ここから本文です

データで見る、「トランプ大統領」が誕生する可能性

ITmedia ビジネスオンライン 7月22日(金)8時36分配信

 7月18日から、米オハイオ州クリーブランドで、米大統領選の共和党指名候補を正式に決める共和党大会が開幕した。

【その他の画像を見る】

 21日までの日程で行われる大会で、自らの実力で全国の共和党代議員の過半数を掴(つか)み取った不動産王のドナルド・トランプが正式な共和党候補に指名された。

 今回の党大会では、トランプを支持できないとして大物たちが欠席する事態になった。共和党の大統領候補だったミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事やジョン・マケイン上院議員、さらに党大会が行われたオハイオ州のジョン・ケーシック知事も欠席。さらに、ジョージ・W・ブッシュ前大統領も姿を見せていない。

 共和党重鎮らによるトランプ躍進に対する最後の抵抗だったが、残念ながら、彼らがどれだけ大物であっても、もはやその結果を覆すことはできない。彼らは「トランプ候補」という現実を受け止めるしかないのだ。

 共和党予備選を通して強さを見せてきたトランプだが、5月に指名獲得をほぼ確実にしてから、その勢いは停滞気味である。日本では、トランプが5月にメキシコ系米国人の連邦地裁判事に対して人種差別的発言をしたことが顰蹙(ひんしゅく)を買って勢いが落ちたと述べているコメンテーターもいるが、彼の人種差別的発言は今に始まったことではない。そもそも白人が9割を占める共和党内での指名候補争いには、そうした発言が効果的だった。

 実際には、トランプが共和党指名候補の座を確実にしたことで選挙戦が共和党の枠を超えたため、そうした発言などが逆効果に作用している。要するに、トランプが大統領本選で勝てる人物ではないことが改めて浮き彫りになっているのである。米国のメディアでもその現実を指摘する声があちこちで見られ、トランプが大統領になる可能性はほとんどないという見方すら出ている。

●トランプが勝利する可能性は低い

 まず簡単に米大統領選について説明したい。2大政党である民主党と共和党が、まずそれぞれ予備選を行って7月の党大会で指名候補者を決め、11月の本選に向けて戦う。本選では、全米50州それぞれの州で、有権者が民主党または共和党指名候補を支持する選挙人(代表者)に投票を行う。多くの選挙人を獲得した指名候補が、最終的に州のすべての選挙人を獲得する。これは勝者総取りと言われる方式だ(総取りを行わないのは2州のみ)。選挙人は合計で538人で、過半数となる270人以上を獲得した候補が大統領になる。

 大統領選の本選では、多くの州で民主党・共和党のどちらが有利なのかが事前に分かっている。どういうことかというと、過去の選挙の傾向から、投票する前からだいだい民主党または共和党のどちらが勝利しそうかが予測できるのである。例えば、カリフォルニア州は過去の投票から今回も民主党の候補がほぼ勝利すると見られているし、テキサス州は1980年からこれまでずっと共和党の候補が勝利している。

 ただ選挙のたびにどちらかに振れるのか読めない州がある。そういう州はスウィング・ステート(浮動票の多い激戦州)と呼ばれ、大統領選の勝敗のカギを握るほど重要な州となる。言うなれば、スウィング・ステートを制すれば勝者になれる可能性が高い。米政治専門紙の『ポリティコ紙』は、2016年の大統領本選でスウィング・ステートとなるのは次の11州だと見ている(参照リンク)。コロラド州、フロリダ州、アイオワ州、ミシガン州、ネヴァダ州、ニューハンプシャー州、ノース・カロライナ州、オハイオ州、ペンシルベニア州、バージニア州、ウィスコンシン州である。

 同紙はこれらスウィング・ステートを中心にトランプとクリントンの支持率をモニターしている。それによれば、過去1カ月以上のさまざまな世論調査を平均すると、現在トランプの支持率は38.8%。一方のクリントンは44.1%であり、どの調査を見ても今のところトランプは劣勢に置かれている。

 共和党予備選で全世界の話題をさらうほどの躍進を見せたトランプだったが、すべての有権者を対象にした本選の争いになると、その勢いはかすれてしまっているようだ。これからの選挙戦で何か予想だにしないことが起きない限り、トランプが勝利する可能性は低そうだ。

●トランプが勝てない理由

 ではトランプが勝てないと言われる理由はどこにあるのか。

 米国の有権者全体について見ると、トランプが大統領になるためには大きな壁がある。非白人の票だ。今回の大統領選挙は史上最も人種・民族の幅が広いものになるとみられており、非白人の票が非常に重要になる。米ピュー研究所によれば、2016年は有権者の3分の1近く(31%)がヒスパニック系(中南米)、黒人系、アジア系、またはそのほかの少数派の人種・民族である。その割合は前回選挙(2012年)の29%よりも増加しているが、その背景には米国生まれのヒスパニック系がどんどん成人していることが挙げられる。

