はいなかったのが実情です」と宮越氏は明かす。

 間口を広げるために、フリープログラムという無料ツアーも用意。夜には「森の学校」という奥入瀬の自然を学ぶ授業も設けた。こうした取り組みによって徐々に参加者は増えているそうだ。以前はアクティビティの参加者が宿泊者の1割に満たなかったが、現在は3割近くまで増えているという。

 冬期については、近い将来の通期運営を達成したいとする。宮越氏は「冬にも八甲田山の樹氷や奥入瀬の氷瀑など観光資源は豊富ですし、温泉を強化すればもっと魅力的になると思います。現状は交通事情などの問題はありますが、行政任せにするのではなく、我々から働きかけて解消を目指したいです」と意気込んだ。

(伏見学)

最終更新:7月19日(火)8時10分

ITmedia ビジネスオンライン

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