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血管病の治療と予防のポイント

ITmedia ビジネスオンライン 7月22日(金)8時26分配信

 心筋梗塞や脳梗塞の発症数は、年間30万人に上ると言われています。前回の連載では、こうした命にかかわる血管病であるこれらの疾患が、動脈硬化を背景として発生することについて解説しました。また、つい先ほどまで、何ら健康に問題のみられなかった方が、忽然と発症しあれよという間に死にいたる「急変」には、血栓症が関与していることについても説明しました。

 血栓症という急性疾患を起こす主な原因には、動脈硬化という生活習病に基づいた慢性疾患が潜んでいるわけですから、理論上は、日頃から動脈硬化を予防することで、心筋梗塞や脳梗塞を完全に根絶できることになります。しかしながら、現実はそんなに単純ではありません。

 定期的な検査を行い、生活習慣病を予防するような心がけをしていたとしても、現代社会にはさまざまなストレスがあり、食生活や定期的な運動などの生活習慣の改善についても、本人の心掛けだけで克服できるとは限りません。

 また、これ以外にも、遺伝的素因や、各個人それぞれの体質などもあります。それでは、もし、動脈硬化から血栓症となり、「急変」に至った場合には、どうしたらよいのでしょうか。非常に重篤な心筋梗塞や脳梗塞が突然発症し、手がつけられないまま、あっという間に「突然死」となってしまうこともありえます。

 しかしながら、通常、これらの疾患では発症してから、治療が奏功し生還できる時間帯が存在しています。つまり、速やかにしかるべき医療機関を受診して適切な検査・治療を受けることができれば、こうした状態に陥る前の状態に回復することが可能なのです。

 血栓症によって規定される病態には、治療が奏功する時間が極めて限られており、タイムリミットがあります。その期を逃さず、可及的速やかにアクションを起こせば、死亡や重篤な後遺症を回避できるのみならず、今までと何の遜色もない生活を取り戻すことが可能となるのです。

●心筋梗塞から身を守るために

 例えば、心筋梗塞には、不安定狭心症と呼ばれる前駆症状があることが知られています。このレベルでカテーテル治療など適切な血行改善治療をすれば心筋梗塞を発症することなく健康な状態に復することができます。

 ところで、そもそも狭心症と心筋梗塞の違いは何でしょうか。どちらも心臓を養う冠動脈の血行が悪くなって心臓に酸素がいきわたらなくなる病態としては共通していますが、血管の閉塞の程度に違いがあります。

 狭心症は、血管に細い部分が生じているものの完全に閉塞していないので、一時的に症状がおさまることがあるのに対して、心筋梗塞は、血管が完全に閉塞して症状は進行していき、一般的には不可逆的に死に至ります。

 そして、狭心症の中でも、安定狭心症と呼ばれるタイプは引き続いて心筋梗塞になることはまずありませんが、不安定狭心症は治療をせずに放置しているといずれ心筋梗塞に進展してしまいます。安定狭心症と不安定狭心症の違いは、背景に血栓症が存在しているかどうかにあります。

 不安定狭心症は、心臓を養う冠動脈の中のプラークが破裂して血管の中に突如血栓が発生し血流を妨げてしまうことにより発症します。しかし、まだ血管が完全閉塞していないので、そこを流れる血流は届くべき心臓の組織にどうにか行き着いて、酸素が届きます。完全に血流すなわち酸素が遮断されて組織が壊死に陥る心筋梗塞の状態にはまだ至っていないわけです。

 このタイミングで治療が可能な医療機関を受診して、速やかに適切な治療を受ければ、ほとんど問題なく回復することが期待できます。ところが、不安定狭心症は、一旦症状が和らぐこともありますが、放置していると、早晩2回目、3回目とプラーク破裂が繰り返され、結果として血栓が血管を完全に閉塞してしまい、心筋梗塞が完成してしまうのです。

 安定狭心症は血栓症が背景にないため一時的に血行不良になっても時間が経つと回復するので問題ないのですが、狭心症や心筋梗塞の症状は基本的には同じで、安定狭心症か不安定狭心症かの区別は容易ではないことが多いので、これらに見られる典型的な症状が発生したら、軽いものであっても、また、一旦症状が消失しても、放置せずにできるだけ早く対応可能な医療機関を受診する必要があります。

●狭心症、心筋梗塞の典型的な症状

 ここで、典型的な狭心症、心筋梗塞の症状を確認しておきましょう。典型的な症状は胸痛ですが、心臓由来の症状と考えにくいものに、みぞおちの痛みや、左肩から左腕にかけての痛みがあります。前者は胃の痛み、後者は首由来の痛みと考えて、発見が遅れることがあります。また、痛みが顎や右肩、背部にまで放散することもあるので注意が必要です。

 ただし、それらの症状が全て狭心症や心筋梗塞を引き起こすわけではありません。いずれの症状であっても、冷や汗や顔面蒼白などの切迫症状があるか、突然発症したものであるか、などが見分けるポイントになります。しかし、糖尿病や高齢の方は、実際心筋梗塞が発症しているのに無症状で診断が遅れる場合があるので、重症感がなくても怪しいと感じたら躊躇なく医療機関の門戸を叩くべきでしょう。

