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洋服に「安全ピンをつける」英国人が増えた理由

ZUU online 7/20(水) 18:10配信

いまだ世界の注目を集め続けるBrexitだが、歴史的な国民投票以降、ある現象が起きているという。洋服に安全ピンをつける英国人が増えたというのだ。

■安全ピンをつけて、人種差別反対の立場を発信

この安全ピン、発端はBrexit直前から人種差別的な嫌がらせ行為が、急増し始めたことだった。6月23日の国民投票の翌週には、被害報告が前週よりも57%も増加している。主にイスラム教徒の女性に被害が集中しているというが、ポーランドやオーストリアといったEU加盟国からの移民にも被害は広がっているという。

これらの移民を保護する目的で、各メディアが呼びかけたのが「安全ピン・サポート」だ。元々のアイデアはTwitter上での呼びかけである。世界中のユーザーに協力を求めたのが、SNS上でアリソンと呼ばれる米国人女性だ。

■浸透度は地域によって異なる?

実際にどのくらいの英国民が、安全ピンをつけて歩いているのか。正確な数字については報告されておらず、英国内でも地域によっても反応は様々なようだ。

少なくとも筆者の街は、比較的移民が少なく穏やかな観光地のせいか、安全ピンが話題にのぼることも稀だ。国内・海外から大勢の観光客が訪れているが、注意して観察してみても、安全ピンを見かけることはない。筆者の知る限り、安全ピン・サポートについて認識していない住民も多い。

一方で、ロンドンに代表される移民の多い街では、学生などを中心に安全ピンをチラホラ見かけるという。中でも、イスラム教徒の移民が多い地域が多いようだ。

人種差別が深刻化している地域ほど、安全ピンが浸透しているのではないかと推測される。Brexitによって激化した人種差別自体が、地域に占める残留派と離脱派の割合によって左右されていても、決して不思議ではないだろう。

■小さな自己主張アイテムは世界的にも広がりやすい

安全ピン・サポートに限らず、英国でも様々なメッセージを発信する手法が確立されている。

最も有名なものは、「ポピー・アピール(Poppy Appeal)」だ。毎年、第一次世界大戦の終戦記念日である11月11日になると、胸に赤いポピーのコサージュをさした人々が街中に溢れる。この日を「Remembrance Day(リメンバランス・デー/戦没者追悼記念日)」とし、戦死者に礼を尽くし、戦争の教訓を活かす意図で、英国在郷軍人会が開催している。

女性に人気があるのは、米国から広がったといわれる「ピンク・リボン・ピン(Pink Ribbon Pin)」。可愛いデザインのブローチで、こちらは乳癌の意識向上を目的としている。日本でも、ピンクリボン運動としてキャンペーンが行われているので、ご存じの方も多いだろう。

「象徴となる物質的な媒体を通して、信念を体現する」という発想に、英国を始め、世界中で共感を覚える人々が多いということだ。

■問題は山積み? 「単なる偽善行為」の声も 

一方で、「体現するだけで実行に移さないのであれば、単なる偽善行為だ」という非難の声も聞こえる。安全ピンをつけていても、差別を目撃して見て見ぬふりをするのでは意味をなさないということだろう。
安全ピンの発信元となったアリソンさんも、勇気を振り絞って体現と実行の境界線を乗り越えるように、呼びかけている。人種差別に反対すれば、差別する側から攻撃や非難の的にされる可能性も高い。しかし「危険をかえりみず、あえて安全ピンを着用する」という行為で満足しているだけでは、問題は解決しない。自ら差別撲滅に働きかける意志を持ってこそ、初めて安全ピンが意義あるものになる。

こうした体現行為が根本的な支援基盤を持たない、「幻想」であるとの指摘も多い。

例えば昨年9月にキャンペーンが実施された「Black Dot(手のひらの黒い点)」は、ドメスティック・バイオレンスの被害者からのSOSだ。家族やパートナーから、精神的あるいは肉体的な虐待を受けているが、口にだして助けを求められない被害者は数えきれない。安全ピン・サポートと同様、Facebookでの呼びかけから始まり、瞬く間に500万人のユーザーからの支持を得た。

時としてドメスティック・バイオレンスは、命に関わる深刻な問題となる。そのため、現在Facebook上でのキャンペーン自体は打ち切られている。「(社会福祉事業担当指導員や医師などの)専門家が所属しておらず、正式な機関にも認定されていない。中途半端なサポートはかえって危険だ」「加害者が被害者のサインに気づいて、虐待が加速する恐れがある」といった懸念が高まったのだ。

日本のマタニティマークは、こうした運動の負の側面が出てしまった例といえるだろう。「公共の場で座席を譲れと催促している」「子供ができない夫婦に優越感を誇示している印象を受ける」などと誤解され、嫌がらせ行為を生みだしてしまった。一つの思想を象徴化し、社会に正しい意味を浸透させるのは非常に難しいといえる。

誰の目にも明確なメッセージを発信すること、発信するだけではなく定着させるのに十分な、確固たるサポート体制を作ること。この2つが安全ピン・サポートだけでなく、運動を成功させる絶対条件となるはずだ。(アレン・琴子、英国在住のフリーライター)

最終更新:7/20(水) 18:10

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