 ご存じの通り、トランプはメキシコ人を「殺人者」「レイプ魔」と呼び、メキシコとの国境には壁を作ると公言しているので、彼がヒスパニック系から嫌われているのは言うまでもない。またイスラム教徒を入国禁止にすると言ったり、移民そのものに否定的な発言をしている。非白人からの人気はかなり低い。

 事実、ヒスパニックを対象にした世論調査では、民主党のヒラリー・クリントン前国務長官への支持は67%。一方のトランプ支持は19%に過ぎない。またヒスパニック系に限らず、黒人やアジア系などを含めても、クリントンはトランプより20ポイントも支持率が高い。ちなみにもともと民主党支持者が多い黒人の8~9割は、トランプに不支持を示しているとの調査もある。

 トランプはまた、勝利するのに欠くことのできない別の層からも嫌われている。女性である。米国では、女性の有権者は全体の52%に達し、投票率は男性よりも高く64%ほどになる。トランプは女性からの人気がかなり低く、2016年3月の調査では、女性有権者の73%がトランプにマイナスイメージをもっていることが判明している。しかもこの数は2015年12月の59%から悪化の一途にある。

 トランプを指名候補にした共和党支持者ですら、女性の47%はトランプに否定的で、好意的に見ているのは49%だ。民主党では、好意的に見ている女性はたったの7%で、89%が否定的な見方をしている。

●「トランプ大統領」誕生の可能性

 トランプの女性に対するデリカシーのなさを見れば、そもそもなぜ彼がここまで勝ち残ったのか不思議になるくらいだ。例えばこんな具合だ。

 共和党の女性対抗馬に対して、「あの顔を見てみろ、誰があれに投票するんだ? 次期大統領があんな顔なんて考えられるか!?」。夫のビル・クリントン元大統領が大統領時代に浮気したことを示唆して、「ヒラリー・クリントンは自分の夫すら満足させられないのに、なぜ米国を満足させられると思えるのか」。厳しい質問をしたテレビ番組の女性ホストには、「彼女の目からは血が出ている……いや、あの日なのか」。

 ちなみに全米で見ると、トランプは男性からの支持も高くない。米調査会社ギャロップの調査では男性も58%がトランプに否定的な見方をしており、この数も2015年10月の48%から増加している。トランプの主要な支持層は、労働者層の白人男性である。要するに、労働者層の白人男性から支持が高いトランプは、白人が大半を占める共和党内の予備選では勝てたが、民主党も含めた全米的な争いとなる大統領本選となると、非常に厳しい戦いを強いられるということだ。

 実は前回2012年の大統領選で勝利したオバマの例を見ると、オバマが白人労働者層から得た票はたったの36%だけだった。さらに白人労働者層の男性に限定すれば、それよりもさらに数は少ないと見られている。ロムニーは白人票の59%を獲得したが、結果的にはオバマに敗れた。ちなみにオバマは非白人票の80%を獲得している。

 予備選で躍進したと胸を張るトランプは、共和党支持者の1300万人の票を獲得した。確かにこれは共和党としては記録的な数字だが、2012年の大統領選を見ればオバマが本選で獲得した票数は6600万票に達する。非白人と女性から見放されているトランプは、一体どこまで戦えるのか。

 こんな話もある。米ワシントン・ポスト紙のある政治評論家は、クリントンが1992年から民主党が勝利しているすべての州(19州とワシントンDCで242人の選挙人が獲得できる)と、(スウィング・ステートの)フロリダ州(選挙人は29人)だけを勝利すれば、過半数の270人を超えるために次期大統領になれると、繰り返し語っている。非常にシンプルな予測だ。どれだけクリントンの人気が低くても、さすがに伝統的に民主党を支持する州が、共和党になびくほどではないのである。

 日本でも、トランプが米軍駐留経費の負担増などに触れていることから「トランプ大統領」に警戒せよという声もある。だがトランプに対するその心配は、杞憂に終わる可能性が高そうだ。

(山田敏弘)

最終更新:7月22日(金)11時26分

ITmedia ビジネスオンライン

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

斬首動画が何百万回も再生されてしまう理由
昔は街の広場で、現代はYouTubeで。歴史を通じ、公開処刑には必ず人だかりがつきものでした。人が処刑というものを、恐ろしく不快に感じながらも、つい気になって見てしまうのはなぜか。フランシス・ラーソンが人間と公開処刑の歴史、中でも斬首刑に焦点を当てて解説したこのトークは、気分の良い内容ばかりではありませんが、同時に興味をそそること間違いないでしょう。