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16年7月21日ECB政策理事会:質疑の焦点は英離脱の影響よりも銀行の不良債権問題に

ZUU online 7/23(土) 17:50配信

欧州中央銀行(ECB)は21日に開催した政策理事会で現状維持を決めた。英国が欧州連合(EU)離脱を選択した影響は、向こう数ヶ月で入手できる情報に基づき判断するとし、必要に応じて行動する意志と能力があることを強調した。

質疑応答では最も多くの時間が銀行の不良債権問題に割かれた。公的支援についても「例外的な状況に対応する柔軟性はある」と述べた。ユーロ圏の銀行の支払い能力は、2009年時点よりも改善しており、目下の問題は収益力の低さにあることを強調した。銀行ストレス・テストは監督機関が必要に応じて課す追加資本決定のために利用できる参照値であることを確認した。

ECBは6月に社債買入れを開始、第1回のTLTROIIも実施した。追加緩和策としては、17年3月に期限を迎える資産買入れプログラムの半年間の期限延長が濃厚だ。

■英国民投票結果は向こう数ヶ月で見極め、次回9月8日公表の新たな見通しも判断材料

欧州中央銀行(ECB)は21日に開催した政策理事会で現状維持を決めた。

英国民投票の結果判明直後、不確実性とボラティリティが一時的に高まったものの、現在までの落ち着きを取り戻している。声明文には今回新たに「中央銀行が必要に応じて流動性を供給する方針を表明したこと、緩和的な金融政策、強固な規制監督体制が市場の緊張を抑制する要因となった」との記述が盛り込まれた。

さらに、声明文には、英国の欧州連合(EU)離脱の選択は、その他の地政学的リスクなどと共に「ユーロ圏の回復にとっての逆風」であり、「向こう数ヶ月で入手できる情報に基づいてマクロ経済の状況と想定されるパスについて再評価する」、「必要に応じて利用可能な手段を用いる用意がある」との記述も盛り込まれた。次回9月8日の政策理事会時には四半期に1度の経済見通しの公表が予定されているが、新たな見通しも判断材料とする方針だ。

英国がEU離脱を選択したことのユーロ圏経済への影響について、ECBは向こう3年間0.2%~0.5%、欧州委員会は0.25%~0.5%と試算しているが、ドラギ総裁は、「交渉に要する期間や交渉の結果によって影響度合いは変わる」として釘を刺した。

質疑応答では、資産買入れ対象の枯渇懸念を解消するための、出資比率に応じて国債買い入れの割合を決めるルールの変更や、株式、銀行債などを対象に加える可能性などについて質問があったが、今回の会合では具体的な政策手段について協議しなかったとした。

■例外的な状況の不良債権処理には柔軟な対応が可能であることを示唆

質疑応答で最も多くの時間が割かれたのは銀行の不良債権問題だ。市場が英国の国民投票結果判明後の緊張状態を脱した後も、欧州の銀行株の戻りは弱い。銀行株の下落について、ドラギ総裁は、「株価の下落は、資本コストの上昇を引き起こして、貸出による純利益が現象するため、貸出姿勢が慎重化する」結果につながるため、金融政策の波及を妨げる要因として警戒していると述べた。

特に、イタリア第3位の商業銀行・モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナの不良債権問題への懸念は強まっている。イタリアでは、リスクについて十分認識しない個人の零細投資家が劣後債等を保有していたため、不良債権処理の加速にあたり、損失負担を求められた場合の影響の広がりに不安が高まっている。

ドラギ総裁は、公的支援に関する判断の権限は欧州委員会にあるとした上で、「EUの政府援助や銀行破綻処理指令のルールは例外的な状況に対応する柔軟性はある」、「不良債権市場が十分に機能しないような場合には、公的なバック・ストップの利用もあり得る」と述べるなど、システミック・リスクに配慮した柔軟な対応策が模索されていることを示唆した。

さらに、ドラギ総裁はユーロ圏の銀行の目下の問題は収益力の低さにあり、2009年時点に比べて、支払い能力は、規制・監督体制の変更や不良債権の定義変更、引当ての進展などにより改善していると強調した。

