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<特別連載>ミャンマーのロヒンギャ問題とは何か? (2) 人身売買問題にTPPが絡んでいた 宇田有三

アジアプレス・ネットワーク 7月22日(金)11時29分配信

◆ロヒンギャの人身売買被害とTPP

これはあまり大きく報道されなかったが、ロヒンギャの人身売買問題には「TPP(環太平洋連携協定 / 環太平洋パートナーシップ協定)」が絡んでいると推測されるのだ。

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2015年5月前後といえば、日本でも報道されたように、いよいよTPPの合意が得られるか、という時期に差しかかっていた頃である。人身売買の関与国として米国の報告書に最低ランクに位置づけられていたマレーシアの存在は、TPP交渉の障壁になる恐れがあり、そこで東南アジアでの人身売買の取り締まりが強化されたのであった。

米国CNNは米国務省の人身売買の実態に関する年次報告書(2015年)を受けて、次のように報じている(日経新聞やロイターなどの一部メディアも報じた)。
 
《 例えば4 段階で最低の格付けだったマレーシアは1 段階引き上げられた一方で、タイは最低評価のまま据え置かれた。両国ともミャンマーを脱出したイスラーム系民族ロヒンギャ族の人身売買ルートの一端を担っており、マレーシアでは今年、人身売買の被害者と見られる大量の遺体が埋められているのが見つかっている。
人権団体はこうした格付けの背景として、マレーシアは環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉に参加していると指摘する。米貿易促進権限法には、最低評価の国と協定を結ぶことを禁じた条項がある。
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの幹部はマレーシアの状況について、「移民が人身売買されて虐待され、国境付近でロヒンギャ族の被害者の遺体が見つかっているのに、摘発件数は年々減っている。国務省はなぜこれを改善と呼べるのか」と批判。「今回の格上げは、人身売買と闘うマレーシアの対応ではなく、TPPと米国の貿易政策によるものだ」との見方を示した。 》

ここで勘違いしてはいけない。「ロヒンギャ問題」とは「人身売買問題」ではなく、およそ半世紀続いたミャンマー軍政の政策が生み出した構造的な差別問題の結果である。だが、文中にそのことは触れられていない。また、海外メディアの多くがそうであったように、CNNは報告の中で、ロヒンギャ・ムスリムを「ロヒンギャ族」(ヒューマン・ライツ・ウオッチも)と記述をしている。しかし、これは誤解を生む報道である。

それは、そもそもロヒンギャたちが求めてきたのは、「民族としてのロヒンギャ」ではなく、「ムスリムとしてのロヒンギャ」だからである。私がこれまで出会ってきたロヒンギャたちは、数少ない例外を除いて、イスラームを信奉する「ロヒンギャ・ムスリム」というアイデンティティを強く意識していたからである(「ヒューマン・ライツ・ウオッチはその英語の報告書で、”Rohingya Muslims” 〈ロヒンギャ・ムスリム〉と ”ethnic Rohinya”〈ロヒンギャ民族〉を混在させている)

私がロヒンギャと呼ばれる人びとの存在を知ったのは、軍政ミャンマーの取材を始めた1993年であった。前述したように、ロヒンギャ難民の問題は1993年をさかのぼる1978年頃から始まっていた。「ロヒンギャ問題」の歴史は古く、2015年になって突然、起こったわけではない。(つづく)


宇田有三(うだ・ゆうぞう) フリーランス・フォトジャーナリスト
1963年神戸市生まれ。1992年中米の紛争地エルサルバドルの取材を皮切りに取材活動を開始。東南アジアや中米諸国を中心に、軍事政権下の人びとの暮らし・先住民族・ 世界の貧困などの取材を続ける。http://www.uzo.net
著書・写真集に 『観光コースでないミャンマー(ビルマ)』
『Peoples in the Winds of Change ビルマ 変化に生きる人びと』など。

最終更新:8月1日(月)15時48分

アジアプレス・ネットワーク