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松本カルビー会長、「顧客、従業員、コミュニティー、株主」という優先順位

ニュースソクラ 7月24日(日)18時0分配信

「わが経営」を語る 松本晃カルビー会長兼CEO(4)

――松本さんは伊藤忠商事から医療機器を扱う子会社に出向し、さらにジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)に転じて日本法人の社長を務めました。J&Jは顧客第一の企業理念で知られていますが、あれで高利益を上げているのですから、たいしたものです。(聞き手は森一夫)

 だからこそ儲かるということを学びました。一番大事なのはお客さんです。まずお客さんのために働く。2番目は従業員やその家族です。3番目はコミュニティーで、地域や国、さらに世界、地球のことを考えて仕事をしなくてはいけない。例えば環境を汚したら必ずしっぺ返しがある。

 株主は4番目です。この順番を守って、まじめにやっていれば、必ず儲かるというのがJ&Jです。毎日、その考え方につかっていれば、誰でもわかります。特に医療の世界なので、患者さんがハッピーにならなくては絶対に駄目です。

 患者さんが手術室に入るとき、考えるのは生きて帰ることです。今どき、手術で死ぬことはないですが、不安ですよ。全身麻酔で眠って、もし起きなければおしまいです。これが一番怖いのです。

 次に痛くないといいなと願います。さらに早く治って元の体になりたい。そのためによい物であれば、高くても選びます。

――現場を重視して、医療機器ビジネスに携わったときは、手術室にまで入ったそうですね。

「まで」じゃなくて、手術室は私の仕事場ですから当たり前です。今はスーパーの売り場が、カルビーのビジネスの現場です。そこに行かなくては、何もわかりません。

 手術がどう行われているのか、素人でも見ていれば、門前の小僧習わぬ経を読むです。お医者さんが何に困っているのか、どうしてあげたら患者さんのためになるのか、わかります。

 伊藤忠の子会社でもJ&Jでも、社員を徹底的に鍛えました。単なる売り子ではないですからね。患者さんが助かるために、クオリティー・オブ・ライフをよくするために働くのですから、あんないい仕事はないです。

 採用した社員は、すぐに米国に行かせて6週間、みっちり教育します。現地に土曜日に着いて、日曜日は勉強しなくてはならない。月曜日の朝に、どのくらい予習してきたか試験しますからね。

 毎日、朝9時から午後5時まで講義があり、翌朝、試験ですから夜の自習も含めて1日14時間くらい勉強です。朝の試験は成績が悪くても構いませんが、翌週の月曜日の試験で不合格の85点以下を2回取ったら解雇です。患者の命を預かる以上、一定のレベルが求められます。

 日曜日に帰国したら、月曜日の朝に早速、病院の手術室に入ります。手術台の脇で医療機器が正しく使われているかチェックしたり、手術後に医者から意見を聞いたりします。情報を製造元に伝えて、日本人に合った使いやすいものに改良して行くのです。

――J&Jで業績を大幅に伸ばしましたね。松本さんの流儀もあったのでしょうか。

 お客さんが認めるいい物をできる限り高い値段でたくさん売って、利益を上げる。そのおカネを先行投資などに大いに使って、また儲ける。それが仕事の一番の面白さですよ。カルビーでは、投資で最も大切なのは人件費です。ケチらずに払わなければ、いい人は来ません。

――売りたいけど、売れないんだよなという人もいるのでは。

 売れないのではなくて、いい物でも努力して売っていないのですよ。カルビーも、物がいいから売れているんです。物が物を売っているだけで、人が物を売っているわけではありません。それがカルビーの強みでもあるし、弱みでもある。

 売れていても、売る人によって格差が非常に大きい。日本の会社は、物を売る人も他の仕事をする人も一緒くたに採るでしょう。専門性の違いが分かっていないため、日本の会社は生産性が低いのです。

 売る仕事に向いているかどうか見極めずに採用して、営業に回す。不向きな連中は、物を売るのが嫌いなので買う仕事に代わりたいとマーケティング関係に移る。それで要らないものを買う。

――J&Jを終えて、カルビーのトップになって7年たちます。思う通りにやったらいかがですか。

 自分でどんどんやるのは簡単です。しかしそれでは、私が辞めたら元に戻ってしまう。カルビーは創業家の言う通りにやっていれば、そこそこうまく行っていました。しかし2000年くらいから停滞して、私は社外取締役を1年やって「松本さん、口ばかりだが、やってみてよ」と言われて、会長になったのです。

 この会社では、皆さんに基本的なことを言うから、後は自分でやってくださいというのが私の仕事です。創業者と同じことをしたら、何の意味もない。それでは自主性が出てこないので、少々いかんなと思っても言いません。私は我慢強いこともあるけど、所詮、雇われ経営者ですから、仕方ない。

――しかし経営責任を厳しく認識していますね。

 2016年3月期の営業利益は288億円のつもりでしたが、結果は281億円で7億円ミスしました。私にとって最大の恥です。こんなことは生まれて初めてです。

 16.3%の増益ですが、株主さんにやりますと言ったのですから、1円でも足りなかったらあかんのです。このためボーナスは大幅に減りました。

――とはいえ経営を楽しんでやっているようですね。

 そりゃあそうです。結構、面白いですよ。J&Jは命をかけてやっていました。そのかわり、60歳になったらバイバイです。ここはいつ辞めてもいいのです。

 いわば、5回裏ツーアウト満塁で、リリーフピッチャーに起用されて、投げ勝って抑えた。もう少し行けそうだと6回を投げ、7回も投げている。リリーフとしては長すぎるのでは。もういいのではないですかと。

――増収増益を続けて、松本さんに社内が遠慮するようになってきませんか。

 それはあり得ると思います。そのときは退き時なのでしょうね。

■森 一夫(経済ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞社入社、産業部、日経BP社日経ビジネス副編集長、編集委員兼論説委員、コロンビア大学東アジア研究所、日本経済経営研究所客員研究員、特別編集委員兼論説委員を歴任。著書に「日本の経営」(日経文庫)、「中村邦夫『幸之助神話』を壊した男」(日経ビジネス人文庫)など。

最終更新:7月24日(日)18時0分

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