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オシロスコープの「ゾーントリガー」機能って何?

EDN Japan 7月19日(火)11時38分配信

■従来のハードウェアトリガー機能を補完

 電気回路の不具合に対する問題解決や原因究明に、広く使用される計測器がオシロスコープだ。特定の不具合波形の分離を可能にする、オシロスコープの主要な技術がトリガーになる。オシロスコープには、エッジ、グリッジ、パルス幅、パターンなど、各種イベントの切り分け用にハードウェアトリガー機能が標準搭載されている。

【ゾーントリガー機能を周波数領域(FFT演算結果)のスペクトラム波形に対して設定する例を図で紹介!】

 一方で、今まで存在していたハードウェアトリガー機能は、まれに発生する不具合波形を時間で分離するには最適だが、それだけでは十分でない。例えば、オシロスコープの画面上に不具合波形が観測されていたとしても、通常のトリガー機能ではこうした波形を分離するのは非常に困難だ。

 ゾーントリガー機能は、こうした今まで存在していたハードウェアトリガー機能を補完するためのものである。この機能は、オシロスコープのユーザーにとって、トリガー設定に関してさらなる柔軟性をもたらしてくれる。以下に紹介する5つの質問は、「ゾーントリガー機能を利用したい」「オシロスコープベンダーが提供するゾーントリガー機能の評価を行いたい」と考えているエンジニアにとって役立つ情報となるだろう。

■ゾーントリガー機能とは?

 ゾーントリガー機能を理解することで、それが効果的なケースと、効果的でないケースを区別できるようになるため、最適な使い方を選択可能になる。では、ゾーントリガーはどのようにして動作するのか? 答えは非常にシンプルである。

 図1に示すように、1つ以上のゾーンをオシロスコープの画面上に図形として描く。また、各ゾーンには、「波形が横切る」「波形が横切らない」といったパラメータを設定できる。オシロスコープは波形を捕捉するたびに、メモリ内部の捕捉波形を見に行く。

 捕捉した波形がゾーンの設定条件を満たさない場合、オシロスコープはデータを無視する。ユーザーが定義したゾーンの条件を満たす波形だけが、画面に表示されるのだ。

 通常ゾーントリガーは、エッジトリガーのように以前からハードウェアベーストリガーとして搭載されているトリガーの後段ステージで設定される。これにより、ユーザーは、従来のトリガー機能によりイベントタイプをできるだけ絞込み、その後ゾーントリガーを使用することで、より特異性の高い信号を切り分けることが可能になる。

■ゾーントリガー、なぜ使うのか?

 ゾーントリガーは、図形によりトリガー条件を設定できる。使い勝手の観点からいえば、従来のハードウェアトリガー条件を使用した場合と比較して、よりシンプルにトリガー条件を設定可能だ。さらに、ゾーントリガー機能は、従来のトリガーでは分離することが不可能な特定の不具合信号やパターンを、簡単に分離できる。

 例えば、DDR(Double Data Rate)メモリの読み出しや書き込みサイクルの波形は、わずかな差異しかない。このため、読み出しと書き込みサイクルを分離することは、従来のオシロスコープのトリガー機能では不可能だが、ゾーントリガー機能を使用すれば簡単に分離できる。ユーザーは、読み出しと、書き込みサイクルで異なる波形の一部に小さな四角いゾーンを描き、その部分を「横切る」あるいは「横切らない」と設定するだけで、オシロスコープの画面には観測したいサイクルのみを表示できる。

 ゾーントリガー機能は、非単調エッジを持つ信号の捕捉表示にも使用できる。クロックの周期ごとにゾーンを描き、条件を指定することで、1と0の特定パターンを表示させることも可能である。これ以外にも、ゾーントリガー機能は、シリアルバスパケットを図形により簡単に分離できる。例えば、USBがデータパケットを送信する部分にゾーンを描き、データパケットのみを表示させることなどが挙げられる。

■どのような波形に使用できるのか?

 従来のオシロスコープが搭載しているハードウェアトリガー機能は、アナログチャンネルかデジタルチャンネルのどちらか一方のみに動作する。ゾーントリガー機能は、ポスト処理なので、技術的な観点からいえば、幅広い種類の波形に対して利用できる。

 最新のゾーントリガー機能は、演算波形に対しても使用可能だ。ユーザーは、演算結果やFFT波形に対してゾーンを定義できる。この進歩は、ハードウェアベースのトリガー回路だけでなく、前世代のゾーントリガー技術では見られないユニークな機能を提供する。例えば、周波数領域において側波帯のスペクトラムが、特定の電力レベルを超えた信号のみを分離すために、ゾーントリガー機能が使用できる。

 また、電流プローブや電圧プローブを使用して、乗算により時間領域で電力を求めている場合、ユーザーは電力が所望の値よりも大きい場合にのみ、その波形をオシロスコープの画面に表示できる。演算波形に使用できることによって、ゾーントリガー機能が非常に力強くになり、図2と図3に示すような使い方が可能になる。

■使用時の制限は?

