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柏木が求める“究極の一体感”…浦和サポへ突き上げた右拳に秘めた思いとは

SOCCER KING 7月24日(日)17時6分配信

 チームカラーの真紅に染まった敵地カシマスタジアムのスタンドへ向かって、背番号「10」が雄叫びをあげる。自分がゴールを決めたわけではない。それでも、浦和レッズのMF柏木陽介は何かを訴えるかのように、左胸のエンブレムを叩いた右腕を何度も夜空へ突き上げた。

 23日に行われた明治安田生命J1リーグ・セカンドステージ第5節。鹿島アントラーズに先制を許したわずか2分後の62分。右サイドを駆けあがり、絶妙のクロスからFW李忠成の同点ゴールをアシストした柏木はそのままゴールラインを超えて、自軍のサポーターが陣取るゴール裏との距離を縮めていった。

 その柏木のもとへ、笑顔を弾けさせながら李忠成が駆け寄ってくる。どちらがヒーローなのかわからない光景のなかで、ハリルジャパンにも名前を連ねる28歳は何を伝えたかったのか。

「今日はサポーターのみなさんを黙らすくらいの気持ちでプレーしたかった。勝つことでサポーターを見返すじゃないけど、これからまた一緒に戦っていこう、という強い気持ちを自分が走る姿、戦っている姿で証明したかったので」

 柏木の心に引っかかっていたのは、6日前の大宮アルディージャ戦だった。ホームの埼玉スタジアムで行われた「さいたまダービー」は、浦和が2度奪ったリードを追いつかれた末に引き分けに終わり、浦和はリーグ優勝した2006シーズン以来、10年ぶりとなる6連勝を逃していた。

 何人かの選手はピッチのうえに仰向けになるなど、精根尽き果てるまで戦い抜いた90分間。気を取り直した浦和の選手たちが、今シーズン最多の5万3951人で埋まったスタンドへ挨拶に向かった直後だった。

 拍手に混じって、一部のサポーターからブーイングを浴びせられた。両手を広げ、首を傾げるポーズとともに「どうして?」とアピールした柏木は、試合後の取材エリアで自らブーイングの件を切り出している。

「正直、ちょっと納得できない。もちろん勝たなきゃあかん試合だったけど、負けてもいないわけだから。5連勝の後に引き分けたときこそ『次、行こうぜ』と温かく言ってくれるのがチームだと思うし、一緒に戦っているからこそ背中を押してほしかった」

 常に勝利を期待されるからこそ、浦和が自軍のサポーターのブーイングにさらされる光景も少なくない。今シーズンでいえばファーストステージの終盤戦。鹿島、ガンバ大阪、サンフレッチェ広島に3連敗を喫し、優勝争いから脱落したときは甘んじて受け入れたと、柏木は大宮戦後に振り返っている。

「あのときのブーイングは当たり前。でも、今日は何が悪いのかな、と。みんな戦っていたし、一生懸命に汗を流したなかでの結果だから。そこはサポーターのみなさんも受け止めてほしい。浦和はビッグクラブだけど、全体的に前向きな方向に行けるように、もう少しだけ選手に対してもリスペクトがあってもいいのかなと思う」

 サポーターとしても浦和を愛するがゆえに、ブーイングに叱咤激励の思いを込めていたはずだ。非常にデリケートな問題だが、それでもチームにとってプラスになる可能性があるのならば忌憚なく口にする。小さくはない波紋を広げるおそれもあっただけに、柏木はこんな覚悟を添えることも忘れなかった。

「これを言うことで、オレが叩かれようが何でもいい」

 追い求めるのはJクラブのなかでも希有なチームとサポーターの一体感を、極限まで高めていくこと。そして、一部のサポーターが発信源だったにせよ、ブーイングに疑問を投げかけたからには、ベストのパフォーマンスを演じてチームを勝利に導かなければいけない。