■EBAのストレス・テストは追加資本決定のために利用できる参照値

欧州銀行監督庁(EBA)がとりまとめを行っているEU加盟国の大手銀行のストレス・テストについても言及があった。

EBAのテストは、総資産ベースでEUの銀行総資産の70%をカバーする51行が対象。イタリアからはモンテ・テイ・パスキ・ディ・シエナを含む5行が対象となっている。EBAは7月29日の結果を公表する予定だ。

ドラギ総裁は、ECBの監督下にある56行についても同様のテストを行なうことも明らかにすると同時に、これらのテストは、「今年末までに監督機関が必要に応じて課す追加資本(Pillar2)を決定する際に利用できる」参照値という位置づけであるとの見解を示した。

これまでのストレス・テストのように資本の最低要件について点検する位置づけではない。この点も、すでに自己資本の増強は進展しており、支払い能力については大きな問題ではなくなったという当局の認識に反映する。

■社債買入れ残高は104億ユーロ、TLTROIIの利用は借換えを中心に3993億ユーロ

ECBは、金融政策面では、前回6月2日の会合の後、6月8日には社債の買入れを開始、6月29日に期限4年の新型ターゲット型資金供給(TLTROII)の第1回分を実施した。

社債の買入れ残高は7月15日までに104億ユーロに達している。3月の決定を受けて、資産買入れ額は月間800億ユーロに200億ユーロ増額された。6月からは増額分の半分を社債が占めることになる。

TLTROIIでは3993億ユーロが供給された。但し、ECBのバランス・シートを見ると、資金供給の残高は2011年末~12年にかけて期間3年の長期資金供給(LTRO)が実施された局面のような増え方はしていない。TLTROIIの利用は、借り換えが大半を占めたと思われる。特に、不良債権問題が懸念されるイタリアの銀行の利用がスペインと並び多かったと思われる。

■追加緩和策のメイン・シナリオは買入れ

今後のECBの追加緩和策としては、17年3月に期限を迎える資産買入れプログラム(APP)の半年間の期限延長が濃厚だ。これに伴い、質疑応答で質問された国債買い入れの出資比率基準の見直しや、一銘柄あたりの買入れの上限比率の見直しなどの技術的な変更が考えられる。

14年6月以降、ECBが中銀預金金利のマイナス化、国債等の買入れなど金融緩和を強化するに連れて、ユーロ圏でもイールド・カーブの全般的な低下とフラット化が進んだ。英国の国民投票の後、質への逃避もあり、超長期までの国債利回りが全般に低下した。金融機関を取り巻く収益環境は厳しさを増している。

現在マイナス0.4%の中銀預金金利の追加の引き下げは、却って銀行の収益を圧迫するとの懸念につながるリスクもある。ドラギ総裁も、ユーロ圏の銀行の目下の問題は低い収益力にあると指摘した。9月の段階では温存することをメイン・シナリオとして考えている。

■ギリシャ国債を適格担保として扱う特例措置は再開済み

前回6月2日の会合では決定を見送ったギリシャ国債を適格担保として扱う特例措置は6月22日に開催された金融政策以外を協議する会合で再開が決まった。5月24日のユーログループ(ユーロ圏財務相会合)で第3次支援プログラムの第1回審査への適合が大筋で認められ、6月21日に欧州安定メカニズム(ESM)から75億ユーロの支援が実行されたことを受けて決定した。

同措置は、反緊縮を掲げた第1次チプラス政権発足後、約束した改革が実行されないリスクが高まったとの判断から15年2月11日に停止されていた。このためギリシャの銀行は、ECBの承認の下でギリシャ中央銀行が行なう緊急流動性支援(ELA)に頼らざるを得なくなり、昨年夏の支援の一時停止による混乱でELAの上限引き上げが見送られたが、銀行の営業の一時停止という事態につながった。

ESMからのギリシャ支援の実行、ECBによるギリシャ国債の担保としての受け入れ開始により、今夏の英国のEU離脱とギリシャ危機の共振だけは回避された。担保の不足という制約はあるが、制度的にはギリシャの銀行もTLTROIIに参加することが可能になった。但し、現時点ではAPPによる国債買い入れの対象とはなっていない。

今回の記者会見では、ギリシャに対する質問はなかった。

伊藤さゆり(いとう さゆり)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席研究員

最終更新:7/23(土) 17:50

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