 どのような技術にも制限があり、ゾーントリガー機能も例外ではない。ゾーントリガー機能がポスト処理技術であることは述べたが、2つの望ましくない影響がある。

 1つ目は、ポスト処理が追加されることにより、オシロスコープ全体の更新スピードが低下することである。ゾーントリガー機能により、更新スピードが100分の1まで落ち込むことも珍しくない。これにより、オシロスコープの操作性が犠牲になり、使いづらいと感じることもあるだろう。

 2つ目の制限は、ポスト処理の追加によりオシロスコープのデータ捕捉が行えない時間がさらに長くなることだ。ゾーントリガー機能の表示は、繰り返し信号の場合にのみ有効となる。ゾーントリガー機能の処理をするために必要な時間は、オシロスコープのメーカー、使用しているメモリの量、ゾーントリガーのタイプ、対象となるソース(入力チャンネルか演算結果なのか)に大きく依存する。つまり、従来のハードウェアトリガーはまれにしか発生しない非反復イベントの捕捉を確実に行う唯一の方法であり、ゾーントリガー機能はこうした使用には適していないということである。

■メーカー毎の評価方法とは?

 既存のオシロスコープか新規購入予定のオシロスコープにゾーントリガー機能の追加を検討しているなら、比較検討する際にいくつかのポイントを押さえる必要がある。

 一般的に、ゾーントリガー機能は数百MHz帯域かそれ以上で、十分な処理能力を有したオシロスコープに搭載されている。比較の際は、検討しているメーカーのオシロスコープがゾーントリガー機能を搭載しているかどうかを最初に確認する。

 ゾーントリガー機能をサポートしているオシロスコープの場合、オシロスコープのデモ製品は評価用にオプションを有効化しているケースがほとんどである。既存のオシロスコープに対しては、各メーカーがお試しのライセンスを提供している。

 メーカー間におけるゾーントリガー機能の1つの大きな違いは、「どの波形に対してゾーントリガーが動作するのか?」である。全てのゾーントリガー機能は、アナログチャンネルからの入力波形を、ゾーントリガー機能のソースとして使用できる。

 一部のメーカーでは、ゾーントリガー機能を演算波形に対して使用できる。一般的に、演算波形は電源解析や差動信号の評価に使用される。既存のハードウェアトリガー機能では、演算波形の結果に対してトリガーをかけることができない。演算波形に対してゾーントリガーが使用できることで、解析効率が飛躍的に向上する可能性がある。

 例えば、FFT演算波形に対してゾーントリガーを設定できるかどうかの確認が挙げられる。オシロスコープのハードウェアトリガー機能は時間領域の信号に対して設定できるが、周波数領域の信号に対しては設定できない。これに対してゾーントリガー機能は、周波数領域でトリガーの設定ができる唯一のソリューションになる。

■メーカーによって異なる比較項目

 その他の違いとしては、ゾーントリガー機能を実行した時に要する時間になる。これは、特定のゾーントリガー機能の設定に対する波形更新レートの測定で比較できるが、ゾーントリガー機能は、まれにしか発生しないイベントを見逃すことがある。

 これに対して、ハードウェアトリガー機能は、トリガーイベントを確実に捕捉する唯一の方法である。このため、波形更新レートの低下に伴うデータの取りこぼしは、それほど重要な比較ポイントではない。むしろ、波形更新レートの低下に伴う操作性の低下や、波形の見え方が著しく損なわれることへの影響が大きい。

 上記以外の比較項目は、オシロスコープのメーカーによって異なる。一部のメーカーは、ゾーンの形状として四角形のみが用意されており、他のメーカーでは任意のゾーンの図形を描画できる。四角形は、ほとんどの場合において十分だが、任意のゾーンはより詳細なイベントの切り分けに対して非常に有効である。

 また、ゾーンサイズ、形状、ソース、タイプの変更をどれだけ簡単に行えるのか? ゾーンの追加や削除のやりやすさを各オシロスコープで確認することが重要だ。実際に使用すると、これらの作業は購入前に想像していた以上に頻繁に行われるからである。

■EMIのノイズ評価などにも

 これまで述べてきたように、ゾーントリガー機能は、従来のハードウェアトリガーを補完する機能であり、その利便性と有用性から非常に注目されている機能である。

 ゾーントリガー機能は継続的に改善され、従来のハードウェアトリガー機能では分離することが困難であった不具合波形や特定のパターンを、簡単に切り分けることが可能である。そして、最近のテクノロジーの進化により、演算波形やFFTによる周波数スペクトラム信号にゾーンの条件を適用する機能が含まれることで、その応用範囲が従来の電気・電子回路のデバッグから、EMIのノイズ評価などにも広がりつつある。

【著:Joel Woodward/Rohde & Schwarz】

最終更新:7月19日(火)11時38分

EDN Japan