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人工知能が未来を予測! 世界初&日本発の新サービスがスゴそう

ITmedia ビジネスオンライン 7月20日(水)8時10分配信

 「Predictive Marketing(プレディクティブマーケティング)」という言葉をご存じだろうか。日本語に翻訳すると「予測マーケティング」。データのなかに埋もれているパターンを見つけ出すことによって、“次に何が起こるのかを予測する”というものだ。

【AIが未来を分析したところ……】

 このように書くと「うーん、なんかスゴそうな技術だけど、自分には関係ないのでいいや」と思われたかもしれないが、他人事として受け止めないでいただきたい。実はいま米国で、「Predictive Marketing」がものすごくホットなのである。

 具体的にどんなことができるのかを簡単にご紹介しよう。現在、最も注目されているサービスの中に「Radius(レイディアス)」がある。クラウド上で顧客データを管理することができる「セールスフォース」と連携して、「営業のAさんはB社とだったら契約する確率90%」といった感じで当ててくれるのだ。

 「そんなの分かるわけがない。占いのようなモノじゃないか」と批判したくなる気持ちもよく分かる。しかし、この「Radius」は適当なことを言っているのではなく、営業マンの過去データと顧客のデータを分析することで、未来を予測しているのだ。では、このような機能を現場ではどのように活用しているのだろうか。例えば、とある会社から問い合わせがきた。誰が対応すればいいのか、と迷っているときに「Radius」の出番である。自社のスタッフの中から成功確率の高い人に対応してもらう。成功確率の低い人には、別の案件を担当してもらう。といった具合に、より商談がまとまりやすいようにアドバイスしてくれるのだ。

 この話を聞いたとき、「やっぱり米国は進んでいるなあ」と思っていたら、日本にも人工知能(AI)を使って「Predictive Marketing」のサービスを提供している企業があった。2010年に創業した「WACUL(ワカル)」である。この会社がどんなことをしているかというと、Webサイトを分析することで、未来を予測してくれる「AIアナリスト」をリリース。しかも単に予測するだけでなく、「このようにすると、会員数はもっと増えますよ」といったアドバイスもしてくれるのだ。

 にわかには信じがたい――。そう思って当然である。サービスはまだ始まったばかりなので、実績は乏しい。しかし、米国では盛りに盛り上がっているのだ。ということは、1年後、いや6カ月後に「Predictive Marketing」が上陸して、いまの「AI」や「IoT」といったバズワードになる可能性が高いのだ。そのときになって、「えーっと、プレディ……なんだったけ?」と手遅れになる前に、一足先に情報を仕入れてみてはいかがだろうか。

 未来を予測してくれるサービスはどんなモノなのか。海外事情を含めて、WACULの大津裕史社長に話を聞いた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンライン編集部の土肥義則。

●未来を予測するサービスが盛り上がっている

土肥: 膨大なデータを分析することで、“これから起こりそうなこと”予測してくれる「Predictive Marketing」が米国で盛り上がっているそうですね。

大津: ものすごく注目されています。例えば「Quid」というサービスがあって、このサイトに気になる言葉を入力すると、その言葉が世の中でどのように盛り上がっているのかを図で示してくれるんです。どのようなニュースがあって、どのような会社があって、どのような投資を受けていて――といった関係性を教えてくれる。

 また「○○会社」と入力すると、○○会社に関連するネガティブなニュース、ポジティブなニュースを表示してくれる。でも、これだけだと膨大な情報を整理しているだけ。まだサービスはスタートしていませんが、将来的には「○○会社のネガティブなニュースは現在、3割ある。しかし、このまま何も手を打たなかったら、ネガティブなニュースは5割に増える」といった感じで、未来を予測するサービスをスタートさせると言っていました。

 このように大量のデータを分析し、そこからある種のパターンや傾向などを引き出して、未来を予測する。そうした情報をビジネスに生かそうという機運が高まっているんですよね。

土肥: 米国では盛り上がっているようですが、日本はどうなのでしょうか?

大津: まだまだですね。

土肥: ですよね。ちょっと調べたところ、日本ではまだほとんど活用されていない。「Predictive Marketing」を検索するとたくさん表示されるのに、「プレディクティブマーケティング」で検索しても関連した内容がほとんど表示されません(7月19日現在)。

 「ほとんどの人が知らない。聞いたことすらない」といった状況の中で、WACULはWebサイトの未来を予測するサービスを始められた。一体、どういうモノなのでしょうか?

●どのようにして開発したのか

大津: Webサイトの分析ツールっていくつかありますが、いずれも過去の実績しか表示してくれません。しかし、私たちが開発したモノはAIの技術を使って、1年先まで予測できるようにしました。例えば、2017年7月の訪問数は1000人で、そのうち購入してくれる人は200人といった感じで。またその数字はどこから来ているのかも予測することができます。広告からなのか、検索からなのか、外部ページからなのか、といった具合に。

土肥: なぜそんな予測ができるのですか?

