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高い技術力と「脱縦割り」で世界へ NEC社長が語る成長へのシナリオ

ITmedia エンタープライズ 7月19日(火)11時18分配信

 「社会ソリューション事業へ注力するという方向性は間違っていない」――。中期経営計画発表の場で、こう明言したNECの新社長、新野隆氏。16年3月期決算は減収減益と厳しい状況だが、グローバル攻略を軸に成長路線を打ち出した。

【画像:NECが考えるIoTの5層モデル】

 目まぐるしく変わるITトレンドの中で、NECは今後、どのような成長路線を描こうとしているのか。新野社長に聞いた。

●社会ソリューション事業を“実行できる”組織へ

――4月に社長になられてから3カ月、ご自身の中で大きな変化はありましたか?

新野社長: 会社のトップという立場になり、周りの見る目が変わりましたね。「副社長と社長は全然違うぞ」とは聞いていたのですが、確かに違う。社長というのは会社に1人しかいません。今までと同じ人と接していても期待されるものが変わってきていて、プレッシャーがありますね。それをひしひしと実感しています。

――16年3月期の決算発表でもお話しされていましたが、あらためて今後NECが目指す方向性について教えてください。

新野社長: 3年前に社会ソリューション事業に注力しようと決め、さまざまなことをやってきましたが、2015年度は思ったほどの業績が得られませんでした。これは反省すべき点です。社会ソリューションに注力するという方向性は変えませんが、今後はこれをどうスピードを上げて実行していくのかというフェーズになると考えています。

 そのためには、人のマインドや組織、ビジネスモデルなど、多くの物事を変えていかなければなりません。例えば海外ビジネスへの対応を担うCGO(Chief Global Officer)という役職を置いたり、外から人を連れてきて専門チームを作ったり。CTOを置いて今までは縦割りで行ってきた開発投資を、全社レベルで注力分野を決めるなど、一段視座を高めた上で、いろいろなことをスピーディーに決められるような組織に変えるための施策を今行っています。

――会見では、IoTプラットフォームに投資するというお話もありました。

新野社長: IoTプラットフォームと言っても非常に範囲が広いので、いろいろなところに投資していますよ。中でもM2Mのソリューションなどはいい例です。さまざまなセンサーから集めたデータを標準化するとか、セキュアな環境にするとか、NECが得意とする分野を1つのプラットフォームで可能にすることを目指しています。

 IoTをNECだけのプラットフォームで全てを賄うことはできません。いろいろなプラットフォームと連携しながら、われわれが強い分野、持っている技術を提供していく。他にいいものがあるなら、そのプラットフォームを統合していくようなイメージだと考えています。

――IoTは他のベンダーも注力している分野です。NECとして、どういった点で差別化しようと考えていますか?

新野社長: IoTといってもクラウド、エッジコンピューティング、センサーなどのデバイスがあります。この3つをつなぐ2つのネットワークを含めてわれわれは「5層モデル」と呼んでいるのですが、上のレイヤーほどプレイヤーがたくさんいます。

 それに対してNECは、いわゆる“ITとネットワーク”を自力でずっとやってきた。この強みは下位レイヤー、いわゆるM2Mのところをいかに高速にセキュアにやるかという部分に表れ、われわれが非常に強い分野と言えます。

 クラウドや上位のネットワークについては、通信キャリアが提供しているネットワークを使えます。われわれも独自でクラウドを提供していますが、それこそ適材適所で、いろんなクラウドをインテグレートして一番いい方法でやればいいのです。

 もう1つ、人工知能もそうですね。さまざまなベンダーが研究を進めていますが、NECの強みは顔認証や指紋認証で、世界一の性能を維持しています。AIは相関関係を高速かつ正確に取る技術力で差が出ます。顔認証だけで言えば、世の中にいくらでもあるけれども、NECは精度とスピードでダントツです。一桁くらい違う。

 このレベルに達するには相当なノウハウが必要で、何十年という積み重ねの中で生まれたユニークな技術です。それが全てというわけではないですが、そういう強みを核にしながら、もっと価値を広げられるソリューションを出せればいいと思っています。

――高い技術力ならではのソリューションというのは、今後増えていくのでしょうか。

新野社長: ものすごい勢いで増えるでしょう。例えば今なら、10万人に入るスタジアムに1人や2人紛れ込んだ可能性のある不審者を10秒で探しなさいと言ったら人力では絶対できないですよね。でも将来、認証技術が発展すれば10秒で見つけられるかもしれない。スピードや精度がぐっと上がることで、桁違いな価値が出てくる分野はいくらでもあると思います。

