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VRコンテンツの開発、投資、市場振興――グリーがVR事業に注力している理由とは? 荒木英士氏インタビュー

ファミ通.com 7月23日(土)0時1分配信

●2016年は、皆さんがVRに触れる機会をできるだけ増やしたい
 Oculus Riftやプレイステーション VRなど、多数のVR(バーチャル・リアルティー。“仮想現実”とも呼ばれる)機器が登場する2016年。“VR元年”とも呼ばれるこの年、ゲームメーカーを始め、さまざまな企業がVRに対する取り組みを展開している。

 その中でも、グリーの取り組みは、ひと際目を引く。2015年9月に東京ゲームショウ2015でVRコンテンツ『サラと毒蛇の王冠』を出展した後、11月にゲームスタジオ“GREE VR Studio”を立ち上げてVR事業に本格参入。その後も事業の幅を広げている。破竹の勢いで進むグリーのVR事業に関する展望を、取締役 執行役員の荒木英士氏に聞いた。
※本インタビューは、週刊ファミ通2016年6月30日号(2016年6月16日発売)に掲載された内容に、加筆・修正を行った完全版です。

グリー 取締役 執行役員
荒木英士氏

 2005年、4人目の正社員としてグリーに入社。事業責任者兼エンジニアとして、PC/スマートフォン向けGREEやソーシャルゲーム事業を手掛ける。2011年にGREE International, Inc.(北米)を設立。2013年に帰国し、取締役 執行役員に就任。


●東京ゲームショウと3日間の出張からVR事業が一気に動き出した
――グリーは、東京ゲームショウに出展して以来、じつにさまざまな形でVRに関する取り組みを行っていますが、VRに注力することを決めた理由を教えてください。
荒木 これまでに、PCやモバイルの市場が成長してきましたが、VRはそれらに続く次世代のプラットフォームになると思っています。新しいプラットフォームが生まれるときには、テクノロジー、コンテンツの作りかた、ビジネスモデルなどが変わりますので、早めに参入してノウハウを蓄積し、製品を提供してユーザーの声を聞くことが大事だと考えて、力を入れて取り組んでいます。……と言うのは、ビジネス寄りの話なのですが。

――……なのですが?
荒木 じつは、僕の個人的なVR施策の出発点は、もう少しさかのぼります。レイ・カーツワイルという、人工知能の専門家で、現在はGoogleで研究開発をしている人がいるのですが、彼が2005年に書いた『The Singularity Is Near』という本があります。この本には、テクノロジーと人類のこれまでの歩みと、今後の展望が書かれているんです。

――具体的には、どのようなことが書かれているのですか?
荒木 未来では、PCなどの端末にアクセスして情報を得る段階を超えて、より没入型のデバイスが浸透したり、情報を直接神経に伝達したりするようになるだろう、と記されています。僕は2年ほど前にこの本を読んで、「きっとこういう未来が来るんだろうな」と思っていたところ、VRが商用製品として世に出てくるようになりました。「これは、いよいよVRの時代が来そうだな」と感じ、そこから「どうやって、これを仕事にしようかな?」と考え始めたんです。

――まず荒木さん個人がVRに興味を引かれ、それをグリーの中でどうビジネスにしていくかを考えたのですね。
荒木 研究開発をする、と言うには参入が遅すぎますが、事業として手掛けるならちょっと早いくらいの時期で、参入するにはいいタイミングだと思ったんです。これならビジネスになるのでは? と、去年、小さいチームを作って始めました。チームというか、ふたりだけだったんですが。

――えっ、たったのふたりですか?
荒木 はい。まずはふたりで『サラと毒蛇の王冠』のプロトタイプを作って、「これならいける」と思える段階に来てから、デザイナーに参加してもらいました。

――東京ゲームショウへの出展は、いつ決めたのですか?
荒木 プロトタイプを作り始めるよりも前、ふたりでチームを結成したときに、まず“東京ゲームショウに出展する”ということを決めました。アウトプットがない研究開発はしたくないと思いましたので。

