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フレキシブルな減税を含めた財政政策のイノベーションが必要

ZUU online 7月21日(木)11時20分配信

政府は安倍首相が指示した大規模な経済対策の取りまとめを行っている。

グローバルな景気・マーケットの不安定感、そして企業と消費者心理が萎縮してしまっている。この中では、財政を拡大し、ネットの資金需要(企業貯蓄率と財政収支の合計でマネーを拡大させるアベノミクスの効果の源)を復活させ、金融緩和の効果を強くすることが急務である。

■財政政策の機動性への障害は、「税収中立」という考え方

市場経済の失敗の是正、教育への投資、生産性の向上や少子化対策、長期的なインフラ整備、防災対策、地方創生、そして貧富の格差の是正と貧困の世代連鎖の防止を目的とした財政支出を増加させる必要があろう。それらのプロジェクトを成長戦略と呼んでもよいだろうし、成長戦略は財政支出をともなってはじめて強い効果を発揮する。

時間的な制約があり、財政政策はこれまで以上に機動性が求められている。しかし、これまでの緊縮一辺倒のロジックが妨げとなり、必要な財政プロジェクトのアイディアは潰されてきてしまい、早急な積み上げは困難になってしまっているようだ。更に、財政政策の機動性にとって、束縛・障害となっているのは、「税収中立」という考え方だ。

景気対策の手段となりうる減税には、代替財源の手当てが必要である税収中立が原則となっているため、その他の増税で効果が打ち消されてしまうことが多い。税収中立の原則の下では、税制のゆがみを正す経済効果しか期待できず、実質減税が経済活動を刺激する効果が乏しい。そして、財政政策で景気を刺激する場合、実質減税が使えないため、政府支出の増加に過度に依存することになってしまう。

■他国では機動的な財政政策は減税

短期間で優良なプロジェクトをともなう政府支出を決めることは困難であり、公共投資に依存してきたことが、景気対策が「ばら撒き」と批判を浴びる原因となった。そして、ばら撒きという批判を政府が浴びることを恐れるので、大胆な景気対策を実施できなくなってしまう。

税収中立の原則を外し、賃金上昇前の拙速な消費税率引き上げで、苦しんでいる家計を大幅な減税で支え、刺激するのが自然な考え方のように思える。必要な財政支出が早急にまとめられないのであれば、疲弊した中間所得層を支えるためにも、税収中立の原則を廃止してでも、減税を行う必要もあるかもしれない。

金融危機とアジア通貨危機による景気後退に対するため、1999年に恒久的減税として導入された定率減税(2007年に廃止)の復活と、2016年からの即時実施も検討されてもよいと考える。税収中立という財政政策の束縛と障害を持っているのはほぼ日本のみだ。他国では機動的な財政政策は減税で行われる。

日銀の強い金融緩和政策により、国債10年金利がマイナスまで低下しており、新規国債を増発してでも必要とされる、経済対策を実施するのが理に適っている。参議院選挙の自民党公約や首相の発言では、「赤字国債に頼ることなく安定財源を確保して可能な限り社会保障の充実を行う」としている。

■企業も金融政策もイノベーションが必要

しかし、社会保障ではなく、デフレ完全脱却のための景気刺激策としての赤字国債発行は、否定していないように思われる。税収中立という原則を打破して、景気動向に合わせて、赤字国債を発行してでも、フレキシブルな減税で景気刺激を行う必要もあると考える。

もちろん、逆も真で、景気が過熱していれば、フレキシブルな増税もあり得る。その基準は、景気動向を左右する企業貯蓄率(上昇=景気悪化)と財政収支の合計であるネットの資金需要を、減税などで財政赤字を拡大することで-3%から-5%程度に維持し、マネーがしっかり循環・拡大し、名目GDPもしっかり拡大できることだろう。

これまでは、企業貯蓄率が異常なプラス(企業の恒常的なデレバレッジ・リストラ)の中で、財政政策がフレキシブルではなく、ネットの資金需要は消滅してしまい、マネーと名目GDPが収縮し、デフレに拍車がかかってしまっていた。

成長戦略による企業のイノベーションの拡大が望まれている。賛否はあるにしても金融政策の手法にはイノベーションがあった。財政政策にもイノベーションが必要であろう。

財政問題の議論は、これまで会計・制度のミクロ経済学の方法論で硬直化し、マクロ経済学と社会学としての柔軟性が欠けていた。経済状況を見ながら、財政はフレキシブルに補正予算による景気対策を実施(毎年春には必ず)する必要があり、そのための財政プロジェクトの引き出しはいつもフルにしておくべきだろう。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト

最終更新:7月21日(木)11時20分

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