 今も本社ビルの入館ゲートや売店で実証実験をやっています。IDカードなんかなくていい、顔だけ登録すれば顔パスで。大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンで行っている実験はカメラに顔を向ける必要がありましたが、今回はそれすらもいりません。相当な混雑状態の中で動いている人たちを認識する技術はなかなかないんですよ。

 顔だけ認証すれば、IDと全部連携して買い物ができるとか、スピードと精度を上げていけば、顔だけで何でもできる――本当の意味での顔パスですね。

――これまで記者会見などでは繰り返し、今後グローバルで通用する技術をどう展開するかが課題だとお話されていました。その点についてはどうでしょう。

新野社長: 今までやってきたサイバーセキュリティも含めたセーフティ、それからネットワークのSDNやNFV。この2つの分野を早く伸ばしたいですね。これは確実にわれわれがグローバルで戦えると思っているし、ブランドとして周知している手応えも出てきています。

 ビジネスモデルの変革も大切です。顔認証についても、今まではお客さまから「これライセンスで売ってよ」みたいなお話が多かったのですが、それだけではビジネスの規模はたかが知れています。例えば、ライセンス売りで1億円という案件が、カメラを仕入れてソリューションにすれば15億になるかもしれない。さらに収集したデータを自分たちで管理しながら、いろんなアラートを出すようなサービスとして広く提供すれば、100億になるかもしれない。

 世界規模でテロや事件があちこちで起きている今、市が丸ごと安全を確保するためのシステムを入れるという取り組みが、さまざまな場所で始まっています。アルゼンチンのティグレ市もそうですが、そんな実例がいくつかできれば、非常に強いブランドになるはずです。

 今、ニュージーランドのウェリントン市は、スペインのデータセンターから監視をしています。1つのデータセンターでいろんな都市を監視すれば、より多面的な安全対策を講じることができます。この都市はこういうことをやっているのですごく犯罪率が低いとか、交通渋滞がないとか、そんなベストプラクティスを蓄積して、それをさらに展開していく。数が増えれば増えるほど、点から面に展開して価値が上がるわけです。こういうことを早くやりたいですね。

――ライセンスからサービスやソリューションへと転換。それには、社内の横の連携も必要なイメージがあります。

新野社長: まさにそうですね。元来、NECは縦割りのBU(ビジネスユニット)が強い会社で、BUごとに会社が分かれていた時代もありました。それから時代が変わり、ICTで社会ソリューション事業に注力すると宣言した今、「NECは何やるの?」と。ITもネットワークも巻き込んで、NEC全体として何をやるのかが大切なテーマになりました。これこそが「One NEC」ということです。

 本当の意味で「One NEC」だからこそできること。持っているリソースを使いきって、その価値を最大化するように動かない限り、世界を相手に戦えないでしょう。従業員一人一人がどう考えて、どう行動していくか。この「One NEC」が当たり前の文化になるまで、意識してやり続けるべきだと思っています。

――グローバルに展開していくにあたって、乗り越えるべき障害はどこにあるのでしょう。

新野社長: 今のわれわれが持っているリソースだと、グローバルにサービスを展開するデリバリー力が圧倒的に足りません。中国や台湾、シンガポール、オーストラリアなど、アジア圏で自力でやれる場所は手を広げていますが、ヨーロッパや北米、南米などはプロダクトのチャネルはあっても、いわゆるSIサービスのデリバリー力がない。ここを早く解決するためには、M&Aやパートナリングで補完するしかないと思います。

 とはいえ、手を広げすぎると力が分散してしまうのが難しいところです。まさに今年、どの地区で何をやるのかを決めようとしています。多分、全世界で同じことはできません。それぞれの地域で関心が高いことは少しずつ違いますし、われわれが持っているアセットも異なる。その中でどこで何をという優先順位を早く決めて、そこを強くすることを考えるべきでしょう。

 人口が1億や2億いる地域であれば、うまくやれるはず。日本の中で2兆円規模でやっているわけだから、それに近いことをやれないわけはないんです。広く薄くではなく、ある地域でポジションを取り、それを横展開するほうがビジネスはスケールしやすいのかもしれません。

最終更新:7月19日(火)11時20分

ITmedia エンタープライズ