 約1カ月前に浦和を撃破してから勢いづき、最終的には川崎フロンターレを逆転してファーストステージを制した鹿島との再戦を、柏木はいろいろな意味で今シーズンの正念場に位置づけてキックオフの笛を待った。

「この試合で勝利を逃したら、オレらは上へ行くチャンスがなくなると思っていたので」

 ボランチとしてプレーした前半。マイボールになるともう一人のボランチ・阿部勇樹が下がり、4枚となった最終ラインが横パスを多用する展開に、鬼気迫る表情で苦言を呈し続けた。

「横、横、横って、プレスをかけてくださいと言っているようなもの。一回オレにボールを預けろと、いつも言っている。そうすれば相手はオレにギュッと絞ってくるから、そこからサイドを使うか、オレに当ててからもう一度もらった人がグッと前へもち運ぶ、というプレーがもうちょっと上手くできるので」

 前線から激しいプレスを仕掛けた鹿島に主導権を握られるなかで、攻撃の構築に腐心しながら、柏木は抜け目なく鹿島守備網の“穴”を探していた。後半の早い時間帯に、自らがシャドーへポジションを一列上げることを見越した末の予備作業だった。

 ほどなくして、柏木は“ある傾向”を把握する。3バックの右・森脇良太から右ワイド・梅崎司にパスが入ると、鹿島の左サドバック・山本脩斗が食いついてくる。その際に山本の背後のスペースをケアすべきボランチ・柴崎岳の動きが、緩慢になるシーンを何度も確認した。

 両チーム無得点のまま折り返し、迎えた後半のキックオフ。ズラタンに代わってワントップに入った李忠成には「最終ラインの裏をどんどん狙ってほしい」と耳打ちした。その意図を、柏木はこう説明する。

「鹿島はかなり前から来ていたから、チュン君(李忠成)が裏を狙い続けることで、ゲン(昌子源)とファン・ソッコのところのラインも下がる。オレが前(シャドー)に入ったときに右サイドの裏に入って、チュン君には(最終ラインの前の)スペースを上手く使ってほしかった」

 57分にMF高木俊幸に代わってボランチの青木拓矢が投入され、予想通りに柏木がシャドーに回る。鹿島のFW土居聖真に先制ゴールを許したのは、そのわずか3分後。敵地を大声援が揺るがし、劣勢に立たされるなかで、柏木は試合中に温めてきたミッションを実行に移すときがきたと確信していた。

「最近の鹿島は点を取った後に集中力が切れるというか、失点が多かったので。もちろん点を取られなくてもどこかが空いてきたはずだけど、先に点を取られたことで逆にチャンスになると」

 リーグ最小の10失点をベースにファーストステージを制した鹿島は、セカンドステージに入ると一転、浦和戦までの4試合で8失点を喫していた。しかも、G大阪との開幕戦でFW赤崎秀平が先制した3分後に同点弾を、広島との第2節ではFW金崎夢生が3点目を決めた5分後に再び1点差に追い上げられている。

 果たして、失点から2分後に青木が落としたボールを、森脇がダイレクトで梅崎につなぐ。次の瞬間、山本の背後に生じていたスペースへ走り出していた柏木へ、トラップから反転した梅崎が縦パスを入れる。案の定、カバーすべき柴崎は傍観者と化している。

 慌てて昌子がケアに走ってきたが、時すでに遅し。ほぼフリーの体勢から柏木は利き足とは逆の右足のインサイドキックを丁寧に振り抜き、GK曽ヶ端準が飛び出せないエリアへグラウンダーのクロスを送った。

「ウメちゃん(梅崎)が本当にいいタイミングでパスを出してくれた。中を見たときに最初は自分で持ち込もうと思ったけど、チュン君がスピードの変化をつけながらいい感じで入ってきてくれたので。右足はちょっと自信がなかったけど、そこは気持ちで合わせました。普段の練習からやっているコンビネーションというか、お互いの意思の疎通がゴールにつながったと思う」