●心筋梗塞発症後に回復が見込める許容時間

 極端に治療開始時期が遅くならなければ、カテーテル治療や血栓溶解薬の投与などの負担の少ない治療で回復が見込めます。一般的に、心筋梗塞の死亡例のほとんどは発症後3~4時間以内に生じる致死的不整脈が死因になります。たとえ心筋梗塞になっていたとしても、発症後2時間以内に適切な治療が開始できれば究命が可能です。そして、適切な治療をして48時間を乗り越えれば回復が期待できます。

●脳卒中から身を守るために

 脳の血管病は脳卒中と総称され、その6割が脳梗塞、3割強が脳出血、1割弱がクモ膜下出血です。これらの疾患も心筋梗塞と同様に、早期発見、早期治療が重症化せずに回復するためのキーポイントです。

 クモ膜下出血は脳動脈瘤が破裂する前に発見してコントロールすれば理論上は完全に予防できますが(クモ膜下出血の原因は脳動脈瘤破裂です)、脳梗塞や脳出血は、日頃の健康管理が行き届いていても予兆なく発症することがあります。

 そして、最も頻度の多い脳梗塞は、発症してから3時間以内に血栓溶解剤を投与できるか否かが鍵となります。時間内に血栓溶解剤が投与できれば後遺症が最小限になる可能性が大きいのに対して、処置が遅れて投与のタイミングを逸すると弱ってしまった血管が破れて出血するリスクがあるため血栓溶解剤は投与できなくなってしまいます。そうなると重症化してたとえ救命できても負担の大きな後遺症が残るリスクが大きくなります。

 また、病院到着後も、治療体制が整って実際に処置が行われるまでには1時間程度は時間を要しますので、発症2時間以内に然るべき医療機関を受診しなければいけません。すなわち、脳卒中発症時の典型的な症状は特徴的ですので、その症状が見られたら躊躇なく救急車の要請をすべきです。

●脳卒中の初期症状

脳卒中発症時の初期症状としては、

1、片方の顔がゆがむ

2、片腕や片脚に力が入らない

3、ロレツがまわらない、の3つが代表的です。

 他には、片方の目が見えない、物が2つに見える、視野が欠ける、力はあるのに立てない、歩けない、ふらふらする、経験したことのない激しい頭痛がする、などがあり、以上の症状が突然発症したら速やかに救急要請しましょう。発症2時間以内に、脳神経外科専門医による診断と、緊急CT/MRI検査が可能な医療機関を受診できれば回復する可能性が大きくなります。

●心筋梗塞や脳卒中の発症を未然に防ぐ健康管理のポイント

 心筋梗塞や脳卒中は発症後いかに短時間で然るべき医療機関を受診し得るかが、死や重症化を回避するには最低限必要なことですが、言うまでもなくこれらの疾患の発症を未然に防ぐことができればそれ以上のことはありません。そのための、健康管理のポイントを最後に触れたいと思います。

 まずは、心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクである動脈硬化の発症を予防することが重要です。その上で、動脈硬化が体の中で進展していないか、致死的な状態に近づいていないかを定期的にチェックすべきです。

 前回も触れましたが、動脈硬化の発症リスクは

1、加齢

2、喫煙

3、糖尿病

4、脂質異常症(悪玉コレステロールや中性脂肪上昇、善玉コレステロール低下)

5、高血圧

6、肥満/内臓脂肪蓄積

7、活性酸素過多

8、歯周病 などが挙げられます。

 一方、血栓症の発症リスクは

1、血流うったい(心臓細動、筋肉ポンプ失調など)

2、凝固能亢進・血栓形成傾向(体質や炎症)

3、血管内障害(動脈硬化、外傷、感染、脱水)などです。

 これらが生じないようにするには、

1、緑黄色野菜を豊富に食べる

2、十分な水分を摂る

3、減塩に心掛ける

4、動物性タンパクに偏らない

5、腹八分

6、間食しない

7、就寝前3時間は食事しない

8、抗酸化サプリメントの利用

9、毎日7~7.5時間の睡眠

10、週5日以上の20分間早歩きウオーキング

11、毎日10回の深呼吸、20回の腹筋、20回のスクワット、20回のカーフレイズ程度の運動

12、ストレス回避、ストレス消化(趣味 瞑想)

13、歯の手入れを怠らない などが挙げられます。

 一方で、動脈硬化が進展していないか定期的に受けておくべき検査法としては、

1、血液検査によるリスク評価(6~12カ月毎)

2、心電図検査(毎年)

3、頸動脈エコー検査(毎年)

4、動脈硬化度測定検査(毎年)

5、頭部MRI/MRA検査(1~3年に1回)などが挙げられます。

 ただし、これらの検査を受けることが目的になってはいけません。検査をしっかりと受けて安心してしまう方がしばしば見受けられます。肝心なのは、検査により評価された発症リスクをしっかり受け止めて、リスクを管理するための適切な生活スタイルを維持することです。

 そして、しっかりと対策を講じているにも関わらず心筋梗塞や脳卒中が発症してしまうこともあるわけですから、怪しい症状が見られたら躊躇せずに然るべき医療機関を受診してください。

(阿保 義久)

(ITmedia エグゼクティブ)

最終更新:7月22日(金)8時26分

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