大津: 現在、当社では4000社以上のデータを預かっていて、たくさんのデータを分析しました。例えば、2015年7月から12月までのデータをAIに渡して、2016年1月から6月までを予測してもらった。

 AIにデータを見せて「当てなさい」と指示する。その作業を何度も繰り返すことで、いい結果を出すようになったんですよね。予測してもらうのは過去のデータなので、こちらは「正解」を知っている。AIが正解すると「よかったね」と伝える。そうすると、AIが覚えてくれて、自分たちで「こういう感じがいいのね」と調整してくれるんですよ。いわゆるディープランニング(深層学習)です。

土肥: その作業で大変なことは?

大津: AIが分析していくのですが、その結果をひとつひとつ人間がチェックしなければいけません。もちろんAIが判断することもできるのですが、最初のころは「どうやればいいのか、あまり分かっていない」ので、出てきたデータをチェックしていました。

 また調整の部分も人間の手でなければいけません。例えば、サッカーチームの監督のように指示を出すんですよ。ワールドカップで優勝するようなチームと、サッカーを始めたばかりの人を集めたチームとでは、選手に伝える指示の内容が違いますよね。ワールドカップで優勝するようなチームの選手には高度な内容を伝えなければいけませんが、初心者ばかりのチームには、基本的な指示を出さなければいけません。このような感じで、AIにも基本的なことを伝えていました。「パスはこのように出せ」「相手にボールが渡ったらすぐに戻れ」といったように。

 で、何度も何度もチェックしていって、最終的に強いチームを選びました。つまり、予測したデータと実際の結果の間にズレが少ないモノですね。

土肥: ふむ。それにしてもなぜ予測できるサービスをつくろうと思われたのでしょうか?

●未来を予測するメリット

大津: マーケティング担当者が計画を立てやすくなるだろうなあ、と思ったからです。例えば、予算。6カ月先、1年先を見込んで予算を立てるケースが多いと思うのですが、遠い先の話なので難しいですよね。

土肥: 「過去の数字はこうだから、たぶん1年先はこうかな」といった感じで決める人が多そう。

大津: そうなんですよ。勘に頼る部分が多い。そうではなくて、過去のデータを分析して、そこから未来を予測できるようなれば、計画を立てやすくなりますよね。

 例えば、2016年の年末には訪問数が1000人で、そのうち500人に購入してもらう、といった計画を立てるとします。しかし、AIに予測してもらったところ「購入者は400人」という結果が出たらどうするか。目標より少ないので「広告をもっと打とうかな」とか「認知してもらうためにブログに取り上げてもらおうかな」といったように、事前にいろいろ手を打つことができるようになる。

 でも、いまは違う。未来に関する情報がありません。「5月、6月はダメだったから、7月はがんばろうね。そして12月には目標を達成しよう」とぼんやりしている。でも現場の人たちからすると、いつもがんばっているので、「そんなこと言われたくない(怒)」となるわけですよ。上司と部下の間にギャップが生じているわけですが、未来の数字が“見える化”することでより具体的な手を打つことができるようになるのではないでしょうか。「このままがんばっても、12月末には購入者が400人しかいないかもしれない。どうしたらいいかな」と。

土肥: でも、AIが言っていることを信じない人もいるのでは。「400人しか購入しないと言っているけれど、過去の経験からすると、500人は楽に超えるよ」という感じで。

大津: もちろん、「信じる」「信じない」という人は出てくるでしょう。でも、データを見ることで、考える人が増えるのではないでしょうか。「この時期はどうかな」「いまから何かできることはないかな」という風に。

土肥: 考え方が変わることで、人間って行動が変わるといいますからね。あと、人間って未来のことを考えるのが苦手だなあと思っているんですよ。例えば、30代の男性。就職活動のニュースは自分が経験しているので、「今年はこんなことになっているのか。自分たちの時代とは違うなあ」と受け止めることができる。

 しかし、年金の話になると、遠い先の話なので興味を持っている人が少ない。人口減少問題も、減っていくことはもうずいぶん前から分かっているはずなのに、実際に減少するようになってから慌てて「どうする? 日本経済ヤバい!」といった感じで、バタバタしている。

大津: ですね。

●世界初のサービスは“本丸”でない

土肥: 話は変わりますが、今回リリースしたWebサイトの未来を予測できるサービスは「世界初」ですよね。このサービスが爆発的に売れて、じゃんじゃん稼ぐと、他社が同じようなモノを出してくるのではないでしょうか。

大津: Webのアクセスデータをたくさんもっている会社は、同じようなサービスをつくることができるでしょうね。

土肥: そーなると困りませんか? 失礼な話、アクセスデータを解析している会社って巨大なところが多いですよね。例えば、グーグルが本気でこの分野に進出してきたら、WACULのようなスタートアップ企業(スタッフ30人ほど)はすぐに吹き飛んでしまいそうな。