 マークについたファン・ソッコを緩急で翻弄し、最後は置き去りにした李忠成が、これも利き足とは逆の右足をしっかりと合わせる。反応できなかった曽ヶ端が、その場に右ひざをつくほどの完璧な一撃が試合の流れをも引き寄せ、再び李忠成が決めた73分の逆転ゴールへとつながった。

「ここかな、というところで点を取れたのは大きいし、そこで逆転の雰囲気は作れたかなと思う」

 鹿島戦までの5日間で、いろいろと思いを巡らせたのだろう。執念でもぎ取った白星に表情をほころばせた柏木は、大宮戦後に発生したブーイングにあらためて言及した。

「怒っているとかそういうわけではないけど、やっぱりあのブーイングはなかったというか、(両チームの)サポーター同士で戦っていたんじゃないかと。その意味でオレら選手たちの頑張りを見ていなかったんじゃないかという悔しさがあったから、ここで頑張って、戦って、勝利という結果を残すことでわかってもらえると思っていた。今日も試合が終わってからすぐに(ゴール裏へ)行きましたけど、こうやって一緒に戦っていくことがすべてだと。オレはサポーターのために勝利を届ける気持ちでいつも戦っているわけだから、苦しいときほどオレたちの助けになってほしいというが正直な気持ちです」

 歯に衣着せぬ“檄”は後輩選手にも向けられる。リオデジャネイロ・オリンピックに臨む日本代表へ、DF遠藤航とFW興梠慎三を送り出してから初めて迎える一戦。ミハイロ・ペドロヴィッチ監督はシャドーの一角に、昨シーズンのセカンドステージでゴールを決めている高木を抜擢した。

 しかし、ボランチの位置から高木に対して「試合中ずっと切れていた」と柏木は明かす。

「守備が全然できていない。何回伝えてもトシ(高木)は『疲れていました』と言うんだけど、そんなこと関係ない。その意味でもオレが走り続けることで、90分間出ている人間がこれだけやるのだから、お前もやれよということを見せたかった。攻撃に関しては能力が高いし、だからこそ守備をちゃんとやってほしいという気持ちを込めている。これは(リザーブだったルーキーの)リョウタロウ(伊藤涼太郎)にも言えること。守備に関しては100点のうち2点くらい。トシも10点。自分がボールを失ったときはいくけど、基本的にはボールウォッチャー。そういうところを直していかないと、上手いだけじゃ試合に出られないから」

 遠藤と興梠がチームを留守にするのは最大5試合。鹿島戦では遠藤が務める3バックの中央に34歳のベテラン那須大亮が入った。総力を結集して臨む夏場の連戦の初っ端をモノにして、セカンドステージ首位の川崎と、年間総合順位では2位の鹿島とそれぞれ勝ち点で並んだからこそ言葉に力も入る。

 鹿島が追う側に転じた73分以降は、ピンチを脱するたびにアウェーのゴール裏を発信源として、こんな声の塊が幾度となく敵地の夜空に響いた。

「うらーわレッズ!」「We’re Reds!」

 プレーに集中している試合中は、もしかすると選手たちの耳に届きにくいかもしれない。それでも、ホームの声援を凌駕する大音量は、少なからず鹿島の集中力をそぎ、焦りを増幅させたはずだ。選手たちが挨拶に向かった試合後には、こんなコールが4度連呼された。

「カ・シ・ワ・ギ、オレッ!」

 セカンドステージを制するか、あるいは年間総合順位で3位以内に入らないと、浦和は明治安田生命Jリーグ・チャンピオンシップに進出できない。浦和という地域が文字通り一丸となって、年間王者をつかみ取るために――。柏木はピッチの内外でいっさいの妥協を許すことなく、究極の一体感を求めていく。

文=藤江直人

SOCCER KING

最終更新:7月24日(日)18時0分

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