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ビル・ゲイツや世界銀行も注目する衛星利用ベンチャーとは?

ITmedia ビジネスオンライン 7月23日(土)8時19分配信

 衛星業界では、今年に入ってから衛星の開発・製造ベンチャーではなく、衛星利用ベンチャーが数千万ドル規模の投資を受けるケースが増えているのをご存じだろうか。

 その理由は、米Microsoftの創業者で、世界一の億万長者であるビル・ゲイツ氏や、世界銀行などが注目するさまざまな新技術があるからだ。一体、どのような技術なのだろうか。

●人工知能で地上の物体を“カウント”する

 観測衛星分野では、これまで米Googleに買収された米Skybox imaging(現:米Terra Bella)や米Planet labs(現:米Planet)などによる、小型衛星のコンステレーション(複数の衛星でシステム全体を構成する)が注目を集めてきた。そうした中、衛星自体は製造も保有もせずに、画像解析に特化するベンチャー企業が多数存在している。

 米Orbital Insightは、2015年に約900万ドル、2016年には約2000万ドルの投資を受けており、シリコンバレーで注目のビッグデータ解析ベンチャー企業だ。創業者兼CEOのジェームス・クロフォード氏は、過去にGoogle、気象データ解析ベンチャーの米Climate corporation、NASA(米航空宇宙局)などを渡り歩いてきた、AI(人工知能)やイノベーションソフトウェアのエキスパートである。

 同社の強みは機械学習による画像解析アルゴリズムだ。衛星およびドローン画像の中から地上のさまざまな物体、例えば、ビル、飛行機、道路、駐車場に止まっているクルマなどを人工知能が認識してカウントすることができる。これによって地球規模の変化を素早く捉えることができるのだ。活用する衛星画像は米DigitalGlobe、欧Airbusなど複数社と提携して取得している(※DigitalGlobeの最新鋭の衛星の分解能は約30センチメートル)。

●世界銀行との共同プロジェクト

 Orbital Insightはこれまでに米国政府、大手資産管理会社60社以上などと契約・提携を行ってきているが、今、世界銀行とのプロジェクトが注目されている。

 世界銀行は、各国の貧困度調査を行っているが、従来の航空写真では判別ができなかったり、あるいは危険地域では情報収集が困難だったりしたため、数十カ国で調査が十分にできていなかった。

 そこにOrbital Insightの技術を使い、家やクルマの量、ビルの高さ、農地面積などを測定することで、経済発展指標としてのデータを収集できないかを検討している。現在はスリランカ地域での衛星画像分析結果と、世界銀行が保有するデータを比較することで、画像分析結果の有用性を検証している段階だ。

 同社が衛星画像解析で多様な産業向けに汎用的なサービス提供する一方で、さらに地上センサー情報なども統合、より複雑なモデル解析を行い、特定業界のオペレーションを高度化するためのサービスを行う企業もある。

 米Climate Corporationは農業業界向けに保険商品や営農支援システムを提供する。また、2015年に米IBMに買収された米Weather Companyは航空業界やエネルギー業界向けなどに高度なデータ解析サービスを提供している。

●ビル・ゲイツやトヨタが注目する衛星通信アンテナ

 他方、通信衛星分野では、以前紹介したような米OneWebなどに代表される衛星インターネット網の構築プロジェクトが注目を集めている。例えば、地上側の受信アンテナ技術だ。

 衛星受信アンテナと言うと、家庭に設置された小型のパラボラアンテナをイメージすると思うが、今年1月の「デトロイトモーターショー」では、トヨタ自動車が平面型の受信アンテナを搭載した燃料電池車「MIRAI」を発表した。この革新的な受信アンテナを開発したのが、ワシントン州レッドモンドに本社を構える米Kymetaだ。

 Kymetaは発明家支援企業の米Intellectual Ventures(世界中の発明家と提携しイノベーションが必要な領域を特定して、発明家によるアイデア創出と特許取得を支援。その特許をライセンスする企業)から2012年にスピンオフした企業だ。スピンオフ時にビル・ゲイツ氏などから1200万ドルの資金調達を行っており、2014年には2000万ドル、2016年には6000万ドルと、年々その額を増やしている。

●航空機、自動車、船など移動するプラットフォーム

 同社のコア技術は、創業者であるネイサン・クンツ氏のデューク大学大学院時代の研究成果が基となる、メタマテリアル表面アンテナ技術だ。液晶技術とソフトウェアを用いることで、パラボラ形状のアンテナを使わずに、衛星を補足できる独自技術を有しており、アンテナを平面化や小型化できる。特に航空機、自動車、船などへの適用が期待されている。

 同社はこれまでに、業界向けのアプリケーション開発のための提携を多数行ってきた。航空機分野においては、2013年に衛星通信大手の米Inmarsat、2015年には米Honeywellと提携。Inmarsatの通信回線とKymetaのアンテナを使い、Honeywellとの連携でブロードバンドサービスを実現することを目指している。また2016年には航空機内Wi-Fi大手のPanasonic Avionicsとも提携している。

 自動車分野では、トヨタ自動車とは共同研究開発だけでなく、未来創成ファンドから約500万ドルの出資も受けている。また、衛星通信大手の米Intelsatとの間でも提携を行っており、Intelsatが提供するHTS(High Throughput Satellite)技術とKymetaのアンテナ技術を使うことで、コネクティッドカーへの通信インフラ構築を狙う。既に8000マイルの実証実験を行っている。

 衛星利用技術への投資がますます過熱することは間違いない。

(石田真康)

最終更新:7月23日(土)8時19分

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