――では、東京ゲームショウでの反響はいかがでしたか?
荒木 累計で500人くらいの方に遊んでいただいたのですが、すごく反応がよかったです。単にVRだというだけではなく、マルチプレイのライド型アトラクションであるというところが、「新しい切り口だ」と評価していただけました。それまでは、グリー社内でひっそりと進めていたのですが、東京ゲームショウでの評判がよかったので、堂々とした顔ができるようになりました(笑)。
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――(笑)。東京ゲームショウ後は、怒涛の勢いでしたよね。すぐにGREE VR Studioを立ち上げて、この3月にHTCと業務提携して、4月に投資ファンドを設立して……と。
荒木 ビジネスの幅を広げた理由は、東京ゲームショウで手ごたえを感じたことがひとつ。もうひとつは、昨年の12月にロサンゼルスとサンフランシスコに出張に行き、VR事業を手掛ける企業の皆さんと会ったことです。3日間で、30社くらいの方に会いました。

――それはものすごく密度の高い出張ですね。
荒木 3日間、VRに集中することで、どういう人たちが何をしているかがひと通りわかったんです。「日本ではまだ感じられないけれど、北米ではVRは盛り上がっていて、今後もビジネスとして成り立っていきそうだ」と感じました。その経験が、グリーの今後の事業を決める指針になったと言えます。VR専門のファンドを作ったのも、VR専門のサミットを開催しようと考えついたのも、この3日間の出張がきっかけです。

●3つの事業を柱にVR市場を盛り上げていく
――では改めて、現在グリーが手掛けているVR事業の概要を教えてください。
荒木 いま、グリーでは3つの柱を持ってVR事業に取り組んでいます。ひとつ目は、GREE VR Studioを始めとする、グリー内部の開発部隊でコンテンツを作り、提供していく“開発事業”。ふたつ目は“投資事業”です。専門のファンド“GVR Fund”を4月に立ち上げ、当社だけではなく、他社の皆さんにも投資に参加してもらっています。3つ目は“市場振興事業”で、“Japan VR Summit”を中心に、日本のVR市場を盛り上げるための活動を行います。

――昨年12月の出張がきっかけと考えると、かなりのスピードで事業を進めていらっしゃいますよね。
荒木 もともとグリーはスタートアップ投資を行っていましたので、新たに投資事業を立ち上げたというよりは、投資の注力領域を増やした、という認識ですね。イベントにしても、見本市への出展やカンファレンスの運営はこれまでにも行っていたので、未知のものではありません。VR事業のために、リスクを承知で大きな予算を用意したわけではなくて、いままでの活動の範囲を広げただけなんですよ。

――これまでのノウハウがあったからこそ、この規模とスピード感で活動できているのですね。では、それぞれの事業についてうかがいたいと思います。まず開発事業ですが、GREE VR Studioは現在、どのくらいの数のスタッフで構成されているのでしょうか。
荒木 スタッフ数は設立時からあまり変わっておらず、20~30人のスタッフが在籍しています。プロジェクトの状況に応じて、増減はありますが。

――これまでに、『サラと毒蛇の王冠』、『シドニーとあやつり王の墓』、『Tomb of the Golems』の3作品を手掛けていますが、今後はどのようなタイトルを開発していくのですか?
荒木 いまもいくつかの新作の開発に取り組んでいますが、年間に2~3作は新しいタイトルを出していけるようにしたいな、と思っています。

――前述の3タイトルはいわゆる“ゲーム”ですが、ゲーム以外のコンテンツも手掛けますか?
荒木 いえ、GREE VR Studioでは、いまのところゲームにフォーカスしています。映像コンテンツについては、フジテレビさんと立ち上げた“F×G VR WORKS”というVRコンテンツ創出プロジェクトの中で手掛けていこうと考えています。フジテレビの映像技術と、グリーが持っているノウハウを利用すれば、クライアントのありとあらゆるニーズに応える映像コンテンツが作れるのでは? と考え、いまは両社でさまざまな検証を行っているところです。ただ360度見られる映像ではなく、その一歩先の映像を見せたいですね。