大津: 同じようなサービスを出してきても困りません(堂々)。AIの技術を使って未来を予測できるようにしたわけですが、当社にとってこれは“本丸”ではないんですよ。

土肥: なぬ? 本丸でない? 世界初のサービスなのに。

大津: 当社の強みは「提案」だと思っているんです。他社が同じようなサービスを始めても、その予測結果を見て「どのようにすればいいんだろう?」と思われる会社が多いと思うんですよね。しかし、当社は「こうすれば伸ばすことできる」とアドバイスができる。というわけで、他社の動きに不安を感じていません。

土肥: つ、強気ですね。

大津: アクセス解析ツール「Google Anaylytics」を導入されている企業が多いと思うのですが、出てきたデータをどのように活用したらいいのか分からないというケースが多い。例えば、中古本などを扱っている「BOOKOFF」は、サイト上から本を売る人の数が伸び悩んでいました。そこで当社がサイトを分析し、改善ポイントをお伝えして、その通りに修正してもらったところ、本を売る人が伸びたんです。

土肥: おお、どのように?

●膨大なデータからユーザーの声を分析

大津: 以前はサイト上に書籍名などを入力すると、見積もりが表示されるような仕組みを導入していました。アクセスデータを分析したところ、それがダメであることが分かってきました。というわけで、先方にその仕組みを削除するように提案しました。

土肥: え、でもBOOKOFFのサイトですよね。本を売りたくて売りたくてたまらない人が訪問しているはず。自分が持っている本はいくらで売れるのか知りたいのでは?

大津: 知りたい人は多いでしょう。でも、知ってしまうと売りたくなくなるんですよ。

土肥: どういう意味でしょうか?

大津: 店頭でも同じことができますよね。本を持っていけば、店の人が計算してくれる。全部で1万円を予想していたのに、結果は5000円かもしれません。しかし、その場で判断しなければいけませんよね。売るか、売らないか。提示された金額が安いので、本当は売りたくないけれど「このまま家に持って帰るのは重いから、売ろう」という人もいるでしょう。しかし、サイトは違う。希望金額と見積もり金額に食い違いがでれば、「じゃ、止めよう」と簡単にあきらめる人がいるんですよね。

土肥: 「たくさんの本を梱包して……」といった作業を考えたら、「割に合わないから止めよう」という人も多そう。

大津: あと、本を店頭に持っていったら、部屋にスペースが生まれますよね。せっかく空間が生まれたのに、売らずに持ち帰ったらまた部屋が狭くなってしまう。以前のような生活は嫌だから本を売ろうという人も多いんですよね。でも、ネット上で見積もりをして、そこであきらめてしまうと、「本がなくなればスペースが生まれる」ことを体感することができません。こうしたことから、ネット上で見積もりを出せば、本を売るケースが少なかったんですよね。

土肥: なるほど。未来を予測するだけでなく、コンサルのように改善ポイントを伝えることができると。

大津: 膨大なデータを分析することで、ユーザーが発しているメッセージを見つけることができるんです。見積もった人は本を売らずに、見積もらなかった人は本を売っていました。でも、こうしたことって生の声ではないので、聞くことができません。そこで、私たちが何をしているのか。数字というデータだけではよく分からないので、「ユーザーはこのような行動していますよ」とお伝えしています。

●未来はどうなる?

土肥: 「AIに仕事を奪われる」「将来この仕事がなくなる」といった話に触れる機会が増えてきました。AIを使って仕事をされている大津さんにとって、この手の話をどのように受け止めていますか?

大津: ネガティブに受け止めていません。1980年代、PCが出てきたころも、いまと同じようなことを言っていたんですよね。「PCの登場によって、今後の社会はどうなる?」といったように。「コンピュータが世の中を支配する」「人間の仕事が奪われる」「トラブルが増える」といった話が多かった。

 でも、その後はどうでしょうか。PCが登場したことで、生活が豊かになった人が多いのではないでしょうか。確かに、なくなった仕事もありますが、生まれた仕事も多いですよね。AIも同じかなあと。これまでになかった高度な技術が供給されると、「自分の仕事が奪われるかもしれない」と不安を感じるのは仕方がないのかもしれません。でも、新しいモノを取り入れることは、新しい仕事を生み出すチャンスではないでしょうか。また、AIが普及することで、人間のストレスが減ると思っているんですよ。

土肥: どういう意味でしょうか?

大津: 人間って複雑な計算なんてやりたくないですよね。しかも、すべて正解でなければいけない、と言われると、それだけでストレスを感じるはず。しかし、そうした作業ってAIは得意。であれば、人間が面倒だなあと感じる作業はAIに任せればいいんですよ。つまり、人間が得意な仕事は人間がやって、AIが得意な仕事はAIがやるようになるのではないでしょうか。

 とはいえAIが広がることで、問題も出てくるでしょう。ただ、その問題をひとつずつ潰していくことで、人間の不安も解消されていくはず。いまはまだ目に見えないので、多くの人が得体の知れないモノになんとなく怖がっているだけなのかもしれません。

土肥: 未来を予測するサービスって、AIの登場がなければ生まれてこなかった。

大津: ですね。今後は人間とAIをつなぐような、これまでになかった仕事が増えてくるかもしれません。面白そうな世の中になりそうです。

(終わり)

最終更新:7月20日(水)14時52分

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