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――フジテレビ以外では、HTCと業務連携を行うとのことですが、具体的にはどのようなことを?
荒木 HTCさんとは、アミューズメント・レジャー施設でのVR体験の提供を進めていきます。日本のPCゲームユーザーの数は、海外に比べると少ないので、PC向けのVRコンテンツの市場は、どうしても立ち上がりが遅くなると思います。その一方で、日本にはゲームセンターという施設があります。ユーザーは、リアルのロケーションに足を運んでゲームを体験する、ということに慣れています。そこで、HTC Viveをリアルの施設に設置して、皆さんに体験してもらって、将来的に自宅用にVRシステムを購入してもらえればいいなと考えました。
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――市場振興事業の一環とも言えますね。
荒木 まずは接する人を増やしていかないと、市場が成長しないので。2016年は、VRを体験してもらえる機会をたくさん増やしたいと思っています。コンテンツをユーザーに届ける手段を持っている企業の皆さんと、いろいろな取り組みをしたいですね。また、「このIPのためなら、VRのデバイスを買う!」というような熱心なファンがいるIPさんと組んで、認知を広げていきたいです。

――市場振興事業の核となる、5月に行われた“Japan VR Summit”についてお聞かせください。実際に開催してみて、いかがでしたか?
荒木 参加された皆さんが、想像以上の熱量を持っていましたね。開催日よりもずいぶん前にチケットが売り切れたのは驚きでした。午前から夜までセッションを行っていましたが、朝一番の段階で400人くらいの方が来てくださって。参加者は全部で550~560人ですから、相当の割合の方が、最初から参加してくださったんです。
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――Japan VR Summit第2回を開催する予定は?
荒木 計画中です。継続することが大事だと思っていますので、半年に一度は開催したい。市場はどんどん変化していくので、市場の最新動向を紹介していきたいですし、その市場で何かやりたいと思っている方へのきっかけ作りにもなればと思います。

――ここまで、開発事業と市場振興事業についてうかがってきましたが、投資事業についてもお聞かせください。現状、北米を中心に行っているんですよね。
荒木 はい。北米にはグリーの支社があり、投資チームがあるんですね。そのチームがVR専門のファンドも担当しています。北米を中心にしているのは、現状、VRのビジネスチャンスが集まっているのが、やはり北米だからです。北米で得たものを、日本でも活かしていければいいなと。
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――いずれの事業についても、今後さらに力を入れていくかと思いますが、これからVRを普及させるうえで、重要なものは何だと考えていますか?
荒木 人に教えたくなるようなコンテンツがあることが大事だと思っています。ニンテンドーDSで言うところの『脳トレ』(『東北大学未来科学技術共同研究センター 川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のDSトレーニング』)のようなコンテンツが出てくると、VRが広がっていくと思いますので。そして、それを「遊びたい!」と思ったときに、機材一式を揃えるのに少なくない費用がかかってしまう……というのはハードルになりますので、そのときのためにも、アミューズメント施設で気軽にVRを遊べるようにしたいですね。今年中には実現させたいです。

――VR事業の中長期的な目標は?
荒木 いまはプラットフォームと言えばスマートフォンが中心となっている状況ですが、それがVRにシフトする、もしくはオーバーラップしていくとすれば、そのとき、VR事業が会社の柱となっていて、世界的に見てもリーディングプレイヤーになっていることが、中長期的な目標です。

――ちなみに、荒木さんが個人的に、VR領域でやってみたいことはありますか?
荒木 早く脳に接続できるようになったらいいな、と思っています。すでに研究が進んでいる技術ですから、けっこう早く実現すると思うんですよね。そうすれば、そのVRの世界で、リゾートやテーマパーク運営、都市開発をソフトハウスができるようになるんですよ。そこまでいけたら、楽しいなと思います。

――VRによって、エンターテインメントが進化するのが楽しみです。それでは、最後に読者にひと言お願いします。
荒木 僕は、VRによって、いままでになかったおもしろさが体験できるようになると思っています。皆さんがそれを実感する日が来るのを少しでも早めるために、今後もがんばっていきたいと思います。

最終更新:7月23日(土)0時1分

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